鎌倉在住で、86歳を迎えた現在もなお、
現役で活動を続ける作家・山室眞二さん
(1939~)。
その美術館では初となる個展、
神奈川県立近代美術館 鎌倉別館で開催中されています。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
展覧室の冒頭に飾られているのは、
山室さんによる手製本『薯版deルナールとあそぶ』です。
(表紙には使われているマーブル紙もお手製で、本によってそれぞれ違うそうです)
元となっているのは、フランスの作家ジュール・ルナールの『博物誌』。
フランスの田舎で暮らす動植物たちの生態を、
ウィットにとんだ誌的な描き出した傑作短文集です。
その挿絵をロートレックが手掛けたことでも知られています。
日本の動植物たちが登場する『薯版deルナールとあそぶ』は、
山室さんが文章だけでなく、挿絵(版画)も担当しているそうで。
続く展示ケースでは、本に使用された版画が、
早春から冬まで、季節ごとに紹介されていました。
どの版画も優しい色と味わいで、
眺めているだけで、ほっこりとした気分になります。
作品から山室さんの優しい人柄が伝わってくるようです。
ところで、これらの版画は、木版画や石版画ではありません。
なんとこれらはすべて、イモ版画です。
一般的にイモ版といえば、サツマイモのイメージですが、
山室さんは50年以上にわたり、ジャガイモを版にした版画、
山室さん曰く「薯版画」を独学で制作し続けてきました。
なお、木や石と違って、ジャガイモは生ものであるため、
彫り始めた時から、水分がどんどん抜けていき、数時間しか使えないのだとか。
完成した作品は、のんびりした印象ですが、
制作そのものは、常に時間との闘いなのです。
また、ジャガイモを版に使う以上、当たり前ですが、
ジャガイモの断面よりも大きいものは作ることができません。
その小さなサイズをむしろ活かし、切手を模した作品を多く制作しているようです。
どの作品も小さい画面の中に、
世界観がギュッと詰め込まれていました。
普通に切手として販売して欲しいくらい。
日本に限らず、世界的に今、郵便が文化が衰退していますが、
山室さんのデザインした切手が世に広まったら、盛り返しそうな気がします。
さて、本展の後半で紹介されているのは、
詩人で俳人の尾崎喜八の句集をはじめとする、
山室さんが装丁や挿絵を手掛けた書籍の数々です。
それらの中には、紬織の人間国宝・志村ふくみさんの書籍も。
山室さんはかねてより志村さんと親交が深く、
志村ふくみが100歳を迎えた記念にした新作を制作しています。
それが、本展で初公開となる《志村ふくみの言葉 百葉筥》です。
染織家でありながら、随筆家としての顔も持つ志村さん。
これまでに多くの書籍を発表しています。
それらに掲載された印象的な文章を100選び、
山室さんがそのイメージを薯版で制作しました。
実はこれ以外にも、本展の会場には、
志村さんと山室さんによる合作が展示されています。
これまで紹介した画像の一部に、蟻が映り込んでいたことに気づかれたでしょうか。
山室さんは、志村さんから譲り受けた糸で、
本展の会場のためにアリを制作したのだそう。
その数、実に100匹。
(アリ以外の虫もいますよ)
そのおもてなし(?)も含めて、実に居心地のいい展覧会でした。


ちなみに。
本展と併せて、“暮らしの中で”という、
小規模なコレクション展も開催されています。
鳥海青児や堀内正和ら5人の作家を取り上げ、
私的に制作された小品を中心に紹介するものです。
そちらの展覧会のほうにも、アリがいました。
(小金井カントリー俱楽部の会員誌『小金井』のために麻生三郎が描いた挿絵です)




















