「カラスアゲハかミヤマカラスアゲハじゃないか?今の一瞬じゃ、判別はつかないが」

レイラが、チョウが姿を消した森を見つめながら言う。

「あっそうか。図鑑でよく見るやつだ。少し緑っぽかった気がする。ミヤマかなあ?」

ガクが思い出したように言った。

 

「波都国(はとこく)にはおらぬのか」

セルウィンが怪訝な表情をして尋ねる。

「うーん、いるはずなんだけどあんまり会ったことなくて。ボクんちの近所にたまたまいなかっただけかも」

「木の種類の問題じゃないか?カラスアゲハの類はサンショウとかを好むんだ。それがたまたま少ない地域だったのかもな。さ、そろそろ行くぞ」

レイラが言った。

 

旅館は大きくないが格式のありそうなつくりで、床がつややかに磨き上げられている。宿泊料はそれなりに高そうだ。

「うわ、綺麗ですね。畳も新しいし、床の間まである」

タクトがもの珍し気に室内を見回す。

「3部屋とってある。ガクとタクトは同じ部屋な」

レイラが言うと、ガクはさっさと荷物を床に落とし、窓際まで歩み寄る。

「山の景色がきれい!ん?このドア何?」

そう言いながら中を覗き、「お風呂だ!」と叫ぶ。

 

「大浴場もあるが、一応家族風呂もあるそうだ。のんびりしたいならそっちがいいかもな。なんなら、あたいと一緒に入るか?」

レイラが軽い調子で言うと、ガクは「うん!」と素早く答える。

「だ、だだだダメですよ絶対!何言ってんですか。下手したら犯罪ですよ」

タクトが顔から湯気を出しそうな剣幕で言うと、レイラは苦笑いする。

「冗談だよ。悪い悪い。いや、普段はさ、アンジェラと一緒に入ってるからさ」

 

夕闇は色を濃くして、やがて山々を紺碧に染め、山の端の一番星を輝かせる。

家族風呂からあがったタクトは座椅子にもたれかかりながら新聞を読み、ガクは窓際で外を眺めている。

「さっきから何見てんだ、ガク。景色なんてそんな変わんないだろ」

タクトがあきれて言うと、ガクが振り向いて答えた。

「さっき見たカラスアゲハ、また出ないかなあって。もう無理だね、暗くなっちゃった」

「今は休んでるんだろ。そう言えば、年無国(ねむこく)はアゲハが多いらしいな。新種も見つかって騒いでなかったっけ」

「あ、知ってる。アオキンアゲハ!」

 

その時、ドアを3回ノックする音が聞こえた。

 

 

 

 

〈おまけ〉

アオキンアゲハは、私が勝手に作り出した新種のアゲハチョウです。実際には存在しないのであしからず。

とはいえ、昆虫は地球上でもっとも繁栄している生物とされており、たまに新種が発見されます。チョウも昆虫の中では種類が多い部類なので、今後新種が見つかるかもしれません。

 

 

アオキンアゲハのイメージ。「アオキン」は「青金」で、「青みがかった金色」、つまり光沢感のある青緑色をさします。わりとありそうなネーミングだと思っています。

全体的にキラキラとした青緑色で、黒い筋が少し入っています。こんなのが本当にいたら、目立って仕方ないですね。でも飛ぶ力が優れていれば、この目立つという欠点を相殺できると思いますよ。

 

 

 

「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。

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