薬を増やしてほしくない父親
お手伝いに行っている病院で30歳くらいの統合失調症の女性患者さんを治療していた時、日によってずいぶん調子に差があることに気がついた。本人や同伴している父親があまり話さないので、最初はあまりその関係がわからなかった。調子が良いと時は自然な表情なのであるが、調子が悪い時は表情が硬く、時には独語が酷くて、全然薬が効いていないのではと思うほどなのである。
いろいろ家族や本人に聞いてみると、どうも月経の前にはそういう風になるらしい。(参考)統合失調症でこれほど差がある人は比較的少ないのではないかと思った。月経前に悪くなる人も統合失調症の中にいるのはいるけど、エストロゲン変動による精神症状の悪化って、やはり感情障害系の人に起こりやすいのよね。
この人の場合、女性なのでなんだが、まさに「ジキルとハイド」みたいな感じであった。(誰かジキルとハイドの女性形を知っている人がいる?)
この女性患者さんはジプレキサザイディス10mgで落ち着いたが、良い時期は表情的にも良いのだが、ハイドの時はそれほど良くはないのである。問題は本人はともかく、彼女の父親はジプレキサザイディス10mgの処方でけっこう満足していることであった。精神科医は、たぶん僕だけではないと思うが、薬物治療をする以上、中途半端な状態で終えるのは不満だ。いったん薬物治療を始めたら1錠飲むのも3錠飲むのも「薬を飲む」ということでは変わらないと思うから。一見、違うように思えるだけだ。そうなら徹底的に治療すべき。この人は統合失調症なのである。
僕はジプレキサをこれ以上増やすより、他の薬物を併用するほうが良い結果になるような気がしていた。まあそれでもジプレキサを15mgまで増やして経過を見ることも1つの選択肢ではあった。彼女の父親がああでなかったなら、たぶんデパケンRかテグレトールくらいを併用していたような気がする。薬の増量を提案すると、彼女の父親はすぐに難色を示した。
「薬離れができなくなるんじゃないかと・・」
「年とってからアルツハイマーになる・・」
と言って愚痴をこぼしている。僕の性格的なものもあるが、こういう風に増量を父親が嫌うので、そのまま数ヶ月はジプレキサザイディス10mgそのままにしていた。こういうのを無理して増量して副作用が出るとか、あるいは予想もしないような病状悪化を来たした場合、父親から文句を言われそうなのが嫌なのと、まあ一般的にいう「良好な医師・患者関係」を維持したいのもあった。結局、妥協していったん撤退したのである。
ジプレキサは彼女にはあっているようで、月経前以外はかなり良かった。その後、彼女はハイドの時に再診したのである。その日、あまりに表情が硬いので、また薬物変更を提案してみた。すると父親は、
「薬に依存するのもねえ・・」
「生理の時に悪くなるだけ・・」
「女の子だから心配している」
なんて言っているのである。どうも薬はこのままにしたいらしい。
頭、痛くなってきた・・
なんちゅうオヤジやぁ・・
彼女の人生はあんたのものではないと思うぞ・・
と思った。彼女の父親は田舎のおじいさんと言った感じでインテリではない。しかし、現実にはインテリの家族にもこのような父親がけっこういる。それどころか父親が医師の場合ですら、こういう光景を目撃することがある。精神科業界だけは特別なのである。精神医療に漠然とした不安や不信感があるのかもしれない。
この日は僕も覚悟を決めており、本人と父親に症状の波があるのも十分に良くないということを話した。薬を飲む以上、なにがしか症状が残っているのは良くないし、長期的には本人にとっても不利益だと説明した。ちょうどデイケア記録もあったので、その中の悪い記録の内容も読んで聞かせたのである。
僕はデパケンRとかテグレトールだと1錠では済まないので、やはり父親に心証が悪いと思った。できれば最小限の錠剤で改善したい。それと彼女はエビリファイが合うような感触があったので、エビリファイを1.5mgだけ追加してみたのであった。「半錠だけ追加」と言うのが父親には受け入れられた
その結果だが、エビリファイはスタビライザー的な効果があるのかわからないが、けっこう良くなったのである。(参考)彼女に聞くと、
「本が読めるようになった」
「外出してひとりで買い物に行けるようになった」
と日常生活のQOLを改善しており、エビリファイ1.5mgだけでもけっこうヒットだった。その日、エビリファイを3mgまで増やすように伝えたが、まだ父親はグダグダ言っているのである。彼女本人も呆れているといったところ。どっちが病識がないのかサッパリわからない。
うちの病院には家族会なるものがない。理由は今はそんな時代ではないと思っていることと(参考)。いろいろ勉強会で話しても認知の面でうまく家族に理解されないことが多いからと言うのもある。その日、なんとかエビリファイ3mgまで増やして今はこのような処方。
エビリファイ 3mg
ジプレキサザイディス 10mg
(一度に夕食後に飲む)
あんがいエビリファイはこの量でベストのような気がしている。エビリファイ3mgとジプレキサ5mgでも良い可能性がある。
今の処方の感想を彼女に聞いてみた。彼女によれば、以前よりぐっすり眠れるようになったらしい。エビリファイをわざわざ夕食後処方にしている理由は、彼女はエビリファイで不眠が出ないことと、1日1回の処方にしないと父親が非常に薬が増えたと錯覚するのではないかと思ったことがある(エビリファイ1.5mgの時は1日1回お昼に服用だった)。来年1月くらいまではこの処方でいくつもりだ。
精神科医はこのような気苦労もあるのである。
参考
患者さんの家族は
いろいろ家族や本人に聞いてみると、どうも月経の前にはそういう風になるらしい。(参考)統合失調症でこれほど差がある人は比較的少ないのではないかと思った。月経前に悪くなる人も統合失調症の中にいるのはいるけど、エストロゲン変動による精神症状の悪化って、やはり感情障害系の人に起こりやすいのよね。
この人の場合、女性なのでなんだが、まさに「ジキルとハイド」みたいな感じであった。(誰かジキルとハイドの女性形を知っている人がいる?)
この女性患者さんはジプレキサザイディス10mgで落ち着いたが、良い時期は表情的にも良いのだが、ハイドの時はそれほど良くはないのである。問題は本人はともかく、彼女の父親はジプレキサザイディス10mgの処方でけっこう満足していることであった。精神科医は、たぶん僕だけではないと思うが、薬物治療をする以上、中途半端な状態で終えるのは不満だ。いったん薬物治療を始めたら1錠飲むのも3錠飲むのも「薬を飲む」ということでは変わらないと思うから。一見、違うように思えるだけだ。そうなら徹底的に治療すべき。この人は統合失調症なのである。
僕はジプレキサをこれ以上増やすより、他の薬物を併用するほうが良い結果になるような気がしていた。まあそれでもジプレキサを15mgまで増やして経過を見ることも1つの選択肢ではあった。彼女の父親がああでなかったなら、たぶんデパケンRかテグレトールくらいを併用していたような気がする。薬の増量を提案すると、彼女の父親はすぐに難色を示した。
「薬離れができなくなるんじゃないかと・・」
「年とってからアルツハイマーになる・・」
と言って愚痴をこぼしている。僕の性格的なものもあるが、こういう風に増量を父親が嫌うので、そのまま数ヶ月はジプレキサザイディス10mgそのままにしていた。こういうのを無理して増量して副作用が出るとか、あるいは予想もしないような病状悪化を来たした場合、父親から文句を言われそうなのが嫌なのと、まあ一般的にいう「良好な医師・患者関係」を維持したいのもあった。結局、妥協していったん撤退したのである。
ジプレキサは彼女にはあっているようで、月経前以外はかなり良かった。その後、彼女はハイドの時に再診したのである。その日、あまりに表情が硬いので、また薬物変更を提案してみた。すると父親は、
「薬に依存するのもねえ・・」
「生理の時に悪くなるだけ・・」
「女の子だから心配している」
なんて言っているのである。どうも薬はこのままにしたいらしい。
頭、痛くなってきた・・
なんちゅうオヤジやぁ・・
彼女の人生はあんたのものではないと思うぞ・・
と思った。彼女の父親は田舎のおじいさんと言った感じでインテリではない。しかし、現実にはインテリの家族にもこのような父親がけっこういる。それどころか父親が医師の場合ですら、こういう光景を目撃することがある。精神科業界だけは特別なのである。精神医療に漠然とした不安や不信感があるのかもしれない。
この日は僕も覚悟を決めており、本人と父親に症状の波があるのも十分に良くないということを話した。薬を飲む以上、なにがしか症状が残っているのは良くないし、長期的には本人にとっても不利益だと説明した。ちょうどデイケア記録もあったので、その中の悪い記録の内容も読んで聞かせたのである。
僕はデパケンRとかテグレトールだと1錠では済まないので、やはり父親に心証が悪いと思った。できれば最小限の錠剤で改善したい。それと彼女はエビリファイが合うような感触があったので、エビリファイを1.5mgだけ追加してみたのであった。「半錠だけ追加」と言うのが父親には受け入れられた
その結果だが、エビリファイはスタビライザー的な効果があるのかわからないが、けっこう良くなったのである。(参考)彼女に聞くと、
「本が読めるようになった」
「外出してひとりで買い物に行けるようになった」
と日常生活のQOLを改善しており、エビリファイ1.5mgだけでもけっこうヒットだった。その日、エビリファイを3mgまで増やすように伝えたが、まだ父親はグダグダ言っているのである。彼女本人も呆れているといったところ。どっちが病識がないのかサッパリわからない。
うちの病院には家族会なるものがない。理由は今はそんな時代ではないと思っていることと(参考)。いろいろ勉強会で話しても認知の面でうまく家族に理解されないことが多いからと言うのもある。その日、なんとかエビリファイ3mgまで増やして今はこのような処方。
エビリファイ 3mg
ジプレキサザイディス 10mg
(一度に夕食後に飲む)
あんがいエビリファイはこの量でベストのような気がしている。エビリファイ3mgとジプレキサ5mgでも良い可能性がある。
今の処方の感想を彼女に聞いてみた。彼女によれば、以前よりぐっすり眠れるようになったらしい。エビリファイをわざわざ夕食後処方にしている理由は、彼女はエビリファイで不眠が出ないことと、1日1回の処方にしないと父親が非常に薬が増えたと錯覚するのではないかと思ったことがある(エビリファイ1.5mgの時は1日1回お昼に服用だった)。来年1月くらいまではこの処方でいくつもりだ。
精神科医はこのような気苦労もあるのである。
参考
患者さんの家族は