外来4時間待ちという話 | kyupinの日記 気が向けば更新

外来4時間待ちという話

僕の患者さんで、友人の外科系医師から紹介されて来た人がいる。彼女は今は寛解状態にある。(この良くなり方に彼は驚き、その後もよく紹介してくるようになった。)

彼女の話だが、今も通っているその外科系病院は、再診なのに、たまに4時間以上待つことがあるという。

なんとかならないものでしょうか?


と僕に聴くので、「簡単にはなんとかならないでしょう」と答えた。患者さんが多い以上、運が悪いと、そのようなことはありうる。

普通、大学病院とか特別な病院を除き、民間病院ではそのくらい待たせると、次第に外来数が減ってくるのが普通だ。これは以前、過去ログにも触れている。

その意味で、病院に医師がたくさんいればいるほど待ち時間が少なくなり、結果的にのべの外来数は増える。

彼女はその友人が開業してほしいと話していたが、それも多分、解決にはならない。それはそのクリニックを1名で診ないといけなくなるから。結構待たないといけないのはあまり変わらないと思う。

それと、いったん院長になったら簡単には辞められない。また外科系だと開業には設備投資もバカにならず、資金面においてもまた年齢的にも厳しい。これまで開業せずに院長までなったのなら、今後も院長のままというのが自然である。

近年、精神科では、相対的に精神保健指定医が不足している。そのため、指定医の募集をしている単科精神病院は多い。

その理由はいくつかあるが、ある時期、医学部の定員を絞った時期があったこと。これは、

「医師数が増えれば増えるほど医療費が増える」と厚生労働省など国が判断を誤ったためである。

その結果、地方にはろくに医師がいないという医療過疎地域が増える事態になった。(これにはスーパーローテイト制度も関係している)

医療費が増えてきたのは、日本国民の高齢化と、先進医療が可能になったこと、精神科に関しては、うつ病圏、認知症圏の患者が増加したことが大きい。(参考

また精神科では、高価な新薬が立て続けに発売されたことも関係している(これもある意味、先進医療である)。統合失調症圏内の患者さんはたぶん減少しているが、うつ病圏内と認知症圏内は激増している。

最近は、むしろ医学部の定員を再び増やし、更に医学部を新設する話まで出ている。

精神保健指定医を取得するためには症例のレポートが必要だが、特に「措置入院」の症例が集まりにくいため、最近は若干レポートのルールが変更されている。措置入院数と移送数は地域差が大きく、年間に措置患者が数例しかいないという県すらある。(処遇のあり方はローカルな面がある)

精神保健指定医の制度の実施前には、措置患者はあまり大学病院では診なかった。それは一般に、大学病院には摂食障害とかボーダーラインなど神経症やうつ病圏、典型的だが若くて暴力性の少ない統合失調症の患者さんが集まる傾向があったからである。そのような病棟に「2名殺人した」という患者さんは馴染まない。

ただし最近は殺人事件を起こした精神疾患の患者さんのうち、心神喪失か心神耗弱の一部の人は医療観察法病棟で治療を受ける(注1)。責任能力のある人は刑務所である。(または医療刑務所)

その結果、措置患者さんは一般の国公立の精神科病院か、いかなる過激な患者さんでも扱える民間病院に集まっていた(参考)。当時はそうだったのである。今は、措置症例が必要なため、軽微な犯罪で措置になった人は大学病院でも診ているのではないかと思う。(最近はレポートで必要な要件は措置入院患者または医療観察法入院対象者となっている)

まあ、それでも精神科の場合、精神保健指定医でないと一人前の精神科医とみなされないので、なんとか時間がかかっても取得する。民間精神病院でも指定医があるとないとでは、待遇(報酬)がかなり違うのが普通である。

ところが、ある程度の期間、精神病院などに勤めた後、クリニックを開業する精神科医が出てくる。これは精神病院全体から言うと、いなくなるのと同じなので、それで更に不足に拍車がかかる。

元々、クリニックを開業するのには精神保健指定医は必要がないが、最低限それくらい精神科医をしていないと、開業後、多様な患者さんを扱うのは難しいのではないかと思う。過去ログでは、「アナフラニールが効かないという精神科医は、まだ未熟なので開業しようなんて思わないでほしい」と言う記載をしている。

精神科及び心療内科クリニックの多寡には地域差があり、既に激戦地域もあれば、それほど過密ではない地域も多く、まだまだ精神保健指定医の流出は起こりそうである。うちの県では、今の倍の数のクリニックがあっても全然大丈夫だと思う。

クリニックを開業する人に言っておきたいのは、その地域の精神病院に紹介する場合、いきなり紹介状を送りつけて、「入院させてくれ」と言うのはこちらが困ること。

空きベッドがないと入院させられないし、空きベッドがあっても「その患者さんは無理」と言うこともある。それぞれの病棟には専門性があり、放尿するような認知症の老人をサラリーマンや大学生の病棟には入れられない。だから、あらかじめ入院が主目的の紹介なら、「電話して状況を聞くなど根回しをしなさい」と言うことである。

また、もう少し曖昧で、どのような意図で転院を依頼しているのか不明なものがある。「今後、入院するかもしれないので・・」くらいに書かれているが、その経緯で紹介されるような人は、その日に入院が必要な人もけっこう多く、こちらもかなり困る。

今すぐでも入院が必要で、空きベッドがない場合、そのまま紹介状を持ってクリニックに帰って貰うしかない。あるいは、既に夕方くらいの時間では、こちらで入院可能な病院を探す(クリニックに帰っても探す時間がなくなるため)。

病院が見つかると、その紹介状を持って行って貰うのである。このような時、その患者さんが精神症状的に処遇に困るようなタイプだと、まるで難しい患者さんを押し付ける印象を持たれかねないのが困る。こちらもかなりのストレスである。このような経緯があっても、結構時間を取られているのに診察代も取れない。取っても良いかもしれないが、うちでは普通取らない。(心情的に)。

最近は、このようなことをあまり考えていないクリニックの医師が増えている。(つまり常識がない)

ある内科の医師から言われたことがあるが、うちの病院はいつも満員じゃないかと思っていたそうである。うちの病院は満員のこともあるが、次々退院させるので、月末など一気に4~5名退院した場合、一時的に結構空くこともある。それでも動いているベッドは多分全体の10~20%くらいであろう。

精神保健指定医の話で思い出したが、自立支援法の診断書は、最も下の欄に医師の経歴を記載するスペースがある。これは、ICDでF00~F39・G40以外の診断名を記載した場合、精神保健指定医の番号ないし3年以上、精神科の業務についた経歴があることを示さないといけない。(診断が信頼できないということであろう)

自立支援法は本当は精神保健指定医のみ記載できることが望ましい。それは年金診断書もそうである。実際、年金診断書の場合、一番末尾に精神保健指定医番号を記載する欄がある。

現在の自立支援法の診断書の場合、G40などのコードも含むので、脳神経外科などの医師からも自立支援法の診断書をアクセプトしている。(G40は「てんかん」)うちの県ではそうだが、他県ではどうなっているのか知らない。

元々、自立支援法の前の制度では、対象になる精神疾患はかなり県により差があった。当時は「通院医療費公費負担制度」、いわゆる32条と呼ばれ、統合失調症、躁うつ病、うつ病は問題がないが、神経症など軽い精神疾患は通らない県もあったのである。また医療機関の窓口で医療費の5%を支払えばよかったが、都道府県によれば、その5%を他の福祉関係費で補い無料の県もあった。

これが変更された理由だが、障害者でも精神以外は1割負担が多く、精神科のみ優遇されている面があり、公平を欠いていかたからである。一般の障害者の1割に合わせ、その結果、高額になる患者さんのために所得に応じた上限を設けた(過去ログ参照)。

だから、ほとんどの精神科患者さんにとって、以前よりむしろ支払額は少なくなっている。また、リスパダールコンスタやエビリファイ液のような極端に高額な薬も処方しやすい面がある(これは偶然であるが)。

過去ログでは、自立支援法の「重度かつ継続」にはあまり意味がないと記載している。コメント欄を読むと、既に過去ログに記載しているのに、誤ったことが書かれることが時々あるので、よく過去ログを読むようにしてほしい。

今日の記事は、「患者さんが4時間待った話」から、精神医療の精神保健指定医や自立支援法などの精神保健的な話になったので、少し変だが「障害年金」のテーマに入れている。

(注1)
医療観察法では「精神科医療で治療可能であること」などいくつかのルールがあり、必ずしも全ての精神疾患が対象になっていない。

参考
素人の心療内科クリニック
精神科医は書類に忙殺される(前半)
精神科医は書類に忙殺される(後半)