猛毒美味!海のコブラ | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

コブラと言えばインドを中心とする南アジアが生息地だが日本にだって仲間はいる。「海に下りたコブラ」とも呼ばれるエラブウミヘビとその仲間だ。コブラ科に属し、咬まれると神経をやられ呼吸麻痺に陥る。産卵期にはその毒性はハブの60倍にも達する。今でも産卵は陸に上がって行う。元々陸に生息し、島に取り残されたので海に餌を求めたのだろう。地元の人はイラブーと呼び、滋養強壮剤「クスイムン」として古くから琉球王朝料理の食材として重宝されていた。今でも市場ではトグロ状に巻いて燻製にして売られている。健康に良いとされ、煮詰めて濃厚にしたスープは「イラブーシンジ」と呼ばれる。性格はおとなしく、よほどしつこくちょっかいを出さない限り咬んだりはしない。トカラ列島の諏訪瀬島で潜水調査中によくすり寄ってきた。振り向くと足に密着して泳いでいる。浮上した時に頭に海藻が乗っかっていると思い、手で振り払ったら厚かましくもイラブーだった。内心、死ぬほどびっくりしたが、その程度であわてふためいていたら仕事にはならない。うじゃうじゃいる鮫だって種類と大きさによってある程度は無視しなければとても海には潜れない。

港湾工事で、建設会社の職員二人が小さな船の上で指示し、下に潜るとイラブーの小さいのがいた。つい悪戯心を起こし、浮上して、「お土産!」と言って船に投げ入れた。二人とも恐怖に引きつり、ヘルメット、安全靴のまま「ワー!」と叫んで海に飛び込み、「冗談キツイよ!」とカンカンに怒っていたが、イラブー様のご威光はやはり凄い。

いつも一人で船を出し、島の周囲を潜って調べた。黒潮本流の中心、周囲22キロで島民50人の島だが泳げる人はいない。海を恐れ、陸から釣りはしても海に入る習慣がないのだ。当然漁船らしきものもない。島には月に3回立ち寄る連絡船とのはしけ船が一隻しかなかった。国内で最上段にランクされる僻地だ。電気も水道もなく水も発電機も会社が持ち込み島中を賄っていた。今は港が出来ている。

魚類の潜水調査中、海底で見たこともないような巨大イラブーを見つけた。掴まえて船に持ち帰ると、長さ150cm3キロ以上はあった。胴の太さは腕くらいある。クーラーいっぱいにとぐろまかせて宿舎に持ち帰り、感心しながら観察していたら、農園担当の同僚が鼻歌まじりでヒゲを剃りながら入ってきた。思わず隣の彼のベッドの毛布の中に隠したのがまずかった。彼は、腰掛けようと毛布をめくった瞬間「アゲ~!!」の叫び声と共に部屋から飛び出してしばらくは帰って来なかった。

巨大イラブーを民家に寄付すると、早速夕食のお誘いがかかった。嫌がる隣の被害者を誘い訪問すると入り口の戸板に皮が貼り付けられている。幅は30cm近くあり圧倒される。財布に加工するらしい。濃厚なスープとから揚げをたらふくご馳走になり、同僚は恨みも忘れて焼酎を飲み干しご機嫌だった。「体がポッポしてきてイラブーは最高だなあ!」 食は人を幸福にする。