物語る黒線たち――デューラー「三大書物」の木版画 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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現在、国立西洋美術館の企画展示室では、

“印象派―室内をめぐる物語”が絶賛開催中ですが。

常設展示室の一角にある版画素描展示室では、

“物語る黒線たち――デューラー「三大書物」の木版画が同時開催されています。

 
デューラー「三大書物」木版画展ポスター

 

 

北方ルネサンスを代表する芸術家、アルブレヒト・デューラー。

その彼を、“知の巨人”エラスムスは、

古代ギリシアの偉大な画家アペレスに例えて、「黒線のアペレス」と評しました。

あのアペレスでさえ、色彩を要するのに、

デューラーは黒い線だけですべてを表現できてしまう、と称賛しています。

本展は、そんなデューラーの本領が発揮された版画作品のうち、

『黙示録』・『大受難伝』・『聖母伝』、いわゆる「三大書物」を紹介するものです。

国立西洋美術館が所蔵する「三大書物」はすべて、

デューラー自身が出版者となって正式に刊行した1511年版。

『大受難伝』は1970年度にコレクションに加わりましたが、

『黙示録』は2020年度に、『聖母伝』は2022年度に購入されたばかり。

デューラーの「三大書物」が揃って展示されるのは、今回が初めての機会となります。

 

まず紹介されていたのは、『黙示録』。

聖書の『ヨハネの黙示録』を題材にした書物です。

 

デューラー「黙示録」版画、聖母子を支える人物

デューラー「三大書物」展の木版画

 

 

デューラーの「三大書物」が何より画期的だったのが、
従来の書物はテキストがメインで、絵は添え物だったのに対し、
絵をテキストから独立させ、絵だけのページを作ったことにありました。
しかも、そのクオリティは高く、単なる挿絵ではなく、
版画作品と呼ぶにふさわしい芸術性を備えています。
今でいうアートブックの走りといえましょう。
例えば、『黙示録』の中で特に有名な《四人の騎手》と題された1葉。
 
デューラー「黙示録」四人の騎手 木版画
 
 

近づいてマジマジと観てみると、

その精緻な表現に驚かされることでしょう。

 

デューラー「四人の騎手」版画

 

 

なお、これほどまでに線がびっしりと細かいので、

銅版画のように思えますが、なんと木版画とのこと!

しかも、浮世絵のように、専門の彫師が仕上げたのだろうと思いきや、

「三大書物」を制作していた頃のデューラーは、自身で木版を彫っていたのだとか!

画家と彫師の二刀流だったのですね。

 

ちなみに。

『ヨハネの黙示録』には怪物がいろいろ登場するため、

デューラーの『黙示録』にも、奇妙な怪物が随所に描かれています。

 

デューラー「黙示録」の羊の版画

デューラー「黙示録」の木版画、四人の騎手

 

 

中でも最も奇妙だったのが、こちらの1枚。

 

デューラー《黙示録》の「天使に指示を与える使徒ヨハネ」

 

 

「雲を身にまとい、頭に虹をいただき、
顔は太陽のようで、足は火の柱のごとき天使が、
天から降りてくるのを見た」という記述が『ヨハネの黙示録』にあるようで。
デューラーは1字1句そのままビジュアル化したようです(笑)。
なお、「ヨハネはあらたな預言を受けとるべく、
天使から差しだされた巻物を食べた」とも書かれているそうで。
作品内のヨハネは文字通り、巻物を本当に食べています。

他のどの怪物よりも、ヨハネが怪物でした。

 

 

さて、続いて紹介されていたのは、『大受難伝』。

 

デューラー「三大書物」版画展、国立西洋美術館

 

 

最後の晩餐や捕縛、磔刑、埋葬など

キリストの一連の受難が描かれています。

 

デューラー「三大書物」の版画、物語る黒線たち

 

 

受難に次ぐ受難で、涙なしには見られませんが、

最後の最後に、復活というハッピーエンド(?)が待っていました。

 

デューラー《大受難伝》複製版画、イエス・キリスト
 
 
最後に紹介されていたのは、『聖母伝』。

聖母マリアの生涯を描いた書物です。

受胎告知といったお馴染みの場面もありますが。
 
デューラー「三大書物」より聖母伝

 

 

聖母マリアの両親のエピソードや、

キリストが家を出ていくシーンなど、

意外と知らない場面が多々ありました。

個人的に『聖母伝』で気になったのが、デューラーのサイン。

『黙示録』では普通にサインが書き込まれていましたが、

『聖母伝』では、サインがさまざまな形で絵に忍ばされていました。

きっとデューラーの遊び心なのでしょう。

 

デューラー「三大書物」の印章
デューラー「三大書物」の黒線木版画

 

 

それからもう一つ気になったのが、『聖母伝』の表紙。

 

image

 

 

マリア様が三日月の上に座っています。

三日月の上に座れる女性なんて、

マリア様かラムちゃんくらいなものです。

 

 

ちなみに。

本展ではデューラーだけでなく、クラーナハやアルトドルファーなど、

「三大書物」に大きな影響を受けた作家たちの作品も紹介されています。

 

デューラー三大書物版画 木版画

デューラー「黙示録」の木版画

 

 

それらの中には、影響を受けたというか、

もはやモロパクリしているような作品もありました。

この時代は今のように著作権が厳しくなかったのですね・・・・・と思ったら!

実は、デューラーは自身の作品の海賊版を作る者に対し、とても厳しかったそうです。

1511年版の『聖母伝』の最後の1葉《聖母の賛美》には、

者の業績やアイディアを盗む者を厳しく戒める言葉と併せて、

「この書物は神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世の特権を与えられているがゆえに、

その複製と海賊版の販売を帝国内で禁じる」という旨の銘文が記載されているのだとか。

(注:残念ながら、国立西洋美術館が所蔵の『聖母伝』は事後的に切り取られた可能性が高く、その銘文を欠いているそう)

 

デューラー「三大書物」より《黙示録》
 
 
この時代に早くも、著作権に対する意識を有していただなんて。
画家や版画家、摺師としてはもちろん、
デューラーはアートマネジメントの才能も一流だったのですね。
星星
 
 
 
 
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