彼が言うには上地の奥さんが夜中に枕元で何度も囁いてきたらしい。「ガジュマルの東・・ガジュマルの東・・」と。間違いなく奥さんの声だったと。村には大きなガジュマルの木が上地さんの家の前にあった。その木も家と共に土砂に流され、一部が見えていた。耳寄りな情報に途方に暮れていた皆が腰を上げ、一斉にガジュマルの残骸に向かった。彼は蒼ざめた顔で「頼むから掘るのは止めてくれ」と皆に頼んだ。「親しかったあんたにわざわざ頼みに来たのだから掘り起こしてやるのは当然だろう」と誰かが言うと、「そうだその通りだ」と一斉に掘り始めた。そしてすぐに奥さんの遺体は見つかった。彼は前にも増して蒼ざめた表情で呆然と立ち尽くしていた。ショック状態の彼を後で慰めた。「奥さんが意思を伝えるのは誰でも良かった、たまたま通じただけで、願いが果たせたのだからそれで終わりだ」と。彼には確かにそれで終わりだったが、村中震え上がる出来事がしばらくして起こった。ヤマハの飛行場に牧場を営む田中さんが来た。もう怖くて家には帰れないと言う。彼が言うには、夜になると奥さんの様子がおかしく、急に声が上地の奥さんそっくりになり、ぶつぶつ言いながら出かけるらしい。後をつけると、土砂に流された上地さんの家の付近で四つん這いになって素手で土を掘り始めると言う。それを見て恐怖に震えながら逃げて来たらしい。昼間はいつもと変わらず気さくな奥さんで、前夜の事は何も覚えてはいなかった。翌日も夜中に奥さんは家を出た。皆で後を尾けると、流された上地さんの家の跡地に向かい、四つん這いになって素手で土砂を掘り始めた。「たしかこの辺に・・・」とつぶやきながら何かを探していた。懐中電灯を当てても意に介さず掘り続ける姿は鬼気迫るものがあり、全員恐怖で呆然とした。その話は村中に広まり、鹿児島の病院へ送ることになったが野人は反対した。医者の領域ではないのだ。体は健康で昼間は正常なのだから何一つわかるはずもない。鹿児島で除霊が出来る霊能者を探し、お願いするしかない。やってと頼まれたが野人にそこまでの力はない。放っておいても大丈夫だとは思うが、いつまでこの状態が続くかわからないのだ。上地の奥さんに悪意はなく、肉体を持たないから、一時的に借りているだけのことだが旦那さんはたまったものではない。やがて奥さんは鹿児島へ行き、正常になって戻ってきたが、霊が入り込めるのはその隙間があるからで、霊能者も隙間を埋めることまでは出来ない。つまり、さ迷う霊を天に送らない限り、霊がその気になればまた同じ事が起きるのだ。活火山のこの島は強烈な電気エネルギーが充満している。おそらく昔からこのようなことは幾度となくあったに違いない。だから村人達は死者を異常に恐れるようになった。一人も遺体捜索に参加しなかったのはそのような理由からだ。ここは寺もない土葬の島。参加しなかったのではなく怖くて出来なかったのだ。