現在、国立西洋美術館で開催されているのは、
今年の大本命展覧会の一つ、“オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語”。
「印象派の殿堂」ことオルセー美術館所蔵の約70点に、
国内外の作品を合わせた約100点を紹介する展覧会です。
モネやルノワールら印象派の画家たちは、
当時発明されたチューブ入りの絵の具を使って、戸外で制作したことで知られています。
当然、戸外を描いた作品が多いわけですが、
本展は戸外ではなく、あえて「室内」にフォーカス。
「室内」を切り口としたユニークな印象派展となっています。
マネが友人で小説家のエミール・ゾラを描いた肖像画や、
エドゥアール・マネ《エミール・ゾラ》 1868年 油彩/カンヴァス 146×114cm オルセー美術館、パリ
🄫 GrandPalaisRmn (musée d'Orsay) / Adrien Didierjean / distributed by AMF
モネが自身の家族の日常を描いた《アパルトマンの一隅》をはじめ、
クロード・モネ《アパルトマンの一隅》 1875年 油彩/カンヴァス 81.5×60cm オルセー美術館、パリ
🄫 GrandPalaisRmn (musée d'Orsay) / Martine Beck-Coppola / distributed by AMF
オルセー美術館の名品が数多く来日していますが、
中でも特に本展の目玉といえるのが、初来日を果たしたこちらの作品↓
エドガー・ドガ《家族の肖像(ベレッリ家)》 1858-1869年 オルセー美術館、パリ
ドガの初期の代表作にして、
彼の肖像画の傑作とされる《家族の肖像(ベレッリ家)》です。
描かれているのは、ドガの実の叔母の家族、ベレッリ家。
彼女は、喪服を身にまとっています。
というのも、描かれた当時、叔母の父(ドガにとっては祖父)が亡くなったばかり。
彼女のすぐそばの壁には、赤チョークによる叔母の父の肖像画が掛けられています。
喪に服しているから、全体的に不穏な空気が漂っているのかと思いきや。
実は、それだけが理由ではないようで。
なんでも、ドガの叔母は、夫で政治家、
弁護士でもあったベレッリ男爵を嫌っていたのだそう。
つまり、2人は仮面夫婦。
どうりで、お互い目線が合っていないわけです。
ここ近年、モラハラ夫に復讐する系のドラマが人気ですが、
この《家族の肖像(ベレッリ家)》も、それ系のドラマのファンに刺さる気がします。
そして、もう一つの目玉といえるのが、
ルノワールによる《ピアノを弾く少女たち》です。
ピエール=オーギュスト・ルノワール《ピアノを弾く少女たち》 1892年 オルセー美術館、パリ
“あれ?この絵を最近どこかで観たような・・・?”
そんなデジャヴを感じた方も、少なくないでしょう。
それもそのはず!
先日まで三菱一号館美術館で開催されていた展覧会、
“ルノワール×セザンヌ”にもほぼ同じような作品が出展されていました。
実はどちらも、ルノワールがフランス政府から依頼を受けて描いたもの。
名誉あるオファーに、気合が入ったルノワールは、
同じモチーフの作品を計6点も制作してしまいました。
“ルノセザ展”で紹介されたオランジュリー美術館のものは、その習作で、
今回来日したオルセー美術館のは、国家買い上げとなった唯一の作品です。
2点を見比べてみると、その完成度の差は歴然。
オルセー美術館ver.のほうが、室内が細部までしっかり描き込まれています。
なお、よく観ると、画面右下に楽譜(?)が乗った椅子が見切れていました。
これはもしや、浮世絵で言うところの「近景」なのでは?
モネら他の印象派の画家と同じく、
ルノワールも浮世絵の影響を受けていたのかもしれません。
ドガの《家族の肖像(ベレッリ家)》と、ルノワールの《ピアノを弾く少女たち》。
この2点の名作が観られただけでも、十分満足でしたが、
個人的には、《バジールのアトリエ(ラ・コンダミンヌ通り)》を観られて大満足!
フレデリック・バジール《バジールのアトリエ(ラ・コンダミンヌ通り)》 1870年 油彩/カンヴァス 98×128cm オルセー美術館、パリ
🄫 GrandPalaisRmn (musée d'Orsay) / Gabriel de Carvalho / distributed by AMF
美術の本やサイトで、よく目にしていましたが、
思いがけず、その実物を観ることができました。
作者は、フレデリック・バジール。
ルノワールやモネら印象派の画家たちが、まだ印象派展を開く前、
売れない画家だった頃に、彼らとよくつるんでいたメンバーの一人です。
バジール自身も売れない画家でしたが、
実家がお金持ちであるため、金銭的に仲間を援助しており、
ほぼ同い年のモネの絵を購入してあげたこともあったとか。
この絵に描かれているのは、
お金が無かったルノワールのために、
共同で使えるように借りたアトリエです。
なお、左の階段に描かれている男性が、モネやルノワールとも。
ちなみに、中央の絵の前に立っているのは、当時、彼らが兄貴分的に慕っていたマネ。
その横にいる長身の男性が、バジールです。
しかし、よーく観てみると、バジールだけ、微妙に絵のタッチが違うことに気が付くはず。
実は、バジールは普仏戦争に出征し、28歳という若さでこの世を去ってしまいます。
その後に、マネが画中にバジールの姿を描き足したのだそうです。
画家仲間たちの絆を感じずにはいられませんね。
さてさて、「室内」をテーマにした本展では、室内画だけでなく、
室内を飾るために描かれた「装飾画」の数々も紹介されています。
例えば、モネの《七面鳥》。
クロード・モネ《七面鳥》 1877年 油彩/カンヴァス 174×172.5cm オルセー美術館、パリ
🄫 GrandPalaisRmn (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF
こちらは、モネの初期の大パトロンだった実業家、
“デパート王”エルネスト・オシュデが城館内の装飾画として描かせたもの。
なぜ、城館内に大量の七面鳥の絵を飾りたかったのかは、謎です。
また、モネの装飾画といえば、国立西洋美術館が誇る、
旧松方幸次郎コレクションの《睡蓮》も展示されていました。
クロード・モネ《睡蓮》 1916年 国立西洋美術館(松方コレクション)
モネが大装飾画の制作に挑む過程で生まれた《睡蓮》のうちの1つ。
そのような《睡蓮》は、世界各地にあれど、
生前のモネ本人からコレクターが購入した唯一のものとされています。
ちなみに。
その隣にも《睡蓮》が飾られていました。
会場風景
ただ、こちらはモネによる絵画ではなく、モネの原画をもとに、
国立ゴブラン製作所が管理するサヴォヌリーの工房で制作されたものとのこと。
1913年に3点が完成したそうで、本作はそのうちの1点です。
貴重なものであるのは間違いないのですが、
観光地のチェーン店の看板くらいに色がくすんでいました。
使い古したバスタオルみたいな?
もとからこういう色だったのか、
長い年月の末、この色に落ち着いたのか。
実に気になるところです。
┃会期:2025年10月25日(土)~2026年2月15日(日)
┃会場:国立西洋美術館








