真魚達が嵐に乗った。
「ちょっと窮屈ね…」
背中の稜を奏が気にしている。
「いいじゃないの…照れてるの?」
響が奏の心を感じている。

「さて、儂は媼さんを見てくるとするか…」
前鬼はそう言って森の中に消えた。
「嵐、神社まで飛んでくれ…」
「奴を捜さないのか?」
真魚の指示に疑問を持った嵐が聞いた。
「三人がいればどうにかなるだろう?」
真魚が笑っている。
「それは、餌って言うこと?」
奏が真魚の言葉に噛みついた。
「そうは言ってない…」
「でも、そう聞こえる」
今度は響が食いついた。
「どちらにせよ、お主らがおれば何とかなる!」
珍しく助け船を出した嵐が、そう言って飛んだ。
「急がなくても言いぞ…」
「どうしてだ?」
嵐はまた真魚の言葉に引っ掛かった。
「今頃、後鬼は埜枝に会っている頃だ…」
「それに、出来れば先に見つけておきたい…」
「奴をか…」
嵐はようやく、真魚の意図を理解した。
灯台の灯りが揺れている。
すきま風が入ってきている様だ。
その灯りの揺れは、埜枝の心を顕しているようであった。
「尊は顔の右半分に痣があったのだ…」
埜枝は過去の出来事の様に言った。
「子供の頃はいじめられたが、それでも友達はいた…」
「だが、身体が大きくなると怖がられた…」
「傷ついたであろうな…この母を憎んでいただろうな…」
埜枝がそこまで言って一息ついた。
「見ず知らずの鬼に、このような話をするとは…」
埜枝は自分自身に呆れていた。
後鬼を見て、笑みを浮かべた。
「響を助けたのもお主か?」
埜枝は後鬼の顔色をうかがった。
「うちではないが…そのようなものだ…」
後鬼の答えは曖昧であった。
「人としての最後の姿を見たのはいつだ…」
後鬼が埜枝に聞いた。
「あれを知っておるのか…」
「うちらは闇と呼んでおる」
「闇…そうか…」
埜枝はその言葉を聞いて考え込んだ。
「助ける手立てはないのか?」
「残念じゃが、あそこまでなっては無理だ…」
「やはり…そうか…」
後鬼の答えに埜枝が肩を落とした。
「わしも、いろいろやってみたのだが、効果はなかった…」
埜枝の言葉の中には母としての心が見える。
「奇蹟なのじゃぞ…」
「奇蹟とはなんじゃ!」
後鬼の言葉に埜枝が声を荒げた。
後鬼の言葉が足りなかったらしい。
「あの状態で、何年もいられることが奇蹟なのじゃ…」
「普通なら飲み込まれて終わりだ…」
「どういうことだ…」
埜枝が声を荒げたのは、「奇蹟」の意味が分からなかったからだ。
有り得ない何かで、人としての最後の形を保っている。
「踏みとどまっている」
後鬼はその形をそう表現した。
埜枝にあのものの今の状態を言った。
「踏みとどまって…」
埜枝はその言葉が分かるような気がした。
「あの中で、何かが起きている…」
「そうとしか思えない…」
後鬼が分かる限りの答えを言った。
「何かが…」
埜枝の心が揺れている。
「お主はその真実を見届けなければならぬ…」
「母として、何人もの命を奪った者として…」
後鬼が埜枝に向かってそう言った。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-