こんにちは、内科医 ひとちゃんです![]()
6月最後の休日は「梅雨」らしい雨が降っています。
週末は2つの台風が日本付近にあり、天気が悪いために外出もせずに
家で過ごしておりました。
時間がたっぷりとありましたので、Netflix(ネットフリックス) で巷(ちまた)で話題になっている『地獄に堕ちるわよ(じごくにおちるわよ)』を観ておりました。
六星占術ブームを起こした「細木 数子さん」の半生を描いた作品だと思います。
種明かしはしませんが、第二次世界大戦後の日本を丁寧に描いており、敗戦後の生活がいかに苦しいものであったが映像になっておりました。
私はすでに還暦でありますので、実際に戦争を体験された人に多くの体験談を聞いていましたが、それ以上に過酷な日常が描写されておりました。
映画の中に「占い」は古来の事象を分析した「統計学」であるという言葉がありました。私も約40年前にふと新宿の街で出会った年配の占い師に同じ言葉を聞いた頃があります。
当時、私は19歳でした。私が60歳になったとき、この国は衰退し、アジアの貧しい国になっている可能性が高いというお話があり、まさか?・・・と思っていたわけです。
しかしながら、メキシコの通貨「ペソ」よりも「円」の価値は低い
・・・などというニュースを聞くと・・・なるほど「占い」は統計学
という主張もなんとなく、納得できたりもしますね。
皆さまの体調は、いかがでしょうか?
今回は、各種臓器の癌(固形癌)に対して、「抗がん剤単独」と
「抗がん剤+自己免疫細胞療法」で、どちらが有効性が高いのか?
というお話をしてみたいと思います。
「癌に対する免疫細胞治療」と言いますと・・・日本国内では批判を受けることが多いわけですが、中国、韓国をはじめとするアジア諸国では、研究が活発に行われ、とくにその再発予防の成果も報告されています。
日本国内では、また医療環境が違いますので・・・今回は私の夏休み前の「自由研究」と考えていただければよいと思います。
ただし、「自由研究」ではあっても、やっつけ仕事ではありませんので、最先端の視点から科学的に考えてみたいと思います。
「固形癌」の治療において、長らく中心的役割を担ってきたのは「抗がん剤治療(化学療法)」ですね。
「抗がん剤」は、分裂の盛んな癌細胞を直接傷害し、癌の総量を減らす強力な手段であると言えます。
しかし、「固形癌」には、化学療法単独では乗り越えがたい2つの本質的な壁が存在していることが分かっています。
1つ目は「癌抗原の不均一性と変化(抗原のドリフト)」であり、
2つ目は「がん関連線維芽細胞(cancer-associated fibroblasts:CAF)を中核とする免疫抑制性の腫瘍微小環境」であるといえます。
つまり、癌細胞のDNAの変化がとても速いために癌細胞の表面に「MHC class I抗原」と提示される「癌抗原」が繰り返し、変化してしまう現象が認められるのですね。
この「癌抗原」などの遺伝子の変化は、抗がん剤の有効性が薄れてしまう、つまり「抗癌剤」に対する「薬剤耐性」を生じてしまうことにもつながっていきます。
もうひとつは、「臓器」に発生する「固形癌」の周囲には「がん関連線維芽細胞(CAF)を中核とする免疫抑制性の腫瘍微小環境が存在します。
これは、がん細胞の増殖、浸潤、転移、血管新生を促進し、さらに抗腫瘍免疫を抑制する働きを持つため、がんの悪性化や治療抵抗性の原因として注目されています。(参考1,2.3)
今回は、この2つの壁を念頭に置きながら、「化学療法単独」と「化学療法」に加えて、その後に「免疫細胞治療(自己末梢血由来のNK細胞・細胞傷害性T細胞(CTL)・サイトカイン誘導キラー細胞(CIK)を培養増殖して交互に投与する)」併用療法を比較して、
後者(化学療法+免疫細胞治療の併用療法)が、なぜ理論上も臨床上もより高い有効性を期待できるのかを、科学的に解説をしてみたいと思います。
このような結果は、複数のランダム化比較試験とメタ解析によって支持されているのですね。ただし、その効果は癌腫・病期・併用設計に依存し、万能ではない点も述べられています。
以下に詳しくお話をしてみたいと思います。
まず、1つめの壁についてですが、癌抗原は「動く標的」であるということが重要になります。
「固形癌」における治療抵抗性の根源のひとつは、癌が単一均質な細胞集団ではなく、遺伝的・抗原的に多様な細胞の集合体であるという事実にあります。
この「腫瘍内不均一性(intratumoral heterogeneity)」と呼ばれるものは、「癌の免疫逃避(めんえきとうひ)」と密接に結びついていることが分かっており、とりわけMHCクラスI(ヒトではHLAクラスI)分子と癌抗原の発現低下・消失は、古典的な免疫逃避戦略として知られています(参考1)。
「細胞障害性T細胞(CTL,CD8陽性T細胞)」は、腫瘍抗原をMHCクラスI分子上に提示されたペプチド−MHC複合体として、T細胞受容体(TCR)を介して認識することが知られています。
「癌細胞」では、癌抗原を提示したMHC クラスI抗原ごと表出しなくなってしまうことが知られています。
「癌細胞」がMHCクラスIや特定の抗原の発現を失えば、その「癌細胞」は「細胞障害性T細胞(CTL)」にとって、まったく「見えない」存在となってしまうわけです。
つまり、どんなに「細胞障害性T細胞(CTL)」があったとしても、「癌細胞」を破壊することができなくなってしまうということになりますね。
実際に癌の「原発巣」と「転移巣」では、このMHC classI抗原の表現型が異なることも報告されています(参考2)。
すなわち、「化学療法」や「細胞障害性T細胞(CTL)」を施行した場合
「抗がん剤」に感受性の高い癌細胞を除去できますし、「MHC classI抗原」に提示された「癌細胞」は排除することが可能になります。
「化学療法」に感受性の高いクローンが排除されるなどして、多くの癌細胞は死滅するわけです。また、「細胞障害性T細胞(CTL)」のみをその後、再発予防として投与しても・・・DNAやMHCを失った抵抗性クローンが選択的に生き残り、再発・転移の温床(おんしょう)となるとされています。
つまり「化学療法」後の再発予防として「癌に対する免疫細胞治療」を施行することが多いわけですが・:・自分の血液内の「細胞障害性T細胞(CTL)」を培養し、活性化した細胞を投与する「活性化自己リンパ球療法(LAK療法)」を施行するだけでは不十分である可能性も出てくるわけです。
その理由は、一部の「癌細胞」はヒトの体内に残ってしまう可能性があるからということになります。
残った「癌細胞」のDNA遺伝子は変異を続けていく可能性があるので、再び、転移巣として癌組織が発見された際には、治療が難しくなるというわけですね。
そこで、抗がん剤の投与後に「免疫細胞治療」を施行し、最大限に
その効果を引き出すためには、さらに細胞の種類を増やすことが必要であり、これらを同時に投与することが「癌細胞」を一層(いっそう)する方法ではないか・・・ということになるわけです。
では、さらにどのような細胞が必要なのか?・・・ということになります。
それは、「NK(ナチュラル キラー)細胞」と「CIK細胞」となるわけですが・・・お話の続きは後日の話題にしたいと思います。
素敵な1週間をお過ごしください![]()
それでは、また![]()
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<ブログ後記>6月30日
6月も最終日になっていますね。今宵は「満月」となっています。
JTKクリニックでは昨年、株式会社リンフォテックの指導のもと、ひとつの癌免疫細胞治療を完成させました。
これが自己血由来の「NK細胞+細胞障害性T細胞(CTL)+CIK細胞」を活性化した状態で用いる免疫細胞治療となります(iNK3種混合療法)。、株式会社リンフォテックは、以前から「CIK細胞」の培養技術
を有しており、韓国では保険医療にも取り入れられています。
当初の3年間は「JTKクリニック」のみで、抗癌剤治療後の再発予防
を目的にする予定でしたが・・・現在は全国の他施設での投与も行われているようです。
本文の続き・・・のお話をしたいと思います。
癌細胞の表面に存在する「MHC class I抗原」に提示される「癌抗原」は、どれぐらいのスパンで変化するものなのでしょうか?
癌抗原の変化の時間的スパンは、現時点の文献では次のように報告されています。例えば、T細胞応答や抗原認識の変化は、数日〜数週間で起こる可能性が指摘されています(参考4)
また、腫瘍内の抗原発現やクローン構成の変化は、数週〜数か月、再発・転移や免疫逃避に結びつく進化は、数か月〜数年に及ぶとされています(参考5,6)
さらに「癌抗原」が次から次へと変化するという反復・持続する抗原刺激で「細胞障害性T細胞(CTL)」は機能低下、増殖低下などを生じることが報告されています(参考7,8)
では、「NK細胞」と「CIK細胞」を同時に投与する意味とは、どのようなものでしょうか?
まず、「NK細胞」ですが・・・
癌細胞の表面の「MHC class I抗原」が失われると・・・
「NK細胞」自体の抑制シグナルが外れ、「癌細胞」を非自己(正常ではない細胞)と判断し、これを攻撃します(参考9)。
また、「NK細胞」は「細胞障害性T細胞(CTL)」を同時に投与することで相乗効果が期待できるとされています。
そのメカニズムとしては、「NK細胞」が癌細胞を傷害して、血液中の「癌抗原」供給を増やします、同時に「樹状細胞(DC)」の成熟と抗原提示を促し、「細胞障害性T細胞(CTL)」のプライミングを強めます。
少し詳しく解説しますと・・・体内の「癌細胞」を「細胞障害性T細胞(CTL)」が直接認識することは難しいため、「樹状細胞(DC)」などの「抗原提示細胞」が癌抗原を提示する必要があります。
このシグナルを受け取ったT細胞は、「細胞傷害性T細胞(CTL)」へと成長(プライミング)し、増殖して標的を攻撃できるようになるということになります。
前臨床段階のモデルでは、「NK細胞」が先行する自然免疫のトリガーとなり、その後の「細胞障害性T細胞(CTL)」応答を成立させる例が繰り返し強調されています。
また、実験モデルでは「NK細胞」を除去することにより、「細胞傷害性T細胞(CTL)」応答が消失することが報告されており、
「NK細胞」と「細胞傷害性T細胞(CTL)」の両方が相乗効果に必須であったことが報告されています(参考10)。
では、「NK細胞」の単独投与では、どうでしょうか?
実際には「NK細胞」自体は寿命が短く、以前にブログ内でもご紹介した「ドレス現象」により1個の癌細胞を破壊(アポトーシス)するために2個のNK細胞が必要であるとされています。
つまり、「癌細胞」が減るにつれて、その倍の数の「NK細胞」が消費
されていことになります。
このような性質から、投与された「NK細胞」は癌組織の表面の癌細胞を破壊することはできても、その内部に達することが難しい可能性が指摘されています。
実際に臨床的にみられる固形癌では、「NK細胞」の浸潤不全、疲弊(ひへい)、組織内での機能低下のため 「癌細胞」を必ず排除できるわけではないと報告されています(参考11)
最後に「CIK細胞」ですが・・「CIK(Cytokine-induced killer)細胞」とは「サイトカイン誘導キラー細胞」の略称となります。
この細胞は「細胞傷害性T細胞(CTL)」とは異なり、「MHCクラスI分子」による癌抗原提示を介さずに腫瘍細胞を直接認識し、強力に排除できる特性を持つことから注目を集めているます。
「CIK細胞」は「癌細胞」を破壊した後に自身が速やかに細胞死(アポトーシス)に陥る(おちいる)性質が低く、連続的に「癌細胞」を傷害する能力(シリアル・キリング能)に優れているます。
また、実験モデルにおいて強力な腫瘍内ホーミング(血液中を循環しながら腫瘍組織へ特異的に集積する現象)を示し、それに続くマウスおよびヒト病態下での抗腫瘍臨床活性が実証されている。
生体内における長期的な滞留および増殖が確認されているにもかかわらず、正常組織に対する細胞毒性は極めて軽微であることも報告されている(参考12)。
「CIK細胞療法」の最大規模のエビデンスは、国際CIK細胞登録(IRCC)による多施設共同解析である。初期の2,729人の患者(45試験・22種類の腫瘍)を対象とした解析では、平均奏効率39%とともに、全生存期間(OS)の有意な延長およびQOLの改善が示されたと報告されています (参考13)。
さらに、その後の10周年アップデート報告では、対象が102試験・計10,225人の患者(うち「CIK療法」受療者は4,889人)へと大幅に拡大され、固形がんおよび血液がんに対する長期的な生存ベネフィットと優れた安全性が改めて検証された。これにより、「CIK細胞」は、強力な抗腫瘍活性を持つ、腫瘍学における極めて有望な免疫療法アプローチとして確立されているのですね(参考14)。
「CIK細胞」は、NKG2Dなどの受容体を介してMHC非依存的に「癌細胞」を認識し、破壊(アポトーシス)へ導くとされています。したがって、「NK細胞」、「細胞障害性T細胞(CTL)、そして「CIK細胞」を組み合わせる集学的免疫戦略は、
「抗原・MHC依存的な認識(CTL)」と「抗原・MHC非依存的な認識(NK/CIK)」という相補的な二重の認識様式を一つの治療系に統合することを意味します。
これは、免疫逃避機構により「抗原ドリフト(抗原性の変化)」を起こし、あるいはMHC表現型を消失・低下させた固形がん組織に対して、従来の化学療法単独にはない強力な理論的優位性を与えるものであるという解説もあります(参考15)
残るは、「癌関連線維芽細胞(CAF)」のバリアを
破壊すればよい・・・となるわけですが・・・ね。
今回も最後までお付き合いいただき
誠にありがとうございました![]()
参考)
1)Int J Mol Sci. 2021 Jun 23;22(13):6741.
MHC Class I Deficiency in Solid Tumors and Therapeutic Strategies to Overcome It
Elema Shklovskayaら
2)Immunology. 2019 Dec;158(4):255-266.
Cancer immune escape: MHC expression in primary tumours versus metastases
Federico Garridoら
3)Oncoimmunology. 2021 Oct 19;10(1):1973783.
Innate-like NKp30+CD8+ T cells armed with TCR/CAR target tumor heterogeneity
Margareta P Correiaら
4)J Exp Med. 2004 Dec 20;200(12):1581-92.
Reciprocal changes in tumor antigenicity and antigen-specific T cell function during tumor progression
Gang Zhouら
5)J Exp Med. 2004 Dec 20;200(12):1581-92.
Reciprocal changes in tumor antigenicity and antigen-specific T cell function during tumor progression
Gang Zhouら
6)Cancer Discov. 2021 Apr;11(4):916-932.
Tracking Cancer Evolution through the Disease Course
Chris Baileyら
7)Annu Rev Immunol. 2024 Jun;42(1):179-206.
T Cell Exhaustion
Andrew Baesslerら
8)Nat Rev Immunol. 2026 Feb;26(2):129-151.
Regulators of CD8+ T cell exhaustion
Qinli Sunら
9)Nat Rev Immunol . 2023 Feb;23(2):90-105.
Roles of natural killer cells in immunity to cancer, and applications to immunotherapy
Natalie K Wolfら
10)Int J Cancer . 2004 Apr 20;109(4):499-506.
NK and CD8+ T cell-mediated eradication of poorly immunogenic B16-F10 melanoma by the combined action of IL-12 gene therapy and 4-1BB costimulation
Dongping Xuら
11)Curr Oncol. 2012 Feb;19(1):39-41.
Major histocompatibility complex class i and tumour immuno-evasion: how to fool T cells and natural killer cells at one time
D Fruciら
12)J Cancer. 2011 Jun 15;2:363--368.
Cytokine Induced Killer Cells as Promising Immunotherapy for Solid Tumors
Dario Sangioloら
13)J Cancer Res Clin Oncol. 2015 May;141(5):839-49.
Cytokine-induced killer (CIK) cells in cancer immunotherapy: report of the international registry on CIK cells (IRCC)
Leonard Christopher Schmeelら
14)J Cell Physiol. 2020 Dec;235(12):9291-9303.
Ten-year update of the international registry on cytokine-induced killer cells in cancer immunotherapy
Ying Zhangら
15)Stem Cell Res Ther 2024 Aug 13;15(1):254.
Cytokine-induced killer cells: new insights for therapy of hematologic malignancies
Faezeh Ghanbari Sevariら
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理事長・ 院長
小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
(総合内科、リウマチ専門医)
(新潟大医学部卒)
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