そう、私はその時点でも未だ「正社員」どころか、正式に雇われてすらいない身分でしかなかった訳だ。
何の保証も無いまま「料理人」が自分の『オリジナルレシピ』を差し出すなんて、自分が行先も無いのに自分が住んでいる家を他人に差し出してしまうようなものだ(と、私は思う)。
何より、「『仕入れ業者』に会う」というのなら何故『料理長』である人間を同席させないのか?
『レシピ』だ何だ言う前に、どんな料理に食材が使われているのか、また、向こう(=業者)がどんな食材を取り扱っているのか、で取引する品も変わって来るだろう。
そうじゃなければ、出来上がる料理や食材に関する細かい話し合い等が出来ないじゃないか?
いや、判っている。
彼ら(というか『ナッツ』)も
「肝心な料理や素材への知識が満足にないのに
自分が考えた素材だけで
自分の思い通りの料理が直ぐ出来ると思い込んでいる」
…というか『仕込み』という大事な部分、それも「オカネ」に関する部分を決めるのは全て自分、「従業員如き」に口を出させない、という態度を貫いていたアノ厄介な人間(参照;ケアハウス編 ソノ7)に限りなく近いのだ、とそのメールを読んで一瞬で確信した。
正直、最初に『ナッツ』からのそのメールを読んだ直後は
「何でそんな大事な話し合いに『料理長』であるはずの私を同席させないんだ!?」
…と、先ずストレートに突っ込んでやろうか、とも考えた。
しかし、例えこちらがそう言ったとしても『ナッツ』なら幾らでも「イイワケ」を言って来ただろう……未だ正式に決まった訳じゃない、とか、何時になるか分からないから、とか。
とにかく『オリジナルレシピ』さえ手に入れればこっちのモノ、私など無視して会ったとしても判らないのだから。
ましてそれまでのやりとり、特に試食会以降の「態度豹変」を考えれば、『ナッツ』が
「とにかく料理は美味いんだから、
アイツの『オリジナルレシピ』を手に入れて
サッサと『店』のモノにしてしまおう!」
…と例に寄って『無意識の意識』であろうと考えている、と考えてしまうのは『正常な猜疑心』じゃないだろうか?