古い友人にサンフランシスコ在住のピーターがいる。
野人よりは3歳年下だが髪の毛と腹は10歳以上年上だ。
昔、名古屋のヒルトンホテルにいたこともあるが、今はサンフランシスコでも3本の指に入るレストランのオーナーシェフだ。
巨大なワイナリーを持ち、スタッフも70人を越える。
最近、年に一度くらいは来日し、そのたびにいつもの寿司屋へ連れて行けと言う。
これがまた寿司にはすこぶるうるさい男なのだ。
野人の行きつけの鳥羽の寿司屋はシャリの味が抜群で、季節の地の魚しか置いていない。
白身魚だけでも常に10種以上はあるから本格的な寿司好きにはたまらない店だ。
トロや奇抜な創作寿司などは一切なく、魚とシャリだけなのだ。
カウンターのネタもすべて、朝に活きを絞めたものだが、水槽にもカサゴ、メバル、タケノコメバル、ソイ、カワハギ、アオベラ、メイタガレイなどが泳いでいる。
それを活きたままさばいて握ってくれる。
大人しく食べれば5千円くらいで、活きを食いまくっても1万円は超えたことがない。
釣った魚をよく持ち込んで握ってもらった。
ここの親父には習った事も多いが、野人が教えたことはもっと多い。
私的な付き合いもありお友達なのだ。
東京から来る顧問税理士さんもここのフアンだ。
「活魚を食って何でこんな安いんだ」と感激している。
この夏は二人で活きウニばかりを食いまくったらさすがに1万は超えたが大満足だった。
カウンターで野人が注文して、寿司がまず5個並んだ。
するとピーターが、「ヘイ!ヤジ~ン!まずコレ食って、次コレね~、それからコレで、最後はコレよ~
」と得意満面に言うのだ。
物理的には正しい。
ピーターは脂のノリが少ない白身魚から順に当てているのだ。
日本人にもこれだけ寿司の見立てが出来る男は少ない。
先にトロなどを食えば後の白身の繊細な味はわからない。
寿司屋にとって先にトロを注文する客はカモのようなものだ。何食わせてもたいしてわからない。
次に出た寿司もピーターは順番をつけていた。野人がアジを食おうとしたら、「ノー!それダメね~コッチよコッチ・・」と指導する。
「やかましい
黙って食わんかい おれはアジが食いたいの
」 いちいち講釈がうるさいのだ。
ピーターの言うように確かに寿司を味わうには順番がある。
肉質をわかった上で自由に好きなものを食べれば良いのだ。
ピーターに言った。
「その道理で食っていたら、20個出て最後に大トロが出たら・・食えんぞ、ここはトロがないから出んが」。
「そ、それもそ~ね・・う~ん」と頭を抱えた。
「いちいち寿司で悩むなバカモン!お主に日本人のわびさびはわからんのよ~ バターソースでもこねとれ!」
「わさび~? それくらい知ってるよ~」
「・・・もう いい・・黙って好きなように食え」
食い終わり、清算しようとしたらピーターが
「ココ、ボクが支払う、払わせて欲しい」と言う。
「じゃ 払わせてやるからイクラ
でも払って来い」
「ありがとう 野人~
」
「礼にはおよばん・・・」
昔、若きピーターがアメリカに帰る時、お金がなくて餞別に100万あげたことがある。
何年かして律儀にも返しに来た。
ピーターは頭はハゲたが日本人より義理堅い男だ。
いまだにそれを恩義に感じている。
今は逆転、野人は貧乏
で彼はお金持ちだ
