秘技 サザエの泳法 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

サザエが泳ぐ~? そんなバカな・・と言う人は多いだろうが間違いなく泳ぐ。

サザエだけでなくアワビもトコブシも上手に泳ぐ。随分前にそう言ったら、絶対に信じられないと水族館まで電話した男がいた。

そしてやはり泳がないと・・

 

「俺と水族館とどっちを信用するんだ?」と聞くと、迷わずに「水族館・・・」と。

たぶん今でもそう思っているだろう。

帆立貝の仲間は蓋を閉じたり開いたりして噴流で前に進む。

着底してはまた短時間水をパッ!パッ!と噴き出して移動する。

長時間泳ぐと言うよりも海底を一瞬移動すると言う感じだ。

 

しかしサザエは間違いなく水面近くを器用に泳いでいた。

小学校の頃から海に潜っていたが、昼間は一度も見たことがない。

中学から夜も潜ってアワビ、サザエ獲りをするようになった。

水中ライトはなく、懐中電灯をビニル袋に入れて使っていた。

 

水深5mの漁港の、定期船が着く桟橋の周りを潜っていて、浮上した時にお尻に何かが当たった。

ライトを照らしてみると、サザエがゆらゆら海底に沈んでゆくところだった。

何でサザエが海面近くにいたのか理解出来ないままだったが、やがて目撃する事になった。

 

中学二年の夏、夜、サザエが泳いでいるのを目撃した。

触れるとまた殻を閉じて沈んで行くから近くで観察した。

硬く重いふたを開いたり閉じたりしながらクネリクネりと奇妙な泳ぎをしていてしばらくは理解できなかった。

海底までは3mもあり確かに前に進んでいる。

ふたに付いている足、つまり岩に吸い付く部分を広げて波打たせウミウシのように水を捉えて泳いでいた。

それにしてもあの重い殻が沈まない。

 

サザエの知恵とパワーに感心してしばらく後を追った。

垂直な岸壁に当たり、吸い付くかと思ったらタコのように器用ではなかった。

ふたを閉ざし底へ沈み、そこからもそもそと岸壁を登ろうとしていた。

 

何で底から高さのある網にサザエがかかるかわからなかった謎が解けた。

あの細い糸みたいな網をサザエが吸いついて登れるはずがないからだ。

取り尽くしたはずのサザエがいつのまにかまた増えているのも納得できた。

何処からか泳いで来ていたのだ。

 

サザエが泳いでいるのを見たのはそれっきりだった。

片貝のアワビやトコブシにはふたがないが優雅に泳ぐ。

サザエと違い、海底すれすれをUFOのように水平にゆらゆら泳ぐ。

同じく岩に吸い付く足を広げ、上手に波打たせウミウシと似ているが体がブレない。

どう見ても海飛ぶ円盤だ。

 

サザエと同じように半月ごとに潮が変わるとまた増えていた。

水族館のサザエが泳がないのはその必要がないからだ。

食料としてしか考えていなかったアワビやトコブシやサザエも必死に生きようとしていた。

彼らに命を感じた瞬間だ。

それからは必要以上に獲る事はなかった。

食べるのが目的なら食べるだけ、市場に出すのが目的なら数を決めていた。

 

進学で郷里を離れる時、海で殺生しすぎたからと、供養の為、母に寺に連れて行かれた。

正座して黙って経を聞いていたが、足のしびれがキツかった。

それよりも苦しかったのは和尚さんの経だ。

時折、アワビ~・・サザエ~・・と言うからたまらない。

必死で笑いをこらえたが、イシダイが出て来て、タコが出た時はもう我慢ならなかった。

後は想像にまかせる。

慣れていないのはわかるが、とにかくメロディのセンスが悪い。