欠け始めた月が辺りを照らしている。
初瀨の奥にある寺。
お堂の前…
そこが待ち合わせの場であった。
大きな影と小さな影…
二つの影が近づいていく。
「どうであった…?」
大きい影山蝉が、小さい影蜻蛉に聞く。
「いたぞ、出雲だ…」
「いたのか!!」
蜻蛉の答えに、山蝉の声が弾む。
「それだけではない…」
「どうやら娘がいるようだ…」
「娘か…!」
山蝉の目つきが変わる。
「それで、何を考えている…」
山蝉は、蜻蛉の答えを待っている。
「女と聞いて…」
「お主が黙って見ているはずはない…」
「それならば…」
そこまで言って、蜻蛉の口が止まった。
「どうした…」
山蝉が蜻蛉の様子を怪しむ。
「誰かに見られているような気が…」
蜻蛉は周りに気を配る。
「月以外に誰もおるまい…」
山蝉はもう女のことしか頭にない。
「鹿牟呂は手強い…」
「娘に狙いを絞る…」
「ほう、それで!それでどうするのじゃ!」
山蝉の声が弾む。
明らかに興奮している。
「娘を奪い、餌にする…」
蜻蛉が笑みを浮かべる。
「娘は、娘はどうするのだ!」
「それは、お主が好きにすればよいではないか…」
蜻蛉がそう答えた。
「決まりだ!」
山蝉は二つ返事で了承した。
「それで、何がいる…」
物事には段取りが必要である。
興奮した山蝉にでも、それぐらいは分かるらしい。
「丁度、この辺りには…」
初瀬の由来は船着場である泊瀬である。
古代からこの辺りの川は物流の拠点であった。
「ひとつ…頂くとするか…」
蜻蛉の計画を、山蝉は興奮しながら聞いていた。
朝日が出てからしばらく過ぎた。
黄金色の田んぼが土の色に戻っている。
稲刈りが終わった田。
それを背にして浅葱が立っていた。
「今日は綾人、来ないのか…」
邑の入り口付近。
背中に籠を担いだ浅葱がうろうろしている。
山には行くなと言われている。
袴もはかず…
それなのに籠を担いでいる。
つじつまが合わない着物…
そして、行動…
浅葱にその意識はない。
「あっ!」
浅葱が見つけた綾人は、何かを重そうに抱えている。
浅葱が気になって駆けだした。
「あんた、何持ってるの?」
「あ、これ?」
袋に何かが入っている。
それほど大きくはないが、重い事は見て取れる。
「ちょっと貸しなって!」
浅葱が軽々と持ち上げる。
「なに、これ?」
「昨日、嵐様に聞かれたので…」
「とりあえず…」
そういう綾人は汗だくである。
「それにしても、浅葱は力が強いなぁ…」
綾人はその場に座り込んだ。
「神様に貢ぎ物…?」
「そう言うところには気が回るのね…」
呆れた浅葱が綾人を見た。
その時であった。
「!」
「久しぶりだな小娘…」
その声に聞き覚えがあった。
「お前、あの時の!」
浅葱は身構えた。
「今度は逃がさないぞ…」
大きい男、山蝉が言う。
「まさか、顔見知りだったとはな…」
小さい男、蜻蛉が笑みを浮かべて言った。
次回へ続く…
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