エビリファイとデパケンR。果たして1+1は2なのか? | kyupinの日記 気が向けば更新

エビリファイとデパケンR。果たして1+1は2なのか?

抗精神病薬や気分安定化薬の併用の際、よく感じていた疑問がある。果たして抗精神病薬は併用した時、単純にプラスした量になるのか?ということである。

実は、多剤併用の場合、必ずしも1+1が2にはならないのである。

もちろん計算に近いケースもあると思うが、そういう風には見えないものについて、このエントリでは私見を紹介したい。ただ注意してほしいのは必ずしも多剤併用を推奨しているわけではなく、いかに抗精神病薬の副作用を減らし、より効果的に治療を進めるかについての考察である。こういうバカなことを書く人はなかなかいないと思うので、興味のある読者の人には面白いかもしれない。

ある時期、ある患者さんについて、ジプレキサから定型薬主体への変更を行っていた。普通は逆だが、臨床ではいろいろ事情があってそうせざるを得ないケースもあるのである。この患者さんは一生、退院が難しいレベルであるが、当時、なんとか総薬物量を減らそうと試行錯誤していた。

やがてこのような処方に落ち着いた。

トロペロン  18㎎
エビリファイ  6㎎
(他眠剤など)


旧来の薬物ではトロペロンは力価が高い薬物で、トロペロン18㎎はコントミン1385㎎に相当する。エビリファイ6㎎は150mgなので単純な総和はコントミン1535㎎程度になる。この処方自体は、やや多いものの精神症状の重い人では飛びぬけて大量処方とはいえない。

もともと、エビリファイとトロペロンは相性が良い組み合わせで、それぞれに薬物の良い面が出て、安定性もあり長続きしやすい傾向があると当時思っていた。僕の患者さんではエビリファイとトロペロン併用の患者さんでは誰1人として大きな破綻がない。ポイントはエビリファイをメインにしないことである。エビリファイは過信すると失敗しやすい。

いろいろな人に処方してみると、トロペロンにエビリファイを追加した場合、トロペロンの定型的な面が減弱するような印象を持つに至った。上のトロペロン18㎎とエビリファイ6㎎の組み合わせは、たぶんトロペロンのパワーを低下させ、トータルではたぶん1000㎎程度の力価しかないような気がしている。抗精神病薬の総和にはならないのである。

その大きな理由だが、D2受容体をエビリファイがいち早く占有してしまうため、トロペロンの抗ドパミン作用が十分に発揮できないことが大きい。このような考察は過去ログでも出てくる。

希死念慮という物質とトロペロンの謎」から。

しかしその後、何回かのトロペロンの筋注の機会にいろいろと組み合わせを変えてみると、どうみてもトロペロンが重要であると言えた。何か秘密があるのだろうと思い彼女の処方を書き出し、しばらくそれを眺めていた。そんな風に見ていると、なんとなく合理性があるように思い始めたのである。

トロペロンの薬物プロフィール
D2  ++++
α1  ±
mACh -
5HT2 +++
H1  +

トロペロンはセレネースに比較してまだレセプターへの作用に多様性がある。一見、同じような注射剤に見えるが、細かい点で相違があるのである。

セレネースの薬物プロフィール
D2  +++
α1  +
mACh -
5HT2 +
H1  -

トロペロンとセレネースの特徴であるが、トロペロンは強力なD2作用を持つことに加えわりあい5HT2への作用が強いことだと思う。しかし、通常はD2が強すぎて5HT2の作用は問題にならない。このプロフィールの+の個数は、あくまで薬物中の相対的なものだからだ。一方、セレネースはD2への作用に特化しており、他のレセプターへの作用が少ない。

彼女は当時、エビリファイを6mg程度服用していた。これがこの事件の謎に大きく関係していると思った。彼女は、既にエビリファイを服用していたからこそ、トロペロンが希死念慮やうつ状態に奏功したのである。エビリファイ投与中では、エビリファイが既にD2受容体を占有しているので、そこでトロペロンを筋注してもトロペロンのD2への強い作用は発揮できない。D2へ作用は減弱してしまうため、相対的に5HT2への作用が浮上するのであろう。エビリファイ服用時のトロペロンは、普段と違った薬物に見えるのである。

上記のトロペロンとエビリファイ併用の患者さんはどんどん体重が減少し、遂に10kg以上減量した。脂肪肝が改善し、精神症状もずいぶん落ちついてきたのである。

この患者さんはその後、トロペロンの減量を試みたのだが、その過程でいつも増悪がみられどうしても15㎎より減量が出来なかった。トロペロンは強力な薬物だが、エビリファイの支配下では迫力を欠くのである。つまりこの状況ではトロペロンは換算表の力価ほどは力を発揮していない。しかし増量すると良くなるので、D2以外のレセプターへの作用は生きているのであろう。

エビリファイは特にD2レセプターへの作用が大きいので、一般の抗精神病薬でも同じような関わりをする。リスパダールやセレネースとの併用でもこれらの副作用を減弱し、処方しやすくしている面がある。実際、リスパダール単剤の人の血中プロラクチンをエビリファイを併用することで低下させることが可能である(理屈からするとそうなる)。

これはエビリファイを単剤で使うと振戦やアカシジアが出現し困ることがあるのに、併用することで、逆に他剤の副作用を減弱させるように見えるのはある種のパラドックスと言える。

ある患者さんで病状が重いわりに、抗精神病薬の副作用に極端に弱い人がいた。しかも非定型抗精神病薬がほとんど合わない。入院のきっかけは、エビリファイで躁転のような感じで入院しているので、この人にエビリファイを試みること自体、何考えてんの?という世界であった。

彼の処方はこんな風であった。

トロペロン   6㎎
ベゲタミンB  2T
プロピタン   100㎎
アキネトン   2㎎
セレニカR   800㎎
インデラル   5㎎


この人の問題点は暴力行為と幻覚妄想である。彼の家族への手紙を見たところ、あまりにも△□▲×の世界?だったので、なんとかしたかったが、普通の抗精神病薬では振戦が酷すぎて食事にも困る状態に至るのである。トロペロンは最も後に追加しているが、どうしても振戦が悪化するため、エビリファイを1.5㎎だけ加えてみた。

すると、精神面の悪化を来たさず振戦が減少したのであった。今は以前よりはかなり副作用面で改善している。ちょうど上の処方で、コントミン換算で600㎎程度と思われる。

上の処方では、エビリファイは主役ではなくあくまで補助的でしかないが、非常に重要な働きをしている。

エビリファイ以外では、抗精神病薬ではないが、デパケンRがそういうかかわりをすると思う。ただ、デパケンRは他の抗精神病薬の処方総量を減らせるような感じだが、エビリファイの場合、多めの量を処方しても大丈夫になるというかかわり方をする。その意味では副作用を減らすようにかかわるとは言え、同じように見えて、同じではない。

これは、エビリファイがある特定の薬理作用を弱める働きを通じて、トータルで新しい抗精神病作用を構築しているように見えるのに比べ、デパケンRは謎の緩衝作用を及ぼすことで精神症状を結果的に改善する。

デパケンRと他の抗精神病薬の相互作用は、ちょうど水100ccとアルコール100ccを加えた時、200ccにはならないことに似ている。これは中学校の時に習うが、もう少しわかり易く言うと、小豆100ccにゴマ100ccを加えると200ccより少ない量にしかならないことを意味している。

ちょっとオカルト的な発想をすると、かつてバルプロ酸(デパケンR)は薬剤の溶解液だったことが、そういう作用を暗示していたと思う。デパケンRはそういう歴史というか、宿命みたいなものを持っていたのであろう。(参考