魯迅の毒~800字のブックレビュー⑦ | ricky321のブログ

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大学で再度、魯迅の『故郷』に原文で触れた。言うまでもなく、中三の教科書に掲載されている短編である。清朝末期の絶望を幼なじみの閏土(ルントゥ)が映し、同時に希望を閏土の子の水生(シュイション)と甥の宏児(ホンル)に見出している。中国語としても優れており、音声としても美しい。
閏土に「旦那様」と言われ、愕然としてしまう場面が山場だが、今は愚生は豆腐屋の楊(ヤン)おばさんこそが魯迅文学の真骨頂なのだと思う。
楊の厚かましさはさておき、纏足(てんそく)でありながら素速く歩くという描写は、真逆のことなのである。ご存じのとおり、かつて中国にあった風習で、幼い頃から女の子の足を布地などでぐるぐる巻きにして、足を小さく見せるという奇行である。速く動ける筈がないし、もし動けるとすれば、抜群の運動神経の持ち主ということになる。
当時のインテリが纏足が悪習であると言いたければ、纏足のために火事で逃げ遅れた婦女子がいるなどといった話を持ち出すのであろうが、魯迅は纏足の婦人を早足にしてしまう。コンパスの様だと比喩しているが、楊おばさんの存在感は異彩を放つ。
魯迅作品では、『狂人日記』の狂人、孔乙己、阿Qといった奇人達が旧社会の悪弊を物語る。『故郷』における楊おばさんも、その内の一人である。
中学校の教科書の、もうひとつの名作はヘッセの『少年の日の思い出』であると愚生は断言する。冷徹な蝶の収集家である隣人のエーミールは主人公と決裂するのだが、「そうか、君はそんなやつなんだな」と吐く。そこに何の救いもないのだが、そういう毒が文学には必要なのである。
『故郷』を訳した竹内好は、魯迅研究に一生を捧げた人である。愚生は今なお、魯迅の小説を愛読するが、読者は世界中にいるのであるし、また読まれるに値する奥深さが十分にあると思う。

※竹内好

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AB%B9%E5%86%85%E5%A5%BD


※纏足

https://search.yahoo.co.jp/image/search?p=%E7%BA%8F%E8%B6%B3&aq=0&oq=%E3%81%A6%E3%82%93%E3%81%9D%E3%81%8F&at=s&ai=dwHJSZqYQrOqAIiB9bhIHA&ts=5265&ei=UTF-8&fr=top_ga1_sa