特別企画 番外編②杉江能楽堂紹介 其の四 | 能meets

能meets

観世流能楽師 林本大による
わかりにくいからこそ面白い能の、わかりやすく「濃密」な講座。
「能が皆さまに会いに行く」をモットーに大阪・東京・高知・栃木、他(福岡、長崎、札幌)で開催。
全国展開中!
スタッフ運営。

能meetsブログ特別企画

番外編② 杉江能楽堂紹介 其の四

 

今回は「楽屋」です。

楽屋とは、本番前の準備や待機をする場所です。

 

能楽堂によってもスタイルは色々ですが、
普通の楽屋は「シテ方」「ワキ方」「狂言方」「囃子方」
と部屋が分かれているそうです。
ただ、分かれているといっても、大体の場合が襖が開け放たれ、全て繋がって皆さんの動きが見えるような状態の能楽堂が大多数、というお話でした。

その中でも、装束着付けが大変な「シテ方」の楽屋は幕に一番近い所に位置していることがほとんどです。
 

「我々、特に若手が楽屋入りした場合まずする事は
『自分はどこで着替えるのか』を把握する事で、
これが実は大切な事柄の1つ」
 
と先生は仰いました。
どういう事でしょうか?
 

林本:
普段馴れている能楽堂では、大体着替える場所は決まっています。
つまり大御所の方がまず上手、そこから順々に下っていき、内弟子などは廊下で着替える事も。
しかし、その日その日の舞台によっては、自分が上の立場の方に位置する事もあり、また逆には年配の先生方でもその日のメンバーの中では下に降りてしまうこともあるわけです。
かつ、薪能など普段と違う楽屋ではいつもと勝手が違います。
その時に、普段きちんとそういう事を考えている人はとっさに「今日はここで着替えるべき」という判断が可能です。
いつも機械的に物事を考えている人は、そのような判断もできず、見当違いな所にカバンを置いてしまいます。

「状況に応じて身の上をわきまえる」
このような所から普段の修行から滲み出てくるものがあるように思います。
 


スタッフ:
「どこで着替えるか」つまりは、その日自分がこの出演者・関係者の中でどう動けばいいのかを把握する事から始まるんですね。
毎回同じ場所、同じ出演者ではないからこそですね。
全体把握をし、自分で考える。
どうやら「どこで着替えるかを把握する」というのは、単なる場所の確保というわけではないようです。

 

林本:
我々の楽屋での仕事は、具体的には装束の準備や着付け、作り物を作ったり、幕を挙げたり様々。
その各々の仕事を、当日の出演者の誰が行うのか。
あなたは幕揚げ、あなたは切り戸を・・・という様に役割分担を決める事はほとんどありません。
(無論、着付けは後見が行う等決まっているものもありますが) 
もしかしたら、皆さんには、この役割分担があいまいな楽屋は非常に不思議に感じられるかもしれません。
しかし、そのような楽屋であるからこそ、
皆がその日1日の舞台に責任感を持てるのではないか
と私は考えます。
「切り戸だけ開け閉めすればいい」
「地謡だけ謡えば今日の仕事は終わり」
と思うのではなく
「幕は僕が揚げた方がいいかな」
「装束着付けはいざとなったら手伝うつもりにしておこう」
という、暗黙の内に皆が楽屋の仕事を気にするようになります。

この点も能の楽屋の不思議な所だと思います。


 
スタッフ:
ここでまた、後見の時のように南川さんの一日能楽師入門体験の時にお聞きしたお話と繋がりますね。
「楽屋から舞台は始まっている」
舞台上では専門職でありながら、その日その日のセッションのような感覚で行わる準備や仕事もあり、全員が「その日の舞台」に関して集中し、神経を使って、気持ちを向けているということでしょう。
とても大切な事だと思います。
能楽堂に一歩入った時から気が抜けないわけですね。
もちろんその前からの準備がある事も今回教わりました。
 
この話を聞いて第一弾の南川さんのジャージ姿を思い出すと…
ちょっと感じ方が変わりますね。
きっと次回があれば南川さんも違う服装で来られる事でしょう。
 
さて、楽屋のお話には続きがあります。
 

林本: 
楽屋では、その日の舞台の事は勿論、諸先輩方が芸談を交わしたり稽古について話をしています。
内弟子中は、仕事が沢山ありますから楽屋内の往き来も多いですが、その最中にこの芸談をふと耳にできる時があります。
私は、内弟子の特権はもしかするとそれなのかなと思う事が沢山ありました。
「若いモンはたくさん働け!その代わり楽屋での会話は自由に盗み聞きしなさい!」というような。
私もその時に聞いた話をメモにとったノートが沢山残っています。
下積みをしたご褒美のようなものだと今は感じています。
勿論、そのご褒美を今度は人に渡してあげる歳になってきているのですが。


 
スタッフ:
なるほど…お稽古や舞台だけでなく、こういう時にも大切な事があったりするんですね。
ただ先生が仰るこの「ご褒美」もそうだと気づかなければ「ご褒美」になりません。受け手の心構えも大事ですね。
いつ何時でもアンテナを張っていてこそ受け取れるものだと思います。
そう思って先生のお話を聞いていこうと、スタッフ一同思いました。
 
今回もたくさんの貴重なお話が聞けました。
 
そんな大事なことがたくさん詰まっている楽屋ですが、普段は私たちが入ることも、目にすることもありませんが…
杉江能楽堂の楽屋を少しご紹介します。
 

こちらの応接室。

和風建築の中に打って変わって、とても雰囲気のあるアンティークのソファー。素敵ですね。

ただ、お能の公演時にはこのソファーセットは他へ移動してしまうそうです。椅子の方が楽なのに!と思ってしまいがちですが、和の設えのほうが良いそうです。

 

ちょっとソファーに腰掛ける先生方の姿も見てみたい気もしますね。

今度林本先生にモデルをお願いしてみようかな??

 

 


そしてシテ方の装束付けに使用されるのが、前回も出てきましたこちらの大きな鏡のある和室です。

 

公演当日は大勢でバタバタとされているので中々覗けないですが、こうしてゆっくりと観られてとても貴重な経験でした。

先生に聞いたお話のような事が、ここで行われるわけですね…

想像するだけでこちらも緊張します。

 

 

次回は、「橋掛」についてです!