「よかった…」
壱与が浅葱を抱きしめた。
身体の大きい浅葱と壱与はまるで親子である。
綾人が申し訳なさそうに立っている。
「私がもう少ししっかりしていれば…」
綾人の声で浅葱が顔を上げた。
「いいのよ!」
「私が勝てないんだから、あなたは無理よ…」
その言葉が綾人の心に突き刺さった。
「嵐、ありがとう!」
壱与は嵐に抱きついている。
「あんたたち本当に仲がいいのね…」
浅葱が呆れていた。
その姿を綾人が見ている。
振り向いた浅葱が、綾人と目が合った。
「元気出しなさいよ綾人!」
「帰って来れたんだから気にしない!」
浅葱が綾人の背中を手で叩く。
その背中の痛みが綾人の痛みである。
『気にするな…』
浅葱はそう言う。
だが、綾人は…
自分の無力さを責めていた。
邑の外れで真魚と鹿牟呂が話をしていた。
「お主は四鬼一族を知っておるか?」
鹿牟呂が真魚に聞く。
「四鬼一族…」
真魚にはその知識がほとんど無い。
「俺は、四鬼一族の末裔だ…」
鹿牟呂が真魚にその事実を告白する。
「奴等もか…」
真魚がつぶやく。
「開祖様が四鬼一族に託したものがある…」
鹿牟呂が追われる理由がそこにある。
「開祖とは、小角殿のことか…?」
「そうだ…」
真魚の問いに鹿牟呂が答えた。
「それが、奴等の狙いなのか…」
真魚は蜻蛉から聞いている。
鹿牟呂が持っているもの…
「俺は奴等と約定を交わした…」
真魚が鹿牟呂に言う。
「俺に付いて来てくれ…」
鹿牟呂がそう言って歩き始めた。
鹿牟呂の家の置き石。
その下を鍬で掘り起こす。
そこから頭ほどの大きさの箱が出て来た。
「これをお主に託す…」
鹿牟呂が笑っている。
「良いのか…」
真魚が笑みを浮かべる。
「中を見ようが関係ない…」
「好きにするが良い…」
「今の俺にとっては、ただの紙切れだ…」
真魚にこそ渡す意味がある。
鹿牟呂はそう思っていた。
「それからでも…遅くはあるまい…」
鹿牟呂はそう言って、真魚の肩を叩いた。
小角が四鬼一族に託したもの…
それは、小角の意志の現れである。
それが今、真魚の手の中にあった。
次回へ続く…
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