「どうぞー」
ガクが答えると、薄く戸を開いたのはセルウィンだった。
「そろそろ夕飯に参らぬか」
どうやら、食事は別のフロアで食べるシステムらしい。
「行く行く!」
ガクはお腹が空いていたらしく、嬉しそうに立ち上がった。
1階の和食レストランに着くと、レイラが待ち受けていた。セルウィンと同じく浴衣姿である。洗い髪を下ろして束ねているのが、普段と違って色っぽい。
「ああ、鯛がある…!幸せだ」
食卓につくなり、タクトは小さく呟いた。酢の物や卵豆腐などの皿の近くに、刺身の盛り合わせが置いてある。
「いただきます」
4人で仲良く手を合わせ、箸を手に取る。この様子だけ見るとただの旅行客だ。
「きれいだねえ、お刺身」
ガクも嬉しそうに箸を伸ばすが、そこにあった貝の刺身と貝殻を見てふと手を止める。
「そういえばさ、この国で見つかったアオキンアゲハ、このへんにいるのかな?」
そう言った後、鮮やかな貝殻の上に乗った貝柱をつまんで口に入れた。
「ああ、三年位前に見つかった新種であるな。いかがであろうか」
セルウィンが上手に茶碗と箸を持った姿勢のまま、遠くを見るような目つきをする。
「いるとしたら、もう少し山奥かもな。でも、最近は飼育されているのもあるから」
レイラが言葉を重ねるように言う。
「飼育?やっぱりペットとして人気なんですかね、綺麗ですし」
タクトが言うと、レイラが軽く笑って首を振る。
「知らないのか。商用利用だ。化粧品に使うために大量に飼うんだよ」
「えええ?どういうことですか」
「あの青緑色が人気なんだ。羽をそのままアクセサリーにしたり鱗粉を化粧品にしたりな」
レイラはそう言うと、テーブルの下で軽くタクトの膝を蹴るような動きをする。
「あたいもつけてる。見てみな」
テーブル下を覗くと、スリッパを脱ぎ滑らせた素足が視界に入った。青緑色のペディキュアがキラキラと輝くのが見える。薄暗い中でもよく分かる光沢感である。
「レイラさん、ネイルするんですね。手はいつもしていないのに」
タクトが言うと、レイラはくすりと笑う。
「おしゃれは見えないところが大事なんだぞ」
「それが鱗粉なの?」
ガクが聞く。
「そういうこと。これは星瞬の売れ筋商品の1つなんだ。何の因果かな、今回仕事で関わるなんて」
〈おまけ〉
今回は、チョウの鱗粉を使ったというネイルが登場しました。
そんなの存在するかって?いや、ないと思います。これフィクションなんで。
ただ、動物の成分を使ったネイルは別に存在するんですよ。
私も持っています。「胡粉ネイル」というやつです。
胡粉(ごふん)というのは、ホタテ、カキ、ハマグリなどの貝殻を砕いた粉で、主成分は炭酸カルシウム。
日本画などに使われる顔料です。
それをネイルに応用したわけですね。
貝殻なので、動物性の原料といっても中身を食べた後の廃棄物です。捨てるよりは利用した方がいいですね。
水溶性のネイルなので、はがしやすいのがいいところ。ただ、もちが良くないので市販のトップコートを重ねづけすることもあります。
発色もきれいなのですよね。強いにおいもなく乾きやすいので、普段ネイルしない人にもおすすめですよ。
「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。
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