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 『愛をみつける アリストテレスの恋愛論』の著者として鮮明に記憶している白取さん。この本のプロフィールに “ベルリン自由大学で哲学・宗教・文学を学ぶ” と書かれているのを読んで、 “なるほど~” と思ってしまった。
 タイトルがちょっと硬いけど、あまり読書や考えることが好きでない大学生あたりが読むのに相応しい書籍なのだろう。僅か120頁ほどだし、冗長な表現にならぬよう配慮された簡潔な文章で記述されている。

 

【言葉を正確に理解せよ】
 社会が二極化しているというけれど、低いほうの一極は知性の点において、以上の意味で理解をなおざりにしている人々である。最初の理解がないのだから、知識や経済能力も備わってこない。新しい社会状況に必須のインテリジェンスを欠いているわけだ。
 とにかく、社会というものは言葉から成り立っている。なぜならば、言葉こそ各人の個体差を越えた共通の道具だからだ。言葉は力なのである。そういう言葉の基本的理解がなければ、人間は社会においてはおろか自分自身さえ正しく知ることができなくなる。(p.17)
 “言葉は道具であり、言葉は力である” と書かれているけれどホントにその通りだろう。大工さんのことを考えても分かる。いかなる大工さんといえども優れた道具がなければ優れた物は作れない。優秀な大工さんほど自らの腕と道具を常に磨いている。一般社会人の言葉は、大工さんの道具と同じである。下手くそな家具程度しか作れなければ売れないから生活に困窮して、二極化の下辺側に落ちてしまう。
 中国・上海図書館の内壁には、世界中の言葉で 「知識は力である」 と彫り込んである。言葉という道具を組み立てて構成されるものが知識なのだから、意味するところは著者の記述とほぼ同じはずである。

 

 

【自己刷新のためにこそ知識、そして読書】
 譜面を読むことができる人は、譜面を眺めながら音楽を聴くことができる。譜面を読めない人にとっては、音楽が聴こえないばかりか、譜面は複雑な模様でしかない。
 世界も譜面のようなものである。見る人の知識や見方によって、意味を持ったり持たなかったりする。つまり、自分の知識を増やす限りにおいて、世界はどんどん新しい意味を持って見えてくるということだ。
 そこに新しい意味を見つけることができるならば、当然のことながら新しい考えも生まれてくる。そういう生き方は日々自分を新しくする生き方である。
 知識はそのためにある。知識は人間に新しい生気を与えるのである。 (p.119)

 書物は世界である。読書はもう一つの重要な人生体験である。その体験は時空間を越えて古今東西におよぶ。そういう読書をせずして、考えが広がることもないし、自分が成長して変わっていくこともない。(p.121)
 ある程度知識が増えれば、読みとれる範囲が広がり、世界が面白くなる。全然知識がないままだと、世界って本当に退屈なものなのだろう。知力格差の分岐点はここである。
 読書は「退屈」と「面白い」の閾値(分岐点)を冊数で示すならば、最低ラインとして100冊程度なのだろうか。それくらい読書を持続していれば、読解力はおのずと身に付くものと、多くの読書家はいっている。
   《参照》   『楽しい読書生活』 渡部昇一 ビジネス社 《前篇》
           【「活字の船」に乗って】 

 

 

【好き嫌いと感情は排除せよ】
 考えるときには、感情と好き嫌いを自分から離しておかなければならない。
 しかし、多くの人は自分の好みと感情にしたがうことが考えることだと思っている。まさかと思われるかもしれないが、多くの人がそうであるから、そういう多数にうけようと、選挙の立候補者はイメージ戦略に重点を置いているのである。
 自分の好みと感情はあたかも確固としたものかのように思えるかもしれないが、それらは実は簡単に変わってくるのである。天候、体調、手持ちの金銭の多寡、さまざまな要因によって、好みと感情はがらりと変貌する。
 そんな不安定なものを判断の基準にするのは、危険なギャンブルをするのと同じなのである。(p.20-21)
 エモーショナルに関する認識を糺す記述は、以下の書籍にもある。
    《参照》   『悟りは3秒あればいい』 小林正観 大和書房
             【宇宙飛行士の条件】
             【第3の生き方】

 

 

【静かで確実な改革】
 わたしはドイツに7年住んでいたが、もしドイツと日本はどこがもっとも違うかと問われたら、こう答える。ドイツ人は子供も大人も頻繁に 「なぜ」 と問いかけるが、日本では 「なぜ」 と問うことが極端に少ないばかりか、「なぜ」 と問うこと自体が嫌われる、と。
 「なぜ、どうして」 と素直に問うことを忌避するのは文化を育てることではない。「なぜ、どうして」 と問い、そのつどできるだけ誠実に答えるようにすれば、日本の精神風土は良質なものになるだろう。これは自分ひとりからできる静かで確実な改革である。(p.31)
 日本とドイツのこのような違いは、論理構造のしっかりしたドイツ語と、比較的曖昧な日本語の違いに起因している。それ故、平均的日本人は、私も含めておそらく内向的にも外向的にも 「なぜ」 と問うことがあまり好きではないのである。しかし、諸外国と比較すると、「なぜ」 を回避している日本人の弱点を、非常に強く感じることがある。 「なぜ」 を回避している日本人の総体である日本は、国際関係において緊急の時になかなか早急に対応できない。今日の政治状況がいい見本だろう。
 ところで、著者や、渡部昇一先生、西尾幹二先生 といったドイツ文学の系譜にある人々の著作から、私は “深く安定した知性” と表現すべきものを感じているけれど、それは偶然ではないだろう。日本にとってドイツは、補色的な有用性を持った国であるように思っている。

 

 

【「あたりまえ」を疑え】
 多くの人は自分の家は代々の仏教徒だと思っている。しかし、仏教とは何か調べもしないのだ。仏教は日本古来の宗教だと思っている人さえいる。
 あるいは、周りの人やメディアからの中途半端な知識だけで構成されたものが仏教だと思い込んでいる。ところが、インドに生まれた仏教は彼らが想像しているものとはまったくかけ離れたものなのである。(p.108-109)
 私も学生時代までは著者が書いている通りの愚かな人間だった。さまざまな仏教用語を断片的に聞きかじってはいても、バラバラのピースを手にしたまま完成しようもないジグソーパズルを眺めているような苛立ちの中、興味を持っていた密教が、仏教の中の何処に位置づけられるのかを明確にすべく読んだのが、ヘルマン・ペッグの 『仏教』(岩波文庫) だった。
 ペッグはドイツ人である。「仏教は東洋の宗教なのだから、日本人の方が詳しく知っているはず・・」 という私自身の安易な思い込み(あたりまえ)を、みごとに粉砕してくれた書籍である。
   《参照》   『「森の思想』が人類を救う』 梅原猛 (小学館)
            【この書籍は、日本の思想を通時的に学ぶのに適している】
            【「森の思想」で終わってしまう神道ではない】

 著者には 『仏教「超」入門』(すばる舎) という著作もあるらしい。そのうち読んでみよう。著者のようなドイツ留学経験者ならば、R・シュタイナー を深く呼吸しているはずなのだから。
 「あたりまえ」 とは、実は間違った言い方だ。本来は 「当然」 という。これを 「当前」 と書いたりもした。この文字を間違って 「あたりまえ」 と読み、あたりまえという言葉が広まったのである。
 こういうふうに、この世には発見すべきことがたくさん隠れているのである。(p.109)

 

 

【自分の頭を使え】
 どんなことをどんな形で教わろうとも、自分の頭と言葉で一度考え直したものしか人間は本当に理解できていない。教えればわかるものでもないし、学べば理解しているのでもない。ここに教育の限界がある。
 たとえば、自転車の乗り方にしても、体による経験がなければ身につかない。頭も同じことで、いったん自分の中で咀嚼して考え直さなければ、理解というステージに上がることができない。
 知識とか知恵というものは自分の外側に百科事典のようにしてあるものではない。自分の頭が理解して自分の中で生きているのが知識や知恵である。そのためにはやっぱり自分の頭で一つ一つ考え直して理解しなければならないのだ。(p.41)
 “考え直して理解する” と言うのは、 “自分の言葉で表現する” と言い換えることもできるだろう。
 この読書記録を書いていて思うのだけれど、印象的だった個所を抜き書きしておいても、その内容を踏まえて、真面目であるにせよ不真面目であるにせよジョークであるにせよ、自分なりの言葉でコメントを書き加えておかなかった個所というのは、記憶にすら残っていないことがしばしばある。著者が書いているとおり、自分の頭を使わないことには知識や知恵は成立しない。これは確実である。

 

 

<了>

 

  白取春彦・著の読書記録

     『愛は愛をも超えて ニーチェの恋愛論』

     『勉学術』

     『頭がよくなる思考術』

     『ビジネスマンのための「聖書」入門』

 

  ルドルフ・シュタイナー著の読書記録

     『人間の四つの気質』

     『世界史の秘密』

     『仏陀からキリストへ』

     『第五福音書』

     『はじめてのシュタイナー』 志賀くにみつ

 

  西尾幹二・著の読書記録

     『日本をここまで壊したのは誰か』

     『日本精神の道標』

     『男子、一生の問題』

 

  渡部昇一・著の読書記録

     『僕らはそう考えない』 竹村健一・日下公人・渡部昇一

     『中国を永久に黙らせる100問100答』

     『ラディカルな日本国家論』

     『痛快! 知的生活のすすめ』 渡部昇一・和田秀樹

     『楽しい読書生活』

     『ローマ人の知恵』

     『強い日本への発想』  竹村健一・日下公人・渡部昇一

     『大人の読書』  渡部昇一・谷沢永一

     『いま大人に読ませたい本』  渡部昇一・谷沢永一

     『時流を読む知恵』

     『日本の黄金時代が始まる』 竹村健一・日下公人・渡部昇一

     『人生力が運を呼ぶ』 木田元・渡部昇一

     『国を語る作法』

     『反日に勝つ「昭和史の常識」』

     『日本史の法則』