東シナ海流45 巨大鮫との対決 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

接近するサメはイタチザメだった。

英名タイガーシャークで、屋久島からトカラ列島にかけて最も多い獰猛なサメだ。

体長は7mにまでなり、ジョーズのモデル、ホオジロザメに次ぐ危険なサメだ。

4mでは600キロを超え、10倍もの体重ではまるで勝負にならない。


ホオジロザメは近眼で、タイヤだろうが何だろうが動くものに手当たり次第噛み付く癖がある。

普通のサメは鼻先で小突いて確かめてからガブリとくる。

ただし血を流したり、肉の塊のように明らかに臭いを放つものは別で、最初から食う気満々になる。

サメは噛み付く前に目が反転して白目になるからすぐにわかる。

こいつはまだその気はないようで鼻で小突くつもりだ。


身体を右にかわすと、わき腹から1mのところをゆっくりとすり抜けて行った。

こんなに至近距離で水中の巨大サメと目が合ったのは初めてのことだ。

水中では間近で見るとそのデカさに圧倒される。

イタチは反転してまたこちらに向かって来た。

あきらめずにどうしても鼻で小突くつもりらしい。


その瞬間、恐怖が闘志に変わった。

生きる為には戦うしかない。

祈りは他力本願の博打みたいなものだ。

野人は頭が瞬時に切り替わる。

ナイフを手に待ち構えた。

左手が寂しいのは剣があっても「盾」がないからだ。

目の前には吉松さんがいてあわてて避けようとしていた。

つい・・彼のタンクを掴み・・盾にした。


そのままサメに向かおうとしたのだが、彼は嫌がってジタバタ・・逃げられてしまった。


イタチは進路を変えて、やや離れた位置をすり抜けて行ったが、二人が重なり、急に巨大に見えたせいだろう。

二人でスクラムを組めばあきらめるかも知れないが、作戦を話している時間はない。

頭は闘争モードに入っている。

案の定サメはまた向かって来た。

スピードは変わらず真正面からゆっくりと近づいて来る。


2mの距離まで引き付けて身体を左にかわした。

すれ違いざま、ナイフの刃ではなく柄の鉄心を思い切り鼻の頭に打ち下ろした。

陸上のようにはいかないが直前にスナップをきかせたから手ごたえは十分。

空手で言う「鉄槌」と言う技だ。

当たった瞬間、サメは左に頭を振り、猛スピードですり抜けて行った。

尾ビレが身体をかすめ、その水流に身体が持って行かれた。


イタチはそれから近寄っては来なかったが、まさか水中で空手の「さばき」と「攻撃」を使うとは思ってもいなかった。

役に立つもので絶妙のタイミングだった。

サメの鼻の頭は急所でありセンサーだ。


サメは食物連鎖の頂点に君臨、サメを襲うヤツなど海にはいないから、陸の猛獣と違って何万年もの間「喧嘩」したことがない。

今回もサメにとっては給餌活動にしか過ぎない。

あきらめて逃げたのはエサではないと身をもってわかったからだ。

殴られたのは生まれて初めてだったろう。


二人で手を振り続けていると、やがて船がこちらへ向かって来た。

遺体発見を告げると再び皆を呼びに引き返したのだが、その間、他のサメに遭遇するのはごめんこうむりたかった。

闘志はもう萎えていたのだ。


二点法で陸地の目印を確認しながら海面で待機した。

待つ間、吉松さんはブツブツ言っていた。

以前にも海底で驚かしたことがある。


「てめえ今度は・・俺をサメのまきエサにしようとしやがって~」と。


「ごめん・・エサじゃなくて 盾・・」。


「それに・・歳も歳だし・・いずれは吉松さんが先に・・」と言うと、


相変わらず過ぎ去ったことをグズグズ言っていたが無視した。

結果的に撃退して食われずに済んだのだからお礼のひとつくらいは・・・・