● フェルメール 「牛乳を注ぐ女」とオランダ風俗画 展 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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窓辺の少女・牛乳を注ぐ女・真珠の耳飾りの少女

 


今回ご紹介するのは、今年の“芸術の秋”で最も美術ファンの注目を集めている美術展。
国立新美術館で、12月17日 まで開催されている

“フェルメール 「牛乳を注ぐ女」とオランダ風俗画展”です。

 

この美術展は、フェルメールの代表作中の代表作 《牛乳を注ぐ女》 が、

何と日本初公開されるという、とっても歴史的な美術展。
良くも悪くも、それだけがこの美術展の見どころと言えるでしょう。


展示品の総数116点の中で、フェルメールの作品は、《牛乳を注ぐ女》 たったの一枚のみ。
それなのに、まるでフェルメールの冠番組…

もとい冠美術展のような美術展タイトルになっているのは、

そういうわけで、致し方ないことなのです。はい。


 

《牛乳を注ぐ女》 が別格の扱いを受けているのは、タイトルだけではありません。
会場での展示でも、また、大物ならではの待遇を受けております。
展示されているのは、会場のちょうど中心。

一部屋を使って、堂々と展示されています。

ですから、会場入り口から 《牛乳を注ぐ女》 の絵までは、

逸る気持ちを抑えられず、足早で他の絵を見ることになり、

《牛乳を注ぐ女》 を見た後は出口まで、その余韻を引きずることになり、

残りの絵をこれまたきちんとは鑑賞していられませんでした。


 

そういう意味では、 《牛乳を注ぐ女》 の1枚だけを展示する美術展でも、

僕は良かったのではないかという気さえします。
で、1500円も取らず、1000円くらいで見せてくれれば、尚のこと良しなのです。

 


何となく美術展の体裁を整えるために展示されていたような 《牛乳を注ぐ女》 以外の絵。
全部が全部、たいしたことなかったのかと言えば、そういうわけではありません。

《牛乳を注ぐ女》 の絵の素晴らしさが半端ではないために、

相対的に霞んでしまった作品も多かったかと思います。

 


そんな中、《牛乳を注ぐ女》 以外の絵の中で、『これは是非とも見落とさないで欲しい!』と

プッシュしたい絵があります。


 

それが、写真左の一枚。

ヤーコプ・マリス作 《窓辺の少女》


この絵を見たとき、僕はデジャ・ビュを感じたのです。
“あれ?このポージング、最近、どこかで見たような…??”
と、しばらく、足を止めて見ていたのち、ハッとしました。


“あっ、これは、舞台挨拶でのエリカ様のポーズではないか!!”
そうです。絵の全体に漂うこのちょっと不機嫌そうな感じ。

歴史は繰り返すとは、まさに、このことです。
フェルメール以外の絵だからと言って、「別に…」と流すことないよう、お願いします。

 


さてさて、何はともあれ、この美術展最大の見どころは、

何度も言っている通り、フェルメールの 《牛乳を注ぐ女》 (写真・中央)。

この絵の見どころは、イヤというくらいに、会場でVTRやボードを使って説明されていますので、

特別、ここで僕が言うようなことはないかと思われます。
本当に、良い絵というのは、何も余計なことを言わなくても、良さが伝わるものです。
本物の名画の持つ素晴らしさを、ただただ五感で感じてみて下さいませ。


 

と、いつものように画家を【キーワード】でご紹介していきましょう。

もちろん、今回取り上げる画家は、ヨハネス・フェルメールです。


生涯を通じて30数点しか作品を残さなかったフェルメール。

彼は、過去このシリーズでもご紹介したゴッホ(#22)やダ・ヴィンチ(#25)と並んで、

日本人に愛される外国人画家です。


今回の美術展も、もうすでに大盛況。

本屋では、必ずフェルメール関連の本が平積みされていますし、

フェルメールを題材にした映画が、日本でスマッシュヒットしたのも記憶に新しいところです。


 

なぜ、こんなにも日本人はフェルメールに惹かれるのでしょうか?

 

今回、僕が抱いたこの一つの疑問。
その答えを見つけるために、様々な資料を読んでみたところ、

フェルメールの絵に関するあるエピソードが目に留まりました。
それは、“フェルメールブルー” についてのエピソードです。

 

フェルメールの絵の魅力は何と言っても、“フェルメールブルー” と呼ばれる青色の美しさにあります。

今回の 《牛乳を注ぐ女》 にも、もちろん “フェルメールブルー” の美しさが見て取れます。

また写真右のフェルメールのもう一つの代表作 《真珠の耳飾りの少女》 も、

やはりターバンの青色の美しさが目を惹きます。


この青色は、「ウルトラマリンブルー」と呼ばれる絵の具で描かれたものです。

この「ウルトラマリンブルー」、実は12月の誕生石にもなっている

宝石のラピスラズリを砕いて作られています。


“宝石を粉々に砕いた絵の具だなんて、さぞお高いんでしょうねぇ…”
と思われた方もいるでしょう。

 

実際、この「ウルトラマリンブルー」という絵の具、お高いなんてものではありません。
何と、一筆5万円!


サッと描いて、5万円。

ササッと描いたら、10万円なのです。
そんな高級な絵の具を、フェルメールは大胆に使っています。


もう一度、《牛乳を注ぐ女》 を見てみましょう。

かなり青で描かれた部分が。

一体、いくらくらいになるのでしょう。

想像しただけで、たまげてしまいます。

 


さらにフェルメールのすごいところは、

この高価な「ウルトラマリンブルー」を、他の色の下地に使ってたりもするのです。

何とも贅沢極まりない使い方。

 

これだけ高価な素材を惜しみなく使いながらも、作品は成金趣味にならず、

むしろ品や趣き、奥ゆかしさと言ったものが感じられます。
これこそが、フェルメール作品の最大の魅力と言えそうです。

 

そのことに気づいたとき、

“なぜ、こんなにも日本人はフェルメールに惹かれるのか” という答えを見つけました。

 


我々、日本人は、フェルメールの絵に、日本料理の真髄 【会席料理】 を見ていたのです。

それは、高級食材を使った料理を思い浮かべてもらえればわかります。
例えば、フランス料理のフォアグラのソテーや、中華料理のフカヒレの姿煮。

豪華に盛りたてられ、見た目からして贅沢そのものと言った感じです。


一方、 【会席料理】 の場合、豪華な食材を使っていても、見た目は、一見すると地味。

あえて、装飾が過剰にならないように盛りたてられます。

そこに求められるのは、豪華さではなく “品” です。

その辺りのグルメ事情については、参考図書として 『美味しんぼ』 をオススメしておきましょう。

 


また、秋の 【会席料理】 には欠かせない “土瓶蒸し” 。

最高級の食材の松茸を使いながらも、それはあくまでだし汁のための、引き立て役にしかありません。

これは、先ほどお話した「ウルトラマリンブルー」の使い方にそっくりです。
そう、まさにフェルメールの仕事は、日本料理の料理人の仕事に通じるものがあったのです。

 


他の一例として、フェルメールの職人技の中に、モノの質感を、見事に再現するというものがあります。
例えば、今回の 《牛乳を注ぐ女》 でも、陶器・布・肌・壁・パン、そして光、

異なる質感を持ったものが見事に絵の中で再現されています。

同じ絵の具を使いながら、ここまで違う質感を再現する。

これは、もはや匠の技。


この質感の再現というのは、 【会席料理】 で言うところの、“見立て” という技術に近い気がします。

“見立て” は日本料理で、特に多用されている技術。
百合根を金柑に見立てたり、鮎のうるかを紫陽花に見立てたり。

日本人は、昔から、この “見立て” の技術を愛でていたのですね。

 


そして、フェルメールと 【会席料理】 を結びつける最後の鍵は、『室内』 です。
フェルメールの作品は数点を除いて、すべて室内の情景を描いた絵。

そのような絵を、美術用語では、 “室内画” と言います。

珍しくわかりやすい美術用語です。

 


フェルメールの絵をじっくりと眺めていると、あたかもその室内の中にいるような、感覚に陥ります。

そこは、絵のイメージ通り、とても洗練された空間です。

 

そう。フェルメールの絵は、空間をも味わうことが出来るのです。
実は、これと同じことが 【会席料理】 にも言えるのです。

世界広しと言えども、密室で料理を食べるのは日本だけ。

 

【会席料理】 は、料理そのものだけでなく、座席のしつらえや掛け軸、花、置物と言った

供される空間をもトータルで、味わわせるものなのだそうです。

 

さぁ、フェルメールの絵の真髄を味わうために、

“フェルメール 「牛乳を注ぐ女」とオランダ風俗画展” に行こう!