『キュリさん』曰く。
向うに押されて「お情け」で結婚してやった。
自営業になってからは「タダで使える従業員」としていいように働かされた。
私だって愛情なんてとっくに冷めていた。
「キチンと財産を半分にするってことで『アノ男』から離婚を申し立てて来たら、
私は反対なんかしなかったわよ!」
それは別に強がりでも何でもないだろう、とは彼女の態度から感じてはいた。
もちろん『アノ日』を境に、というのは大きいだろうが、それ以上に……多分随分前から彼女が一番『愛情』を感じ、心から『頼り』にしていたのは息子さん、あらゆる意味で
『息子命』
…であることはちょっと話していただけで直ぐ判ったくらいだから。
あらゆる部分で『物凄くコノ国的』な部分と、それに全く相反する『妙に日本的』な部分が強烈な形で同居しているヒトだと最初の頃から感じてはいたが、「一人息子」に対する態度(言動)には特にそれが顕著だったように思う。
とにかく何でも息子さんに相談し(実際、『家計管理』を含め、あらゆる事を彼が「代行」し、同時に彼女に「指示」していた)、同時に彼が不機嫌になる(と『キュリさん』が勝手に思い込んだ)ことは絶対言わず、何より彼女自身が常に
「息子の言うことは絶対!」
…という態度に満ち溢れていたから。
(息子さんに直接会ったことは一度もないが、今ふと「小室母子」を思い出してしまった)
なるほどコレなら「立ち直り」も早いハズだわ……と納得していたワケだが、そんなある日彼女から震える声で呼び出された。
「今直ぐ来て! 「ダンナ」が泥棒に入った!」
……はあ?
どうしてそう「特定」出来るのか?…と思いつつ駆けつけたのだが、別に部屋が荒らされた気配は全く無かった。
会って詳しく聞いてみると
「引き出しに入れたままになっていた『硬貨』が無くなっていた !」
というのだ。
何でもソレは金銭的価値以前に何か個人的な歴史として「ダンナ」が大切にしていた品だったので、「蒸発」の後に彼に関するあらゆる品を処分した後も「将来息子に渡せばいい」と思ってそのまま、元々保管していた引き出しから動かすこともしなかったそうなのだが、その日同じ場所に保管していた別の品を取ろうとしてソレが無いことに気が付いた、ということだった。
「『アノ男』は鍵を持っているんだから、勝手に入って来たんだ!」
「きっと近くに居るのよ! 私が出掛ける時間を見張っていたんだわ!」
…おいおい、と最初は思ったけれども、他の所を探しても見つからなかった、と言っていたから単なる「勘違い」ではないのだろう。
結局、彼女の大家さんに「泥棒に入られたから」と報告して彼女用の玄関ドアの鍵を丸ごと交換してもらい(こちらからの要請だったので交換費用は『キュリさん』持ち)取り合えずの解決となったのだが、そこからまた彼女の「強迫観念」と言えるような言動が益々増えて来たのだった…。