こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

梅雨空というのでしょうか。灰色の雲に空は覆われており、ときに雨がぱらついています。ひんやりとした空気も季節が変わったことを感じさせますね。

 

暦に目をやりますと、その七十二候「蟷螂生(かまきりしょうず)」となりますね。この蟷螂(かまきり)とは例の多くなハサミを持ち

その手が祈っているように見えることから「Praying mantis」と英語では名前がついています。

 

ある日、荘公は馬車で狩りに出かけたとこっ炉、道に一匹の虫がいて、斧(前足)をふりあげ、馬車の車輪に向かってきたそうです。

 

荘公は「これは、何という虫か」と御者に尋ねた。御者は「これは、「蟷螂(とうろう;カマキリ)という者ですが、自分の力のほどを考えず、進むことのみ知って、退くことを知りませぬ」と伝えたそうです。

 

荘公はそれを聞いて「これがもし人間なら、天下の武勇の者であるだろう」と言い、わざわざ車の向きを変えさせ、道の「カマキリ」をよけて通ったのだそうです。

 

このエピソードを示したものが

「此為人、必為天下勇武矣」という言葉となります。その意味は

「これがもし人であったなら、必ずや天下の勇者であっただろう」

 

国君である彼が、その勇気に敬意を払って一匹の虫に道を譲ったこの話が世に伝わると、命を投げ出して仕える主君を知ったとばかり、天下の勇者が続々と荘公のもとに集まってきたのだそうです。

ただし、イメージだけで荘公のもとに集まってきた者は、皆、カマキリのように玉砕(ぎょくさい)し、全滅したとか、しなかったとか。

 

同じ姿が、文脈によっては「死を恐れず信念に殉ずる勇」とも読まれる。戦略とは状況次第で評価が反転するということが、中国の古典解釈本には述べられています。

 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

(AIで画像を作成)

 

今回は加齢に伴う「フレイル(frailty)」についてお話をしてみたいと思います。

 

「フレイル」とは、加齢に伴って心身の予備能力が低下し、健康な状態と要介護状態の中間に位置する、虚弱な状態を指します。

 

日本語では「虚弱」に近い概念ですが、日本老年医学会が2014年に「フレイル」という呼称を提唱しました。

重要なのは、適切な介入によって再び健常な状態に戻りうる「可逆性」を持つ点である・・・になります。

 

人口の高齢化が世界規模で進むなか、「フレイル」は現代医療における最大の課題の一つであるとされています、

 

「フレイル」とは、加齢に伴う複数の生理系における予備能の低下(Homeostenosis:恒常性維持能力の狭小化)を基盤とし、感染症や手術などの軽微なストレスに対して過剰な脆弱性を示す多次元的かつ動的な状態と定義されています (参考1)。

 

「フレイル」は固定化された不可逆的な「老い」ではなく、

生体の「恒常性破綻の初期段階」であり、適切な介入によって健常な状態(Robust)へと回帰しうる「可逆性」を有することが臨床的に極めて重要であると言えます。

frは、その加齢に伴う「フレイル」を発症させる分子・生理学的機序とは、どのようなものなのでしょうか?

 

「フレイル」の病態は、単一の臓器不全ではなく、全身の細胞・分子レベルの機能低下が相互に増悪し合うネットワークの破綻として理解されています。

 

「フレイル」となる機序を整理してみたいと思います。

1. 細胞老化とインフラメイジング(Inflammaging)

 

加齢に伴い、DNA損傷やテロメア短縮を蓄積した「老化細胞」が全身の組織に滞留します。

これらの老化細胞は、「SASP(細胞老化随伴分泌現象)」と呼ばれる機構を介して、IL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインを無秩序に

分泌し続けるのは、いつも強調していることですね。

 

この結果生じる全身性の慢性微小炎症状態「インフラメイジング」である とされています(参考2)。

 

image

(AIを用いて画像を作成) 

 

「インフラメイジング」は、骨格筋のタンパク質分解亢進、造血幹細胞の機能低下、食欲不振を惹起(そうき)し、「フレイル」の負のスパイラルにつながる最大の駆動力となるわけですね。



2.骨格筋の減少(サルコペニア)と同化抵抗性

 

「フレイル」の身体的側面の中核をなすのが、加齢性の筋量・筋力低下である「サルコペニア」であると言えます (参考3)。

 

 

ここで「サルコペニア(sarcopenia)」「フレイル」の違いを再度まとめておきたいと思います。

 

「サルコペニア」は、加齢などに伴う骨格筋量の減少と、筋力または身体機能の低下を指す、筋肉に限定した概念です。

 

それに対して、「フレイル」は、加齢に伴い「予備能力」が全般的に低下し、ストレスに対する脆弱性が高まった状態を指します。

身体的・精神心理的・社会的の三側面を含む多次元的な概念です。

 

その評価には、Friedの表現型モデル(体重減少・疲労感・筋力低下・歩行速度低下・活動量低下の5項目)や、欠損の累積で捉える 「Frailty Index」 などが用いられます。

 

階層の違いとして、「フレイル」がより上位の包括的な概念であり、「サルコペニア」はその身体的側面を支える基盤であると考えることができますね。

 

「サルコペニア」による筋力・筋量の低下が、歩行速度低下や易疲労感を生み、身体的な「フレイル」につながっていくということになりますね。

 

では、加齢により「サルコペニア」、つまり、筋力・筋量の低下が生じていくのは、なぜでしょうか?

 

それは、次のような理由によります。

 

「筋組織」では加齢に伴い、運動神経の脱落、脂肪組織の浸潤、そして筋幹細胞(サテライト細胞)の自己複製能の低下が生じることが分かっています。

 

分子レベルで特に重大なのが「同化抵抗性(Anabolic resistance)」である。高齢者の筋細胞では、食事由来のアミノ酸(特にロイシン)を感知してタンパク質合成のスイッチを入れる「mTORC1経路」の活性化が減弱していることが分かっています。

 

そのため、若年者と同量のタンパク質を摂取しても十分な筋合成応答が得られず、「筋萎縮」が進行しやすいと考えられています。

 

さらに「ミトコンドリア」の機能異常が・・・という話題になっていくわけですが・・・お話の続きは後日の話題にしたいと思います。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

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<.ブログ後記 > 6月9日

 

今回は「フレイル」についてのお話をさせていただきました。

 

ヒトは加齢に伴って、身体機能(体力)認知機能(認知能力)の両方が徐々に低下することが知られています。

 

ただし、その程度や速度には大きな個人差があり、適切な生活習慣によってかなり抑制できることも分かっています。

 

この個人差の中には「ミトコンドリア」も関与すると考えられています。

なぜ、「ミトコンドリア」が重要なのかと言いますと・・・「ミトコンドリア」はすべての細胞のエネルギーとなる「ATP」を産生するからということになります。

 

例えば、筋肉量が同じでも

  • ATP産生能力が高い人
  • ATP産生能力が低い人

では体力が大きく異なると考えられます。実際に筋生検や血液解析では、「フレイル」状態にある高齢者は、健常高齢者に比べて

  • ミトコンドリア機能低下
  • ATP産生低下
  • mtDNA損傷増加

が認められています

 

少し詳しくみてみますと・・・細胞のエネルギー工場である「ミトコンドリア」は、加齢とともに酸化的リン酸化の効率が低下し、「活性酸素種(ROS)」の異常産生をきたすようになります。。

正常であれば機能不全に陥った(おちいった)「ミトコンドリア」は.マイトファジー(自食作用)というメカニズムによって除去されるわけですが、

加齢に伴いこの「ミトコンドリア」の品質管理メカニズムが破綻(はたん)するわけですね。


これにより細胞内の「活性酸素種(ROS)」などの酸化ストレスが激化し、さらなる「細胞老化」「SASP」を誘導する悪循環に陥る とされています(参考4)。

では、「フレイル」を逆転させる治療介入の方法とは、どのようなものになるのでしょうか?

「フレイル」は「進行するだけ」の状態ではなく、多くの研究で改善・予防が可能な“可逆的な状態であることが示されています。


現在は、全身の主要筋群を漸進的に鍛える(きたえる)プログラムが標準的であるとされています、

大規模メタ分析では、運動(特にレジスタンス・筋力トレーニング)がフレイルを減らす効果が最大と報告されています(参考5,6,7)

さらに「フレイル」を改善する方法として、単独の運動よりも、運動+栄養の介入がより効果的という報告が多くあります(参考8)。

では、「フレイル」を改善するのにどのような「栄養」が良いのでしょうか?

本文内でお話をした「同化抵抗性」を克服するため、高齢者には若年者以上のタンパク質摂取が必要であることが報告されています。

 

「同化抵抗性」とは、食事でタンパク質を摂取したり、運動を行ったり、若年者ほど筋肉が合成されなくなった状態を指します。


多くの介入試験で「タンパク質摂取量」の増加が、「フレイル」や「歩行速度」の改善と結びついていることが報告されています

(参考9)。

さらに果物・野菜摂取が多く、全体として食事の質が高いほど「フレイル」が少ないというも観察研究が報告されています(参考10)

国際的なガイドラインでは、健康な高齢者で1.0〜1.2 g/kg/日、フレイルやサルコペニアを有する場合は1.2〜1.5 g/kg/日のタンパク質摂取が推奨されているのですね (参考11)。

特に、mTORC1経路というものを強力に駆動する「ロイシン」を豊富に含む良質なタンパク質の摂取が重要であるとされています。

 

その理由は、以下のようになります。

 

「ロイシン」は分岐鎖アミノ酸(BCAA)の一つで、筋肉に対して単なる材料ではなく、「筋タンパク質合成のスイッチを入れるシグナル分子」として働からなのですね。

 

また、筋機能の維持には「ビタミンD」の充足が不可欠であるともされています。

では、NAD⁺代謝への介入、つまり、「NMN」や「NAD+点滴」などは「フレイル」を予防できるのでしょうか?

老化の共通基盤としての「NAD⁺枯渇」という事実をもとに

最近、老化生物学において最も注目されているのが「ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)」ということになります。

「NAD⁺」は、「ミトコンドリア」におけるATP産生の補酵素であるだけでなく、長寿遺伝子産物である「サーチュイン(Sirtuin)」や、「DNA修復酵素(PARP)」の基質として機能することは、以前のブログ内でお話をしたとおりです。

「加齢」に伴い、NAD⁺合成酵素(NAMPT)の活性が低下する一方で、「老化細胞」が発現するCD38などのNAD⁺分解酵素が過剰に働くため、組織のNAD⁺レベルは著しく枯渇する。

これが「ミトコンドリア」の機能不全や「エピジェネティクス異常」の引き金となるわけです (参考12)。

動物実験においてNAD⁺前駆体(NMNやNR)の投与が抗老化作用を示したことを受け、ヒトでの臨床試験が急ピッチで進んでいるそうです。
健康な高齢男性を対象とした日本の無作為化比較試験では、「NMN」の経口摂取が安全に血中NAD⁺レベルを上昇させ、歩行速度や握力など一部の運動機能指標を改善する可能性が示されています
(参考13)


現段階における科学的に妥当な「フレイル対策」は、エビデンスが確立している「適切なタンパク質摂取」「レジスタンス運動」を土台とし、近い将来、「NMN」などによって、「NAD+」を高値に保つことができてたら、尚更(なおさら)良いですね・・・というこよになります。

 

現時点においても「フレイル」の悪循環は、科学的根拠に基づいた介入によって確実に断ち切ることができることは、覚えておいて損はなさそうですね。

 

今回も最後までお付き合いいただきまして

誠にありがとうございましたお願い


 

参考)

1)Clin Geriatr Med. 2017 Aug;33(3):293-303. 

Frailty in Older Persons

Matteo Cesariら

 

2)Nat Rev Cardiol. 2018 Sep;15(9):505-522. 

Inflammageing: chronic inflammation in ageing, cardiovascular disease, and frailty

 Luigi Ferrucciら

 

3)Age Aging. 2010 Jul;39(4):412-23. 

Sarcopenia: European consensus on definition and diagnosis: Report of the European Working Group on Sarcopenia in Older People

Alfonso J Cruz-Jentoftら

 

4) BMC Geriatr. 2025 Sep 2;25(1):681. 
The effect of resistance training for older adults with cognitive frailty: a randomized controlled trial
TingTing Wu ら

 

5)Age Ageing. 2023 Feb 1;52(2):afad004. 
Comparative effectiveness of non-pharmacological interventions for frailty: a systematic review and network meta-analysis
Xuemei Sunら

6)Eur Geriatr Med. 2024 Oct;15(5):1169-1185. 
Interventions to prevent the onset of frailty in adults aged 60 and older (PRAE-Frail): a systematic review and network meta-analysis
Annette Eidam ら

7) PLoS One. 2020 Feb 7;15(2):e0228821. 
Primary care interventions to address physical frailty among community-dwelling adults aged 60 years or older: A meta-analysis
Stephen H-F Macdonaldら
 

8) Healthcare (Basel). 2025 Jan 30;13(3):276. 
Prevention and Mitigation of Frailty Syndrome in Institutionalised Older Adults Through Physical Activity: A Systematic Review
Guillermo Francisco Martínez-Montas ら
 

9) Arch Gerontol Geriatr. 2024 Oct:125:105480. 
Nutritional management interventions and multi-dimensional outcomes in frail and pre-frail older adults: A systematic review and meta-analysis
Weina Liら

 

10)Nutrients. 2019 Jan 5;11(1):102. 
Dietary Factors Associated with Frailty in Old Adults: A Review of Nutritional Interventions to Prevent Frailty Development
Juan José Hernández Morante ら

 

11)J Am Med Dir Assoc. 2013 Aug;14(8):542-59. 
Evidence-based recommendations for optimal dietary protein intake in older people: a position paper from the PROT-AGE Study Group
Jürgen Bauer ら
 

12) Cell Metab. 2018 Mar 6;27(3):529-547. 
Therapeutic Potential of NAD-Boosting Molecules: The In Vivo Evidence
Luis Rajman ら

 

13)NPJ Aging. 2022 May 1;8(1):5. doi:10.1038/s41514-022-00084-z.
Chronic nicotinamide mononucleotide supplementation elevates blood nicotinamide adenine dinucleotide levels and alters muscle function in healthy older men
Masaki Igarashi ら

 

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(以前のphoto:レインボーブリッジと東京タワー)

               (筆者撮影)

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