● ムンク 展 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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叫び・マドンナ・病める子供


今回ご紹介するのは、国立西洋美術館にて1月6日まで開催中の “ムンク展” です。

 

ムンクの代表作中の代表作である 《叫び》 (写真・左)はないものの、
それ以外の代表作が数多くみられる貴重な美術展。


そして、この美術展の最大の特徴は、
彼の作品における “装飾性” にスポットを当てて作品が展示されている点。

これは、世界でも初めての試みだとか。

…とは言え、“装飾性” が何なのかよくわからないですよね。


 

つまり、こういうことです。
ムンクは、ある時から、自分の作品を、
「一枚一枚鑑賞するのではなく、いくつかをまとめて一つの作品と見るべし」と思ったそうです。


ちなみに、彼は、その一連の作品群に “生命のフレーズ” と大層な名前をつけたそうで。
いくつかの作品を一まとめにするわけですから、
「2枚は、こっち。3枚は、あっち」というわけには、いきません。
当然、一室の壁に上手く配置しなくてはならないのです。


はてさて、どう並べて展示するのがベストなのか。
これが、いわゆる “装飾性” ということ。


 

ですから、この美術展の正しい楽しみ方は、
いつもの美術展のように一枚一枚を近くでじっくり鑑賞するだけでなく、
もっと遠くから全体を眺めてみるということにあります。


これは、まさに美術展の会場に行かないと、味わえない鑑賞スタイル。
この “美術展へ行こう!” で紹介するには、ピッタリの美術展と言えます。


 

そして、よりこの美術展を楽しむ方法はただ一つ。

何よりムンクについて、いろいろと知っておくことです。


そこで、今回は、ムンク作品の見どころを、

ある国民的アニメを【キーワード】にご説明したいと思います。

その国民的アニメとは、一体、何でしょうか。

 

実は、くしくも先日10月28日に行われた「第一回 美術検定」の1・2級の問題として、
そのアニメが出題されたので、皆さまにも一つお考えいただくことにしましょう。

 


問題 文化庁メディア芸術祭の10周年記念アンケートで
「日本のメディア芸術100選」のアニメーション部門で1位に選出されたアニメは何でしょう?

 

1  宇宙戦艦ヤマト        2  風の谷のナウシカ
3  機動戦士ガンダム      4  新世紀エヴァンゲリオン





















正解は、4番の【新世紀エヴァンゲリオン】
 

今回、僕がいろいろな文献を調査をしたところ、

ノルウェーが生んだ鬼才・ムンクと、
日本が世界に誇るアニメ【新世紀エヴァンゲリオン】との間には、
驚くべき高さのシンクロ率があることがわかったのです!

 


…と、その前に。
【新世紀エヴァンゲリオン】(通称【エヴァ】)をよく知らないという人のために、簡単なご説明を。


宮崎アニメや、ガンダムを差し置いて、日本のアニメの1位に選ばれた【エヴァ】は、
1990年代に放映され、社会現象を巻き起こしたアニメ。


現在、深夜枠で多数のアニメが放映されているのは、【エヴァ】のヒットがあったからと言われています。
その人気は、放送終了から10年以上経った今でも、全く衰えておらず、
特に昨年は、また新たな劇場版が公開されるなど、さらなる注目を集めています。

 


ちなみに、そのストーリーを簡単に説明しますと、


「舞台は、2015年。

2000年に南極で発生したセカンドインパクトなる大惨事を経験した
復興しつつあった人類に、使徒と呼ばれる新たな脅威が。
国連の特務機関ネルフは、この使徒を殲滅するため、
ひそかに汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオンを開発していた。
そのパイロットに選ばれた14歳の少年少女たちに、地球の未来は託されるのであった―」

 


というもの。

設定を見ただけでは、特別、目新しいアニメではないような気がします。
では、一体なぜ、この【エヴァ】が、大ヒットしたのか。
そこに、ムンクの作品を紐解く鍵があったのです。

 


まず、【エヴァ】の大きな特徴は、

従来のアニメではほとんど描かれることがなかった

人の心の内面を真正面から描いたという点。


登場人物たちの抱える不安・恐怖・葛藤・孤独感など、
心の中のドロドロした部分が、余すことなく描かれているのです。
とりわけ、主人公のパイロット・碇シンジの心の内面は

物語全編にわたって克明に描写されており、
痛々しささえ感じてしまうほど。


 

実は、ムンクの作品の特徴も、まさにこれだったのです。
ムンクは、それまでの絵では、ほとんど描かれることがなかった
人間の不安や孤独感と言ったものをテーマに描きました。


例えば、あの 《叫び》 もそんな一枚。

あの絵は、描かれている人間が叫んでいるのではなく、
どこからか悲痛な叫びが聞こえてきて、耳をふさいでいるという作品。


彼はその場を立ち去るわけでもなく、ただただ恐怖に耐えているのです。
きっと、心のうちでは、こうつぶやいていたに違いありません。
「逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。」と。

 


また、【エヴァ】が人気を博した理由は、ヒロインの裸のシーンや、ベッドシーンなど、
ちょっと(ある登場人物のセリフを借りれば、‘ちょっち’)Hなシーンが、

たびたび登場することにあります。

 

こうした性的な描写もまた、従来のアニメでは、あまり描かれなかったもの。
このことが、思春期の男子学生はもちろん、

大人にまで影響を与え、鑑賞する世代の幅が広がったのです。

ムンクもまた、ちょっとHな作品を、たびたび描いているのです。

 


例えば、 《思春期》 という作品。
これは、思春期の少女が裸でベッドに腰かけているという一枚。

また今回展示されている 《マドンナ》 (写真・中央)にも、性的な描写がされています。
恍惚そうな表情を浮かべる裸の女性。
その左下には、胎児。
そして、女性の周りを囲むのは、精子だというから、なかなか意味深ではないですか。

 


そして、最後に。
未だに熱狂的な人気を持つ【エヴァ】のヒロイン・綾波レイについてお話しいたしましょう。

なぜ、綾波レイというキャラが、そこまで受けたのか。


青い髪といった今までにないキャラクターだったことや、
なかなか表情を変えないツンデレの走りとも言えるキャラクターだったことも一因ですが、
もう一つ大きな要因があるそうです。

それは、初登場シーンで、包帯を巻いた姿の綾波レイが描かれたことにありました。
戦闘で疲労し、包帯を巻きながらも、戦闘に臨もうとする健気さに、一部の男性ファンはノックアウト。
そして、包帯に対して、憐憫さを感じてしまう、その感情を “包帯萌え” というのだとか。
…よくわかりませんが。


 

実は、こうした女性の傷ついた姿に “萌え” を感じてしまったのは、

何もアキバ系の男性だけではありません。
ムンクもまたそうだったのです。
…いやいや、嘘ではありません(汗)!

 


では、写真右の 《病める子供》 という絵をご覧ください。
画像だと、ちょっとわかりづらいですが、キャンバスにかなり傷がついています。
実際に目の当たりにしたら、間違いなくわかると思います。


これは、保存が悪かったためについた傷ではなく、

ムンク自身が線を削り取ったり、溶解剤でぼかしたりして傷つけたもの。
彼は、その傷つける工程を “ヘステキュール(荒療治)” と呼んでいました。

 

何故、あえてそんなことをしたのでしょうか。
それは、絵に傷がつくと、痛々しいと思う感情が生まれるからです。

言ってしまえば、たかが絵です。
しかし、傷がつけられることで、そこに、ただの絵以上の感情を抱きます。
ムンクは、“荒療治”を施すことで、絵に生命を与えようとしていたのです。


 

さぁ、“ムンク、襲来” のこの機会を逃す手はありません。
もし、行くのを悩んでいるようなら、あのキャラに「あんたバカァ?」と言われるかも。
ムンク展へ行こう!