源氏物語は源氏主人公で2/3。残りは源氏亡き後、世代が代わり薫と匂宮の二人を中心に据え、物語が進む。
二人の間で揺れるのが浮舟である。宇治に薫が囲っていたのを、名前の通り(?)嗅覚に優れた匂宮が、薫に成りすまして強引に肉体関係を結んでしまう。平たく言ってしまえば、二人の男に同時に愛され、また愛するのである。
ふとしたことから、薫は匂宮と浮舟の関係を知り、ショックを受ける。以下は与謝野晶子訳より
山荘では、(薫)大将家からの使いが平生よりもたびたび来ることで不安が覚えられる浮舟の君であった。手紙はただ、
波こゆるころとも知らず末の松待つらむとのみ思ひけるかな
人にこの歌をお話しになって笑ってはいけませんよ。
とだけ書かれてあったが、いぶかしいと思った瞬間から姫君の胸はふさがってしまった。
与謝野晶子は淡々と書いているのだが、煩悶の末、浮舟は自殺するつもりで手はずを整えていく。歌の意味は「波が末の松山(=多賀城にある、津波が来ても大丈夫だと言われている高台)を越えたと知らず、私は貴女が待っているとばかり思っておりましたのに。」となる。強烈な皮肉である。
元歌は古今集の
君をおきてあだし心をわが持たば末の松山波もこえなむあなたをさしおいて、あたしは心変わりなどしませんわ。もしそんなことがあったら、あの末の松山を波が越えてしまうでしょう。
である。これを本歌として、替え歌風に
と元輔が作った歌が百人一首に採用されている。これは半ば愚痴のようなもので、心変わりはしていないよね?という婉曲な感じである。
田辺聖子は、この二首、源氏物語の歌と元輔のそれとの違いが、そのまま紫式部と清少納言の気質の差を映していると書いている。
清少納言が嫌いで、故にその父の元輔も憎らしくて紫式部がこの歌を創作したというのは考えすぎだろうか。