「2人目の女性患者」その不思議な経過
この患者さんは以前、一度紹介したが、その後の経過はこのブログでもほとんど触れていない。この患者さんの特徴は、母親が典型的な「統合失調症の母親」ということと、僕が初診から診ておらず、途中から診始めたことだと思う。「典型的な統合失調症の母親」を勘違いしないでほしいのは、母親は生物学的には健康な人なのである。
過去ログから抜粋(「2人目の女性患者」より)
エビリファイ 6mg
セロクエル 40mg
この処方で、抗不安薬も眠剤も必要なかった。当時、僕はこういう風にしばらく療養していると次第に元気になってくるのではないかと思っていた。少なくとも、旧来の薬ならこの状態ならそういう展開になりやすいのがある。しかし今回の場合、エビリファイなのである。
エビリファイは彼女に限らずたくさんの患者さんに処方していたので、たまに、このようなエネルギーを喪失した無気力状態に至る人がいることがだんだんわかってきていた。そういうこともあり、もう少し違った処方、たとえば、ルーランの少量とエビリファイの少量の組み合わせとかに変更しようかと思い始めていた。
ところが、彼女がそろそろ仕事をしたいと言い出したのである。見たところ、あまりにエネルギーがなく、僕は無理ではないかと思った。彼女によれば、日頃、苦しさ、不安とかそういう気持ちは全然ないのだという。いわゆるエビリファイっぽい、「平坦さ」である。これは良いかどうかというと非常に微妙なのだが、本人が働きたいというくらいなので、そう悪い状態ともいえない。僕が不満なだけで。よく考えると、以前に見られた人格障害っぽい状態や、解離などが全然みられなくなっていた。統合失調症の陰性症状のみが残遺している感じなのである。症状が非常に単純化していた。これはよくも悪くも、抗精神病薬治療をしたからだと思う。
彼女は就職活動を始め、ある会社の仕事を見つけてきていた。仕事内容はコンピュータ関係で、マイクロソフトオフィースのファイルに入力をするだけなのだという。本人に、オフィースを使ったことがあるのかどうか聞いてみたら、それは大丈夫なんだと。
結局、その後ずっと仕事は続けている。僕が思っていたより仕事はできたのである。もう仕事を始めてしまったので、今、処方変更するのはあまりにもという感じだ。ルーランを処方するタイミングを失ってしまった。あと、どうもエビリファイは3mgでも良かったような感じがしてならない。いずれも仕事をしている状況では変更するのはリスクが高いと思った。
この後、彼女が働き始めてからセロクエルを30mgまで減量し、このような処方にしていた。
エビリファイ 6mg
セロクエル 30mg↓
ところが、彼女はしばらくして来院しなくなったのである。普通、僕は去るものは追わない方針なのだが、彼女の家族の場合、他の病院にかかっているというわけでもなく、服薬を止めさせているのは間違いなかった。あれほど強く言って聞かせていたのに。
根本的に疾患理解や服薬をさせるモチベーションが低いのである。これは統合失調症の家族のある一型でもあり、過去ログにも断片的に出てきている。もちろん、そんな家族ばかりではないのだが。(参考)
2回ほどだろうか? 外来の看護師を通じて電話で連絡してもらったが、仕事が落ち着いたら受診しますというつれない返事。いったい何考えてるの?といったところである。統合失調症の患者さんでこんな風なパターンは時々あり、その結果、本人の病状が進行するのは家族の責任もかなりあると思う。
話が逸れるが、ある時、心療内科クリニックの友人から頼まれて20歳くらいの統合失調症の女性患者さんの入院治療を引き受けたことがあった。この患者さんは詳しく書くと長くなるので簡単に書くが、薬物治療についてはセロクエルの単剤でかなり改善し、退院にこぎつけた。情緒面で自然でやわらかい感じになり、ギクシャクとした印象がほとんどなくなっていた。セロクエルも、やる時はやるのである。
僕は、退院後はしばらく自宅療養を勧めたが、家族は根本的に考え方が異なっていた。彼女をすぐに県外の大都市へ行かせてアパートに独り住まいさせ、専門学校に通わせるという。僕がそれまで2ヶ月くらい診てきた範囲では、そのような無謀なことは単に病状を悪化させるだけと思われた。
彼女には、すぐに転居して1人で生活することは難しいし、病状悪化のリスクを考慮すると、専門学校も必ずしも今年行かなくても良いわけで、数ヶ月自宅療養しなさいと指導していた。
ところが、その指導に対し家族は腹を立てたのである。彼女はそのことを楽しみにしていたし、彼女の良いところを見てほしいと言う様な言い方であった。まあ言っていることは親らしく優しいが、あまりにも現実を直視していない。これはある種の「否認」だと思われる。これから退院するところであったし、そういう指導を受け入れるかどうかは本人や家族の自由のものだし、結局、そんな感じで退院になり、元のクリニックに戻っていった。
全く変な家族であった。
精神科医は、その患者さんの精神疾患を評価し、予後、人生をトータルに見て助言するところがあるので、部分的には家族の希望に沿わないところがもちろんある。
後に、クリニックの主治医を話をする機会があった。彼によれば、「あの家族は仕方ない」と言う言い方であった。特にクリニックに戻ってから、僕のことはボロ糞に酷評されていたらしい。でも友人は「セロクエルはとても良かった」と言い、治療については素晴らしかったというコメントであった。セロクエルも効くものだなとか・・当時まだ、クリニックではそこまでセロクエルは処方されていなかった時期である。
このタイプの家族は疾患の軽重の理解も乏しく、周囲のサポートのコンセンサスが噛みあわないのである。やるべき時にそれをせず、しなくてよい時に良くない働きかけをしやすい。
最初の「2人目の女性患者」の子の話に戻るが、通院中断して8ヶ月目に病状が悪化して再診した。その時の病状は、僕が最初に診た時と少し異なるものであった。
彼女によれば、薬を止めたあとも2~3ヶ月は仕事をしていたという。しかし何かできるといった感じではなく、「お茶くみだけしていた」という言い方であった。このあたり彼女は正直で、自分のできたこと以上に誇張して言ったりはしない。自己顕示的ではないのである。彼女は、コンピュータやスキャナーの仕事も教えてもらっても全然理解できない状態になったと言う。しかし同伴の母親はもう少し違った考え方であった。本人に「あなた、できたじゃない」と言うのである。
彼女本人は職場に行きはするが、まとまったことは全然できなかったという言い方なのであるが、母親は毎日職場に行っていたという事実を評価している感じであった。「この子は箱入り娘なので何もできない」などとトンチンカンな話をしている。これもある種の「否認」だと思われる。
今回再診した理由は、仕事を辞めて以降はひきこもりになり、怖くて外出できない、また昼夜逆転状態で昼間に寝て夜起きてテレビを観ているだけになったからという。家族が連れてきたというより、むしろ本人が苦しんでいて、家族を連れてきたと言う感じであった。
仔細に精神面のことを聞くと、人の話し声などの幻聴はないらしかった。だが、怖くて外に出られないので、外出が難しいという。僕は前回通院中断時の処方をそのまま出してみた。
エビリファイ 6mg
セロクエル 30mg
ところが、今回の悪化はこの処方ではうまくいかなかったのである。上の処方は、活発な陽性症状がある時に抑え込むほどの力は乏しく、本来は安定時の維持療法的な薬物の組み合わせと量なのである。
結局、この薬ではかえって、不眠、焦燥感、知覚過敏を煽る結果になった。本人は「吐き気がするし、幻覚妄想があるので入院したい」と言った。その日、退院後はデイケアに行きたいと話していた。
聴覚過敏が出現しているが、エビリファイのためか少し表情は改善しているように見えた。僕はドグマチールや眠剤などを追加しつつ外来で様子を見ていた。
彼女はエビリファイを服用するととても落ち着くという。またドグマチールは良いようだというが、この子は太りやすい体質なので気になった。ドグマチールは薬効はともかく、この子にはなるだけ使わない方が良い薬なのは間違いなかった。エビリファイは良いようには見えなかった。入院するしないについては、なんとなく伸び伸びになり、3日~1週間ごとに外来で様子を診ていた。悪化しているとは言え、決定的な悪さではないからである。
はっきりわかったことは、今の局面ではエビリファイは病状を悪化させているとしか思えないこと。彼女によれば、
① エビリファイは落ち着かない状態になりやすい
② 皆に嫌われているような気がしてくる。
③ 頭の中がはっきりしすぎてイライラする。
④ 人をみると怖い感じがする。
など必ずしもエビリファイのせいだけとも言えないものもあるが、一度エビリファイを中止してみた方が良い感じなのである。減量してデパケンなどを追加してみたが、かえってイライラが増した感じになり、特に人への恐怖感が消失しない。夜間に酷くなり隠れるような行動も見られたので、仕方がないので、リスパダールを追加することにした。僕がリスパダールをメインで処方する時はそれなりの覚悟がある時だ。(参考)
リスパダール 2mg
セロクエル 50mg
アキネトン 1mg
ロヒプノール 1mg
ハルシオン 0.25mg
こんな処方である。僕は少なくともこの程度の症状なら2mgは必要と思った。
3日後再診した時、イライラ感が減少していた。体はきつくない。心が疲れるだけという。ところが、1週間目にはアカシジアが出現していたのである。彼女によれば、朝は起きれるけど、それからが調子が良くないという。最近、いきなり3kg体重が増えたらしい。しかし表情は以前より改善しているので、リスパダールを減量すれば、まあまあうまくいくような感覚はあった。リスパダールは脳の興奮を抑えており、不安感や恐怖を減少させていた。この局面では最も気が利いている薬物と思われた。
リスパダール 1mg
ロヒプノール 1mg
ハルシオン 0.25mg
この処方で、陽性症状の改善と言う意味では一応の成果は収めることができた。今まではこれさえけっこう難しかったので、快方に向かっているのは間違いない。しかし、食欲が出過ぎるというリスパダールの欠点が出ており、しかも、少し落ち込んで嫌なことばかり考えるという。なんというスピード感。リスパダールを処方して2週間目でこのような感じなのである。リスパダールの特徴そのままである。
今の時点でリスパダールを中止すると、まとまらなくなるのは必至なので、ルーランを賦活のために少量追加することにした。今さらエビリファイを使う気にはならない。ルーランは4mg錠の4分の1を追加し、リスパダールを0.5mgに減量。ハルシオンを中止している。
ルーラン 1mg
リスパダール 0.5mg
ロヒプノール 1mg
この処方で1週間目に再診した時、本人はあまり良くないと浮かない顔であった。「気分が落ち込んでいる」という。集中力は以前よりはあるが、いろいろしていると急に悪くなる感じだという。ハンバーガー屋さんにアルバイトに行き始めたというので、人への恐怖感は減少しているのだろう。なんだか、前も思ったが、彼女はたいしたものだ。(すぐにアルバイトに行くところが・・
副作用について聞いてみた。彼女によれば、服薬している時の方がずっと良いという。今は座っていられない感じはない(アカシジアはない)。以前より本が読めるという。薬を飲み忘れると妄想が出るという。彼女にとって妄想が出るというのは人が怖くなることである。神経のぴりぴりとした感じが薬を飲んでいるとなくなる。過食が一時よりは減少しているが、それでも体重が増えるという。
その2週間後。
少し不快感がある。アルバイトには週に3~4回行っているが、休みの日は1日ゴロゴロしていて何もしない。集中力がない。前より働けているし前よりは良いみたいと言う。やけに大人しくなっており、いわば借りてきたネコ状態であった。これは彼女らしくない。無気力や抑うつに対し、ルーランを2mgに増量し、少し遅らせてリスパダールを減量する方針にした。ロヒプノールはもう必要ないという。
ルーラン 2mg↑
リスパダール 0.5mg
その2週間後。
次第に調子が良くなってきたらしい。ハンバーガー屋さんは昨日辞めて他のアルバイトを探しますという。今度は事務職がしたいという。薬の副作用は全然ない。昼も眠くない。気力は今ひとつ。忙しく仕事をしているのに体重が増えるって・・というので、リスパダールを減量することにした。これまでの流れだと、リスパダールよりルーランの方が現在の一息ついた状態では合っているように見える。
ルーラン 2mg
リスパダール 0.25mg↓
彼女は30日だけの臨時職を見つけてきていた。そこで働くので一度に30日分くらい薬がほしいという。上の処方でその仕事の期間様子をみることにした。
その1ヵ月後。なんと、この1ヶ月で5kgも体重が増えたのである。
リスパダール恐るべし・・
非常に忙しい職場で仕事をしていたのに、しかも0.25mgしか服用していないのに、ここまで体重が増えるってどういうことよ。
普通、リスパダールの体重増加は用量依存性があるようには見える。例えば6mgを3mgくらいに減量すると体重が減ることが多いからだ。しかし、増える人は0.25mgでも増えるのである。
彼女によればそう食べてもいないのに増えるというので、思い切ってリスパダールを中止し、ルーラン4mg単剤としてみることにした。今は怖い感じもないし、仕事も思うようにできたという。
現在の処方
ルーラン 4mg
本人はあまり食べないなどと言うが、アイスクリーム、ポテトチップス、シュークリームが好きらしい。元々、1人目~3人目の女性患者のエントリはいずれも綺麗な若い子をアップしていたのに、ここまで体重が増えたら台無しである。僕は食事指導をした。ルーラン単剤以降、少なくとも体重増加は止まったが、本人が積極的に減量する気が乏しいのか減りもしなかった。
その後、彼女は専門学校に行くことを決め、今は登校している。学校に行き始めて、少しだけ体重が減ったらしい。2kgだけね。
最近は一時よりあまり食べなくなっているという。学校へはバイクで通っている。彼女の母親によれば、少しポワンとした感じではあるらしい。意欲、抑うつの面ではルーランはリスパダールよりずっと良い。それはベストではないだろうけど。
最初のログでルーランに切り替えてみるタイミングを失ったなどと書いていたが、変な展開から、それが実現したのである。ルーランはエビリファイのようにカラ元気を出す感じでもなく、わりあい自然なのが良い。最初からルーランだとこういう風にはうまくはいかなかったであろうが。
彼女には改めて服薬の意味を説明した。しかし家族にはなかなか理解できないのではないかと思う。彼女の家族は冷たいとか、親身でないとは到底いえない。ある意味、彼女を心配してはいるのであるが、全く違った次元で彼女の精神疾患と噛みあっていないのであった。
参考
薬を増やしてほしくない父親
3人目の女性患者(その2)
待合室の若い女性患者
2人目の女性患者
過去ログから抜粋(「2人目の女性患者」より)
エビリファイ 6mg
セロクエル 40mg
この処方で、抗不安薬も眠剤も必要なかった。当時、僕はこういう風にしばらく療養していると次第に元気になってくるのではないかと思っていた。少なくとも、旧来の薬ならこの状態ならそういう展開になりやすいのがある。しかし今回の場合、エビリファイなのである。
エビリファイは彼女に限らずたくさんの患者さんに処方していたので、たまに、このようなエネルギーを喪失した無気力状態に至る人がいることがだんだんわかってきていた。そういうこともあり、もう少し違った処方、たとえば、ルーランの少量とエビリファイの少量の組み合わせとかに変更しようかと思い始めていた。
ところが、彼女がそろそろ仕事をしたいと言い出したのである。見たところ、あまりにエネルギーがなく、僕は無理ではないかと思った。彼女によれば、日頃、苦しさ、不安とかそういう気持ちは全然ないのだという。いわゆるエビリファイっぽい、「平坦さ」である。これは良いかどうかというと非常に微妙なのだが、本人が働きたいというくらいなので、そう悪い状態ともいえない。僕が不満なだけで。よく考えると、以前に見られた人格障害っぽい状態や、解離などが全然みられなくなっていた。統合失調症の陰性症状のみが残遺している感じなのである。症状が非常に単純化していた。これはよくも悪くも、抗精神病薬治療をしたからだと思う。
彼女は就職活動を始め、ある会社の仕事を見つけてきていた。仕事内容はコンピュータ関係で、マイクロソフトオフィースのファイルに入力をするだけなのだという。本人に、オフィースを使ったことがあるのかどうか聞いてみたら、それは大丈夫なんだと。
結局、その後ずっと仕事は続けている。僕が思っていたより仕事はできたのである。もう仕事を始めてしまったので、今、処方変更するのはあまりにもという感じだ。ルーランを処方するタイミングを失ってしまった。あと、どうもエビリファイは3mgでも良かったような感じがしてならない。いずれも仕事をしている状況では変更するのはリスクが高いと思った。
この後、彼女が働き始めてからセロクエルを30mgまで減量し、このような処方にしていた。
エビリファイ 6mg
セロクエル 30mg↓
ところが、彼女はしばらくして来院しなくなったのである。普通、僕は去るものは追わない方針なのだが、彼女の家族の場合、他の病院にかかっているというわけでもなく、服薬を止めさせているのは間違いなかった。あれほど強く言って聞かせていたのに。
根本的に疾患理解や服薬をさせるモチベーションが低いのである。これは統合失調症の家族のある一型でもあり、過去ログにも断片的に出てきている。もちろん、そんな家族ばかりではないのだが。(参考)
2回ほどだろうか? 外来の看護師を通じて電話で連絡してもらったが、仕事が落ち着いたら受診しますというつれない返事。いったい何考えてるの?といったところである。統合失調症の患者さんでこんな風なパターンは時々あり、その結果、本人の病状が進行するのは家族の責任もかなりあると思う。
話が逸れるが、ある時、心療内科クリニックの友人から頼まれて20歳くらいの統合失調症の女性患者さんの入院治療を引き受けたことがあった。この患者さんは詳しく書くと長くなるので簡単に書くが、薬物治療についてはセロクエルの単剤でかなり改善し、退院にこぎつけた。情緒面で自然でやわらかい感じになり、ギクシャクとした印象がほとんどなくなっていた。セロクエルも、やる時はやるのである。
僕は、退院後はしばらく自宅療養を勧めたが、家族は根本的に考え方が異なっていた。彼女をすぐに県外の大都市へ行かせてアパートに独り住まいさせ、専門学校に通わせるという。僕がそれまで2ヶ月くらい診てきた範囲では、そのような無謀なことは単に病状を悪化させるだけと思われた。
彼女には、すぐに転居して1人で生活することは難しいし、病状悪化のリスクを考慮すると、専門学校も必ずしも今年行かなくても良いわけで、数ヶ月自宅療養しなさいと指導していた。
ところが、その指導に対し家族は腹を立てたのである。彼女はそのことを楽しみにしていたし、彼女の良いところを見てほしいと言う様な言い方であった。まあ言っていることは親らしく優しいが、あまりにも現実を直視していない。これはある種の「否認」だと思われる。これから退院するところであったし、そういう指導を受け入れるかどうかは本人や家族の自由のものだし、結局、そんな感じで退院になり、元のクリニックに戻っていった。
全く変な家族であった。
精神科医は、その患者さんの精神疾患を評価し、予後、人生をトータルに見て助言するところがあるので、部分的には家族の希望に沿わないところがもちろんある。
後に、クリニックの主治医を話をする機会があった。彼によれば、「あの家族は仕方ない」と言う言い方であった。特にクリニックに戻ってから、僕のことはボロ糞に酷評されていたらしい。でも友人は「セロクエルはとても良かった」と言い、治療については素晴らしかったというコメントであった。セロクエルも効くものだなとか・・当時まだ、クリニックではそこまでセロクエルは処方されていなかった時期である。
このタイプの家族は疾患の軽重の理解も乏しく、周囲のサポートのコンセンサスが噛みあわないのである。やるべき時にそれをせず、しなくてよい時に良くない働きかけをしやすい。
最初の「2人目の女性患者」の子の話に戻るが、通院中断して8ヶ月目に病状が悪化して再診した。その時の病状は、僕が最初に診た時と少し異なるものであった。
彼女によれば、薬を止めたあとも2~3ヶ月は仕事をしていたという。しかし何かできるといった感じではなく、「お茶くみだけしていた」という言い方であった。このあたり彼女は正直で、自分のできたこと以上に誇張して言ったりはしない。自己顕示的ではないのである。彼女は、コンピュータやスキャナーの仕事も教えてもらっても全然理解できない状態になったと言う。しかし同伴の母親はもう少し違った考え方であった。本人に「あなた、できたじゃない」と言うのである。
彼女本人は職場に行きはするが、まとまったことは全然できなかったという言い方なのであるが、母親は毎日職場に行っていたという事実を評価している感じであった。「この子は箱入り娘なので何もできない」などとトンチンカンな話をしている。これもある種の「否認」だと思われる。
今回再診した理由は、仕事を辞めて以降はひきこもりになり、怖くて外出できない、また昼夜逆転状態で昼間に寝て夜起きてテレビを観ているだけになったからという。家族が連れてきたというより、むしろ本人が苦しんでいて、家族を連れてきたと言う感じであった。
仔細に精神面のことを聞くと、人の話し声などの幻聴はないらしかった。だが、怖くて外に出られないので、外出が難しいという。僕は前回通院中断時の処方をそのまま出してみた。
エビリファイ 6mg
セロクエル 30mg
ところが、今回の悪化はこの処方ではうまくいかなかったのである。上の処方は、活発な陽性症状がある時に抑え込むほどの力は乏しく、本来は安定時の維持療法的な薬物の組み合わせと量なのである。
結局、この薬ではかえって、不眠、焦燥感、知覚過敏を煽る結果になった。本人は「吐き気がするし、幻覚妄想があるので入院したい」と言った。その日、退院後はデイケアに行きたいと話していた。
聴覚過敏が出現しているが、エビリファイのためか少し表情は改善しているように見えた。僕はドグマチールや眠剤などを追加しつつ外来で様子を見ていた。
彼女はエビリファイを服用するととても落ち着くという。またドグマチールは良いようだというが、この子は太りやすい体質なので気になった。ドグマチールは薬効はともかく、この子にはなるだけ使わない方が良い薬なのは間違いなかった。エビリファイは良いようには見えなかった。入院するしないについては、なんとなく伸び伸びになり、3日~1週間ごとに外来で様子を診ていた。悪化しているとは言え、決定的な悪さではないからである。
はっきりわかったことは、今の局面ではエビリファイは病状を悪化させているとしか思えないこと。彼女によれば、
① エビリファイは落ち着かない状態になりやすい
② 皆に嫌われているような気がしてくる。
③ 頭の中がはっきりしすぎてイライラする。
④ 人をみると怖い感じがする。
など必ずしもエビリファイのせいだけとも言えないものもあるが、一度エビリファイを中止してみた方が良い感じなのである。減量してデパケンなどを追加してみたが、かえってイライラが増した感じになり、特に人への恐怖感が消失しない。夜間に酷くなり隠れるような行動も見られたので、仕方がないので、リスパダールを追加することにした。僕がリスパダールをメインで処方する時はそれなりの覚悟がある時だ。(参考)
リスパダール 2mg
セロクエル 50mg
アキネトン 1mg
ロヒプノール 1mg
ハルシオン 0.25mg
こんな処方である。僕は少なくともこの程度の症状なら2mgは必要と思った。
3日後再診した時、イライラ感が減少していた。体はきつくない。心が疲れるだけという。ところが、1週間目にはアカシジアが出現していたのである。彼女によれば、朝は起きれるけど、それからが調子が良くないという。最近、いきなり3kg体重が増えたらしい。しかし表情は以前より改善しているので、リスパダールを減量すれば、まあまあうまくいくような感覚はあった。リスパダールは脳の興奮を抑えており、不安感や恐怖を減少させていた。この局面では最も気が利いている薬物と思われた。
リスパダール 1mg
ロヒプノール 1mg
ハルシオン 0.25mg
この処方で、陽性症状の改善と言う意味では一応の成果は収めることができた。今まではこれさえけっこう難しかったので、快方に向かっているのは間違いない。しかし、食欲が出過ぎるというリスパダールの欠点が出ており、しかも、少し落ち込んで嫌なことばかり考えるという。なんというスピード感。リスパダールを処方して2週間目でこのような感じなのである。リスパダールの特徴そのままである。
今の時点でリスパダールを中止すると、まとまらなくなるのは必至なので、ルーランを賦活のために少量追加することにした。今さらエビリファイを使う気にはならない。ルーランは4mg錠の4分の1を追加し、リスパダールを0.5mgに減量。ハルシオンを中止している。
ルーラン 1mg
リスパダール 0.5mg
ロヒプノール 1mg
この処方で1週間目に再診した時、本人はあまり良くないと浮かない顔であった。「気分が落ち込んでいる」という。集中力は以前よりはあるが、いろいろしていると急に悪くなる感じだという。ハンバーガー屋さんにアルバイトに行き始めたというので、人への恐怖感は減少しているのだろう。なんだか、前も思ったが、彼女はたいしたものだ。(すぐにアルバイトに行くところが・・
副作用について聞いてみた。彼女によれば、服薬している時の方がずっと良いという。今は座っていられない感じはない(アカシジアはない)。以前より本が読めるという。薬を飲み忘れると妄想が出るという。彼女にとって妄想が出るというのは人が怖くなることである。神経のぴりぴりとした感じが薬を飲んでいるとなくなる。過食が一時よりは減少しているが、それでも体重が増えるという。
その2週間後。
少し不快感がある。アルバイトには週に3~4回行っているが、休みの日は1日ゴロゴロしていて何もしない。集中力がない。前より働けているし前よりは良いみたいと言う。やけに大人しくなっており、いわば借りてきたネコ状態であった。これは彼女らしくない。無気力や抑うつに対し、ルーランを2mgに増量し、少し遅らせてリスパダールを減量する方針にした。ロヒプノールはもう必要ないという。
ルーラン 2mg↑
リスパダール 0.5mg
その2週間後。
次第に調子が良くなってきたらしい。ハンバーガー屋さんは昨日辞めて他のアルバイトを探しますという。今度は事務職がしたいという。薬の副作用は全然ない。昼も眠くない。気力は今ひとつ。忙しく仕事をしているのに体重が増えるって・・というので、リスパダールを減量することにした。これまでの流れだと、リスパダールよりルーランの方が現在の一息ついた状態では合っているように見える。
ルーラン 2mg
リスパダール 0.25mg↓
彼女は30日だけの臨時職を見つけてきていた。そこで働くので一度に30日分くらい薬がほしいという。上の処方でその仕事の期間様子をみることにした。
その1ヵ月後。なんと、この1ヶ月で5kgも体重が増えたのである。
リスパダール恐るべし・・
非常に忙しい職場で仕事をしていたのに、しかも0.25mgしか服用していないのに、ここまで体重が増えるってどういうことよ。
普通、リスパダールの体重増加は用量依存性があるようには見える。例えば6mgを3mgくらいに減量すると体重が減ることが多いからだ。しかし、増える人は0.25mgでも増えるのである。
彼女によればそう食べてもいないのに増えるというので、思い切ってリスパダールを中止し、ルーラン4mg単剤としてみることにした。今は怖い感じもないし、仕事も思うようにできたという。
現在の処方
ルーラン 4mg
本人はあまり食べないなどと言うが、アイスクリーム、ポテトチップス、シュークリームが好きらしい。元々、1人目~3人目の女性患者のエントリはいずれも綺麗な若い子をアップしていたのに、ここまで体重が増えたら台無しである。僕は食事指導をした。ルーラン単剤以降、少なくとも体重増加は止まったが、本人が積極的に減量する気が乏しいのか減りもしなかった。
その後、彼女は専門学校に行くことを決め、今は登校している。学校に行き始めて、少しだけ体重が減ったらしい。2kgだけね。
最近は一時よりあまり食べなくなっているという。学校へはバイクで通っている。彼女の母親によれば、少しポワンとした感じではあるらしい。意欲、抑うつの面ではルーランはリスパダールよりずっと良い。それはベストではないだろうけど。
最初のログでルーランに切り替えてみるタイミングを失ったなどと書いていたが、変な展開から、それが実現したのである。ルーランはエビリファイのようにカラ元気を出す感じでもなく、わりあい自然なのが良い。最初からルーランだとこういう風にはうまくはいかなかったであろうが。
彼女には改めて服薬の意味を説明した。しかし家族にはなかなか理解できないのではないかと思う。彼女の家族は冷たいとか、親身でないとは到底いえない。ある意味、彼女を心配してはいるのであるが、全く違った次元で彼女の精神疾患と噛みあっていないのであった。
参考
薬を増やしてほしくない父親
3人目の女性患者(その2)
待合室の若い女性患者
2人目の女性患者