待合室の若い女性患者
ある日、母親に連れられて若い女性患者が初診した。主訴は「不眠、情緒不安定」くらいだったと思う。まだ診察する前だが、外来婦長はその子の待合室での様子は相当に変だという。空笑、独り言があると言うのだ。あの子は幻聴があるんじゃないかしら?そんな風に話していた。
僕は初診時に、ひとめ統合失調症ではないと思った。
僕が「ひとめ統合失調症でない」という場合、対人接触性が保たれていることを意味している。また診察時、彼女はわりあいはっきり受け答えをするし、病前性格は統合失調症的ではなかった。母親によると、彼女は気性が激しい方で頑固、言い出したら聞かないタイプだという。普段から口数も多く、良いものは良い、悪いものは悪いとはっきり言うような性格というのだ。(参考1、参考2)
また、母親もいわゆる「統合失調症の母親」ではなかった。彼女の母親は、非定型精神病、双極性障害、(あるいはパーキンソン病、レビー小体病)の家族のように見えた。(参考)
こういう点から、見た目に統合失調症ではないし、双極2型~非定型精神病の初発くらいかもしれないと思った。そういう場合、顔、表情に特別な気配がないのである。もちろん一過性の精神病状態にとどまり、痕跡を残さず治癒する可能性もある。(参考)
この時点で、同じような所見でも、統合失調症の人はもう統合失調症なのである。
また、このような人に、初診でリスパダール液を処方するのは論外と思う。
母親は家で彼女に手を焼いていることもあり、できれば入院させてほしいようであった。しかし、その子を説得して入院させるのは相当に難しいと感じた。病識なんて全然なかったからだ。重いならともかく、あの程度の精神症状で嫌がる状況で入院させるのはこちらも相当に辛い。それに無理に入院させるということは、彼女を傷つけるということだ。苦労して入院させる価値があるかどうかも微妙なのである。(参考)
僕は母親がしっかりしていることもあり、外来治療を勧め、平凡にドグマチールを100mgだけ処方した。
ドグマチール 100mg
こういう時、母親とあうんの呼吸というか、一瞬でコンセンサスが得られるような家族は統合失調症的ではないと思う。かみ合わない感触は一切ないのである。統合失調症の家族だと、彼らは決して病気ではないのだが、認知のズレを感じることも稀ではない。コミュニケーションがかみ合わない印象を持つのである。
もちろん、これはあくまで診察の上のファジーな参考事項であり、最も重要な点はその子が何だ?ということだ(参考)。またこんな時に「痴呆」が「認知症」という名前に変わったのが表現の障害になっている。認知の問題は統合失調症にもあり、一般の人に誤解を与えやすいと思う。
彼女に処方したドグマチールだが、すごく眠かったらしいのである。なんだかグダグダになり昼間にもいつも寝ているような状態になったという。これは後に笑い話的なエピソードになり、休養が取れて良かったという話になった。
再診した時、ほとんど症状がないようにも見えるし、母親もほとんど良くなったというので今後の方針についてちょっと迷った。急に改善したとしても、しばらく薬を続けるのが普通だ。結局、本人が眠いと言い薬を嫌がったこともあり、思い切って中止することにした。
その後、薬は出さないが、1~2週間に1度ずつ再診してもらうことにした。まだ非定型精神病なのか、あるいは双極性障害なのか、あるいは正体不明の症状精神病なのか判明していなかった。もちろん、このまま症状が消え去る人もいる。
程度にもよるが、このようなタイプの患者さんに、リスパダール液が論外なのは、精神症状に紛れが生じることが大きい。僕はリスパダールを使ったために、統合失調症に移行することはありえないと思う。生物学的には、既に疾患の方向性が見えているからだ。
同じような理由でSSRIも不適切である。なぜSSRIがダメかというと、不安焦燥を煽ってリストカットが出たり、あるいは希死念慮が出たり、病像が一変することがあるからだ。だいたい双極性障害の可能性もあるわけだし、抗うつ剤を安易に使って良いはずはない。その視点では、デパケンRも悪くない選択肢とは言えた。
それから約2ヵ月後。
母親によれば、また情緒不安定になってきたのだという。時々泣いたり、母親を責めるという。その日、再診した時、薬はやはり必要だと感じた。
しかし、これにちょうど良い薬があまりないと思った。ドグマチールでも眠くて困るほどなのである。いわゆる幻覚妄想的な色彩が初診時にあったことと、抗不安作用も期待してルーランを選んだ。もちろんデパケンRでも間違いではないと思うが、この時点では何をしたいのかイマイチ焦点がぼけていると思う。リボトリールも大きな間違いではない。しかし僕はもう少し踏み込みたかったのである。
ルーラン 1mg
僕は量は迷ったが、1mgとした。(4mg錠の4分の1)実は0.5mgと1mgのいずれかに迷ったのである。ルーランは少ない量ではルーラン本体とルーランの代謝物がよりセロトニン2Aレセプターに親和性を発揮し、多い量とはかなり違った振る舞いをする。ルーランのこのような薬理作用はクロザピン・ライクと呼ばれている。ルーランは少ない量だとクロザピンに似てくるのである。
結果だが、ルーランは驚くほど効いたのである。たった1mgですべての症状が消失、表情もとても明るくなった。情緒も安定したのであった。たいして時間がかからなかったし、薬もろくに使わなかった。この良くなり方は母親からもとても感謝された。数ヵ月後、ルーランを中止した。
正体不明のまま治癒になったのである。僕は、若い人はこういう流れになる人が相当にいるような気がしている。
参考
若い人へのSSRIの処方について
統合失調症は治るのか?
やっぱり母親というのはすごいよ
僕は初診時に、ひとめ統合失調症ではないと思った。
僕が「ひとめ統合失調症でない」という場合、対人接触性が保たれていることを意味している。また診察時、彼女はわりあいはっきり受け答えをするし、病前性格は統合失調症的ではなかった。母親によると、彼女は気性が激しい方で頑固、言い出したら聞かないタイプだという。普段から口数も多く、良いものは良い、悪いものは悪いとはっきり言うような性格というのだ。(参考1、参考2)
また、母親もいわゆる「統合失調症の母親」ではなかった。彼女の母親は、非定型精神病、双極性障害、(あるいはパーキンソン病、レビー小体病)の家族のように見えた。(参考)
こういう点から、見た目に統合失調症ではないし、双極2型~非定型精神病の初発くらいかもしれないと思った。そういう場合、顔、表情に特別な気配がないのである。もちろん一過性の精神病状態にとどまり、痕跡を残さず治癒する可能性もある。(参考)
この時点で、同じような所見でも、統合失調症の人はもう統合失調症なのである。
また、このような人に、初診でリスパダール液を処方するのは論外と思う。
母親は家で彼女に手を焼いていることもあり、できれば入院させてほしいようであった。しかし、その子を説得して入院させるのは相当に難しいと感じた。病識なんて全然なかったからだ。重いならともかく、あの程度の精神症状で嫌がる状況で入院させるのはこちらも相当に辛い。それに無理に入院させるということは、彼女を傷つけるということだ。苦労して入院させる価値があるかどうかも微妙なのである。(参考)
僕は母親がしっかりしていることもあり、外来治療を勧め、平凡にドグマチールを100mgだけ処方した。
ドグマチール 100mg
こういう時、母親とあうんの呼吸というか、一瞬でコンセンサスが得られるような家族は統合失調症的ではないと思う。かみ合わない感触は一切ないのである。統合失調症の家族だと、彼らは決して病気ではないのだが、認知のズレを感じることも稀ではない。コミュニケーションがかみ合わない印象を持つのである。
もちろん、これはあくまで診察の上のファジーな参考事項であり、最も重要な点はその子が何だ?ということだ(参考)。またこんな時に「痴呆」が「認知症」という名前に変わったのが表現の障害になっている。認知の問題は統合失調症にもあり、一般の人に誤解を与えやすいと思う。
彼女に処方したドグマチールだが、すごく眠かったらしいのである。なんだかグダグダになり昼間にもいつも寝ているような状態になったという。これは後に笑い話的なエピソードになり、休養が取れて良かったという話になった。
再診した時、ほとんど症状がないようにも見えるし、母親もほとんど良くなったというので今後の方針についてちょっと迷った。急に改善したとしても、しばらく薬を続けるのが普通だ。結局、本人が眠いと言い薬を嫌がったこともあり、思い切って中止することにした。
その後、薬は出さないが、1~2週間に1度ずつ再診してもらうことにした。まだ非定型精神病なのか、あるいは双極性障害なのか、あるいは正体不明の症状精神病なのか判明していなかった。もちろん、このまま症状が消え去る人もいる。
程度にもよるが、このようなタイプの患者さんに、リスパダール液が論外なのは、精神症状に紛れが生じることが大きい。僕はリスパダールを使ったために、統合失調症に移行することはありえないと思う。生物学的には、既に疾患の方向性が見えているからだ。
同じような理由でSSRIも不適切である。なぜSSRIがダメかというと、不安焦燥を煽ってリストカットが出たり、あるいは希死念慮が出たり、病像が一変することがあるからだ。だいたい双極性障害の可能性もあるわけだし、抗うつ剤を安易に使って良いはずはない。その視点では、デパケンRも悪くない選択肢とは言えた。
それから約2ヵ月後。
母親によれば、また情緒不安定になってきたのだという。時々泣いたり、母親を責めるという。その日、再診した時、薬はやはり必要だと感じた。
しかし、これにちょうど良い薬があまりないと思った。ドグマチールでも眠くて困るほどなのである。いわゆる幻覚妄想的な色彩が初診時にあったことと、抗不安作用も期待してルーランを選んだ。もちろんデパケンRでも間違いではないと思うが、この時点では何をしたいのかイマイチ焦点がぼけていると思う。リボトリールも大きな間違いではない。しかし僕はもう少し踏み込みたかったのである。
ルーラン 1mg
僕は量は迷ったが、1mgとした。(4mg錠の4分の1)実は0.5mgと1mgのいずれかに迷ったのである。ルーランは少ない量ではルーラン本体とルーランの代謝物がよりセロトニン2Aレセプターに親和性を発揮し、多い量とはかなり違った振る舞いをする。ルーランのこのような薬理作用はクロザピン・ライクと呼ばれている。ルーランは少ない量だとクロザピンに似てくるのである。
結果だが、ルーランは驚くほど効いたのである。たった1mgですべての症状が消失、表情もとても明るくなった。情緒も安定したのであった。たいして時間がかからなかったし、薬もろくに使わなかった。この良くなり方は母親からもとても感謝された。数ヵ月後、ルーランを中止した。
正体不明のまま治癒になったのである。僕は、若い人はこういう流れになる人が相当にいるような気がしている。
参考
若い人へのSSRIの処方について
統合失調症は治るのか?
やっぱり母親というのはすごいよ