患者さんの家族は | kyupinの日記 気が向けば更新

患者さんの家族は

患者さんの家族がどのような感じなのかは治療方針に影響を与えている。例えば、心配性で処方にもいろいろ注文をつけてくるタイプだと、最初は無難な処方から始めることが多い。

例えば、統合失調症圏と思われる場合でも、ジプレキサやエビリファイは最初は相当に処方し辛い。やはり、精神科病院に行ったために病状が悪化しているように見えるのは避けたい。一方、定型の抗精神病薬では、EPSなどの副作用が出る場合もあるので、これも相当にまずいと思う。

統合失調症圏の場合、どのような処方が無難かというと、ドグマチールやセロクエルの少量。こういう処方が僕の不安は少ないのである。場合によっては、デパケンRだけとかワイパックスだけの処方すらある。こんな処方は、実質、治療を開始しているとは言い難いと内心思っている。

ただ、急いで治療しなくてはならない場合もある。そんな悠長なことを言っておられないケース。例えば放置すると何か事件でも起こしかねないとか、自殺がありうる場合などである。そういう深刻な時に限って、そんな家族はトンチンカンなことを言っているので、なるだけ入院させる方針で話を進める。

僕は、猶予していると本人が悲惨と思うからだ。

入院した場合は、処方できる薬がかなり広くなるので本人にはメリットが大きい。自殺も入院(閉鎖)なら、かなり確率が下がるのでその点でも良い面がある。しかし知っておいてほしいのは、閉鎖病棟に入院していても完璧に避けることは困難であること。40~50センチの高さで縊首自殺未遂する人もいるから。

もし、家族がそれほどこちらに対しストレスをかけない場合はどうだろうか?

初診時の薬の選択肢が少しばかり広がるといえる。変な副作用が出たり、病状悪化をさせたくないのは同じだ。何が違うかというと、例えばセロクエルなら少しだけ用量が多い。ルーランでも同様である。少しだけ思い切って処方できるというか、治療を開始していると実感できる用量を処方できるのである。

また悪化のリスクがあるが、明らかに強めでスタートした方が良いと思うことがある。そういう処方を理解してくれそうな家族なら、詳細を説明してそういう治療も可能だ。自分の裁量で治療できるかどうかなのである。

家族のプレッシャーが大きいと、どうしても処方量がへなちょこになる。これはやむを得ない。基本的にどんな家族であれ、出来るだけ患者さんを中心に考えている。(副作用・病状悪化について)

もちろん少ない量の方が本人にあっていて、そういう治療が適している場合もありうる。しかし、それは結果論に過ぎない。家族のあり方により、治療のスタートにやや違いがあるのである。結局、心配性で干渉的な家族は本人にはプラスどころか、マイナスになっている。

本質的なことをいうと、子供は家族の所有物なんだと思う。これは精神科医療をしていると、とても感じる。

究極の例を提示しよう。

ある非定型病像を呈する若い女性患者さんのケース。症状しては抑うつ、希死念慮が見られる場合である。こんな非常時に、ぜひ家に連れて帰りたいと言い出す家族がいる。この場合、精神科医は非常に対応に困る。自殺されたら元も子もないので非常にリスクがあることを説明するが、どうしても理解されないことがある。それでもなんとか説得する。

こんな時、精神科医はどんな風に考えるかと言うと、所詮、家族は精神科について素人なので、わからないからもう良いんだ、とかではなく最大限の努力だけはしなければならないと思う。

家族がそんな風に言う理由は、単に、「子供を精神病院に入院させているのがかわいそうだ」、くらいが多い。親は子供に対し負い目があるので、こういう行動に出やすい面もある。あと、精神医療に対する漠然とした不信感があることも見逃せない。それでも、家族より専門医の判断が正しいことが多いのは当然のことだ。

そこまで危険なら、措置入院にすれば良いじゃんと思う人がいるかもしれない。普通、自傷(それも自殺)の可能性が高いとはいえ、一見、その兆しが見えない時、家族の理解が得られないまま医師の判断で措置入院させると、大変なことになる。それこそ、悪徳精神科医が勝手に入院させたとか、退院させないと言う話になりかねない。下手をすると訴訟になるのである(兆しがあまり見えないケースなら、訴訟に負ける可能性も高い。訴訟になって、わかっとらん弁護士の相手をするのもイヤ。)

ずいぶん若い頃、ちょうどこれに近いことに遭遇した。彼女は結婚しており、赤ちゃんがいた。

どうしても夫が退院させたいと言うので、なんとかリスクを説明したが全然受け入れられない。もしその夫の家族とか、その女性の両親などが一緒にいて、意見がわかれるならまだ説得しやすい。その時は四面楚歌だったのである。

夫が例えば統合失調症などで判断ができない場合は、精神科医が「市長代理」という方法で医療保護入院が可能だ。この方がよほど助かる。しかし病気ではない普通の人が言う場合はそんな方法も取れない。見かけ上、正常な人の判断は正常と見なされるのである。

僕はこの家族は自分では裁定できないと思った。ボスに聞いてみたところ、一筆書かせて退院させるしかない、という判断だった。つまり念書みたいなものを書かせて退院させなさいということだ。

退院1週間目に彼女は自殺したのである。

それから1ヶ月後だろうか、夫が僕のところにやってきた。亡くなったその患者さんの写真を持って。彼は、特に僕を責める風でもなかった。ただ、彼女の思い出話をしただけだ。きっと、何か言いたかったのだけど、言えなかったのだと思う。

バカだろ。

すぐにあの2人の赤ちゃんの顔が思い浮かんだ。
僕たちは悲しい思いをたくさんしている。もうしたくないほど。

参考
非定型抗精神病薬の病状悪化率
ジプレキサザイディスと飲料水
統合失調症の第一選択薬
双極性障害適応状況(アメリカ)
非定型抗精神病薬の処方ランキング(アメリカ)