2度救った人
彼に最初会ったのはもう15年以上も前だった。当時、彼は入院中であり僕は担当ではなかった。しかし廊下で会った時に、僕によく挨拶をしてくれていたのでわりあい知っている人であった。ある時、彼はサラ金にかなりの借金があること知った。だいたい400万くらいだったと思うが、細かい数字まではよく憶えていない。一時浪費しその後入院してしまったのでサラ金の残高が膨れ上がっていたようであった。
僕は、彼はもう退院しないのではないかと思っていた。「退院しないのではないかと思う」のはちょっと変に思うかもしれないが、そういう風に感じる人は実際にいる。彼の生活は一応、精神病院内で完結していた。作業をし、なにがしか小遣いが支給されており、わりあい自由であったからだ。僕はおそらく彼は退院することはないと思っていたし、もし退院するにしてもずっと後と考えていたので、そういう前提でサラ金屋と交渉した。そして何年か後に全額返済免除となった。サラ金屋が債権放棄したためだ。
その後、彼に障害年金の申請をしてやったが、1級が認められた。年額100万弱くらいである。年金1級だと入院費も非常に安くなる。後に、僕はその病院から他の病院に移ることになるが、当時彼はわりあい貯金を持っていた。(タバコとコーラ代くらいしか遣わないため)
数年の後、なんと彼は僕の病院にやってきたのである。最近、退院してうちの病院の近くのアパートで1人暮らしているという。実家が近いらしい。彼はかなり崩れていて、衣類は汚れているし、風呂には入っていないしで、まるで浮浪者のようであった。
あれは100人に聞けば、98人は浮浪者と言うと思う。
薬はトロペロンやセレネース主体であったが、それなりに定常状態ではあるので、非定型への処方変更は相当に怖い。以前に入院していた病院でそのような変更の試みをしていないはずがないからだ。もし増悪して再入院になったら、今度はもう退院できないかもしれないというのもある。しかし外来に来るたびに、悪臭を放つのは本当に困ったことであった。どう考えても風呂は1ヶ月に1回も入っていないように見えた。衣類の汚れもなんとかしてほしいと思った。
うちの病院の外来は爽やかな感じで広い空間があるのであるが、彼が来院するたびにそれがぶち壊しになった。来るたびに臭い消しを吹いて廻らないといけないのである。
いいかげんにしろ!!
と言わないまでも、誰もが感じていたと思う。ある時、もうこれは我慢の限界だと思った。これは、リスクを取っても治療する他はない。そして清水の舞台から飛び降りる気持で、エビリファイを処方してみたのである。
エビリファイは最初、賦活的に効きはじめ、顔が少しすっきりした。当初はまだ不潔なままであった。そのうち訪問看護も受け入れるようになり、役場のサービスも受けアパートの室内を掃除してもらえるようになった。エビリファイを処方後、少しずつ小奇麗になっていった。
それまでの内服薬はトロペロン20mgに加えレボトミンなども処方されていたが、エビリファイは悪くなかったのでこれを漸増しつつ、すべての抗精神病薬を減量していった。エビリファイが10mgを超える頃には、徐々に陰性症状も改善し始め、わりあい入浴をするようになったのである。もちろん生活指導もしているけどね。
現在、抗精神病薬はエビリファイ15mgとネオペリドール100mg(月に1回)だけである。あと降圧剤や眠剤が少し。彼の場合、最初トロペロンをネオペリドールに切り替え、そして200mgから漸減した。いったん50mgまで減らしたが、50mgだと少し上がりすぎて良くない。彼に関しては、エビリファイは良い具合にアップ系に効いているように見える。


これは、エンタの神様というお笑い系の番組に出演していたムーディ勝山である。この人、面白すぎ。この歌を聴いたとき、彼にもこの症状があったことを思い出した。彼は幻聴や被害妄想はないが、「頭に押さえつけられるような違和感がある」のである。この体感幻覚にはけっこう悩んでいて、どうしても押さえつけられると話していた。最近、この症状について聞いて見たら、すっかり取れているのだという。これもエビリファイの効果だろうと思った。
彼はうちの病院でのエビリファイの最高量を服薬している。なぜ、エビリファイをもっと増やさないかだが、ネオペリドールを切れない以上、これ以上増やすのは意味がないから。僕はネオペリドールを残す前提では、エビリファイ9mgの方がむしろ良いかもしれないと思っているほどだ。
彼はとても快活になった。以前はやはり表情が暗かったと思う。デイケアに参加しているのを見ていると非常に腰が軽い。動きが軽快なのだ。僕には、15年前に診た彼から、現在の状態はとうてい想像できない。本当に非定型抗精神病薬というのはすごいよ。処方変更についての感想を聞いてみた。彼によれば、体が断然軽くなったらしい。彼の場合、入浴しなかったのは一般的には統合失調症による陰性症状であるが、一概にそうともいえない面もある。(つまり薬物の重さ)
うつ病圏の人も全然入浴したがらない人もいる。彼らは、きつくて入浴するとどっと疲れが出るとか、あるいは、そういうことも面倒なので入浴できないでいるのだ。
彼に近づいてみても、今はにおいがしない。全然臭くないことは奇跡であった。まあ、あれほど臭くなかったら変更はしなかったと思うので、人生、塞翁が馬といったところか。
今日のまとめ
どんな精神科の病気の人も、週に3回は入浴しましょう。
参考
エビリファイ
精神障害者と借金
僕は、彼はもう退院しないのではないかと思っていた。「退院しないのではないかと思う」のはちょっと変に思うかもしれないが、そういう風に感じる人は実際にいる。彼の生活は一応、精神病院内で完結していた。作業をし、なにがしか小遣いが支給されており、わりあい自由であったからだ。僕はおそらく彼は退院することはないと思っていたし、もし退院するにしてもずっと後と考えていたので、そういう前提でサラ金屋と交渉した。そして何年か後に全額返済免除となった。サラ金屋が債権放棄したためだ。
その後、彼に障害年金の申請をしてやったが、1級が認められた。年額100万弱くらいである。年金1級だと入院費も非常に安くなる。後に、僕はその病院から他の病院に移ることになるが、当時彼はわりあい貯金を持っていた。(タバコとコーラ代くらいしか遣わないため)
数年の後、なんと彼は僕の病院にやってきたのである。最近、退院してうちの病院の近くのアパートで1人暮らしているという。実家が近いらしい。彼はかなり崩れていて、衣類は汚れているし、風呂には入っていないしで、まるで浮浪者のようであった。
あれは100人に聞けば、98人は浮浪者と言うと思う。
薬はトロペロンやセレネース主体であったが、それなりに定常状態ではあるので、非定型への処方変更は相当に怖い。以前に入院していた病院でそのような変更の試みをしていないはずがないからだ。もし増悪して再入院になったら、今度はもう退院できないかもしれないというのもある。しかし外来に来るたびに、悪臭を放つのは本当に困ったことであった。どう考えても風呂は1ヶ月に1回も入っていないように見えた。衣類の汚れもなんとかしてほしいと思った。
うちの病院の外来は爽やかな感じで広い空間があるのであるが、彼が来院するたびにそれがぶち壊しになった。来るたびに臭い消しを吹いて廻らないといけないのである。
いいかげんにしろ!!
と言わないまでも、誰もが感じていたと思う。ある時、もうこれは我慢の限界だと思った。これは、リスクを取っても治療する他はない。そして清水の舞台から飛び降りる気持で、エビリファイを処方してみたのである。
エビリファイは最初、賦活的に効きはじめ、顔が少しすっきりした。当初はまだ不潔なままであった。そのうち訪問看護も受け入れるようになり、役場のサービスも受けアパートの室内を掃除してもらえるようになった。エビリファイを処方後、少しずつ小奇麗になっていった。
それまでの内服薬はトロペロン20mgに加えレボトミンなども処方されていたが、エビリファイは悪くなかったのでこれを漸増しつつ、すべての抗精神病薬を減量していった。エビリファイが10mgを超える頃には、徐々に陰性症状も改善し始め、わりあい入浴をするようになったのである。もちろん生活指導もしているけどね。
現在、抗精神病薬はエビリファイ15mgとネオペリドール100mg(月に1回)だけである。あと降圧剤や眠剤が少し。彼の場合、最初トロペロンをネオペリドールに切り替え、そして200mgから漸減した。いったん50mgまで減らしたが、50mgだと少し上がりすぎて良くない。彼に関しては、エビリファイは良い具合にアップ系に効いているように見える。


これは、エンタの神様というお笑い系の番組に出演していたムーディ勝山である。この人、面白すぎ。この歌を聴いたとき、彼にもこの症状があったことを思い出した。彼は幻聴や被害妄想はないが、「頭に押さえつけられるような違和感がある」のである。この体感幻覚にはけっこう悩んでいて、どうしても押さえつけられると話していた。最近、この症状について聞いて見たら、すっかり取れているのだという。これもエビリファイの効果だろうと思った。
彼はうちの病院でのエビリファイの最高量を服薬している。なぜ、エビリファイをもっと増やさないかだが、ネオペリドールを切れない以上、これ以上増やすのは意味がないから。僕はネオペリドールを残す前提では、エビリファイ9mgの方がむしろ良いかもしれないと思っているほどだ。
彼はとても快活になった。以前はやはり表情が暗かったと思う。デイケアに参加しているのを見ていると非常に腰が軽い。動きが軽快なのだ。僕には、15年前に診た彼から、現在の状態はとうてい想像できない。本当に非定型抗精神病薬というのはすごいよ。処方変更についての感想を聞いてみた。彼によれば、体が断然軽くなったらしい。彼の場合、入浴しなかったのは一般的には統合失調症による陰性症状であるが、一概にそうともいえない面もある。(つまり薬物の重さ)
うつ病圏の人も全然入浴したがらない人もいる。彼らは、きつくて入浴するとどっと疲れが出るとか、あるいは、そういうことも面倒なので入浴できないでいるのだ。
彼に近づいてみても、今はにおいがしない。全然臭くないことは奇跡であった。まあ、あれほど臭くなかったら変更はしなかったと思うので、人生、塞翁が馬といったところか。
今日のまとめ
どんな精神科の病気の人も、週に3回は入浴しましょう。
参考
エビリファイ
精神障害者と借金