こんにちは、内科医 ひとちゃんです![]()
7月に入り最初の休日の午後になっています。暦に目をやりますと
7月7日からの七十二候は「温風至(あつかぜいたる)」となっていることに気がつきました。
その意味は「 暖かい(熱を帯びた)夏の風が吹き始める頃」ということになりますね。
今年の夏頃は、「今年はスーパーエルニーニョになるかもしれないなどと予測が出ていますね。過去数十年のなかで数えるほどしか発生していない、極めて珍しい気候現象なのだそうです。
通常の「エルニーニョ」は、日本付近は冷夏になるそうですが、地球温暖化の影響で、高温であり台風などの発生も多くなるとか。
「熱中症」の発症にも注意していく必要がありそうですね。
皆さまの体調は、いかがでしょうか?
今回は「脂肪肝」が、肝硬変や肝臓癌に発展していく疾患であるというお話をしてみたいと思います。健康診断などで「脂肪肝」を指摘されたという経験のある方もいらっしゃるかもしれませんね。
「脂肪肝」は、かつては"お酒を飲みすぎた人の一時的な状態"であると思われていた時期もあり、健康診断でよく指摘されても、放っておいてよいもの・・・と軽く受け止められがちな時代もあったような気がします。
しかし近年では、「脂肪肝」の一部が静かに炎症・線維化が進行し、「肝硬変」や「肝細胞癌(肝癌)」にまで至ることが明確になってきており、その位置づけは大きく変わったと言えます。
B型肝炎・C型肝炎などの「ウイルス性肝炎」が治療で制御できるようになった現在、肝癌の原因として代謝性の「脂肪肝」が急速に存在感を増しています。
こうした状況に伴い、2023年、国際的な多学会合意により病名が刷新されました。これまでの「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」は 「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」 に、
「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」は 「代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)」 に改称されています。
"fatty(脂肪)"という患者にスティグマ(偏見)を与えかねない表現を避けるとともに、この病気の本質が代謝異常にあることを明示したそうです(参考1)。
この「脂肪肝」は、どこまで進行しているかが重要であるとされています。
新しい枠組みでは、脂肪が「肝臓」にたまった状態の総称を 「脂肪性肝疾患(SLD)」と呼びます。
そのうち、「脂肪肝」の存在が確認され、かつ肥満・2型糖尿病・脂質異常症・高血圧などの心血管代謝リスク因子を1つ以上満たし、他の明らかな原因がない場合が「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」 と定義されます(参考1)
飲酒量が中等度を超える場合は「MetALD(代謝異常とアルコールが併存する型)」として区別され、明らかな大量飲酒によるものは「アルコール関連肝疾患(ALD)」として扱われます。
臨床的にとりわけ重要なのは、「脂肪肝」進行段階の連続体(スペクトラム)であるという点であり、おおまかに次の段階をたど流ことが分かっています。
1)単純性脂肪肝(脂肪沈着のみ)
肝細胞に中性脂肪がたまるが、炎症や細胞傷害は目立たない段階。
2)MASH(脂肪肝炎)
脂肪沈着に加えて、肝細胞の風船様変性(バルーニング)や炎症細胞浸潤が加わった段階。ここから線維化が進みやすくなルトされています。
3)線維化
傷ついた肝臓を修復しようとしてコラーゲンなどの細胞外基質が沈着し、肝臓が硬くなる段階。ステージF1~F4で評価され、F3は高度線維化(架橋線維化)、F4が肝硬変です。
4)肝硬変・肝細胞癌
線維化が肝全体に及んで小葉構造が改築(偽小葉形成)され肝硬変となり、その一部が肝癌へ進みます。
この「単純性脂肪肝 → MASH → 線維化 → 肝硬変 → 肝癌」という流れのうち、どの段階にいるかが、後で述べるように予後を最も強く左右するとされているのですね。
肝硬変・肝癌へ進むメカニズムとは、どのようなものなのでしょうか?
かつては、まず脂肪がたまり(1st hit)、そこに「酸化ストレス」
が加わって炎症が起きる(2nd hit)という「2段階説(two-hit hypothesis)」で説明されていました。
しかし現在は、これでは不十分であることが分かっています。
現時点では、複数の要因が同時並行的に「肝臓」を傷つける「複数平行ヒット仮説(multiple parallel hits hypothesis)」が主流になっています(参考2)。
すなわち、脂肪毒性、酸化ストレス、ミトコンドリア機能障害、小胞体(ER)ストレス、炎症性シグナル、脂肪組織由来のアディポカイン分泌異常、腸内細菌叢の乱れ(腸‐肝軸)などが相乗的に作用し、病態の進行を後押しすると考えられています。
では、単なる脂肪毒性から「炎症・線維化」へと進行していくメカニズムとは、どのようなものなのでしょうか?
「過栄養」と「インスリン抵抗性」の状態になりますと、それを背景に、肝臓には「中性脂肪」だけでなく、「遊離脂肪酸」や「ジアシルグリセロール」、「セラミド」といった毒性の強い脂質(リポトキシック脂質)が蓄積します。
これらは肝細胞に強いストレスを与えてミトコンドリアと小胞体の機能を乱し、活性酸素種(ROS)を増やして酸化ストレスを引き起こします。
傷ついた「肝細胞」はアポトーシスやネクロプトーシスなどの細胞死を起こし、放出された細胞内成分(DAMPs)が「Kupffer細胞(肝臓の常在マクロファージ)」や浸潤してきた免疫細胞を刺激して炎症を持続させます。この慢性炎症の場で活性化されるのが「肝星細胞(HSC)」です。
この「星細胞」は、通常の場合、「ビタミンA」の大部分を貯蔵する役割を持ちますが、肝臓が炎症などのダメージを受けると活性化されます。
活性化された「星細胞」はビタミンA貯蔵細胞から「筋線維芽細胞」へと形質転換し、コラーゲンを大量に産生して肝臓の線維化を促進します。
肝臓の「線維化」は初期には可逆的ですが、進行するほど後戻りしにくくなり、やがて肝小葉構造が破壊されて「肝硬変」に至ります。
この「肝硬変」がさらに「肝臓癌(肝癌)」に発展していくには、さらに要因があることが分かっています。
「肝癌」が生じる根底には、この「慢性炎症」と持続的な「細胞傷害・再生」の繰り返しがあることが分かっています。
「酸化ストレス」によるDNA損傷が蓄積してゲノム不安定性が高まり、細胞増殖・生存を促すシグナル(PI3K-Akt-mTOR経路やMAPK経路など)が過剰に働くことで、発癌へと傾きます。
さらに、免疫監視機構の破綻や、腸内細菌由来のPAMPs、二次胆汁酸によるシグナルも関与するとされています(参考3)。
「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」 に関連する肝癌で特に注意すべき特徴があります。
その注意すべき特徴とは
「肝硬変」を経ずに「肝癌」が発生する例が相当数あるとされていることです。
「ウイルス性肝炎」では肝硬変を土台に肝癌が生じるのが典型ですが、MASH(脂肪肝炎)では非肝硬変(F1~F3)の段階から発癌しうるため、「肝硬変になってからサーベイランスすればよい」という発想では、手遅れになってしまう可能性があります。
とくに高齢・男性・2型糖尿病・ALT高値などが、この非肝硬変における「肝癌」のリスクとして知られています(参考3)。
このようなことから考えますと・・・「脂肪肝」は治療していく必要がある疾患であると言えるのではないかと思います。
では、どのような治療を行なっていけばよいのでしょうか?
お話の続きは、後日の話題にしたいと思います。
素敵な1週間をお過ごしください![]()
それでは、また![]()
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< ブログ後記 >7月7日
今宵は「七夕」ですね。しばらく夜空を見上げておりましたが、残念ながら空は雲に覆われて、星のひとつも見つけることはできませんでした。
今回は「脂肪肝」が「肝硬変」や「肝癌」にもつながるリスクがある
というお話をさせていただきました。
「脂肪肝」から「肝硬変」は、どの集団をみるかでかなり幅があるとはされています。ある大規模試験のデータでは、8年で39%という高い累積の進行率が報告されています(参考4)。
その他でも、組織生検で追跡した「実臨床コホート研究」では中央値3.4年で5.6%が「脂肪肝」から「肝硬変」に進行し、まったく線維化のない状態からでも、4.3%が肝硬変に進んだという報告もあります(参考5)。
「脂肪肝から肝癌」は、「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」から 疾患名が変更になった「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」 全体では低率であるといえますが、肝臓の進行性線維化や「肝硬変」で急増します。メタ解析では「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」全体の肝癌発生率は0.44/1,000人年であったと報告されています(参考6)。
0.44/1,000人年というと分かりにくい数字になっていますが・・・1,000人を1年間追跡すると、平均0.44人が肝細胞癌を発症するという意味です。
別の言い方をすると、1年間では約 2,273人に1人が「肝臓がん」を発症するということになります。
さらに「糖尿病」は一貫して強い危険因子で、代謝異常が増えるほど肝硬変・肝癌リスクは段階的に上がると報告されています(参考7)。
では、「脂肪肝」から「肝硬変」に進行するのをどのような指標で見ていけばよいのでしょうか?
「脂肪肝」から「肝硬変」になる指標として、最も一貫して重要なのは線維化の進み具合です。とくに「FIB-4」値、「NAFLD fibrosis score」などがその指標となります。
「FIB-4(Fibrosis-4 Index)」と「NAFLD fibrosis score(NFS)」は、肝生検を行わなくても、血液検査や年齢などから肝臓の線維化(肝臓が硬くなる程度)を推定するための指標です。
では、「脂肪肝」から「肝硬変」や「肝臓癌」になるのを防ぐにはどのようにしたらよいのでしょうか?
現時点でも、治療の土台は体重の「減量」を中心とした生活習慣の改善ということになります。研究全体では、体重の減量は「脂肪肝」の第一選択として一貫して強調されています(参考8)
です。しかもその効果は「体重を何%減らせのか?」によってに決まることが、Vilar-Gomezらの前向き研究(生検で証明したNASH 293例、52週)で明快に示されています(参考9)。
以下にその研究結果を示しますと・・・
○5%以上の減量: 肝脂肪沈着(ステアトーシス)が改善
○7~10%の減量:肝炎症および細胞傷害(NAS)が改善
○10%以上の減量:MASHの消失(90%)および線維化の退縮(45%)を達成
5%以上の減量で「肝脂肪」やGOTやGPTなどの肝酵素データの改善が出やすく、7–10%がよく使われる実用的な目標であるとされています(参考10,11)。
一方、10%以上では効果がさらに大きく、52週の生検追跡ではその群の90%でNASH消失、45%で線維化退縮が見られたことが報告されています(参考12)
気になるのは、どの程度のスピード感で減量すればよいのか?・・・
は、とても気になるところですね。
体重の減量の仕方は、急激な減量ではなく、持続的で緩やかな減量が推奨されています(参考13)
もちろん、減量後の維持も重要なのですが、「GLP-1製剤」を26週間にわたって投与した試験では、「GLP-1製剤」の中止後に体重の増加を認めることが多く、その場合には「脂肪肝」が再増悪することが確認されています。
一方で、食事の摂取カロリーの「減量」や「運動」などの生活習慣を変えるようにした群では体重のリバウンドを認めず、「脂肪肝」の改善維持がみられたという報告もあります(参考14)
以上のことから、「脂肪肝」の改善に、「体重減量」はとても有効である一方、その維持が難しいため、継続的に努力していく必要があると強調されています。
今回も最後までお付き合いいただきまして
誠にありがとうございました![]()
参考)
1)J Lipid Res. 2024 Jan;65(1):100485.
From NAFLD to MASLD: updated naming and diagnosis criteria for fatty liver disease
Mary E Rinellaら
2)Hepatology. 2010 Nov;52(5):1836-46.
Evolution of inflammation in nonalcoholic fatty liver disease: the multiple parallel hits hypothesis
Herbert Tilgら
3)Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2019 Jul;16(7):411-428.
From NASH to HCC: current concepts and future challenges
Quentin M Ansteeら
4)Aliment Pharmacol Ther. 2020 Jun;51(11):1149-1159.
Nonalcoholic fatty liver disease progression rates to cirrhosis and progression of cirrhosis to decompensation and mortality: a real world analysis of Medicare data
Rohit Loomba ら
5)J Hepatol. 2023 Dec;79(6):1366-1373.
Progression of non-alcoholic fatty liver disease and long-term outcomes: A nationwide paired liver biopsy cohort study
Tracey G Simonら
6)Hepatology. 2016 Jul;64(1):73-84
Global epidemiology of nonalcoholic fatty liver disease-Meta-analytic assessment of prevalence, incidence, and outcomes
Zobair M Younossiら
7)Hepatology. 2020 Mar;71(3):808-819
Effect of Metabolic Traits on the Risk of Cirrhosis and Hepatocellular Cancer in Nonalcoholic Fatty Liver Disease
Fasiha Kanwal ら
8) Obes Facts. 2024;17(4):374-444.
EASL-EASD-EASO Clinical Practice Guidelines on the Management of Metabolic Dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease (MASLD)
European Association for the Study of the Liver (EASL)
9)Gastroenterology. 2015 Aug;149(2):367-78.
Weight Loss Through Lifestyle Modification Significantly Reduces Features of Nonalcoholic Steatohepatitis
Eduardo Vilar-Gomez ら
10) PLoS One. 2022 Feb 17;17(2):e0263931.
Lifestyle changes in patients with non-alcoholic fatty liver disease: A systematic review and meta-analysis
Tiziana Fernándezら
11)BMJ Open Gastroenterol. 2017 Jun 1;4(1):e000139.
Efficacy of dietary and physical activity intervention in non-alcoholic fatty liver disease: a systematic review
Susan Kenneally ら
12)JAMA. 2015 Jun 9;313(22):2263-73.
Nonalcoholic fatty liver disease: a systematic review
Mary E Rinella ら
13) Nutrients. 2024 Jul 11;16(14):2220.
Management of Metabolic-Associated Fatty Liver Disease/Metabolic Dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease: From Medication Therapy to Nutritional Interventions
Mohammad Beygi ら
14) Liver Int. 2019 May;39(5):941-949.
Randomized trial comparing effects of weight loss by liraglutide with lifestyle modification in non-alcoholic fatty liver disease
Joan Khooら
(筆者撮影)
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