何処の会社でもそうかもしれないが、ケアハウスと言える所では法律的に最低2か月に一回の「全員ミーティング」が義務付けられていた。
その時には普段会わない「同僚」にも会えるし、色々な「報告」を受けることもある。
「社交辞令」的ではあったけれども、普段文句と注文しか言わない『M&Mズ』がよそ行き顔で従業員に、普段は絶対言わない誉め言葉を使うのも、この時だった。
しかし私は彼らが雇った「料理人」の中では初めての、且つ唯一の「マトモな料理人」ということで、最初の頃は特に『M妻』に可愛がられ、特に電話で個人的に色々話をしていた。
彼女は元々「影の実力者」でもあるし、立場上二人だけで話さなければならないことも多く、彼女も「ガイジン同士」の気楽さもあって……自分達の『苦労話』をアレコレ「自慢気に」、別に聞いてもいないことまで話してくれた。
また、「ケアラー」同士の会話では仕事上互い持ちつ持たれつ、故に多少の互いへの文句も飲み込むことがあるようだったが、私は
「何を言っても(自分に)影響がない人」
ということか、台所でお茶を入れて一服する時などの問わず語りの話を耳にすることも多く、それらの話を繋ぎ合わせたり相手の性格を考え見たりしていると
「ああ、こういうことか」
…と、な~んとなく「読めて」来ることが多かったのである。
そこが新オーナー=『M&Mズ』になってから一年余り、ほぼすべての仕事が日本の数倍時間が掛かるコノ国の中で、「ハウス」も例外ではなく……多分、永遠に『終わり』はない、と思うのだけど……常にあちこち「手直し」している状態だった。
先ず何よりびっくりしたのは、私が入る直前に「防犯カメラ」を取り付けたこと。
いや、老人ホームとしての防犯上、出入り口にあるのはアタリマエ。
新たに取り付けたのが「台所」と「倉庫(=食品庫=物置)」だった、ということだ。
それも、台所には二か所も。
何でそんな「馬鹿らしい」ことをしたかというと、彼らの話を総合するとこうだった。
彼らが最初にハウスを引き継いだ時「料理人」は不在だった。
その頃はケアラーが交代で料理をしていたのだが、ケアラー自体、本来の仕事で忙しい。
どうにも立ち回らなくなって来たころ、『T』が
「私の妹が料理を出来るわよ!」
…と言って来たので、彼女を雇った。
ところが、それから「食品」の減りが異常に早くなり……ある日、従業員出入り口の防犯カメラを見張っていると「姉妹」が食べ物を持ち出し車に積み込んでいることが判明。
そこで「妹」は解雇され、本格的に求人して「ベジタリアンの料理人」(ソノ1を参考にして下さい)がやって来たのだが、前記したようにこれがもう、ケアラーも住人もビビるほどの癇癪持ち。
恐ろしく清潔好き(=自分の思い通りにしたい?)だったらしいが、料理はマズイ、ましてちょっとしたことでだれかれ構わず怒鳴りつけるので、誰も迂闊に台所には近づけなかったそうだ。
その料理と態度を嫌って出て行った住人(=客が減った)が出た段階で
「新しい人を雇わなきゃマズイ」
…ということになり、そこへ私が応募した、というワケだったんですな。
因みに、その頃私は「初心者」でもあり、特に希望があったワケでもないので「最低賃金」に疑問も持たなかったのだけど、「料理人」として募集している場合は大抵「最低賃金プラスアルファ」だそうで……ワタシって、飛んで火に入った夏の虫…???
ここで「え? なんで『T』は解雇されなかったの?」と思う方が多いと思う。
私も最初はそう思いましたよ。
でも、その理由は
① 彼女が『腐ってもベテラン』だった
…その時点で、『M&Mズ』よりもハウスの歴史や住人の背景を理解し、且つ、それなりに住人に好かれていた
② ケアラーの人数が絶対的に足りない
ぶっちゃけ、その時点で彼女が抜けると「指導者」が居なくなるだけでなく、何より『M&Mズ』の負担がドンと重くなる
③ 世間体
オーナーの方から解雇するには「それなりの理由」が必要であり、例え別のインネンを付けて解雇したとしても、 「ヒトの口に戸は立てられない」。
「あそこは盗難癖のあるケアラーを雇っていた」
…となると、評判が落ちるのは必須なのだ。
④ 彼女自身が辞めない
年齢的なこともあるが、自主的に辞めるとなると(特にこの業界では)「次」の職場ではほご必ず「前の職場」の評価を求められる。
この業界のベテラン曰く、日々の介護の中で「多少の失態は誰でもあること」らしいが、
「『虐待』と『盗難癖』は致命的」
…だそうだ。そうだろうな~。
まあ結局持ちつ持たれつ、「目くそ鼻くそ」的な関係……という事ですな。
しかしこの『T』、一応「事件」は発覚したとは言え、当然周囲からの根本的な「信頼」も「信用」もあるワケではなく、実際私が居た最初のころはまだ毎日のように冷蔵庫にある牛乳をがぶ飲みしたり、ビスケットをむさぼり食べたり……少なくても私が台所に居る時には無かったけど……していたらしく、故に、「そういうこと」を監視&防止するためのカメラ設置だったのだ。
実は私の入る直前に辞めたという「夜勤」のケアラーも、なんと「自分の家の洗濯物」ばかりではなく、「知り合いの洗濯物」まで持ち込んでハウスの大型洗濯機で洗い、『小遣い』を稼いでいた、というのだから驚く。
その人は「発覚」して直ぐ、「自主的に消えた」そうだけど……!
そう、そんなこんなで結局『M&Mズ』は従業員を根本的に信頼しなくなってしまっていたワケです。
しかしですねえ、気持ちは判らないでもないが、もっと根本的なこと……
「どうして、そんなことをしたか」
「どうして、そんなことまでするか」
…を考えたら、私としては「同じ穴のムジナ」、お互い信用していないから信用出来ないようなことが起こる、と思うんですけどね……。
(少なくてもハウスで簡単でも「食事」を提供するようになれば、『食べ物の盗難』は防げると思うのだけど?? 実際、盗みたくなるほどの高級食材なんてアソコには無かったのだから…!)
相手の気持ちに添わないというか、特に『M夫』は
『とにかく俺がボス!』
…になったのが嬉しくてたまらない、エラそうに指示するのがボスだ!としか考えられない単細胞で、とにかく「エラそう」大好き人間だった。
監視カメラは彼らのPCにつながっていて、台所に居る従業員の一挙一動に電話で文句を言って来た……ということもしばしば。
大企業じゃああるまいし、トップが「一番働かない男」として認識されたらオシマイだってことを自覚していないのだ。
「畏怖」と「尊敬」を間違えているんですな~。
故に従業員はハウスのことを
『ビック・ブラザー・ハウス』
…と呼ぶようになっていたのでございます…。