お散歩仲間の毒舌夫人が

「今日はちょっと

疲れている」とおっしゃるので

「あら大丈夫ですか」と

お尋ねすると

「大丈夫、ただこのところ

早起きが続いているのよ」

 

「それはつまり眠いのに目が

覚めちゃうとかそういう・・・」

 

「違うの、聞いてない?

近所の羊飼いさんのお宅に

病人が出てね、入院してるの。

だから子羊の人工授乳の

お手伝いに行っているのよ」

 

子羊の人工授乳のお手伝い・・・

 

それはつまり母羊に

育児放棄された子羊に

一日三回ミルクを与える

この世の天国的業務のことか・・・!

 

 

「奥様。奥様奥様。

それは羊飼いさんのお宅も

お取込み中の

ことでございましょう、

私も後でお見舞いに

カードなど送りましょう、で、

子羊人工授乳の話ですけどね、

あれは大変なお仕事ですよね、

それで私はですね、この際

是非お手伝いに

立候補したいんですが、

いやこれは野次馬根性ではなく」

 

私は己の下心を隠し

ひどく殊勝にこの申し出を

口にしたつもりだったのですが

流石あちらは海千山千、

毒舌夫人は横目で私のことを見ると

「・・・その気持ちは

ありがたいけどね、

お気持ちだけで結構です

 

「いやいや奥様、そんな

奥様だけで判断なさっては、

ぜひ羊飼いさんに口利きを」

 

「いえ本当に

気持ちはありがたいの、

でもね、あなたは

わかってないのよ、

この時期の人工授乳って

ミルクを与えて

それで終わりじゃないの。

ミルクを与えながら

子羊がちゃんと栄養を

とりこめているか、

病気に罹患していないか、

怪我をしていないか、

つまり成長に問題がないかを

確認しないといけないの。

あなたにそれは無理でしょう?」

 

「無理ですね(即答)」

 

皆様は私の諦めが

早すぎると

思われるかもしれない、

でもこれはですね・・・

 

命のかかった問題で・・・

 

そりゃ私も先日一度

子羊にミルクを

与えさせてもらう経験

しましたよ、

でもあれはあくまでも

観光的イベントであって

いわば私への接待だったんですよ。

 

人工授乳が必要な

子羊というのは

ある意味入院中の

人間の子供のようなもの、

そこに経験のない素人が

「あ、私、保健の授業で一度

包帯のまき方を習ったんで

こっちの病室のお子さんの

面倒みますわ」とか

押しかけてきても

それは有難迷惑を通り越した

純粋迷惑じゃないですか。

 

素人は引っ込んどれって

話なんですよ・・・!

 

その点毒舌夫人は

長いことご自身も羊を

飼ってきた実績がある。

 

いい羊飼いってね、

数千頭の羊の顔を1頭1頭

見分けられるらしいんですよ・・・

 

たとえば目の前に16頭の

お腹を空かせた子羊がいる、

その2頭にミルクを与える、

哺乳瓶が空になったら

取り替えて次の2頭に

くわえさせる、それを

8回繰り返す際に毎回ちゃんと

『まだ食事をしていない』子羊を

自分は見極めることができるのか。

 

私は!

 

無理だと思います!

 

というわけでここは

素直に身を引いた私ですが

皆様ご存知私はしつこい、

「あの・・・授乳は無理でも

お掃除とか哺乳瓶消毒とか

何か手が必要だったら

いつでも言ってくださいね」

 

「ンフフ、そうね、じゃあ

一段落ついたら言っておくわね、

ホントにごめんね、正直

今は現場であなたに

あれやれこれやれの指示を

出す余裕もない状況なの」

 

そう、たとえ私が

1回の指示ですべてを理解し

実行に移せる

能力の持ち主であっても

繁忙期の現場に

新人は入れたくない、は

国を越えた世間の常識。

 

指をくわえて

羨ましがっています、

もとい、

羊飼いさんたちのことを

本当に心配しています。

 

 

若い頃に子羊の世話の

方法を学んでいたら

ここで颯爽と助力を

申し出ることができたのに・・・

 

後悔先に立たず、

少年老い易く学成り難しですよ

 

なおご病人は現在

順調に回復中、

よかったよかった

 

カードもちゃんと送りましたぜ!

 

お帰りの前に1クリックを!


ヨーロッパランキング