英名では魚の名前はバラバラだが、日本では語尾に「タイ」と付く魚が多い。その数250を超える。日本人のタイにタイする思い入れは相当なものだ。同じような魚は他には見当たらない。まさにタイの大安売りで勘違いする人も多い。防波堤で小さな魚を釣って「そりゃネンブツダイだ」と言われて、「え~~!タイ?嬉しい!」となってしまう。「腐っても鯛」と言われるようにタイは崇拝されている。確かに魚の王様には変わりなく、祝い事はタイと相場が決まっている。王様に対して女王と呼ばれる魚はシマアジだが貴重な魚で馴染みは薄い。天然物の数キロサイズの味は時にはタイを上回る。
本来のタイの仲間は数種類で、マダイ、チダイ、クロダイ、ヘダイ、キチヌ、キダイ、レンコダイなどで市場に揚がるものは限られている。アマダイやイシダイなどは別の種類だ。主なところで、ブダイ、ハマダイ、マトウダイ、キンメダイ、キントキダイ、アオダイなどがあり、あまり市場にあがらない雑魚に至っては、数え切れないくらいある。食料にされないような魚まで片端から「何とかダイ」と付いているから紛らわしい。二、三文字で簡単につければ良いのに、やたら長ったらしくなって覚えにくい。これだけ日本人に崇拝されてきたタイだが、タイを知っている人は少ない。今は年中養殖鯛が出回り、味も年中安定している。クロダイは沿岸や河口を好み、スイカからトウモロコシまで何でも食べる雑食性だが、マダイの仲間は河口にはいない。深い場所では水深100m以上にも生息している。釣りでは20mから80mが一般的だ。主食は甲殻類で、「海老でタイを釣る」と言われるように、海老やカニ、イカや小魚を好んで食べる。各地には多くの「タイの伝統漁法」が残っている。マダイの旬は春で、「桜鯛」と言われるように桜の花の咲く頃に深場から産卵の為に浅場に上がって来る。色も鮮やかな桜色で一番魚体が美しい季節だ。産卵の為に荒食いしているからパンパンに太り、脂が乗って最高の味になっている。他の季節とは比べ物にならないくらい旨い。産卵が終わり5月になると色もくすんで痩せてしまう。この時期の鯛は味がなくて美味くないが、値段が変わらないのはやはりネームバリューで、腐ってもタイと言われるゆえんだろう。秋頃から体力を盛り返しまずまず美味しくなり、年末には価格は高騰してしまう。1キロから2キロくらいまでが一番美味く、5キロクスになると大味でまったく美味しくない。価格も2キロクラスの活きた釣り鯛は浜値で1キロ平均3千円くらいで、網で揚がって氷締めしたものは価格は数段落ちる。最高のタイを食べようと思えば1キロ5千円で買っても肉の歩留まりは35%だから100g当たり1400円くらいになってしまう。家庭で買って食べるには無理があるから、料理屋で食べようとするならその3倍、50g食べたら2000円以上にはなる。滅多に庶民の口に入るものではない。だから本当の桜タイの味を知る人が少ないのだ。タイの旨さは肉だけではなくその真髄はアラにあると言っても良い。刺身だけなら他に旨い魚はいくらでもあるが、「潮汁」にするとタイの右に出る魚はない。タイの味を知るには吸い物が一番だ。養殖鯛は手頃で良いのだが、天然に比べたら比較にはならないほどの違いがある。価格も年間を通して安定、天然物の3分の一くらいで手に入る。機会があれば是非本当の桜鯛を食してもらいたい。今はグルメの時代で、産直の通販でも高価な食材が売れている。ブランド牛や蟹も良いが、たまには手頃な「桜鯛」をお奨めする。今年は時期が過ぎてしまったが・・・