興奮時のセレネース筋注とセレネース液の相違 | kyupinの日記 気が向けば更新

興奮時のセレネース筋注とセレネース液の相違

統合失調症の緊張病性興奮状態は内因性でありながら、器質性の色彩が顕れる局面である。精神科医は特別な病態と意識している。

このような局面では普通、鎮静のために抑制的な抗精神病薬が使われることが多い。

外来患者さんではこのような病態に至った際、入院して治療した方が何か予想外の変化があった時に、いち早く対処できるのでより安全である。

過去ログでは病状が悪化した際に、家族で精神科ないし心療内科クリニックに連れて行くことができないような人は、最初からクリニックではなく病棟を持つ精神科病院に通院する方が良いと記載している。(参考

元々、緊張病性興奮と緊張病性昏迷はコインの表と裏の関係にあり、昏迷状態が消退した際に著しい興奮が生じることがある。

また、逆に興奮状態が消退するにつれて、次第に昏迷に至ることもある。この一部は悪性症候群と呼ばれる悪性カタトニアである。このブログでは悪性症候群を単に「薬による副作用」という捉え方はしていない。これは精神病の治療経過の上で一連のものに見えることが多いからである。

さて、緊張病性興奮状態で入院した際には、種々の治療が試みられるが、最近は非定型抗精神病薬が投与されることが多い。病院によっては、セレネースやトロペロンなどの筋注ないしコントミンの筋注、あるいはセレネースの液剤を処方されることがある。(定型抗精神病薬の投与も視野にはいる)。

また薬は飲まない、食事は摂らない、着替えや入浴もしない、壁を拳で打ち続ける、頭を床や壁に打ち続けるようなレベルで、隔離室に入る看護師や医師に暴力を振るう患者さんでは、服薬させることも難しいし、筋注だって安全にはできない。

このような人は壁を拳で打つために拳の骨折をするとか、脳挫傷を起こすこともある。過去にこのような病態で脳挫傷に至った人を3人知っている。

なんと1名は脳挫傷を生じたためにかえって病状が劇的に改善し、退院して働けるレベルまで寛解した。その後、彼は1000万円ほどの貯金ができた。この人の凄いところは、初回の悪化でこうなったわけではなく、15年以上入院を継続し保護室に出た入ったりで退院できる見込みがない状況から急回復したことである。これはある種の奇跡であるが、このブログ全体を読んでいる人はこの変化が十分にありうることがわかるだろう。

「人生塞翁が馬」と言うが、彼の変化はそれどころの話ではない。漫画で頭を強打したために天才になったと言う話がたまに語られるが、あれは多分何らかのソースがあり、たぶんこのようなものだろうと思う。

かなり前だが、ある整体の先生と話していたところ、鞭打ちで難治性の腰痛と頚部痛になった人が更に交通事故で鞭打ちが重なったところ、寛解したそうである(彼は治癒と言う言葉を使ったが)。これはたぶん線維筋痛症のような病態だったと考えると、なんとなく納得がいく。線維筋痛症の発症契機として、酷い打撲(交通事故など)や手術(抜歯も含む)などが挙げられている。

一般的に、元々脳を患っている人が脳挫傷を併発して良いわけはない。精神病に脳挫傷を併発することは予後不良に至る事件である。もう1名は脳挫傷の後、車椅子の状態になった。(残りの1名の若者は、元々知的発達障害があったため、発語が円滑になり疎通性がいくらか改善した程度)

だからこそだが、緊張病性興奮は集中的な精神科治療が必要だし、その価値がある病態と言える。

このレベルの患者さんは一刻も早くECTを実施するのも一考である。木箱ECTであれば1回実施しただけで、かなり有効なことがあるし、2~3回めの実施後寛解に至ることも良くある。ECTの優れる点は大量の抗精神病薬を使わなくて良いことと、収束させるまでの時間がかからないことである。過去ログでは「悪い状態で時間がかかってしまうことが凶」という記載をしている。大量の抗精神病薬を使わなくて良いことは、悪性症候群への移行のリスクが低くなるし、元々悪性カタトニアにはECTは有効なことが知られている。

実は緊張病性興奮状態は、個々の病院によってかなり対処が違う。いかなる方法でも安全にそのような特別な病態から脱出できれば良いと思う。

緊張病性興奮状態を収束させるために、非定型抗精神病薬を使うことは、元々非定型は賦活的な薬物が多いので、薬の種類と量を考慮しないと大変なことになる。一般に服薬ができるなら、リスパダール液やリスパダールODも使いやすいし推奨される。リスパダールは多い量であれば、かなり鎮静的だし液剤やOD錠は便利である。

しかし、リスパダールの大量が後に悪い経過を呼び込むように思われる人では、平凡にセレネースかトロペロンの筋注が優れている。セレネースやトロペロンは、比喩的に言うと、泡切れが良いからである。

著しい興奮状態ではジプレキサではたぶん注射剤が良いと思われるが、本邦ではまだ発売されていない。(今後、早いうちに発売になるようである)

ジプレキサを著しい興奮状態に内服で大量に使った場合、急速に回復する可能性も高いものの、不安焦燥感を惹起して自殺既遂に至る危険性を孕む。(重要)

最近では、エビリファイの大量も考慮されるが、僕はそれはしない。その理由だが、他の方法の方が改善率や治療コストの面で優れるからである。エビリファイは副作用が他の抗精神病薬の中では少ない方なので、大量に使ってもそれで落ちつけば良いと思う。

知っておいてほしいのは、病状が極端に悪い場合、保護室に入れていたとしても、完全に安全ではないこと。脳挫傷ほどの怪我ではないが、一晩で保護室で両手の爪を全て剥ぐほどの異常行動(自傷行為)をした人がいる。この人はその後寛解し、今はルーラン4mgだけでコントロール良好である。この人はその後、事業に成功し大変な資産を持つに至った。この人は保護室内で木箱ECTを、無麻酔で立ったまま実施している。(劇的に寛解)。過去にこの患者さんのようにやむを得ず立ったまま木箱ECTをかけた人は3人しかいない。

今回の記事は、緊張病性興奮状態では、セレネース液とセレネース筋注はどちらが良いか?というタイトルである。

どちらも大差がないと思うかもしれないが、微妙に違う。拒絶が酷く服薬しない場合、セレネース筋注しかない。

服薬もできる場合、セレネース液が比較的有効な人でも、緊張病性興奮が消退していく際に、急速に希死念慮が出現する人がいる。この場合、油断すると保護室内で舌を噛み切るとかそういう事故が生じることがある。このタイプはセレネースとアキネトンの混筋注の方がより安全である。

興奮状態が消退すると、希死念慮が出てきそうな人はそれまで診ている人ならなんとなく雰囲気でわかる。しかし、あまり治療歴がない人はいかなる状態変化が出てくるかわからないこともある。

過去ログではセレネース液は躁状態に非常に有効と記載している。この躁状態への有効性が裏目に出て、急速にうつ転するために思わぬ事態になる。これは積極的にうつ状態を惹起させる能力は、セレネース液の方が遥かに高いためである。

筋注の際のアキネトンの併用はセレネースの副作用を軽減するだけはなく、抗うつ作用も持ち合わせるので、混筋注は合理的でバランスが取れている。セレネースほどは抑えなくて良い場合はトロペロンでも代替できる。激しい興奮の病態ではセレネース注が優れる感覚がある。

セレネースの筋注の欠点は、このような病態では、悪性症候群(悪性カタトニア)に移行することがあること。本来、緊張病症候群と悪性カタトニアは近縁に位置するからである。

過去にセレネース注で何度か悪性症候群ないし昏迷に至った人は、ECTの方が治療的に優れた手法と言える。

麻酔をかけてサイマトロンを使うm-ECTは施設が充実している病院では積極的に行われており、主にうつ病患者に使用されている。NHKの番組では慶応病院が紹介されており、3人に1人実施されているという話だった。実施できる施設が少ないだけで、ECTは今も有力な治療法の1つである。(有効性という点で否定的な論文自体がほとんどない)

参考
悪性症候群の謎
治療イメージについて
アトピーによる精神病状態及び6つの一連の記事
精神科病院の夏祭りの後半
薬物治療と寛解のレベルについて
木箱ECTとサイマトロン
精神症状身体化の謎