給与明細にある特務手当には、離島手当、危険手当が含まれていた。その額は破格で、基本給の80%が加算されていた。タイムカードもなく、残業や公休出勤手当などもない。24時間、365日体制で大シケになれば適当に休む。月に一度、自家用機で鹿児島に上陸、業務用の買い物と命の洗濯をしてくる。経費は自由に使えた。必要ならば取引を開始、伝票にサインすれば良かった。最初に必要な潜水用具はエアータンク6本、レギュレター3個、コンプレッサーなどたくさんある。100万円超えても構わないとの事だったので念のため強力な水中銃も買っておいた。ヒッピーではなく鮫対策だ。朝は4時に起きて笹森丸を下ろし準備する。5時に切石港を出て漁場に向かうが、ジイさんは、5時と言ったら5時キッカリに岸壁を離れなければ気が済まない性格だ。坂内さんがポイントを定め自分がアンカーを打った。仕掛けを入れた途端、デカいヒラアジやハタの類がバンバン釣れる。2㎏は小さいほうで大きいのは10㎏を超える。ジイさんは仕掛けを入れて巻くだけ、こちらは2人で餌付けや魚外しにテンテコ舞いだ。これが本当の大名釣りだ。長さ1mのクーラー数個もあっと言う間に満杯になった。大体こんなに沢山釣っていったいどうするんだと坂内さんに聞けば、本社に持ち帰り社長室に重役を集めて配当するらしい。こんなでかいのを家に持ち帰られても奥さんが迷惑するだけだ。朝から晩まで2日間も釣っているとさすがに疲れてきた。ジイさんは飽きることなくモクモクと釣っている。どんな小さな魚でも喜び、大切にする。根っからの狩猟民族で本当に魚が大好きだ。ジイさんは好奇心が強くちょっと目を離すとどこにでもフラフラ行き、何をやるかわからず危なっかしい。船の揺れでイスごとコケそうになり、さりげなくイスや襟を掴んだり、手を添えたりすると「ワシはもうろくしとらん、余計なお世話だ!」と、怒るから始末が悪い。そうかと言って転んで後頭部にたんこぶでもこしらえたら重役に叱られる。これから先、このジイさんのボディーガードの事を考えると気が滅入ってきた。
島のヒッピーに海中のサメ、海はどこまでもブルーだったが、気分も一日ブルーだった。
本社では今頃あのネエちゃん達が「お茶の時間~!」と言って優雅にやっているのだろうな。そう思うと妙に懐かしくなった。富山は八重山諸島に配属されたらしい。石垣島に事務所があり、西表島に農園、小浜島にはこれからリゾート施設を作るみたいだ。2人ともまだ入社2ヶ月目で、ハードな夏はこれからだ。