特別企画 番外編②杉江能楽堂紹介 其の三 | 能meets

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観世流能楽師 林本大による
わかりにくいからこそ面白い能の、わかりやすく「濃密」な講座。
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能meetsブログ特別企画

番外編② 杉江能楽堂紹介 其の三

 

今回は、先生が是非ということで「後見(こうけん)」をご紹介していただきます。

 

この動かない聞こえないブログ特別企画ですが、今回は更に画像が少ないです。

是非とも「読み物」としてご覧くださいませ。

 

 

 

舞台のこの位置に座っている紋付袴姿の2人から3人。

それが後見です。

なんとこんな見える場所にいますが、その曲の登場人物ではないんです。前回も書きましたが、歌舞伎や文楽では黒子といって明らかに違う服装で、顔も黒い頭巾で隠して小道具を運んだり、舞台のお手伝いをしていますが…堂々と。紋付袴姿で座っています。

 

見えているけど、見えていない。

この約束がお能にはとても多いと感じました。

 

お能の始まりもそうです。

何もない所から、揚幕の向こうからお調が聞こえて来て、お囃子や地謡、ワキ方が登場してきて、後見が道具を運んでくるところから観ることになります。

現代演劇や他の伝統芸能では、緞帳と言われる幕があったり、暗転から始まって見えないところでスタンバイしたりしますが、お能はそれもすべて見せるんですね。

 

初めてお能をちゃんと拝見した時、そんな約束事など全然知らずにほぼ無知のままだった私には本当に謎の存在でした。

物語や喋っている内容は全てわからずとも、装束を着た人たちが登場人物で、横で座っている人(地謡)はナレーション的な存在なのかとか、もちろんお囃子も。それはわかりました。

 

ただ、後見だけは、何のためにいるのかさっぱり…いや、居ると思ったら途中で出て行ったりするんです。

途中で入ってきたりも。そしてシテの道具を運んだり、持って行ったり。

 

観終わった後すぐに一緒に行った人と

「あれは何だったのか」という話になりました。

その時は舞台監督のようなものという事で落ち着きました。

 

 

今回の企画打ち合わせの段階で、先生が後見について話したいと仰ったときは意外だと感じましたが、お話を聞いて納得しました。

これまでこのブログ特別企画でお伝えしてきた大事なことが全て詰まっていると言っても過言ではありません。

 

それではこちらから、先生のお話を交えて記していきます。

「※以下の小文字」がスタッフの言葉です。


 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 

後見の役割は、一言で言えば

「舞台にトラブルが起きないように監督する」
細かく申し上げると、


〇 シテまたはツレの装束の着付けを行う、前半と後半の間の着替えも行う

※今回南川さんにお手伝いいただいた部分ですね。


○ その日に出される「作り物」という舞台装置、その他の小道具等にも不備がないか確認する

※現代演劇では小道具と大道具は別ですがそれが全てとは!


○ 幕を揚げる、作り物を舞台に出す

※南川さんも苦戦しておられました。


○ 舞台の進行中、セリフが抜けたり飛んでしまったりした場合、その役者にセリフを告げて補佐をする

※いわゆるプロンプという役割、こちらも現代演劇では演出部やプロンプターと言う専門の人がいますが、こちらも後見が!


○ 途中に衣装の乱れ(冠が傾く、紐がほどける等)にも素早く対応する

※もちろん衣裳も現代演劇は専門の方のお仕事です。しかも途中に舞台上で直すことはありません。


○ 同じく途中に役者が小道具を取り替える ( 扇を枝に替える等 ) 際の受け渡しをする、または太刀を捨てるなど、舞台に残した小道具を拾う

 


そして肝心な事は


○万が一、シテが病気等で舞台を続けられなくなった場合、後見が即座にその代役を勤める

…!!!

これらから見ても分かるように、後見はあらゆる事柄に対処しなければいけない、つまり「その一曲の進行を完全に理解しておかないといけない」のです。

昔、私がまだ修行中に、先輩がシテをされた舞台の後見を勤めた時、ふと見ると頭に付ける烏帽子の紐が弛んでいました。もう一人の後見から耳元で「締めにいきなさい」と言われましたが・・・不勉強で後見に座った私は、シテがどのように動くのか知らないので、いつのタイミングで直しに行けばよいのか分からず。

それでも無理矢理直しに行ったのですが緊張しているため、紐を結んでも縦結びになってしまい、大変恥ずかしい思いをしました。
後から分かったのですが、もう一人の後見の方は、私が勉強せずに後見に座っていることを戒めようと、わざと私に直しに行かせたとの事。本当にご迷惑をかけてしまいました。

それ以来、後見に座る時には必ず一曲全体を把握し、セリフも全て覚えて臨む事にしています。

また、ある時後見をしていて、シテの持っている扇が舞っている最中に壊れてしまいました。私の判断で、私が携えていた扇をこっそりシテに渡しましたが、後で先輩に褒められました。

それは機転がきいたという事よりも、「シテに渡せるだけの綺麗な扇を持っていた」という事です・・・実はその時はたまたま綺麗な扇を持っていただけだったのです。しかしその先輩曰く「後見は、いつ自分が舞う事になるか分からないから、必ず綺麗な扇、そして綺麗な袴などを身に付けておきなさい」と。

 

 

後見は、シテが舞っているのを後ろで静かに見ていながら、

心の中では「一緒になって舞って謡っている」のです。
いつ自分が代役することになってもいいという気概の人が後見に座れるということです。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


以上が林本先生からお聞きしたお話です。



 

はぁぁぁと思わず大きな息が漏れました。

 

このお話を聞いて、後見の役割の多さと大切さ、そして「舞台」に懸ける気持ちなどとても強いものを感じました。

知識も技術も、そしてとっさの判断力も必要なんですね。

かなり重要かつ、難しい!!

後見に注目して見て…しまうのはまた違うんでしょうね。

早く教わった事を踏まえて舞台が観たいです。


もちろんどの舞台や芸術、エンターテインメントでそうなのでしょうけれども、お能の場合はそれが全て内に秘められている事に改めて感動し、早くまた安心して舞台を拝見できる日が来て欲しいと思います。

 

楽観視はしていませんが、いつか、必ず、また、お舞台を拝見できる日が来ると思っています。願っています。

それがいつなのかはわかりませんが、でもその日の為に、お能に興味をもっていただき、足を運んでいただけるような企画をもっともっとやっていきたいと思いました。

 

全てを映像でお見せすることも一つの方法かもしれませんが、まずは導入として興味や関心を持っていただき、想像していただき、それをご自身の眼で見て感じて頂きたい。その道を作ることが出来たら…と思います。

もうご存じの方には、新しい感じ方や見方をしていただけたらと思います。

あくまでスタッフはそのお手伝いに過ぎませんが…



 

まるでこの企画の最後のようになってしまいましたがあせる

まだ続きます!

次回は、「楽屋」です。杉江能楽堂の楽屋をご紹介しつつ、先生ご自身の楽しいエピソードも聞けそうですね。