第2章 第1話 初雪の日の記憶
それなのに――
「レヴィ」
彼女は、穏やかに言った。
「庭を、散策しましょう」
その言葉に、心が揺れる。
「外は……とても寒いぞ」
「知ってるわ」
リリーは、楽しそうに言った。
「でも、この冷たい空気が大切なの」
レヴィを振り返り、続ける。
「冬がなければ、人も庭も……
春を、心から楽しめないじゃない?」
その笑顔に、レヴィは何も言えなくなる。
彼は、そっと彼女の手を取り、庭へと連れ出した。
庭には、彼女が丹念に世話をしてきた
ハーブや花たちが眠っている。
傷を癒すもの。
心を癒すもの。
食卓に、ささやかな彩りを添えるもの。
それぞれが役割を与えられ、
今はすべて、静かに冬の中にある。
「ねえ、レヴィ」
リリーは、足元を見つめて言った。
「今は……何もないように見えるでしょう?」
レヴィは、庭に目を向ける。
確かに、そこには白と静けさしかない。
彼が軽く雪を掘り返すと――
そこに、小さな、小さな芽があった。
春一番に芽吹く、その命。
「……ああ」
思わず、声が漏れる。
「こんなに冷たいのに……生きているんだな」
リリーは、にこやかに微笑んだまま、
そっと空へ手を掲げる。
「雪はね……」
「大地を守る、毛布なの」
彼女は、穏やかに続けた。
「凍える空気から、土を守っているのよ。
だから、この子たちは……安心して眠れるの」
そう言って、
光を受けたように、輝く笑顔を見せた。
レヴィは、その横顔から目を離せなかった。
――何もない冬。
それでも、確かに“生きている”時間。
その意味を、
彼はまだ、このときは知らなかった。
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第1話です。
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