翌日はじいさんを石鯛釣りに案内することになった。
じいさんは石鯛や石垣鯛が大好物だ。
夜のうちに小林さんと二人で準備した。
サオはごつくて重くて長く、リールはアメリカ製のペンリール、仕掛けはワイヤー仕掛けだ。
エサは冷凍の赤貝を20キロ用意した。
赤貝を割って磯からの撒き餌にするのだ。
伊勢海老やウニやサザエを使う人も多く、磯の王者幻の石鯛釣りは贅沢な釣りだ。
石鯛も石垣鯛も大きなものは10キロ近くなり、石鯛は白い横縞が消え、石垣鯛は丸い斑紋が消えて見分けがつかなくなる。
見分け方は石鯛は口の周りが黒く、クチグロとも呼ばれ、石垣鯛は白くなるのでクチジロとも呼ばれる。
そもそもじいさんが南西諸島に進出を決めたのは巨大なクチジロが釣りたいからなのだ。
それは野人がヤマハへ入社前、社長室でじいさんと面接した時に聞いたことだ。
無茶苦茶だがしいさんの面白さに興味を持った瞬間だ。
それだけに、釣れなければじいさんに何を言われるかわからない。
じいさんは夕食は石鯛と決めてかかっているのだ。
屋久島は人2万、猿2万、鹿2万、釣り客年間2万、山の客2万と言われるくらい磯釣り客が多い。
釣り場は車で10分ほどの永田灯台の真下で、有数の石鯛のポイントだ。
荷物を背負って急な山道を磯まで降りなければならない。
念の為に水中眼鏡とモリも持参した。諏訪瀬島での前例もある。
「潜って引きずり出せ
」とか、「晩飯がないよ~
獲って来い
」と言いかねない。
予感は的中した。
こんな時に限って釣れないのはじいさんの邪気に魚が警戒して近づかないのだろう。
じいさんはしびれを切らして、「エサが悪い、ジンガサ捕って来なさい
」と言い出した。
そこらあたりの岩には大きなカサガイがへばりついていた。
それを針に付けて放り込んだり、こまめにサオ下に撒いていたが、やがてジンガサをかじりはじめた。
じいさんは生のままコリコリ、ムシャムシャ食べ続けた。
まるでタコが自分の足を食うみたいに。
じいさんは生のジンガサも大好物なのだ。
最初は「こんなにジンガサ美味しいのに、石鯛さん何処行っちゃった~!」と、冗談も出ていたが、ついにしびれを切らした。
「キッ
」っと、こちらを睨み
「潜って調べていないだろう!君はまた私を騙したな
お魚いないじゃないか」
・・・言うと思ったのだ。
「三日前はうじゃうじゃいたんだけどなあ」
言いかけたらじいさんは・・
「つべこべ言い訳するな早く潜って突いて来なさい
夕食に間に合うように」。
やはりモリを用意しといて良かった、備えあれば憂いなしだ。
さっそく海に潜るとまったく魚がいない。
潮の加減だがこれでは釣れるはずもない。
石鯛は真下にいるのではなく、やや沖の岩礁から縄張りを回遊するように潮と共に磯に廻って来るのだ。
真下でも10m近く、沖の岩礁はさらに深い。
面倒だが突いて来ないと一晩中機嫌が悪いのだ。
しばらく沖に向かうと海底から突き出た岩があり、イシダイが数匹見えた。
透明度は20m以上はある。岩礁の水深は15mくらいだろう。
一気に底まで潜り、一番デカイのに狙いを定めた。
モリはカツーン
と頭部に命中、高校の時から慣れたもので苦もない。
戻るとじいさんは大喜びだ
「お~
仕留めたか、そうかそうか~!」と子供みたいな笑顔で迎えてくれた。
要は最低でもイシダイが食えれば良いのだ。
終わり良ければ全てよし
3キロ超のイシダイは、料理長のシゲさんに見事に料理されてじいさんに出された。
この日も前日の毒味唇役に次いでご相伴に預かったが、じいさんの小言を聞かずに本当に良かった。
魚がいるのがわかれば野人に罪はない。
潮が悪いかじいさんの腕が悪いかだが、そんなことは口が裂けても言えない。
しかし、昼間とは打って変わって、じいさんが腰を据えて話してくれることは鋭さと迫力があり頭が下がる。
さすが、田舎企業を世界のヤマハにした男なのだ。
遊ぶ時は始末が悪いくらい
我がままなのだが。