こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

7月に入り最初の休日の午後になっています。暦に目をやりますと

7月7日からの七十二候は「温風至(あつかぜいたる)」となっていることに気がつきました。

 

その意味は「 暖かい(熱を帯びた)夏の風が吹き始める頃」ということになりますね。

 

今年の夏頃は、「今年はスーパーエルニーニョになるかもしれないなどと予測が出ていますね。過去数十年のなかで数えるほどしか発生していない、極めて珍しい気候現象なのだそうです。

 

通常の「エルニーニョ」は、日本付近は冷夏になるそうですが、地球温暖化の影響で、高温であり台風などの発生も多くなるとか。

 

「熱中症」の発症にも注意していく必要がありそうですね。

 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

(AIを用いて画像を作成) 

 

今回は「脂肪肝」が、肝硬変や肝臓癌に発展していく疾患であるというお話をしてみたいと思います。健康診断などで「脂肪肝」を指摘されたという経験のある方もいらっしゃるかもしれませんね。

 

「脂肪肝」は、かつては"お酒を飲みすぎた人の一時的な状態"であると思われていた時期もあり、健康診断でよく指摘されても、放っておいてよいもの・・・と軽く受け止められがちな時代もあったような気がします。

 

しかし近年では、「脂肪肝」の一部が静かに炎症・線維化が進行し、「肝硬変」や「肝細胞癌(肝癌)」にまで至ることが明確になってきており、その位置づけは大きく変わったと言えます。

 

B型肝炎・C型肝炎などの「ウイルス性肝炎」が治療で制御できるようになった現在、肝癌の原因として代謝性の「脂肪肝」が急速に存在感を増しています。

こうした状況に伴い、2023年、国際的な多学会合意により病名が刷新されました。これまでの「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」は 「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」 に、

「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」は 「代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)」 に改称されています。

 

"fatty(脂肪)"という患者にスティグマ(偏見)を与えかねない表現を避けるとともに、この病気の本質が代謝異常にあることを明示したそうです(参考1)。

 

この「脂肪肝」は、どこまで進行しているかが重要であるとされています。

 

新しい枠組みでは、脂肪が「肝臓」にたまった状態の総称を 「脂肪性肝疾患(SLD)」と呼びます。

 

そのうち、「脂肪肝」の存在が確認され、かつ肥満・2型糖尿病・脂質異常症・高血圧などの心血管代謝リスク因子を1つ以上満たし、他の明らかな原因がない場合が「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」 と定義されます(参考1)

 

飲酒量が中等度を超える場合は「MetALD(代謝異常とアルコールが併存する型)として区別され、明らかな大量飲酒によるものは「アルコール関連肝疾患(ALD)」として扱われます。

臨床的にとりわけ重要なのは、「脂肪肝」進行段階の連続体(スペクトラム)であるという点であり、おおまかに次の段階をたど流ことが分かっています。

1)単純性脂肪肝(脂肪沈着のみ)

 

 肝細胞に中性脂肪がたまるが、炎症や細胞傷害は目立たない段階。
 

2)MASH(脂肪肝炎)

 

脂肪沈着に加えて、肝細胞の風船様変性(バルーニング)や炎症細胞浸潤が加わった段階。ここから線維化が進みやすくなルトされています。


3)線維化

 

傷ついた肝臓を修復しようとしてコラーゲンなどの細胞外基質が沈着し、肝臓が硬くなる段階。ステージF1~F4で評価され、F3は高度線維化(架橋線維化)、F4が肝硬変です。


4)肝硬変・肝細胞癌

 

線維化が肝全体に及んで小葉構造が改築(偽小葉形成)され肝硬変となり、その一部が肝癌へ進みます。

この「単純性脂肪肝 → MASH → 線維化 → 肝硬変 → 肝癌」という流れのうち、どの段階にいるかが、後で述べるように予後を最も強く左右するとされているのですね。
 

(AIを用いて画像を作成) 

 

肝硬変・肝癌へ進むメカニズムとは、どのようなものなのでしょうか?


かつては、まず脂肪がたまり(1st hit)、そこに「酸化ストレス」

が加わって炎症が起きる(2nd hit)という「2段階説(two-hit hypothesis)」で説明されていました。

 

しかし現在は、これでは不十分であることが分かっています。

 

現時点では、複数の要因が同時並行的に「肝臓」を傷つける「複数平行ヒット仮説(multiple parallel hits hypothesis)」が主流になっています(参考2)。

 

すなわち、脂肪毒性、酸化ストレス、ミトコンドリア機能障害、小胞体(ER)ストレス、炎症性シグナル、脂肪組織由来のアディポカイン分泌異常、腸内細菌叢の乱れ(腸‐肝軸)などが相乗的に作用し、病態の進行を後押しすると考えられています。

では、単なる脂肪毒性から「炎症・線維化」へと進行していくメカニズムとは、どのようなものなのでしょうか?

「過栄養」と「インスリン抵抗性」の状態になりますと、それを背景に、肝臓には「中性脂肪」だけでなく、「遊離脂肪酸」や「ジアシルグリセロール」、「セラミド」といった毒性の強い脂質(リポトキシック脂質)が蓄積します。

 

これらは肝細胞に強いストレスを与えてミトコンドリアと小胞体の機能を乱し、活性酸素種(ROS)を増やして酸化ストレスを引き起こします。

傷ついた「肝細胞」はアポトーシスやネクロプトーシスなどの細胞死を起こし、放出された細胞内成分(DAMPs)が「Kupffer細胞(肝臓の常在マクロファージ)」や浸潤してきた免疫細胞を刺激して炎症を持続させます。この慢性炎症の場で活性化されるのが「肝星細胞(HSC)」です。

 

この「星細胞」は、通常の場合、「ビタミンA」の大部分を貯蔵する役割を持ちますが、肝臓が炎症などのダメージを受けると活性化されます。

活性化された「星細胞」はビタミンA貯蔵細胞から「筋線維芽細胞」へと形質転換し、コラーゲンを大量に産生して肝臓の線維化を促進します。

 

肝臓の「線維化」は初期には可逆的ですが、進行するほど後戻りしにくくなり、やがて肝小葉構造が破壊されて「肝硬変」に至ります。

この「肝硬変」がさらに「肝臓癌(肝癌)」に発展していくには、さらに要因があることが分かっています。


「肝癌」が生じる根底には、この「慢性炎症」と持続的な「細胞傷害・再生」の繰り返しがあることが分かっています。

 

「酸化ストレス」によるDNA損傷が蓄積してゲノム不安定性が高まり、細胞増殖・生存を促すシグナル(PI3K-Akt-mTOR経路やMAPK経路など)が過剰に働くことで、発癌へと傾きます。

 

さらに、免疫監視機構の破綻や、腸内細菌由来のPAMPs、二次胆汁酸によるシグナルも関与するとされています(参考3)。

 

代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」 に関連する肝癌で特に注意すべき特徴があります。

 

その注意すべき特徴とは

 

「肝硬変」を経ずに「肝癌」が発生する例が相当数あるとされていることです。

 

「ウイルス性肝炎」では肝硬変を土台に肝癌が生じるのが典型ですが、MASH(脂肪肝炎)では非肝硬変(F1~F3)の段階から発癌しうるため、「肝硬変になってからサーベイランスすればよい」という発想では、手遅れになってしまう可能性があります。

 

とくに高齢・男性・2型糖尿病・ALT高値などが、この非肝硬変における「肝癌」のリスクとして知られています(参考3)。

 

このようなことから考えますと・・・「脂肪肝」は治療していく必要がある疾患であると言えるのではないかと思います。

 

では、どのような治療を行なっていけばよいのでしょうか?

お話の続きは、後日の話題にしたいと思います。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

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< ブログ後記 >7月7日

 

今宵は「七夕」ですね。しばらく夜空を見上げておりましたが、残念ながら空は雲に覆われて、星のひとつも見つけることはできませんでした。

 

今回は「脂肪肝」が「肝硬変」や「肝癌」にもつながるリスクがある

というお話をさせていただきました。

 

「脂肪肝」から「肝硬変」は、どの集団をみるかでかなり幅があるとはされています。ある大規模試験のデータでは、8年で39%という高い累積の進行率が報告されています(参考4)。

その他でも、組織生検で追跡した「実臨床コホート研究」では中央値3.4年で5.6%が「脂肪肝」から「肝硬変」に進行し、まったく線維化のない状態からでも、4.3%が肝硬変に進んだという報告もあります(参考5)。

「脂肪肝から肝癌」は、「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」から 疾患名が変更になった「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」 全体では低率であるといえますが、肝臓の進行性線維化や「肝硬変」で急増します。メタ解析では「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」全体の肝癌発生率は0.44/1,000人年であったと報告されています(参考6)。

0.44/1,000人年というと分かりにくい数字になっていますが・・・1,000人を1年間追跡すると、平均0.44人が肝細胞癌を発症するという意味です。

別の言い方をすると、1年間では約 2,273人に1人が「肝臓がん」を発症するということになります。

さらに「糖尿病」は一貫して強い危険因子で、代謝異常が増えるほど肝硬変・肝癌リスクは段階的に上がると報告されています(参考7)。

では、「脂肪肝」から「肝硬変」に進行するのをどのような指標で見ていけばよいのでしょうか?


「脂肪肝」から「肝硬変」になる指標として、最も一貫して重要なのは線維化の進み具合です。とくに「FIB-4」値、「NAFLD fibrosis score」などがその指標となります。

「FIB-4(Fibrosis-4 Index)」と「NAFLD fibrosis score(NFS)」は、肝生検を行わなくても、血液検査や年齢などから肝臓の線維化(肝臓が硬くなる程度)を推定するための指標です。

では、「脂肪肝」から「肝硬変」や「肝臓癌」になるのを防ぐにはどのようにしたらよいのでしょうか?

現時点でも、治療の土台は体重の「減量」を中心とした生活習慣の改善ということになります。研究全体では、体重の減量は「脂肪肝」の第一選択として一貫して強調されています(参考8)

です。しかもその効果は「体重を何%減らせのか?」によってに決まることが、Vilar-Gomezらの前向き研究(生検で証明したNASH 293例、52週)で明快に示されています(参考9)。

 

以下にその研究結果を示しますと・・・

5%以上の減量: 肝脂肪沈着(ステアトーシス)が改善
 

7~10%の減量:肝炎症および細胞傷害(NAS)が改善
 

10%以上の減量:MASHの消失(90%)および線維化の退縮(45%)を達成

5%以上の減量で「肝脂肪」やGOTやGPTなどの肝酵素データの改善が出やすく、7–10%がよく使われる実用的な目標であるとされています(参考10,11)。


一方、10%以上では効果がさらに大きく、52週の生検追跡ではその群の90%でNASH消失、45%で線維化退縮が見られたことが報告されています(参考12)

気になるのは、どの程度のスピード感で減量すればよいのか?・・・

は、とても気になるところですね。


体重の減量の仕方は、急激な減量ではなく、持続的で緩やかな減量が推奨されています(参考13)


もちろん、減量後の維持も重要なのですが、「GLP-1製剤」を26週間にわたって投与した試験では、「GLP-1製剤」の中止後に体重の増加を認めることが多く、その場合には「脂肪肝」が再増悪することが確認されています。

 

一方で、食事の摂取カロリーの「減量」や「運動」などの生活習慣を変えるようにした群では体重のリバウンドを認めず、「脂肪肝」の改善維持がみられたという報告もあります(参考14)

以上のことから、「脂肪肝」の改善に、「体重減量」はとても有効である一方、その維持が難しいため、継続的に努力していく必要があると強調されています。

 

今回も最後までお付き合いいただきまして

誠にありがとうございましたお願い

 

参考)

1)J Lipid Res. 2024 Jan;65(1):100485. 

From NAFLD to MASLD: updated naming and diagnosis criteria for fatty liver disease

Mary E Rinellaら

 

2)Hepatology. 2010 Nov;52(5):1836-46. 

Evolution of inflammation in nonalcoholic fatty liver disease: the multiple parallel hits hypothesis

Herbert Tilgら

 

3)Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2019 Jul;16(7):411-428. 

From NASH to HCC: current concepts and future challenges

Quentin M Ansteeら

 

4)Aliment Pharmacol Ther. 2020 Jun;51(11):1149-1159. 
Nonalcoholic fatty liver disease progression rates to cirrhosis and progression of cirrhosis to decompensation and mortality: a real world analysis of Medicare data
Rohit Loomba ら

 

5)J Hepatol. 2023 Dec;79(6):1366-1373. 
Progression of non-alcoholic fatty liver disease and long-term outcomes: A nationwide paired liver biopsy cohort study
Tracey G Simonら

 

6)Hepatology. 2016 Jul;64(1):73-84
Global epidemiology of nonalcoholic fatty liver disease-Meta-analytic assessment of prevalence, incidence, and outcomes
Zobair M Younossiら

 

7)Hepatology. 2020 Mar;71(3):808-819
Effect of Metabolic Traits on the Risk of Cirrhosis and Hepatocellular Cancer in Nonalcoholic Fatty Liver Disease
Fasiha Kanwal ら

 

8) Obes Facts. 2024;17(4):374-444. 
EASL-EASD-EASO Clinical Practice Guidelines on the Management of Metabolic Dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease (MASLD)
European Association for the Study of the Liver (EASL)
 

9)Gastroenterology. 2015 Aug;149(2):367-78.
Weight Loss Through Lifestyle Modification Significantly Reduces Features of Nonalcoholic Steatohepatitis
Eduardo Vilar-Gomez ら

 

10) PLoS One. 2022 Feb 17;17(2):e0263931. 
Lifestyle changes in patients with non-alcoholic fatty liver disease: A systematic review and meta-analysis
Tiziana Fernándezら

11)BMJ Open Gastroenterol. 2017 Jun 1;4(1):e000139. 
Efficacy of dietary and physical activity intervention in non-alcoholic fatty liver disease: a systematic review
Susan Kenneally ら

 

12)JAMA. 2015 Jun 9;313(22):2263-73. 
Nonalcoholic fatty liver disease: a systematic review
Mary E Rinella ら

 

13) Nutrients. 2024 Jul 11;16(14):2220. 
Management of Metabolic-Associated Fatty Liver Disease/Metabolic Dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease: From Medication Therapy to Nutritional Interventions
Mohammad Beygi ら

 

14) Liver Int. 2019 May;39(5):941-949. 
Randomized trial comparing effects of weight loss by liraglutide with lifestyle modification in non-alcoholic fatty liver disease
Joan Khooら

 

 

(明治神宮外苑の風景)

(筆者撮影)

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◯Zoomを用いた遠隔医療相談を始めました(内科関連疾患)

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◯外来診療は予約制をとり、待ち時間が生じないようにしています。

 

◯ ダイエット漢方製剤は、オンライン診療でも可能です。

◯ 線維筋痛症に対するノイロトロピン等の点滴療法、トリガーポイント注射を行なっております。(セカンドオピニオン診療も可)

 

 

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〒102-0083

東京都千代田区麹町4-1-5麴町志村ビル2階

電話 03-6261-6386

Mail:info@jtkclinic.com

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こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

6月最後の休日は「梅雨」らしい雨が降っています。

週末は2つの台風が日本付近にあり、天気が悪いために外出もせずに

家で過ごしておりました。

 

時間がたっぷりとありましたので、Netflix(ネットフリックス) で巷(ちまた)で話題になっている『地獄に堕ちるわよ(じごくにおちるわよ)を観ておりました。

 

六星占術ブームを起こした「細木 数子さん」の半生を描いた作品だと思います。

種明かしはしませんが、第二次世界大戦後の日本を丁寧に描いており、敗戦後の生活がいかに苦しいものであったが映像になっておりました。

 

私はすでに還暦でありますので、実際に戦争を体験された人に多くの体験談を聞いていましたが、それ以上に過酷な日常が描写されておりました。

 

映画の中に「占い」は古来の事象を分析した「統計学」であるという言葉がありました。私も約40年前にふと新宿の街で出会った年配の占い師に同じ言葉を聞いた頃があります。

 

当時、私は19歳でした。私が60歳になったとき、この国は衰退し、アジアの貧しい国になっている可能性が高いというお話があり、まさか?・・・と思っていたわけです。

 

しかしながら、メキシコの通貨「ペソ」よりも「円」の価値は低い

・・・などというニュースを聞くと・・・なるほど「占い」は統計学

という主張もなんとなく、納得できたりもしますね。

 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

(AIを用いて画像を作成) 

 

今回は、各種臓器の癌(固形癌)に対して、「抗がん剤単独」と
「抗がん剤+自己免疫細胞療法」で、どちらが有効性が高いのか?

というお話をしてみたいと思います。

 

「癌に対する免疫細胞治療」と言いますと・・・日本国内では批判を受けることが多いわけですが、中国、韓国をはじめとするアジア諸国では、研究が活発に行われ、とくにその再発予防の成果も報告されています。

 

日本国内では、また医療環境が違いますので・・・今回は私の夏休み前の「自由研究」と考えていただければよいと思います。

 

ただし、「自由研究」ではあっても、やっつけ仕事ではありませんので、最先端の視点から科学的に考えてみたいと思います。

 

「固形癌」の治療において、長らく中心的役割を担ってきたのは「抗がん剤治療(化学療法)」ですね。

 

「抗がん剤」は、分裂の盛んな癌細胞を直接傷害し、癌の総量を減らす強力な手段であると言えます。

 

しかし、「固形癌」には、化学療法単独では乗り越えがたい2つの本質的な壁が存在していることが分かっています。

 

1つ目は「癌抗原の不均一性と変化(抗原のドリフト)」であり、

2つ目は「がん関連線維芽細胞(cancer-associated fibroblasts:CAF)を中核とする免疫抑制性の腫瘍微小環境」であるといえます。

 

つまり、癌細胞のDNAの変化がとても速いために癌細胞の表面に「MHC class I抗原」と提示される「癌抗原」が繰り返し、変化してしまう現象が認められるのですね。

 

この「癌抗原」などの遺伝子の変化は、抗がん剤の有効性が薄れてしまう、つまり「抗癌剤」に対する「薬剤耐性」を生じてしまうことにもつながっていきます。

 

もうひとつは、「臓器」に発生する「固形癌」の周囲には「がん関連線維芽細胞(CAF)を中核とする免疫抑制性の腫瘍微小環境が存在します。

 

これは、がん細胞の増殖浸潤転移、血管新生を促進し、さらに抗腫瘍免疫を抑制する働きを持つため、がんの悪性化や治療抵抗性の原因として注目されています。(参考1,2.3)

 

今回は、この2つの壁を念頭に置きながら、「化学療法単独」「化学療法」に加えて、その後に「免疫細胞治療(自己末梢血由来のNK細胞・細胞傷害性T細胞(CTL)・サイトカイン誘導キラー細胞(CIK)を培養増殖して交互に投与する)」併用療法を比較して、

 

後者(化学療法+免疫細胞治療の併用療法)が、なぜ理論上も臨床上もより高い有効性を期待できるのかを、科学的に解説をしてみたいと思います。

 

このような結果は、複数のランダム化比較試験とメタ解析によって支持されているのですね。ただし、その効果は癌腫・病期・併用設計に依存し、万能ではない点も述べられています。

 

以下に詳しくお話をしてみたいと思います。

 

(AIを用いて画像を作成) 

 

まず、1つめの壁についてですが、癌抗原は「動く標的」であるということが重要になります。


「固形癌」における治療抵抗性の根源のひとつは、癌が単一均質な細胞集団ではなく、遺伝的・抗原的に多様な細胞の集合体であるという事実にあります。

 

この「腫瘍内不均一性(intratumoral heterogeneity)」と呼ばれるものは、「癌の免疫逃避(めんえきとうひ)と密接に結びついていることが分かっており、とりわけMHCクラスI(ヒトではHLAクラスI)分子と癌抗原の発現低下・消失は、古典的な免疫逃避戦略として知られています(参考1)。

 

「細胞障害性T細胞(CTL,CD8陽性T細胞)は、腫瘍抗原をMHCクラスI分子上に提示されたペプチド−MHC複合体として、T細胞受容体(TCR)を介して認識することが知られています。

 

「癌細胞」では、癌抗原を提示したMHC クラスI抗原ごと表出しなくなってしまうことが知られています。

 

「癌細胞」がMHCクラスIや特定の抗原の発現を失えば、その「癌細胞」は「細胞障害性T細胞(CTL)」にとって、まったく「見えない」存在となってしまうわけです。

 

つまり、どんなに「細胞障害性T細胞(CTL)」があったとしても、「癌細胞」を破壊することができなくなってしまうということになりますね。

 



 

実際に癌の「原発巣」と「転移巣」では、このMHC classI抗原の表現型が異なることも報告されています(参考2)。

 

すなわち、「化学療法」「細胞障害性T細胞(CTL)」を施行した場合

「抗がん剤」に感受性の高い癌細胞を除去できますし、「MHC  classI抗原」に提示された「癌細胞」は排除することが可能になります。

 

「化学療法」に感受性の高いクローンが排除されるなどして、多くの癌細胞は死滅するわけです。また、「細胞障害性T細胞(CTL)」のみをその後、再発予防として投与しても・・・DNAやMHCを失った抵抗性クローンが選択的に生き残り、再発・転移の温床(おんしょう)となるとされています。


つまり「化学療法」後の再発予防として「癌に対する免疫細胞治療」を施行することが多いわけですが・:・自分の血液内の「細胞障害性T細胞(CTL)」を培養し、活性化した細胞を投与する「活性化自己リンパ球療法(LAK療法)」を施行するだけでは不十分である可能性も出てくるわけです。

 

その理由は、一部の「癌細胞」はヒトの体内に残ってしまう可能性があるからということになります。

 

残った「癌細胞」のDNA遺伝子は変異を続けていく可能性があるので、再び、転移巣として癌組織が発見された際には、治療が難しくなるというわけですね。

 

そこで、抗がん剤の投与後に「免疫細胞治療」を施行し、最大限に

その効果を引き出すためには、さらに細胞の種類を増やすことが必要であり、これらを同時に投与することが「癌細胞」を一層(いっそう)する方法ではないか・・・ということになるわけです。

 

では、さらにどのような細胞が必要なのか?・・・ということになります。

それは、「NK(ナチュラル キラー)細胞」「CIK細胞」となるわけですが・・・お話の続きは後日の話題にしたいと思います。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

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<ブログ後記>6月30日

 

6月も最終日になっていますね。今宵は「満月」となっています。

JTKクリニックでは昨年、株式会社リンフォテックの指導のもと、ひとつの癌免疫細胞治療を完成させました。

 

これが自己血由来の「NK細胞+細胞障害性T細胞(CTL)+CIK細胞」を活性化した状態で用いる免疫細胞治療となります(iNK3種混合療法)。、株式会社リンフォテックは、以前から「CIK細胞」の培養技術

を有しており、韓国では保険医療にも取り入れられています。

 

当初の3年間は「JTKクリニック」のみで、抗癌剤治療後の再発予防

を目的にする予定でしたが・・・現在は全国の他施設での投与も行われているようです。

 

本文の続き・・・のお話をしたいと思います。

 

癌細胞の表面に存在する「MHC class I抗原」に提示される「癌抗原」は、どれぐらいのスパンで変化するものなのでしょうか?

癌抗原の変化の時間的スパンは、現時点の文献では次のように報告されています。例えば、T細胞応答や抗原認識の変化は、数日〜数週間で起こる可能性が指摘されています(参考4)

また、腫瘍内の抗原発現やクローン構成の変化は、数週〜数か月、再発・転移や免疫逃避に結びつく進化は、数か月〜数年に及ぶとされています(参考5,6)

さらに「癌抗原」が次から次へと変化するという反復・持続する抗原刺激で「細胞障害性T細胞(CTL)」は機能低下、増殖低下などを生じることが報告されています(参考7,8)

では、「NK細胞」「CIK細胞」を同時に投与する意味とは、どのようなものでしょうか?

まず、「NK細胞」ですが・・・
癌細胞の表面の「MHC class I抗原」が失われると・・・

「NK細胞」自体の抑制シグナルが外れ、「癌細胞」非自己(正常ではない細胞)と判断し、これを攻撃します(参考9)。

また、「NK細胞」「細胞障害性T細胞(CTL)」を同時に投与することで相乗効果が期待できるとされています。
 

そのメカニズムとしては、「NK細胞」が癌細胞を傷害して、血液中の「癌抗原」供給を増やします、同時に「樹状細胞(DC)」の成熟と抗原提示を促し、「細胞障害性T細胞(CTL)」のプライミングを強めます。
少し詳しく解説しますと・・・体内の「癌細胞」を「細胞障害性T細胞(CTL)」が直接認識することは難しいため、「樹状細胞(DC)」などの「抗原提示細胞」が癌抗原を提示する必要があります。

このシグナルを受け取ったT細胞は「細胞傷害性T細胞(CTL)」へと成長(プライミング)し、増殖して標的を攻撃できるようになるということになります。

前臨床段階のモデルでは、「NK細胞」が先行する自然免疫のトリガーとなり、その後の「細胞障害性T細胞(CTL)」応答を成立させる例が繰り返し強調されています。


また、実験モデルでは「NK細胞」を除去することにより、「細胞傷害性T細胞(CTL)」応答が消失することが報告されており、

「NK細胞」と「細胞傷害性T細胞(CTL)」の両方が相乗効果に必須であったことが報告されています(参考10)。 

では、「NK細胞」の単独投与では、どうでしょうか?


実際には「NK細胞」自体は寿命が短く、以前にブログ内でもご紹介した「ドレス現象」により1個の癌細胞を破壊(アポトーシス)するために2個のNK細胞が必要であるとされています。

つまり、「癌細胞」が減るにつれて、その倍の数の「NK細胞」が消費

されていことになります。


このような性質から、投与された「NK細胞」は癌組織の表面の癌細胞を破壊することはできても、その内部に達することが難しい可能性が指摘されています。

実際に臨床的にみられる固形癌では、「NK細胞」の浸潤不全、疲弊(ひへい)、組織内での機能低下のため 「癌細胞」を必ず排除できるわけではないと報告されています(参考11)

最後に「CIK細胞」ですが・・「CIK(Cytokine-induced killer)細胞」とは「サイトカイン誘導キラー細胞」の略称となります。


この細胞は「細胞傷害性T細胞(CTL)」とは異なり、「MHCクラスI分子」による癌抗原提示を介さずに腫瘍細胞を直接認識し、強力に排除できる特性を持つことから注目を集めているます。

「CIK細胞」は「癌細胞」を破壊した後に自身が速やかに細胞死(アポトーシス)に陥る(おちいる)性質が低く、連続的に「癌細胞」を傷害する能力(シリアル・キリング能)に優れているます。

また、実験モデルにおいて強力な腫瘍内ホーミング(血液中を循環しながら腫瘍組織へ特異的に集積する現象)を示し、それに続くマウスおよびヒト病態下での抗腫瘍臨床活性が実証されている

生体内における長期的な滞留および増殖が確認されているにもかかわらず、正常組織に対する細胞毒性は極めて軽微であることも報告されている(参考12)。

「CIK細胞療法」の最大規模のエビデンスは、国際CIK細胞登録(IRCC)による多施設共同解析である。初期の2,729人の患者(45試験・22種類の腫瘍)を対象とした解析では、平均奏効率39%とともに、全生存期間(OS)の有意な延長およびQOLの改善が示されたと報告されています (参考13)。

さらに、その後の10周年アップデート報告では、対象が102試験・計10,225人の患者(うち「CIK療法」受療者は4,889人)へと大幅に拡大され、固形がんおよび血液がんに対する長期的な生存ベネフィットと優れた安全性が改めて検証された。これにより、「CIK細胞」は、強力な抗腫瘍活性を持つ、腫瘍学における極めて有望な免疫療法アプローチとして確立されているのですね(参考14)。

「CIK細胞」は、NKG2Dなどの受容体を介してMHC非依存的に「癌細胞」を認識し、破壊(アポトーシス)へ導くとされています。したがって、「NK細胞」「細胞障害性T細胞(CTL)、そして「CIK細胞」を組み合わせる集学的免疫戦略は、

「抗原・MHC依存的な認識(CTL)」と「抗原・MHC非依存的な認識(NK/CIK)」という相補的な二重の認識様式を一つの治療系に統合することを意味します。

 

これは、免疫逃避機構により「抗原ドリフト(抗原性の変化)」を起こし、あるいはMHC表現型を消失・低下させた固形がん組織に対して、従来の化学療法単独にはない強力な理論的優位性を与えるものであるという解説もあります(参考15)

 

残るは、「癌関連線維芽細胞(CAF)」のバリアを

破壊すればよい・・・となるわけですが・・・ね。

 

今回も最後までお付き合いいただき

誠にありがとうございましたお願い
 

参考)

1)Int J Mol Sci. 2021 Jun 23;22(13):6741. 

MHC Class I Deficiency in Solid Tumors and Therapeutic Strategies to Overcome It

 Elema Shklovskayaら

 

2)Immunology. 2019 Dec;158(4):255-266. 

Cancer immune escape: MHC expression in primary tumours versus metastases

 Federico Garridoら

 

3)Oncoimmunology. 2021 Oct 19;10(1):1973783. 

Innate-like NKp30+CD8+ T cells armed with TCR/CAR target tumor heterogeneity

 Margareta P Correiaら

 

4)J Exp Med. 2004 Dec 20;200(12):1581-92.
Reciprocal changes in tumor antigenicity and antigen-specific T cell function during tumor progression
Gang Zhouら

 

5)J Exp Med. 2004 Dec 20;200(12):1581-92.
Reciprocal changes in tumor antigenicity and antigen-specific T cell function during tumor progression
Gang Zhouら

6)Cancer Discov. 2021 Apr;11(4):916-932.
Tracking Cancer Evolution through the Disease Course
Chris Baileyら

 

7)Annu Rev Immunol. 2024 Jun;42(1):179-206.
T Cell Exhaustion
Andrew Baesslerら

8)Nat Rev Immunol. 2026 Feb;26(2):129-151.
Regulators of CD8+ T cell exhaustion
Qinli Sunら

 

9)Nat Rev Immunol . 2023 Feb;23(2):90-105.
Roles of natural killer cells in immunity to cancer, and applications to immunotherapy
Natalie K Wolfら

 

10)Int J Cancer . 2004 Apr 20;109(4):499-506.
NK and CD8+ T cell-mediated eradication of poorly immunogenic B16-F10 melanoma by the combined action of IL-12 gene therapy and 4-1BB costimulation
Dongping Xuら

 

11)Curr Oncol. 2012 Feb;19(1):39-41.
Major histocompatibility complex class i and tumour immuno-evasion: how to fool T cells and natural killer cells at one time
D Fruciら

 

12)J Cancer. 2011 Jun 15;2:363--368. 
Cytokine Induced Killer Cells as Promising Immunotherapy for Solid Tumors
Dario Sangioloら

 

13)J Cancer Res Clin Oncol. 2015 May;141(5):839-49.
Cytokine-induced killer (CIK) cells in cancer immunotherapy: report of the international registry on CIK   cells (IRCC)
Leonard Christopher Schmeelら

 

14)J Cell Physiol. 2020 Dec;235(12):9291-9303.
Ten-year update of the international registry on cytokine-induced killer cells in cancer immunotherapy
Ying Zhangら

 

15)Stem Cell Res Ther 2024 Aug 13;15(1):254.
Cytokine-induced killer cells: new insights for therapy of hematologic malignancies
Faezeh Ghanbari Sevariら

 

(白い紫陽花: 赤坂プリンスクラシックハウス)

(筆者撮影)

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こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

6月21日は、1年で最も昼が長い「夏至(げし)にあたりますね。

平安時代の歌人 清原深養父という方が次のような和歌を詠んでいます。

「夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいづくに月宿るらむ」

 

その意味は

 

宵が来たと思う間もなく明けてしまう夏の夜の短さを、月はどこに宿るのか

 

という意味ですが、確かに今朝は5時前には外は明るくなり、鳥の囀る(さえずる)声が聞こえていましたね。

 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

(AIを用いて画像を作成) 

 

健康診断や人間ドックで「頸動脈にプラークがある」「冠動脈に石灰化が見られます」と告げられ、不安を感じた経験のある方もいらっしゃるかもしれませんね。

 

「プラーク」とは、動脈の壁の内側にコレステロールや炎症細胞が蓄積してできる「こぶ」のような病変です。

 

多くの場合、自覚症状がないまま静かに進行するため軽視されがちですが、この「プラーク」を放置することの意味を正しく理解することは、心筋梗塞脳梗塞などの発症を防ぐうえで重要なことであると言えます。

そこで今回は、この「プラーク」にフォーカスしてみたいと思います。

 

まず、「動脈硬化(アテローム性動脈硬化症)」の本質は、どのようなものなのかを考えてみたいと思います。

 

これは、悪玉コレステロールである「LDL-C」が血管壁に長年にわたって蓄積していく慢性炎症プロセスであると考えることができます。

 

「動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)」のリスクは、累積的(るいせきてき)なLDL-Cへの曝露量、つまり・・・(LDL-C濃度 × 期間)によって、決定されるとされています(参考1) 。

 

一時的に数値が高いことよりも、高い値に何年、何十年と曝露され続けることが血管壁に決定的なダメージを与えると考えられています。

 

では、「プラーク」が形成されるメカニズムは、どのようなものなのでしょうか?これは、次のようなものになります。

血液中を流れる「LDL」が血管の内皮下空間に浸入し、活性酸素などによって酸化を受けますと・・・これを異物とみなして免疫細胞であるマクロファージが集まってきます。

 

マクロファージは「スカベンジャー受容体」を介して「酸化LDL」を貪欲に取り込みますが、処理容量を超えると脂肪を溜め込んだ「泡沫細胞(ほうまつさいぼう)へと変化します。

 

この泡沫細胞」集積死滅が、「プラーク」の中心核である「脂質コア(lipid core)」を形成していくというわけですね。

 

臨床的に極めて重要なのは、「プラーク」による狭窄の度合い(大きさ)そのものよりも、その「安定性(破裂のしにくさ)」であると考えられています。

 

つまり、「プラーク」が安定しているか?あるいは、不安定であるのかは、とても重要であるというわけですね。

1)安定プラーク

 

表面が厚く丈夫な「線維性被膜で覆われており、内部の脂質コアが比較的小さいとされています。


2)不安定プラーク(脆弱プラーク

 

 「線維性被膜」が薄く、内部に巨大な脂質コアや壊死した細胞組織(壊死コア)を抱えている。
 

(AIを用いて画像を作成) 

 

同じ「プラーク」であっても、これを覆う(おおう)「線維性被膜」が薄ければ、破裂しやすいということになるわけです。

 

「プラーク」が破裂すれば、それがなくなるから問題ないんじゃないか?・・・と思う方はいらっしゃるかもしれませんが・・・

実は「プラーク」が破裂しますと、その部分は塞がって(ふさがって)しまうわけです。

 

もう少し詳しくお話をしますと・・・

 

「不安定プラーク」薄い線維性被膜は、血圧の急激な変動や血流の剪断応力(ストレス)によって突然破綻します。

これが「プラーク破裂(plaque rupture)」というものになります。

 

この「プラーク破裂」が起こると、プラーク内部に秘匿されていた高度に血栓を形成しやすい成分(組織因子など)が瞬時に血液と接触し、局所で急速に凝集して「血栓」をつくり出すといいうことになるわけですね。
 

では、「プラーク」を覆う「繊維性被膜」の安定性は変動することはないのでしょうか?

 

残念ながら、この「繊維性被膜」の安定性は変動することが知られています。

 

この「繊維性皮膜」の安定性は固定的なものではなく、その厚さと構成成分の動的なバランスによって常に変動しているとされています。

 

「安定化」の方向に働く要因としては・・・

 

「血管平滑筋細胞」が、「コラーゲン」や「エラスチン」などの細胞外マトリックスを産生し、皮膜を厚く保つことが挙げられます。

 

薬剤を用いた治療で主流となっている「スタチン系薬剤」による脂質低下療法などはこの方向を促進し、皮膜を厚く線維性に富んだ安定したプラークへと変化させます。

 

一方、不安定化の方向に働く要因としては・・・

 

「炎症」が中心的に関与すると考えられています。どのようなことかを詳しくお話をしますと、次のようになります。

 

「マクロファージ」から分泌されるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP-1、MMP-8、MMP-9、MMP-13など)がコラーゲンを分解し、「繊維性皮膜」を菲薄化させます。

 

同時に、炎症性サイトカイン(IFN-γなど)平滑筋細胞のコラーゲン合成を抑制し、平滑筋細胞のアポトーシスも進むため、マトリックスの産生と分解のバランスが分解側に傾きます。

 

この結果、皮膜が薄くなり、脂質コアが大きく炎症細胞に富む状態になると、薄い線維性皮膜を持つアテローム(thin-cap fibroatheroma, TCFA)と呼ばれる不安定プラークとなり、破綻しやすくなるとされています。

 

つまり安定性は、平滑筋細胞によるマトリックス産生(安定化)炎症で引き起こされるマトリックス分解(不安定化)のせめぎ合いで決まり、治療介入や炎症状態に応じて双方向に変化し得ます。

 

「プラーク」を覆う「繊維性被膜」を薄くし、「プラーク」を脆弱化(ぜいじゃくか)させる犯人とされるものがあるのですが、お分かりでしょうか?

 

実は、この犯人は炎症性の「M1型マクロファージ」ということになります。

実際にヒトプラークの空間解析では、「M1マクロファージ」破裂好発部位に優位に存在し、「M2マクロファージ」は比較的安定な部位に多い傾向があることも報告されています(参考2)

 

この炎症型の「M1マクロファージ」マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)と呼ばれる膠原繊維分解酵素群を大量に放出し、線維性被膜を支えるコラーゲンを分解してしまうことが分かっています (参考3)。

 

さらに、死にゆく細胞を速やかに除去する掃除メカニズム「エフェロサイトーシス(efferocytosis)」が破綻すると、死滅したマクロファージが未処理のまま脂質コア内に蓄積して壊死コアが拡大し、極めて破裂しやすいプラークが形成されると考えられています(参考4) 。
 

ヒトプラーク研究では、M1型マクロファージ優位またはM1マクロファージ/M2マクロファージ比の上昇は、症候性病変、線維性被膜菲薄化、脂質増加、平滑筋細胞減少、血栓形成リスクと関連するということになります(参考5)。

 

ただし、M2マクロファージは常に保護的とは限らず、石灰化、壊死内容、病変サイズとの関連も報告されており、M1マクロファージ/M2マクロファージ比は有用であるとされながらも、単純なM1/M2二分法では不十分であるという考え方もあるそうです。

 

とはいえ、M1/M2比上昇は冠動脈病変の不安定化所見と関連し、単位増加ごとに血栓リスク1.95倍、脂質増加、平滑筋細胞減少、線維性被膜菲薄化と相関したという報告からみると、まったくエビデンスがないのか?・・・というと、そうではないように思いますね(参考5)。

 

では、実際に「血管内プラーク」の存在を指摘されたら、どのような治療法を選択すべきなのか?、また、「間葉系幹細胞由来エクソーム」の併用は、「血管内プラーク」の治療に有効であるのか?・・・という話題について、お話をしたいと思いますが・・・

 

お話の続きは、後日の話題にしたいと思います。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

--------------------------------------------------------------------- <.ブログ後記  >6月23日

夜になりますと、開けた窓からはヒンヤリとした風が時折吹いてきます。6月も残り1週間になっています。

 

今回は「血管内プラーク」について、お話をさせていただきました。

実際に「プラーク」の存在を指摘されたら、「LDL-C」をどこまで低下させるべきでしょうか?

現代の心血管医学におけるコンセンサスは「Lower is better(低ければ低いほど良い)」ということになります。

血管内超音波(IVUS)や光干渉断層法(OCT)を用いた臨床試験のメタ解析により、「LDL-C」を厳格に低下させることで、一度形成された冠動脈プラークの体積が「退縮(regression)」することが証明されています。

例えば、「LDL-C」の値が、約124 mg/dLだった患者において、強力な脂質低下療法により平均66.8 mg/dLまで(45.4%の低下)制御すると、プラーク体積の有意な縮小が観察されたことが報告されています (参考6)。

さらに、強力な脂質低下療法は「プラーク」の「量」を減らすだけでなく、「質(安定性)」をも劇的に改善します。


「LDL-C」を下げると冠動脈プラークは退縮しやすくなります。とくに高強度脂質低下療法で、プラーク量の減少線維被膜の肥厚が一貫して観察されています(参考7)

この「プラーク」の退縮がどの程度かと言いますと・・・強力なLDL-C低下は冠動脈プラーク退縮と関連し、51研究9,113人のメタ解析でPAVは -1.10%、TAVは -5.84 mm³ 低下したことが報告されています(参考7)


その治療はどうか?・・・といいますと、「高強度スタチン療法」はプラーク退縮を強力に押し進めます。

2024年メタ解析では、脂質低下療法全体で「プラーク体積率(PAV)」などの低下とをもたらしたと報告されています。

さらに、強力な「脂質低下療法」のエビデンス全体を見ますと、強力な脂質低下療法は「プラーク」の「量」の退縮だけでなく、線維性被膜の肥厚、脂質成分の縮小、マクロファージ減少といった安定化所見にも一貫して関連することが報告されています(参考8)

では、最新ガイドラインが提示する厳格な目標値とは、どのようなものになるのでしょうか?

近年の米国心臓病学会(ACC)および米国心臓協会(AHA)をはじめとする多学会合同ガイドラインでは、動脈硬化の本態に対する理解の深まりを反映し、個別化されたリスク層別化に基づく明確な「LDL-C管理目標値」が設定されています [参考10,11).
 

○ 1次予防(心血管イベントの既往がない場合)
 

境界域〜中等度リスク群では100 mg/dL未満、高リスク群では70 mg/dL未満を目標とします。

○ 2次予防(すでに心筋梗塞や脳梗塞などのASCVD既往がある場合)

 「超高リスク(very high risk)」に該当する患者(複数の重症イベント既往、または1回のイベント既往に加えて糖尿病や慢性腎臓病などの重篤なリスク因子を合併している場合)では、LDL-C 55 mg/dL未満**、かつnon-HDL-C 85 mg/dL未満という極めて厳格な数値が強く推奨されます(参考9,10)

 目標値達成のための治療とは、実際にはどのようなものになるのでしょうか・

治療の基盤となるのは、食事・運動・禁煙をはじめとする生活習慣の修正です。そのうえで薬物療法の標準薬となるのがスタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)であり、臨床的に「アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)」を有する患者さんには「スタチン療法」が基本選択となるとされています。

「スタチン系薬剤」を用いても目標値に達しない場合は、小腸でのコレステロール吸収を阻害する「エゼチミブ」や、LDL受容体の分解を抑制して強力な脂質低下をもたらす「PCSK9阻害薬(モノクローナル抗体製剤やsiRNA製剤)」を追加することなどが推奨されています。
「PCSK9阻害薬」の上乗せにより、超高リスク患者のアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のイベント(心筋梗塞など)がさらに約15%抑制されることが臨床試験で示されています(参考11)

ところで「 間葉系幹細胞(MSC)由来エクソソーム」は、プラーク安定化作用はあるできるのでしょうか?

「スタチン系薬剤」や「PCSK9阻害薬」によってLDL-C値を標的値まで低下させても、心血管イベントの発症を完全にゼロにすることはできないとされています。この治療後に残されたリスクを「残余リスク(residual risk)」と呼びます(参考12)。

この背景には、脂質以外の要因、とりわけ血管局所で持続する「慢性炎症」が深く関与していることが近年の大規模臨床試験(CANTOS試験やCOLCOT試験など)で実証されています(参考13)。

こうした背景から、脂質を下げるアプローチに加え、プラーク内部の炎症を直接鎮めて安定化させる細胞不含(セルフレス)再生医療として、細胞外小胞の一種である「エクソソーム」の有効性に大きな期待が寄せられています。

「エクソソーム」とは、細胞から分泌される直径約100〜150ナノメートルの微小な膜性小胞であり、内部に特異的なマイクロRNA(miRNA)や活性タンパク質などの生理活性分子を内包しています。


これは生体内における細胞間コミュニケーションの担い手(にないて)であり、高い生体適合性と組織移行性(標的指向性)を併せ持つ天然のナノキャリアであると言えます(参考14) 。

特に、iPS細胞(人工多能性幹細胞)や間葉系幹細胞(MSC)に由来するエクソソームは、細胞そのものを移植する再生医療と比較して、生体内での癌化のリスクや免疫拒絶のリスクが極めて低く、かつ品質の均一化や大量生産が可能な「既製品(off-the-shelf)製剤」として開発できる革新的な優位性を持っています(参考15) 。

「エクソソーム」の効果として、前臨床研究が示す「プラーク安定化」の分子メカニズムとはどのようなものなのでしょうか?

「間葉系幹細胞(MSC)由来エクソソーム」が「動脈硬化プラーク」に対して治療効果を持つことは、複数の動物モデルによって実証されています。

代表的な知見として、「幹細胞(MSC)由来エクソソーム」に豊富に含まれる「miR-let7」の作用が挙げられます。
動脈硬化モデルマウス(ApoE欠損マウス)への投与実験において、「プラーク」の有意な縮小が確認されました。

その機序は、HMGA2/NF-κBシグナル経路の抑制を介して「マクロファージ」を抗炎症性のM2型(修復型)へと転換(分極)させると同時に、「IGF2BP1/PTEN経路」の制御を介して

「マクロファージ」の血管壁への過剰な浸潤を抑制するという、相乗的な動態によるものであることが報告されています(参考16,17) 。

また、「幹細胞(MSC)由来エクソソーム」に多く含まれる「miR-21a-5p」でも、転写因子KLF6を標的としてマクロファージM2型分極を誘導し、ERK1/2経路の抑制を介してマクロファージの遊走を抑制し、プラーク負荷を軽減させることが報告されています(参考18) 。

これらの現象は、本文内でお話をした脆弱(ぜいじゃく)プラーク」の形成プロセス(M1型マクロファージによる被膜分解、エフェロサイトーシスの破綻)を分子レベルで逆転・是正し、プラークを内側から強力に「安定化」させることを意味しています。

では、「iPS細胞由来エクソソーム」の持つ「プラーク」への効果として、現段階でどこまで期待できるのでしょうか?

「iPS細胞由来エクソソーム」およびその内側にある高密度なmiRNA群は、上記にあげた「miR-let7」「miR-21a-5p」を含むだけではなく、心筋細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、ならびに浸潤炎症細胞といった、動脈硬化の全ステージに関わる多種類の細胞群を網羅的に遠隔調節する因子として定義されています(参考19) 。

「iPS細胞」を用いた細胞移植治療において観察される治療効果の多くは、移植細胞が周囲の組織に物質を分泌して救済する「パラクライン効果」によるものであるとされています。


その中心にあり、重要な役割を持つのが「iPS細胞由来のエクソソーム」であることが分かっています(参考20)。

そして現在、心不全、末梢血管疾患、肝線維症、神経変性疾患など、極めて広範な疾患モデルにおいて、その器官保護・抗炎症作用が報告されつつあります (参考21)。

プラーク安定化等に関しては、現時点ではあくまで動物実験および試験管内(in vitro)実験の前臨床段階(preclinical stage)において、有効性を示しており、その作用は、「局所炎症の沈静化」と「マクロファージ」のM1からM2への表現型転換を通じて「プラーク」を安定化させる力が強いことが予想されています

そのために「iPS細胞由来エクソソーム」は、「幹細胞由来エクソソーム」よりも強力な「プラーク」の縮小・退縮の効果が期待できるとされているのですが・・・


現時点ではあくまで動物実験および試験管内(in vitro)実験の前臨床段階(preclinical stage)に留まっているというのが現状となります。
 

今後。ヒトの「血管内プラーク」において、「iPS細胞由来エクソソーム」が有効性を示すデータを楽しみに待ちたいと思います。

 

最後までお付き合いいただき

誠にありがとうございましたお願い

 

参考)

1)Front Cardiovasc Med. 2025 Dec 16:12:1659228. 

Atherosclerotic plaque, cardiovascular risk, and lipid-lowering strategies: a narrative review

 Frankie Chor-Cheung Tamら

 

2)Front Immunol. 2016 Jul 19:7:275. 

M1- and M2-Type Macrophage Responses Are Predictive of Adverse Outcomes in Human Atherosclerosis

  Monica de Gaetanoら

 

3)Int J Biol Sci. 2022 May 1;18(8):3266-3281. 

Exosomes in atherosclerosis: Convergence on macrophages

Kaiying Yangら

 

4)Cell Rep. 2020 Jul 14;32(2):107881. 

Macrophage Exosomes Resolve Atherosclerosis by Regulating Hematopoiesis and Inflammation via MicroRNA Cargo

Laura Bouchareychasら

 

5)J Am Heart Assoc. 2022 Mar 15;11(6):e023274. 

Macrophage Polarization in the Perivascular Fat Was Associated With Coronary Atherosclerosis

Daniela Souza Farias-Itaoら


6) BMC Cardiovasc Disord. 2014 May 2:14:60. 

Systematic study of the effects of lowering low-density lipoprotein-cholesterol on regression of coronary atherosclerotic plaques using intravascular ultrasound
Wen-Qian Gaoら

 

7) Nat Rev Cardiol. 24 Jul;21(7):487-497. 
Atherosclerotic plaque stabilization and regression: a review of clinical evidence
Ashish Sarrajuら

 

8) Nat Rev Cardiol. 2024 Jul;21(7):487-497.
Atherosclerotic plaque stabilization and regression: a review of clinical evidence
Ashish Sarraju


9) J Am Coll Cardiol. 2026 May 19;87(19):2624-2757. 
2026 ACC/AHA/AACVPR/ABC/ACPM/ADA/AGS/APhA/ASPC/NLA/PCNA Guideline on the Management of Dyslipidemia: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines
Roger S Blumenthalら

10)J Am Coll Cardiol. 2026 May 19;87(19):2617-2623.
2026 Dyslipidemia Guideline-at-a-Glance
Barbara S Wigginrら

 

11)Am J Cardiovasc Drugs. 2026 Mar;26(2):193-203. 

Efficacy of PCSK9 Inhibitors on Clinical Outcomes in Patients with Established Atherosclerotic Cardiovascular Disease: A Network Meta-analysis
Luca Raone ら

 

12)PLoS One. 2018 Jul 11;13(7):e0200383. 
High-density lipoprotein cholesterol as a therapeutic target for residual risk in patients with acute coronary syndrome
Yuichi Ozaki ら

 

13) Am Heart J. 2011 Oct;162(4):597-605. 
Interleukin-1β inhibition and the prevention of recurrent cardiovascular events: rationale and design of the Canakinumab Anti-inflammatory Thrombosis Outcomes Study (CANTOS)
Paul M Ridkerら


14) Science. 2020 Feb 7;367(6478):eaau6977. 
The biology , function , and biomedical applications of exosomes
Raghu Kalluri ら

 

15)Int J Mol Sci. 2021 Feb 10;22(4):1769. 
Human Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Exosomes as a New Therapeutic Strategy for Various Diseases
Aline Yen Ling Wang ら

 

16) Biochem Biophys Res Commun. 2019 Mar 19;510(4):565-572. 
Exosomes derived from mesenchymal stem cells attenuate the progression of atherosclerosis in ApoE-/- mice via miR-let7 mediated infiltration and polarization of M2 macrophage
Jiangbing Li ら

17) Mater Today Bio. 2024 Dec 30:30:101440. 
Stem cell-derived exosome delivery systems for treating atherosclerosis: The new frontier of stem cell therapy
Hassan Tariqら

 

18)Acta Biochim Biophys Sin (Shanghai). 2021 Aug 31;53(9):1227-1236. 

Mesenchymal stem cell-derived exosomal miR-21a-5p promotes M2 macrophage polarization and reduces macrophage infiltration to attenuate atherosclerosis
Jian Maら

 

19) Circ Res. 2017 Jan 20;120(2):407-417. 
Exosomes Generated From iPSC-Derivatives: New Direction for Stem Cell Therapy in Human Heart Diseases
Ji-Hye Jung ら


20) Circ Res. 2017 Jan 20;120(2):407-417. Exosomes Generated From iPSC-Derivatives: New Direction for Stem Cell Therapy in Human Heart Diseases
Ji-Hye Jung ら

 

21) Circ Res. 2017 Jan 20;120(2):407-417. 
Exosomes Generated From iPSC-Derivatives: New Direction for Stem Cell Therapy in Human Heart Diseases
Ji-Hye Jung ら
 

 

(ザ・カフェ by アマン東京/大手森)

(筆者撮影)

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こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

月日が経つのは早いもので、6月も半ばになろうとしていますね。

「円安」は、ジリジリと進行していて、すべての物の値段が高くなってきたなあ・・・と思う毎日です。

 

日本の製品を海外輸出するためには、我慢(がまん)すべきと考えていましたが・・・円安は輸出企業にはプラスと言われてきたからですね。

 

しかしながら、実際は、昨年下半期の輸出額を見ると、日本はイタリア、韓国にも抜かれ、世界5位から7位に転落しているそうで、とても不思議な気がしました。

 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

(AIで画像を作成)

 

今回は、メディカルダイエット目的で使われることが多くなり、それと同時に社会問題化している「マンジャロ(一般名:チルゼパチド: GIP/GLP-1受容体作動薬)について、お話をしてみたいと思います。

 

「マンンジャロ」は世界初のGIP受容体+GLP‑1受容体のデュアル作動薬(ツインクレチン)となります(参考1)

 

グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)およびグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)は、栄養素の摂取に応答して腸管内分泌細胞(L細胞およびK細胞)から分泌される「インクレチン」です。

 

インクレチン」が作用するGIPレセプターとGLP-1レセプターは。いずれも膵β細胞に発現し、「食後高血糖時」にインスリン分泌を増強するとされるとされています。

 

このため、高血糖状態になりにくい「メディカルダイエット」目的の場合は、「低血糖」にはなりにくいとされています。

 

また、「インクレチン」と呼ばれるホルモンは、膵β細胞でインスリン分泌を高めるだけでなく、脳の摂食調節回路にも働きます。

 

その結果、食欲低下摂取カロリー減少を起こすことになります。

 

GIP・GLP-1は視床下部などの「満腹(サティエティ)センター」のニューロンを活性化し、満腹感を高め摂食を減らすわけですね(参考2)。

 

(AIを用いて画像を作成) 

 

本来は、「2型糖尿病」の治療薬であるはずですが・・・

なぜ「肥満」の治療薬に使用されるケースが出てきたのでしょうか?

 

「肥満治療」における新たな到達点を示したのが、「マンジャロ(一般名:チルゼパチド)」の第3相試験であるSURMOUNT-1試験であるとされています。

 

この試験では、糖尿病を伴わない肥満(BMI ≥ 30)または体重関連合併症を有する過体重(BMI ≥ 27)の成人2,539例を対象としています。この試験の中で、以下のようなことが確認されています。

 

BMI≥30、またはBMI≥27かつ体重関連合併症あり、糖尿病なしの成人を1:1:1:1で5/10/15 mgまたはプラセボに無作為に分け、全員がカロリー制限(約−500 kcal/日)と週150分以上の運動の指導を受けたのだそうです(参考3)

 

そして、主要評価項目はベースラインから治療終了までの体重%変化したかを見たわけですね。

 


A)体重減少効果

 

72週間の皮下投与(週1回)により、5 mg群で16.0%、10 mg群で21.4%、15 mg群で22.5%の平均体重減少を達成した。15 mg群では参加者の約3分の1が25%以上の減量に到達している


B)選択的な体組成改善

 

機序的に特筆すべきは、減量の大部分が脂肪組織に由来する点である。脂肪量が33.9%減少したのに対し、除脂肪量の減少は10.9%にとどまったそうです。

筋肉だけではなく、水分や骨、臓器も含めた脂肪以外のすべて

が「除脂肪量」ということになります。

 

これに伴い、血圧、ウエスト周囲径、脂質プロファイル、インスリン抵抗性、CRPといった心血管リスク因子が包括的に是正され、SURMOUNT-1では「臨床的に意味のある持続的な体重減少」が得られたと報告されています。

 

ここで、炎症の指標である「CRP」が含まれることに違和感を感じる方もいらっしゃるかもしれませんね。

 

これらの中で「マンジャロ(一般名:チルゼパチド)の持つ効果として、特に重要なのが「抗炎症作用」であることが報告されているのですね。

GLP-1受容体を作動させる性質は、「腫瘍壊死因子α(TNF-α)」や「インターロイキン-6(IL-6)」などの「炎症性サイトカイン」の産生を抑制し、C反応性蛋白(CRP)を低下させる。低悪性度の慢性全身性炎症は「動脈硬化」の進展や「心不全」を引き起こすリスクであるため、この抗炎症作用は双方の疾患に共通する強力な保護機序となると考えられているのですね。
 

フレイルや加齢の観点から見ると、GLP-1/GIP系は単なる血糖調節ホルモンではないと言えます。

近年は、

  • 慢性炎症(inflammaging)の抑制
  • ミトコンドリア機能改善
  • 脂肪組織炎症の軽減
  • インスリン抵抗性改善
  • 心血管保護

などが報告されており、加齢関連疾患への応用が期待されているのですね。

 

では、心血管系には、どのような影響を及ぼすのか?

そして、気になる「副作用」は?・・・となっていくわけですが、

このお話の続気は、後日の話題にしたいと思います

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

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<ブログ後記>6月16日

 

早くも6月の中旬を過ぎ、梅雨の季節の中でありますが、今日はとてもよいお天気で、青空を見ることができました。

 

今回は「マンジャロ(一般名:チルゼパチド: GIP/GLP-1受容体作動薬)のお話をさせていただきました。

 

本来は、「2型糖尿病」の薬剤であり、いわゆる「痩せ薬(やせぐすり)」ではないわけですね。JTKクリニックでは「総合内科」として

「糖尿病」の治療も行なっているのですが・・・副作用などのことを

考えると、なかなか使いにくいと感じることが多いような気がします。

 

しかしながら、心筋梗塞などの、いわゆる心血管イベントを予防し、心臓の機能を回復させる効果は特筆すべきものだと思います。


「マンジャロ(GIP/GLP-1受容体作動薬)は、血糖値を低下させるだけでなく。心血管イベントやリスク因子に影響することが、多くの大規模試験とメタ解析から示されています。

「マンジャロ」の心血管への影響は、糖尿病・肥満・心不全などで

これまでに解析された結果が多く蓄積しています。

その結果は「安全性は確認済み+多くの場面でリスク低下の可能性がある」ことが報告されています(参考4)。

実臨床118,252例のメタ解析では、急性冠症候群(Acute Coronary Syndrome), 心不全, 脳卒中, 主要有害心血管イベント、全死亡がすべて有意に低下することが報告されています(参考5)

現時点で得られているエビデンスから、「マンジャロ」は「少なくとも心血管イベントリスクを増やさず、多くの場合で明確なリスク低下」を示しています。ランダム化比較試験(RCT)だけでなく、実際の臨床データを用いた研究やメタ解析でも一貫した傾向として示されています(参考5)

2型糖尿病がなく、肥満のある方で「マンジャロ」の効果は、どのように評価されているのでしょうか?

SURMOUNT‑1試験の事後解析では、糖尿病のない肥満/過体重2,461人で10年ASCVDリスクスコアを算出し、72週時点で相対リスクが16〜24%低下し、プラセボではむしろ増加したことが報告されています(参考6)。

ASCVDAtherosclerotic Cardiovascular Disease(動脈硬化性心血管疾患) の略となります。

単一の疾患名ではなく、動脈硬化を基盤として発症する心血管疾患の総称となりますね。


また、同じ試験の3年追跡では、肥満かつ前糖尿病患者で、10年予測CVD(Cardiovascular Disease(心血管疾患) のリスクがプラセボで増加する一方、「マンジャロ」では用量依存的に低下したことが報告されています(参考7)。

また、別の解析では、同コホートでの10年後に2型糖尿病発症するリスクも60〜69%相対低下していたことも報告されています(参考8)

では、「マンジャロ」の副作用では、どのようなものが報告されているのでしょうか?

消化器症状としては、悪心、下痢、嘔吐、消化不良、便秘などが最も多く、症状の発現は、用量が多いほど増えるとされています。

 

5/10/15mgでいずれも、これらの有害事象が約4〜5割にみられ、悪心は最大約24%まで増加すると報告されています(参考9,10 11.)

もちろん、投与量が増えれば、副作用の出現が増加する訳ですが、その程度の多くは軽度〜中等度で、開始後の用量増量期に集中し時間とともに減少するとされています(参考12,13)

もちろん、重篤(じゅうとく)な副作用も報告されていますので、注意が必要です。

重篤な副作用とは、どのようなものなのでしょうか?

急性肝障害などによる肝機能障害を起こしたという症例報告があります(参考14)。


また、神経・精神症状として、足下垂の原因となる腓骨神経障害幻覚・被害妄想などの症例報告があり、急速な体重減少や栄養不良との関連が示唆されています(参考15)。

月経異常・不正出血、睡眠障害なども報告されています(参考15)。

また、「マンジャロ」を使用すると骨格筋が減少するということがよく言われますが、脂肪量は大きく減る一方で、除脂肪量(筋肉を含む)は相対的に保たれており、「骨格筋を大きく犠牲にしている」証拠は乏しいと述べられています(参考16)。

内脂肪が減ることで筋肉の「質」は改善している可能性があると報告されています。
 

しかしながら、高齢者やもともと筋力が弱い人では、レジスタンス運動と十分なタンパク摂取を組み合わせて筋量維持を図ることが推奨されると考えられています。

さらに少数とはなりますが、膵炎、胆のう・胆道疾患、重度の脱水・腎障害、まれな神経・精神症状や甲状腺腫瘍を発症したという報告もあります。

ここまでのことがおきますと・・・医学的な管理なしには管理が難しいということになります。
JTKクリニックでは、初診は来院を原則としています、BMIの測定、検診データなどを持参していただき、リスクがないかを確認した上で、目標体重必要なカロリー数の算出などをした上で
「マンジャロ」による治療を開始しています、

必要であれば、遠隔での「管理栄養士」による食事指導も行なっています。


では、少しでも早く「肥満」を解消するのが重要と考えるか?・・・ということになるのですが、これには以下のような理由があります

「肥満」、とくに「内臓脂肪型肥満」は、左室駆出率が保たれた「心不全(HFpEF)」の病因の1つである・・・という考え方があります。

 

その原因としては、内臓脂肪・心外膜脂肪に由来する局所的・全身性の炎症、および機械的圧迫がそのベースにあります。


「マンジャロ」の投与により、左室駆出率が保たれた「心不全(HFpEF)」に対して行われた試験で、その症状・QOL(KCCQスコア)や運動耐容能がどのように変化したかを報告した「STEP-HFpEF試験」というものがあり、以下のように報告されています。

英国の26万人のコホート研究では、クラス3肥満(非常に高度)が、心不全3.3倍・全死亡2.7倍など最悪の転帰であったと報告されています(参考17)


また、若年〜中年期で肥満を維持した人は、正常体重維持の人に比べ、全死亡HR 1.6〜1.7と一貫して高リスクであったと報告されています(参考18)

最大の「BMI」値を24年間追った研究でも、最高BMIが高いほど死亡リスクが単調に増加し、正常域に一度も出なかった人が最も生存率良好であったと報告されています(参考19)。
 
体重減少がなぜ、寿命を伸ばすのか?・・・という疑問に答える

「心臓」というひとつの臓器に対してのみを見た試験に「SUMMIT試験のCMR(心臓MRI)サブスタディ」というものがあります。

この試験は、「マンジャロ」がHFpEF+肥満患者心臓リモデリングと心周囲脂肪をどこまで改善するか」を精密画像で評価した研究です。
心臓MRIを用いたSUMMIT試験のサブ解析により、次のような解剖学的なメカニズムが明らかとなっています。


「マンジャロ」投与群では、プラセボ補正後に左室心筋重量が11 g減少(95%信頼区間 -19 〜 -4 g、P=0.004)、心臓周囲(傍心臓)脂肪組織が45 mL減少(95%信頼区間 -69 〜 -22 mL、P<0.001)した。
IL-6などを分泌する炎症性の心臓周囲脂肪が減少したこと、および左室肥大の退縮(逆リモデリング)が確認されたことは、抗炎症的心保護メカニズムを証明する上で極めて重要であると報告されています(参考20)

つまり、「マンジャロ」は、単なる体重減少効果を超えて、以下のような心臓機能の保護・改善傾向があるということになります。

 

1)全身性・局所性炎症の軽減

 

2)血圧・循環血漿量低下による血行動態の改善

 

3)心臓周囲脂肪の減少と左室肥大の退縮を生じる

 

4)心筋エネルギー代謝の最適化と内皮機能改善を通じ、心血管イベントとHFpEF病態を多面的に改善する。

最後に「マンジャロ」を中止すると、体重はどうなるのでしょうか

これは、URMOUNT‑4試験というもので報告されており、36週にわたりが報告されています。

 

「マンジャロ」を投与して、約21%減量した後、継続群と中止群(プラセボ)に1:1で再割り付けて体重の増加を確認した試験となります。
結果としては、次のように報告されています。

52週後の結果として、

継続群:さらに 5.5%減量

中止群:+14.0%の体重増加(=大きなリバウンド)が確認されたという報告されています(参考21)。

同じ試験の追加解析では、中止後1年で「体重減量分の25%以上を再増加した人」が大多数であったと報告されています(参考22)

体重が戻るほど、腹囲・血圧・LDL相当・HbA1c・インスリンなど心代謝パラメータの改善も逆戻りしたとも報告されています(参考23)

当然ながら、「マンジャロ」の投与量が多いほど、中止後にリバウンドをする体重は大きいわけですね。このために食事療法を徹底しながら、「マンジャロ」をできるだけ少ない投与量としていくことがリバウンドを防いでいくことが重要になるわけですね。

 

 

 

今回も最後までお付き合いいただきまして

誠にありがとうございましたお願い

 

 

 

 

 

 

参考)

1)Cardiovasc Diabetol. 2022 Sep 1;21(1):169. 

Tirzepatide, a dual GIP/GLP-1 receptor co-agonist for the treatment of type 2 diabetes with unmatched effectiveness regrading glycaemic control and body weight reduction

 Michael A Nauckら

 

2)Front Endocrinal(Lausanne)

Mechanisms of action and therapeutic applications of GLP-1 and dual GIP/GLP-1 receptor agonists

 Qiyuan Keith Liu

 

3)Diabetes Obes Metab. 2025 May;27(5):2720-2729. 

Body composition changes during weight reduction with tirzepatide in the SURMOUNT-1 study of adults with obesity or overweight

 Michelle Lookら

 

4) Nat Med. 2022 Mar;28(3):591-598. 
Tirzepatide cardiovascular event risk assessment: a pre-specified meta-analysis
Naveed Sattar ら

 

5) Endocr Pract. 2026 Mar;32(3):369-379. 
Cardiovascular Outcomes in Adults With Type 2 Diabetes Treated With Tirzepatide: A Systematic Review and Meta-Analysis of Real-World Studies
A B M Kamrul-Hasan ら

 

6)Diabetes Obes Metab. 2024 Jan;26(1):319-328. 
Tirzepatide reduces the predicted risk of atherosclerotic cardiovascular disease and improves cardiometabolic risk factors in adults with obesity or overweight: SURMOUNT-1 post hoc analysis
Emily R Hankosky ら

 

7) Diabetes Obes Metab. 2025 Dec;27(12):7385-7394. 
Tirzepatide and the 10-year predicted risk of cardiovascular disease and type 2 diabetes in adults with obesity and prediabetes: A post hoc analysis from the three-year SURMOUNT-1 trial
Emily R Hankosky ら

 

8) Diabetes Obes Metab. 2023 Dec;25(12):3748-3756. 
Tirzepatide reduces the predicted risk of developing type 2 diabetes in people with obesity or overweight: Post hoc analysis of the SURMOUNT-1 trial
Emily R Hankosky ら

 

9) J Endocr Soc. 2023 Jan 26;7(4):bvad016. 
Adverse Events Related to Tirzepatide
Rahul Mishra ら

10) Diabetologia. 2022 Aug;65(8):1251-1261. 
Management of type 2 diabetes with the dual GIP/GLP-1 receptor agonist tirzepatide: a systematic review and meta-analysis
Thomas Karagiannisら

11) Pharmaceuticals (Basel). 2025 Apr 30;18(5):668. 
The Efficacy and Safety of Tirzepatide in Patients with Diabetes and/or Obesity: Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Clinical Trials
Ligang Liu ら

 

12) Diabetes Obes Metab. 2025 Apr;27(4):1826-1835. 
Gastrointestinal tolerability and weight reduction associated with tirzepatide in adults with obesity or overweight with and without type 2 diabetes in the SURMOUNT-1 to -4 trials
Domenica M Rubino ら

13)J Endocrinol Invest. 2024 Nov;47(11):2671-2678. 
The real-world safety profile of tirzepatide: pharmacovigilance analysis of the FDA Adverse Event Reporting System (FAERS) database
I Carusoら

 

14)Front Pharmacol. 2025 Jul 1:16:1608657. 
A retrospective observational study on case reports of adverse drug reactions (ADRs) to tirzepatide
Mengmeng Huang ら

 

15)Drug Healthc Patient Saf. 2026 Jan 8:18:556918. 
Adverse Events Associated with Tirzepatide: Updated Pharmacovigilance Analysis Using FAERS (2022 Q1-2025 Q1) with an Adapted Time-to-Onset Method
Saisai Gu ら

 

16) Cureus. 2025 Jul 29;17(7):e89020. 
Effects of Tirzepatide on Skeletal Muscle Mass in Adults: A Systematic Review
Roberto A Hidalgo Ramos ら

 

17)BMC Public Health. 2021 Apr 15;21(1):576. 
Long-term body mass index changes in overweight and obese adults and the risk of heart failure, cardiovascular disease and mortality: a cohort study of over 260,000 adults in the UK
Barbara Iyen ら

 

18)BMJ. 2019 Oct 16:367:l5584. 
Weight change across adulthood in relation to all cause and cause specific mortality: prospective cohort study
Chen Chen ら

 

19)JAMA Netw Open. 2018 Nov 2;1(7):e184587. 
Association of Obesity With Mortality Over 24 Years of Weight History: Findings From the Framingham Heart Study
Hanfei Xu ら

 

20)J Am Coll Cardiol. 2025 Feb 25;85(7):699-706. 
Tirzepatide Reduces LV Mass and Paracardiac Adipose Tissue in Obesity-Related Heart Failure: SUMMIT CMR Substudy
Christopher M Kramer ら

 

21)JAMA. 2024 Jan 2;331(1):38-48. 
Continued Treatment With Tirzepatide for Maintenance of Weight Reduction in Adults With Obesity: The SURMOUNT-4 Randomized Clinical Trial
Louis J Aronne ら

 

22) JAMA Intern Med. 2026 Feb 1;186(2):157-167. 
Cardiometabolic Parameter Change by Weight Regain on Tirzepatide Withdrawal in Adults With Obesity: A Post Hoc Analysis of the SURMOUNT-4 Trial
Deborah B Horn ら

 

 

(東京スカイツリー)

(筆者撮影)

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<JTKクリニックからのお知らせ>

 

◯Zoomを用いた遠隔医療相談を始めました(内科関連疾患)

 

◯外来診療は予約制をとり、待ち時間が生じないようにしています。

 

◯ ダイエット漢方製剤は、オンライン診療でも可能です。

◯ 線維筋痛症に対するノイロトロピン等の点滴療法、トリガーポイント注射を行なっております。(セカンドオピニオン診療も可)

 

自分の皮下脂肪から組織を採取し、「間葉系幹細胞」を培養して、自分自身の組織内に投与する「幹細胞治療」を開始しました。

 

<JTKクリニック 所在地>

〒102-0083

東京都千代田区麹町4-1-5麴町志村ビル2階

電話 03-6261-6386

Mail:info@jtkclinic.com

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こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

梅雨空というのでしょうか。灰色の雲に空は覆われており、ときに雨がぱらついています。ひんやりとした空気も季節が変わったことを感じさせますね。

 

暦に目をやりますと、その七十二候「蟷螂生(かまきりしょうず)」となりますね。この蟷螂(かまきり)とは例の多くなハサミを持ち

その手が祈っているように見えることから「Praying mantis」と英語では名前がついています。

 

ある日、荘公は馬車で狩りに出かけたとこっ炉、道に一匹の虫がいて、斧(前足)をふりあげ、馬車の車輪に向かってきたそうです。

 

荘公は「これは、何という虫か」と御者に尋ねた。御者は「これは、「蟷螂(とうろう;カマキリ)という者ですが、自分の力のほどを考えず、進むことのみ知って、退くことを知りませぬ」と伝えたそうです。

 

荘公はそれを聞いて「これがもし人間なら、天下の武勇の者であるだろう」と言い、わざわざ車の向きを変えさせ、道の「カマキリ」をよけて通ったのだそうです。

 

このエピソードを示したものが

「此為人、必為天下勇武矣」という言葉となります。その意味は

「これがもし人であったなら、必ずや天下の勇者であっただろう」

 

国君である彼が、その勇気に敬意を払って一匹の虫に道を譲ったこの話が世に伝わると、命を投げ出して仕える主君を知ったとばかり、天下の勇者が続々と荘公のもとに集まってきたのだそうです。

ただし、イメージだけで荘公のもとに集まってきた者は、皆、カマキリのように玉砕(ぎょくさい)し、全滅したとか、しなかったとか。

 

同じ姿が、文脈によっては「死を恐れず信念に殉ずる勇」とも読まれる。戦略とは状況次第で評価が反転するということが、中国の古典解釈本には述べられています。

 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

(AIで画像を作成)

 

今回は加齢に伴う「フレイル(frailty)」についてお話をしてみたいと思います。

 

「フレイル」とは、加齢に伴って心身の予備能力が低下し、健康な状態と要介護状態の中間に位置する、虚弱な状態を指します。

 

日本語では「虚弱」に近い概念ですが、日本老年医学会が2014年に「フレイル」という呼称を提唱しました。

重要なのは、適切な介入によって再び健常な状態に戻りうる「可逆性」を持つ点である・・・になります。

 

人口の高齢化が世界規模で進むなか、「フレイル」は現代医療における最大の課題の一つであるとされています、

 

「フレイル」とは、加齢に伴う複数の生理系における予備能の低下(Homeostenosis:恒常性維持能力の狭小化)を基盤とし、感染症や手術などの軽微なストレスに対して過剰な脆弱性を示す多次元的かつ動的な状態と定義されています (参考1)。

 

「フレイル」は固定化された不可逆的な「老い」ではなく、

生体の「恒常性破綻の初期段階」であり、適切な介入によって健常な状態(Robust)へと回帰しうる「可逆性」を有することが臨床的に極めて重要であると言えます。

frは、その加齢に伴う「フレイル」を発症させる分子・生理学的機序とは、どのようなものなのでしょうか?

 

「フレイル」の病態は、単一の臓器不全ではなく、全身の細胞・分子レベルの機能低下が相互に増悪し合うネットワークの破綻として理解されています。

 

「フレイル」となる機序を整理してみたいと思います。

1. 細胞老化とインフラメイジング(Inflammaging)

 

加齢に伴い、DNA損傷やテロメア短縮を蓄積した「老化細胞」が全身の組織に滞留します。

これらの老化細胞は、「SASP(細胞老化随伴分泌現象)」と呼ばれる機構を介して、IL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインを無秩序に

分泌し続けるのは、いつも強調していることですね。

 

この結果生じる全身性の慢性微小炎症状態「インフラメイジング」である とされています(参考2)。

 

image

(AIを用いて画像を作成) 

 

「インフラメイジング」は、骨格筋のタンパク質分解亢進、造血幹細胞の機能低下、食欲不振を惹起(そうき)し、「フレイル」の負のスパイラルにつながる最大の駆動力となるわけですね。



2.骨格筋の減少(サルコペニア)と同化抵抗性

 

「フレイル」の身体的側面の中核をなすのが、加齢性の筋量・筋力低下である「サルコペニア」であると言えます (参考3)。

 

 

ここで「サルコペニア(sarcopenia)」「フレイル」の違いを再度まとめておきたいと思います。

 

「サルコペニア」は、加齢などに伴う骨格筋量の減少と、筋力または身体機能の低下を指す、筋肉に限定した概念です。

 

それに対して、「フレイル」は、加齢に伴い「予備能力」が全般的に低下し、ストレスに対する脆弱性が高まった状態を指します。

身体的・精神心理的・社会的の三側面を含む多次元的な概念です。

 

その評価には、Friedの表現型モデル(体重減少・疲労感・筋力低下・歩行速度低下・活動量低下の5項目)や、欠損の累積で捉える 「Frailty Index」 などが用いられます。

 

階層の違いとして、「フレイル」がより上位の包括的な概念であり、「サルコペニア」はその身体的側面を支える基盤であると考えることができますね。

 

「サルコペニア」による筋力・筋量の低下が、歩行速度低下や易疲労感を生み、身体的な「フレイル」につながっていくということになりますね。

 

では、加齢により「サルコペニア」、つまり、筋力・筋量の低下が生じていくのは、なぜでしょうか?

 

それは、次のような理由によります。

 

「筋組織」では加齢に伴い、運動神経の脱落、脂肪組織の浸潤、そして筋幹細胞(サテライト細胞)の自己複製能の低下が生じることが分かっています。

 

分子レベルで特に重大なのが「同化抵抗性(Anabolic resistance)」である。高齢者の筋細胞では、食事由来のアミノ酸(特にロイシン)を感知してタンパク質合成のスイッチを入れる「mTORC1経路」の活性化が減弱していることが分かっています。

 

そのため、若年者と同量のタンパク質を摂取しても十分な筋合成応答が得られず、「筋萎縮」が進行しやすいと考えられています。

 

さらに「ミトコンドリア」の機能異常が・・・という話題になっていくわけですが・・・お話の続きは後日の話題にしたいと思います。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

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<.ブログ後記 > 6月9日

 

今回は「フレイル」についてのお話をさせていただきました。

 

ヒトは加齢に伴って、身体機能(体力)認知機能(認知能力)の両方が徐々に低下することが知られています。

 

ただし、その程度や速度には大きな個人差があり、適切な生活習慣によってかなり抑制できることも分かっています。

 

この個人差の中には「ミトコンドリア」も関与すると考えられています。

なぜ、「ミトコンドリア」が重要なのかと言いますと・・・「ミトコンドリア」はすべての細胞のエネルギーとなる「ATP」を産生するからということになります。

 

例えば、筋肉量が同じでも

  • ATP産生能力が高い人
  • ATP産生能力が低い人

では体力が大きく異なると考えられます。実際に筋生検や血液解析では、「フレイル」状態にある高齢者は、健常高齢者に比べて

  • ミトコンドリア機能低下
  • ATP産生低下
  • mtDNA損傷増加

が認められています

 

少し詳しくみてみますと・・・細胞のエネルギー工場である「ミトコンドリア」は、加齢とともに酸化的リン酸化の効率が低下し、「活性酸素種(ROS)」の異常産生をきたすようになります。。

正常であれば機能不全に陥った(おちいった)「ミトコンドリア」は.マイトファジー(自食作用)というメカニズムによって除去されるわけですが、

加齢に伴いこの「ミトコンドリア」の品質管理メカニズムが破綻(はたん)するわけですね。


これにより細胞内の「活性酸素種(ROS)」などの酸化ストレスが激化し、さらなる「細胞老化」「SASP」を誘導する悪循環に陥る とされています(参考4)。

では、「フレイル」を逆転させる治療介入の方法とは、どのようなものになるのでしょうか?

「フレイル」は「進行するだけ」の状態ではなく、多くの研究で改善・予防が可能な“可逆的な状態であることが示されています。


現在は、全身の主要筋群を漸進的に鍛える(きたえる)プログラムが標準的であるとされています、

大規模メタ分析では、運動(特にレジスタンス・筋力トレーニング)がフレイルを減らす効果が最大と報告されています(参考5,6,7)

さらに「フレイル」を改善する方法として、単独の運動よりも、運動+栄養の介入がより効果的という報告が多くあります(参考8)。

では、「フレイル」を改善するのにどのような「栄養」が良いのでしょうか?

本文内でお話をした「同化抵抗性」を克服するため、高齢者には若年者以上のタンパク質摂取が必要であることが報告されています。

 

「同化抵抗性」とは、食事でタンパク質を摂取したり、運動を行ったり、若年者ほど筋肉が合成されなくなった状態を指します。


多くの介入試験で「タンパク質摂取量」の増加が、「フレイル」や「歩行速度」の改善と結びついていることが報告されています

(参考9)。

さらに果物・野菜摂取が多く、全体として食事の質が高いほど「フレイル」が少ないというも観察研究が報告されています(参考10)

国際的なガイドラインでは、健康な高齢者で1.0〜1.2 g/kg/日、フレイルやサルコペニアを有する場合は1.2〜1.5 g/kg/日のタンパク質摂取が推奨されているのですね (参考11)。

特に、mTORC1経路というものを強力に駆動する「ロイシン」を豊富に含む良質なタンパク質の摂取が重要であるとされています。

 

その理由は、以下のようになります。

 

「ロイシン」は分岐鎖アミノ酸(BCAA)の一つで、筋肉に対して単なる材料ではなく、「筋タンパク質合成のスイッチを入れるシグナル分子」として働からなのですね。

 

また、筋機能の維持には「ビタミンD」の充足が不可欠であるともされています。

では、NAD⁺代謝への介入、つまり、「NMN」や「NAD+点滴」などは「フレイル」を予防できるのでしょうか?

老化の共通基盤としての「NAD⁺枯渇」という事実をもとに

最近、老化生物学において最も注目されているのが「ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)」ということになります。

「NAD⁺」は、「ミトコンドリア」におけるATP産生の補酵素であるだけでなく、長寿遺伝子産物である「サーチュイン(Sirtuin)」や、「DNA修復酵素(PARP)」の基質として機能することは、以前のブログ内でお話をしたとおりです。

「加齢」に伴い、NAD⁺合成酵素(NAMPT)の活性が低下する一方で、「老化細胞」が発現するCD38などのNAD⁺分解酵素が過剰に働くため、組織のNAD⁺レベルは著しく枯渇する。

これが「ミトコンドリア」の機能不全や「エピジェネティクス異常」の引き金となるわけです (参考12)。

動物実験においてNAD⁺前駆体(NMNやNR)の投与が抗老化作用を示したことを受け、ヒトでの臨床試験が急ピッチで進んでいるそうです。
健康な高齢男性を対象とした日本の無作為化比較試験では、「NMN」の経口摂取が安全に血中NAD⁺レベルを上昇させ、歩行速度や握力など一部の運動機能指標を改善する可能性が示されています
(参考13)


現段階における科学的に妥当な「フレイル対策」は、エビデンスが確立している「適切なタンパク質摂取」「レジスタンス運動」を土台とし、近い将来、「NMN」などによって、「NAD+」を高値に保つことができてたら、尚更(なおさら)良いですね・・・というこよになります。

 

現時点においても「フレイル」の悪循環は、科学的根拠に基づいた介入によって確実に断ち切ることができることは、覚えておいて損はなさそうですね。

 

今回も最後までお付き合いいただきまして

誠にありがとうございましたお願い


 

参考)

1)Clin Geriatr Med. 2017 Aug;33(3):293-303. 

Frailty in Older Persons

Matteo Cesariら

 

2)Nat Rev Cardiol. 2018 Sep;15(9):505-522. 

Inflammageing: chronic inflammation in ageing, cardiovascular disease, and frailty

 Luigi Ferrucciら

 

3)Age Aging. 2010 Jul;39(4):412-23. 

Sarcopenia: European consensus on definition and diagnosis: Report of the European Working Group on Sarcopenia in Older People

Alfonso J Cruz-Jentoftら

 

4) BMC Geriatr. 2025 Sep 2;25(1):681. 
The effect of resistance training for older adults with cognitive frailty: a randomized controlled trial
TingTing Wu ら

 

5)Age Ageing. 2023 Feb 1;52(2):afad004. 
Comparative effectiveness of non-pharmacological interventions for frailty: a systematic review and network meta-analysis
Xuemei Sunら

6)Eur Geriatr Med. 2024 Oct;15(5):1169-1185. 
Interventions to prevent the onset of frailty in adults aged 60 and older (PRAE-Frail): a systematic review and network meta-analysis
Annette Eidam ら

7) PLoS One. 2020 Feb 7;15(2):e0228821. 
Primary care interventions to address physical frailty among community-dwelling adults aged 60 years or older: A meta-analysis
Stephen H-F Macdonaldら
 

8) Healthcare (Basel). 2025 Jan 30;13(3):276. 
Prevention and Mitigation of Frailty Syndrome in Institutionalised Older Adults Through Physical Activity: A Systematic Review
Guillermo Francisco Martínez-Montas ら
 

9) Arch Gerontol Geriatr. 2024 Oct:125:105480. 
Nutritional management interventions and multi-dimensional outcomes in frail and pre-frail older adults: A systematic review and meta-analysis
Weina Liら

 

10)Nutrients. 2019 Jan 5;11(1):102. 
Dietary Factors Associated with Frailty in Old Adults: A Review of Nutritional Interventions to Prevent Frailty Development
Juan José Hernández Morante ら

 

11)J Am Med Dir Assoc. 2013 Aug;14(8):542-59. 
Evidence-based recommendations for optimal dietary protein intake in older people: a position paper from the PROT-AGE Study Group
Jürgen Bauer ら
 

12) Cell Metab. 2018 Mar 6;27(3):529-547. 
Therapeutic Potential of NAD-Boosting Molecules: The In Vivo Evidence
Luis Rajman ら

 

13)NPJ Aging. 2022 May 1;8(1):5. doi:10.1038/s41514-022-00084-z.
Chronic nicotinamide mononucleotide supplementation elevates blood nicotinamide adenine dinucleotide levels and alters muscle function in healthy older men
Masaki Igarashi ら

 

image

(以前のphoto:レインボーブリッジと東京タワー)

               (筆者撮影)

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<JTKクリニックからのお知らせ>

 

◯Zoomを用いた遠隔医療相談を始めました(内科関連疾患)

 

◯外来診療は予約制をとり、待ち時間が生じないようにしています。

 

◯ ダイエット漢方製剤は、オンライン診療でも可能です。

◯ 線維筋痛症に対するノイロトロピン等の点滴療法、トリガーポイント注射を行なっております。(セカンドオピニオン診療も可)

 

自分の皮下脂肪から組織を採取し、「間葉系幹細胞」を培養して、自分自身の組織内に投与する「幹細胞治療」を開始しました。

 

<JTKクリニック 所在地>

〒102-0083

東京都千代田区麹町4-1-5麴町志村ビル2階

電話 03-6261-6386

Mail:info@jtkclinic.com

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