19-007 『人生は負けながら勝つのがよい』山本周五郎/大和出版
10円の本。筆者の講演会を文章化した(いわゆるテープ起こし)冒頭部分から、筆者の人生観や歴史観などを詳らかにしたものかと思いきや、真ん中に挟まる単行本未収録の短編小説がメインで、最後は日記形式の文章で終わる。その日記のタイトルこそ「青べか日記」とあるが、筆者の代表作として知られる『青べか物語』から題名だけを拝借しただけで、名作の誕生秘話や創作のための資料集めの苦労などを綴ったものでもない。玄米を食べた、酒を呑んだ、雨が降ったという退屈日記である。
山本の小説世界に心酔している読者以外にとっては、かなり苦痛である。
短編小説群も、まあ山本らしく手堅くまとめているが、人情に訴え丸く収まる話ばかりで飽きてくる。編集者は「読者の皆さん、名作家の書いたものには人生に必要な教訓が詰まってますよ」とでも言いたいのだろうが、読者はいい迷惑である。
巻末の同出版社のシリーズ紹介では吉川英治『われ以外みな師』(くだらない本だった)、芹沢光治良『生きること書くこと』(高一のときの現国の教科書に一部掲載されていたがこれもつまらなかった)などがあった。
小説から何かを学べ、というのはおかしい。小説には生きるための知恵が詰まっているというのも変である。もちろん、教養や勉強のため読むという人がいてもいい。時間潰し、娯楽、「なんとなく」、「習慣だから」。読む理由は人それぞれなのであり、A君にとっての傑作がBさんにとっては駄作ということもあり得る。
かくして、お説教臭い石川達三の小説は新刊書店の棚から消えた。つまり、田中康夫に石川達三は負けたのである。