因果交流電燈 | 想像と創造の毎日

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写真は注釈がない限り、
自分で撮影しております。



  玄関前で力なく倒れていたちょうちょを拾ってから(助けたとは言えない)、5日ぐらい経っただろうか。

  見る度にもう死んでるのか、確認するように羽をちょん。と触るのが習慣化している。

  生きているのか。ではなく、死んでいるのか。を確認している。

  ちょうちょの命が短いことを知っているからなのだろうが、その確認作業の動機が何だか悲しい。

  見た目からして、どんどん弱っているのがわかる。
 羽は最初の瑞々しさを失って、倒れる度に鱗粉が皿にくっついてしまい、強度を弱める。

  ショックだったのは、ちょうちょが大丈夫かと心配している一方で、目の前に突然現れた小さな小バエみたいな虫を反射的に叩いて殺してしまったことだった。

  ちょうちょは助けた(拾った)のに、小バエは殺す。どちらも同じ命なのに、無意識下で自分はその命を差別しているのだった。

  そのことを友人に伝えると、その人はこう言った。

  ただの"縁"なんだ、と。


  私はいいことをしたわけでも、悪いことをしたわけでもない。

  ただ、思わず、助けた。
  それが、"良心"っていうんだろ?と。

  そうか、なるほど。と深く腑に落ちた。

  頭では、この世に善悪は本当はなくて、それはひとつの解釈に過ぎず、だから人は、良心にもとずいて行動するのだと理解していたけれど、本当のところは、善行と良心にもとずく行動の違いがどこか曖昧だったのだと気付いた。

  ちょうちょを助けようとしたのはどうしてか?
  可哀想だとおもったのか。何かいいことをしたいと思ったのか。羽化したてのちょうが綺麗だから、飼ってみたいと思ったのか。

  どれもそうなようで、どれも違うような気がする。

  ただ、そうしたくなった。
  それが一番、しっくりきた。

  だって私は、こないだ足を怪我したタヌキを見つけたけど、写真を撮っただけで、助けようとは思わなかった。
  可哀想だなとは思ったけれど、助けなかったことに罪悪感を覚えたわけではなかった。
  
  飼うことで長く生かすことが、別に善行だとも思わない。
  ちょうちょにしたら、他の異性の個体に出会う機会を奪われだと思い、余計なお世話だったかもしれない。

  考えようによっては私の行動は善にも悪にもなる。

  でもやってしまった。
  つい。思わず。
  いや。ぴー様と同じ二枚の羽を持つこの子に親近感を覚えたのか。
  虫には、ぴー様のように、触れて、心を通わせるような瞬間はないとも思えるのに。(あるかもしれないが、私にはどうしてもそうは思えないのが、正直なところだ。)

  助けたことが、良かったか悪かったかはわからない。
  だけど、縁があったからそうなった。
  良心がそうさせたからこうなった。
  そこに、意味などない。
  
  これが、仏教的無常観というものか?
  

ーわたくしといふ現象は
   仮定された有機交流電燈の
   ひとつの青い照明です
 (あらゆる透明な幽霊の複合体)
   風景やみんなといつしよに
   せはしくせはしく明滅しながら
   いかにもたしかにともりつづける
   因果交流電燈の
   ひとつの青い照明です
 (ひかりはたもち その電燈は失はれ)ー

  そんなことを考えていると思い出すのはやはり、宮沢賢治の春と修羅の冒頭の言葉だった。


  急に暖かくなったと思ったら、急激に寒くなる。

  ついこの間まで、音もなく降っていた雪は、ポタポタと音を立てて、その真冬と変わらない寒さながら冬を消し去っていく雨に変わった。


  雪に押しつぶされた草たちが枯れ倒れた風景は、まるで荒野のようだ。

  

  あと二ヶ月もしたら、あの川の向こう側が全く見えなくなるぐらいの緑に覆われることが毎年ながら、信じ難い。



  意識した瞬間に現れる実体。

  職場で毎日、赤ちゃんや幼児を見比べていると面白い。


  まだ自分というものがあやふやな赤子の目が、いつの間にか意思を持って、私を注視するようになった瞬間、ああ。この子はついに人間になったんだな。と思う。


  彼らは自分と他者の区別をつけて、意図的に泣いたり、笑ったりする。


  それはやがて言語を伴って、世界を形作るのだろう。


  ちょうは、触れると反射的に抵抗して、羽をバタバタと震わせる。


  抵抗されることで、私は彼が生きていると認識した。


  触り過ぎると弱る。

  でも、触ることで彼は抵抗して、生きようともしているみたいだ。


  グッと細い脚に力を入れて、身体を支え、砂糖水に口吻を伸ばす。


  わたくしとキミという現象は、因果交流電燈。


  私は縁があって、キミに会った。

  私はキミの精密な機能美に魅入られて、物語を綴る、意味を作る。