現在、東京ステーションギャラリーで開催されているのは、
“カルン・タカール・コレクション インド更紗 世界をめぐる物語”という展覧会。
インドが起原の織物、「インド更紗」にスポットを当てた展覧会です。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)
本展は、インド出身イギリス在住の世界屈指のコレクター、
カルン・タカール氏のインド更紗コレクションを日本初公開するもの。
質、量ともに世界最高峰のコレクションから、
選りすぐられた名品の数々が来日しています。
まず何よりも、単純に驚かされたのが、その大きさ。
自分がイメージする更紗は、袱紗や端切れなどで、
大きいとしても、せいぜい風呂敷くらいのものかと思っていました。
ところが、本展で紹介されていたインド更紗は、2m越え3m越えのものはざら。
中には、最長約8メートルのインド更紗も展示されていました。
こんなにも巨大な布だったとは!
しかも、どれもただ大きいだけでなく、当時の姿をほぼほぼ保った状態。
カルン・タカール・コレクションが世界で絶賛されるのも納得です。
ところで、そもそもですが、インド更紗とは何なのでしょうか。
その起源はかなり古く、紀元前にまで遡るそう。
衣服に使われるのはもちろん、
宗教儀式や室内装飾など、その用途はさまざまです。
インド更紗の特徴は何と言っても、茜色で染められた伸びやかで濃密な文様。
木綿を自然染料の茜で染める技術は、実はインドが最古なのだそうです。
それに加えて、驚異的な堅牢性、
つまり色落ちに強いのもまた、インド更紗の大きな魅力。
確かに、何百年も前に染められたものとは思えないくらい、どれも鮮烈な色彩を放っていました。
《白地人物城郭文様更紗裂》 18世紀、南東インド海岸部(スリランカで発見と伝わる)
Karun Thakar Collection, London. Photo by Desmond Brambley
《白地人物草花文様更紗儀礼用布》 17-18世紀、南東インド(スリランカで発見と伝わる)
Karun Thakar Collection, London. Photo by Desmond Brambley
さて、そんなスーパーアイテムであるインド更紗は、
インド国内はもちろん、国外からも羨望の的となります。
主要な交易品として、遅くとも1世紀の時点では、
東南アジアやアフリカへと渡っていたと考えられているそうです。
さらに、大航海時代が幕を開けると、インド更紗は、
ポルトガルやオランダの商人たちによってヨーロッパにもたらされました。
瞬く間に爆発的な人気となり、やがてはヨーロッパ向けのインド更紗も作られるように。
《白地立木形花樹文様更紗掛布(パランポア)》
1740-50年頃、南東インド海岸部(スリランカで発見と伝わる)
Karun Thakar Collection, London. Photo by Desmond Brambley
《白地聖母子文様儀礼用布》 18世紀、南東インド海岸部(スリランカで発見と伝わる)
Karun Thakar Collection, London. Photo by Desmond Brambley
ちなみに。
こちらの《白地チューリップ虫文様更紗裂》は、
言わずもがなオランダ向けに作られたインド更紗です。
《白地チューリップ虫文様更紗裂》1700-30年頃、南東インド海岸部(日本で発見と伝わる)
Karun Thakar Collection, London. Photo by Desmond Brambley
チューリップに目を奪われて、スルーしそうになりましたが、
よくよく観てみると、画面中にいる虫たちは、なかなかのキモさ。
『ウゴウゴルーガ』に出てきそうなタッチです。
さて、そんなヨーロッパにおけるインド更紗ですが、
自国の産業を守るため、のちに更紗禁止令が出されます。
そう、輸入禁止となってしまうのです。
まとまった形で展示されていたこれらの帽子は、ある意味でそれを物語るもの。
これらは、希少なインド更紗の端切れを繋ぎ合わせて作られています。
「もったいない」精神は日本から生まれたものとされていますが、
この帽子を見るに、昔のヨーロッパの人々にも「もったいない」精神があったのですね。
また、こちらのベッドセットに関しては・・・・・
白地に赤い文様の更紗だけが、インド製で、
他の更紗はヨーロッパで作られたものだそう。
「もったいない」というか、この場合は「かさ増し」?
豪華なベッドセットではありますが、
そう思ってみると、ちょっと節約した感も否めません。
インド更紗が輸入できなくなった以上、
ヨーロッパ各地で、代わりとなるものが制作されます。
その一つが、フランスで誕生したトワル・ド・ジュイ(西洋更紗)でした。
そして、トワル・ド・ジュイにも影響を受けたのが、
ウィリアム・モリスのアーツ・アンド・クラフト運動です。
たかが布、されど布。
インド更紗は、世界中と繫がり、
かつ、世界の歴史を変えた布だったのですね。
そんなインド更紗を、コレクターのカタール氏は、
「世界初のグローバル・プロダクトである」と評していました。
AppleのiPhoneよりも、テスラのEVよりも、
インド更紗は世界を席巻したプロダクトだったようです。


┃会期:2025年9月13日(土) ~11月9日(日)
┃会場:東京ステーションギャラリー
┃https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202509_india.html













