ミーハー向けと思いきや、意外や意外。結構楽しめた。
主人公「成瀬あかり」がやたら前向きで周りの人の意見意向気持ちを無視し続ける。勉強(中学校で一番、高校でも一番で入学)も運動もよくできる。作文コンクールなどで表彰されるのは当たり前である。
普通の人が書いたら「こんな女子中学生(のちに高校生になる)いやしないよ」となり、鼻白むことだろう。
が、それがない。
理由は、①成瀬の周りにいる人間がごく普通で、この普通の人間の描写が丁寧だからである。
周りは直情径行型の成瀬を敬遠する(結果成瀬が浮き上がる)。突拍子もないのは成瀬一人である。
パートⅡ:「膳所から来ました」で成瀬は唯一の友人とも言える島崎とコンビを組んでM-1グランプリ予選に出場する。成瀬は恥ずかしいとか緊張とかはまるっきり無縁だが、島崎は逃げ出したい気持ちが常にある。こういう島崎の持つ「普通(つまり大多数の人が持つ感覚)」が物語を支える。周囲の人物の等身大の一喜一憂こそ読者を惹きつける。
②かなり設定が細かいこと。読めば著者の宮島未奈が大津生まれの大津育ちで膳所(ぜぜ)高校(滋賀県一、二の進学校で甲子園に出場したことから全国的に名が知られている)を卒業し京大に進学したであろうことがうかがえる。要は自分の過去をなぞっているのである。西武大津店の閉館は滋賀限定のネタだろうが、コロナ禍でマスク着用・ソーシャルディスタンスを強いられるところなどは我々が経験したことだからである。
③パートによっては完全に成瀬が脇役に回るが、これが非常に自然なのである。基本的に語り手は成瀬でなく周りの誰かであり、成瀬は「ちくしょう、こんなところで負けてたまるか」などという独白は一切ない。平凡な人間の平凡な日常風景に成瀬が現れて異彩を放つ。
〽思い込んだら試練の道を……なのだが、成瀬には「巨人の星」の悲壮感はない。星飛雄馬にとって野球は苦行なのである(としか思えないよね)。しかし成瀬はそのプロセスを楽しむためめに生きている。
もしかしたら、自分も何か出来るかも…と思うようなジュニア読者がいてくれたら嬉しい。
