四季の会先行予約で完売、一般売りナシの『コーラスライン』

劇団四季も時代とともに変わる

かつての『コーラスライン』は、劇団四季が総力を挙げて取り組む特別な作品でした。ところが現在は全国に四季劇場を展開し、一日に10公演近くを同時上演する体制。ひとつの作品に劇団員総出演という時代ではなくなり、『コーラスライン』も数あるレパートリーの一作品という位置づけです。劇団の売り方そのものが変わったのです。……昔も今も変わらないのは「カラオケ公演」と呼ばれるスタイルくらいでしょうか(笑)。そんなこともあって、今回は出演者を一人も知らない状態で劇場へ向かいました。でも、それがこの作品には案外しっくりきます。

スターではなく「コーラス」を選ぶ物語

『コーラスライン』はスターを選ぶオーディションではなく、コーラスを選ぶオーディション。主役になれなかった人たちが、自分の人生をさらけ出し、一つの枠を争う物語です。だから、有名俳優が並んでいないこと自体がリアリティにつながる作品でもあります。

劇団四季出身という肩書だけでは以前ほど注目されにくくなった昨今。劇中で語られる俳優たちの葛藤や将来への不安が、現実の俳優人生とうまく重なって見えました。そしてラスト。全員がキラキラの衣装をまとい、満面の笑顔で踊るフィナーレにはやっぱり胸が熱くなります。ここまでそれぞれの人生を聞いてきたからこそ、あの笑顔には少しうるっときてしまいました。

時代とともに変わる拍手や笑い

一方で、客席の反応は、以前なら笑いが起きていた場面も静かなまま。ジャズコンビネーションで、それまで舞台奥へ向かって踊っていた出演者たちが一斉に客席へ向き直る、あの名場面でも拍手はなし。

時事ネタの理解度も時代とともにうつろいますし、観客の笑いのツボや盛り上がり方そのものが変わってきたのかもしれません。


演技面でも、間で笑わせるというよりセリフを張り上げる印象が強く、少し勢い任せに感じる場面もありました。このあたり、スター役者とアンサンブル役者の違いですね。

キャラクターも時代を映す

人種の違いを強調する演出も以前よりかなり控えめ。現代らしいアップデートなのでしょう。

そしてシーラ。昔なら「ナイスバディ」が大きな武器でしたが、今は出演者全員がスタイル抜群なので、その個性が少し出しにくい時代になりました。逆にキャシーを演じた相原菜帆は、思わず見とれるほどのプロポーション。「この人のシーラも観てみたい」と思わせる存在感でした。

自由劇場では少し窮屈

今回は自由劇場という小劇場での上演。『コーラスライン』の舞台としては、実はブロードウェイの劇場規模に近く、本来はこちらの方がオリジナルに近いはずです。それでも私には、とにかく狭く感じました。日生劇場や青山劇場での上演を何度も観てきたので、あの広い舞台がすっかり基準になってしまっているのでしょう。「初演のサンシャイン劇団員公演情報をご覧になった方はこんな印象だったのかな」と想像しながら観ていました。

舞台が狭いのて群舞になるとフォーメーションがかなり窮屈で、横への広がりを活かした振付が少しもったいなく感じました。もう少し大きな劇場なら、ダンスの迫力はさらに増したはずです。

あの頃の『コーラスライン』

私が劇団四季で育った世代は、『コーラスライン』といえば、とある日のキャストがこんな顔ぶれでした。年齢がバレちゃいますが、80年代初頭の公演です。

ポール:市村正親、ボビー:山口祐一郎、シーラ:前田美波里、ヴァル:保坂知寿、ディアナ:野村玲子、マイク:飯野おさみ、コニー:青山弥生。

今振り返ると、本当にとんでもないメンバーです。スターとコーラスの違いが誰の目にも分かるほど、一人ひとりの個性と存在感が際立っていました。だから今回のカンパニーを見て、「みんな上手だけど、少し薄く感じるな」と思ってしまったのも事実です。もちろん、全体のレベルは高いし、均質なアンサンブルとしては完成度も高い。でも、あの時代を知っていると、圧倒的な個性を持つ俳優たちが何人も並んでいた贅沢さを改めて感じます。

先日観た来日公演は新演出版でしたが、今回は劇団四季が長年上演してきたオリジナルのマイケル・ベネット版。マーヴィン・ハムリッシュの音楽と振付が寸分の狂いもなく噛み合う完成度は、やはりこちらが圧巻でした。

演出や劇団の体制は時代とともに変わっていく。でも、この作品が描く「名もなきコーラスたち」の人生と、音楽とコリオが一体となったマイケル・ベネットの完成度は、今観ても色褪せない魅力がありました。

【キャスト】
ザック:岩崎晋也
ラリー:吉田ケイン
ダン:提箸一平
マギー:山下未桜
マイク:神田瞬
コニー:東沙綾
グレッグ:松永涼吾
キャシー:相原茜
シーラ:小野実咲季
ボビー:星ひかる
ビビ:古木瞳
ジュディ:濵絢音
リチー:渡部斗希也
アル:齊藤太一
クリスティン:湯川紗奈
ヴァル:松田未莉亜
マーク:森田莉史
ポール:成田颯太
ディアナ:四宮吏桜
フランク:山口丈心
ロイ:田中洸輔
トム:佐久間勇颯
ブッチ:田中翔
ビッキー:山田紗良
ロイス:高橋希空
トリシア:坂井田祥子

【オリジナルスタッフ】
原案・振付・演出:マイケル・ベネット
台本:ジェームズ・カークウッド/ニコラス・ダンテ
音楽:マーヴィン・ハムリッシュ
作詞:エドワード・クレバン
共同振付:ボブ・エイヴィアン
装置:ロビン・ワグナー
編曲:ビリー・バイヤーズ/ハーシー・ケイ/ジョナサン・チューニック

【日本版スタッフ】
企画・製作:四季株式会社
日本語台本:浅利慶太
翻訳:新庄哲夫
初演日本版演出:浅利慶太
美術:金森馨
照明:沢田祐二
レジデント・ディレクター:羽鳥三実広/西尾健治

 

 

 

 

 

 

時間が逆に流れるミュージカル

『メリリー・ウィー・ロール・アロング』は、ショービジネスの世界で成功を夢見た3人の若者が、友情と理想を失っていく姿を描いたソンドハイムの名作ミュージカル。最大の特徴は、物語が現在から過去へと逆再生していくことです。冒頭では、富も名声も手に入れたフランクが登場。しかし、かつて親友だったチャーリーやメアリーとは決別し、人間関係はボロボロ。「なぜこうなってしまったのか」を、時間を遡りながら少しずつ解き明かしていきます。ラストでたどり着くのは、何も持たないけれど夢だけは誰よりも輝いていた若き日の3人。結末を先に見せる構成だからこそ、「こんなに純粋だったのに……」という切なさが何倍にも膨らみます。

 

ここでふと思い出した『ラスト・ファイブ・イヤーズ』

この作品を観ていて、ふと思い出したのが『ラスト・ファイブ・イヤーズ』。もちろん、あちらほど時間軸の仕掛けは複雑ではありません。『ラスト・ファイブ・イヤーズ』は、男性が過去から未来へ、女性が未来から過去へ進み、出会いの瞬間だけが交差するという、ミュージカル史に残るような凝った構成。一方、『メリリー・ウィー・ロール・アロング』は、物語全体を現在から過去へ巻き戻していくので、構造はずっとシンプルです。それでも「結末を知っているからこそ、その過程が切なく見える」という点は共通しています。

だから、この作品はネタバレなしで初見の驚きを味わいたい人と、あらかじめ流れを知ったうえで構成の巧みさを楽しみたい人で、好みが分かれそう。私は完全に後者(笑)。「ああ、ここがあの場面につながるのか」と伏線を回収していく面白さも、この作品の大きな魅力だと思いました。ミュージカルファンは同じ作品を何度も、時には何十回も観ます。だからストーリーの驚きよりも、演出やキャストの違い、構成の妙を味わう文化があり、映画ファンに比べるとネタバレにも寛容なのかもしれません。

女性同士のケンカみたい(笑)

ただ、この作品は決して分かりやすくありません。「あの時だってアンタは!」「その前はこうだったじゃない!」と、昔の出来事を次々に持ち出して責め合う女性同士のケンカを見ているような感覚(笑)。仕事だったら「時系列に整理して話してください」と怒られそうですが、それが逆再生という構成ならではの面白さでもあります。

日本版とブロードウェイ版の違い

このプロダクション、日本版初演は2013年に宮本亞門演出で天王洲・銀河劇場にて上演。その後、2021年には新国立劇場 中劇場で今回と同じく、マリア・フリードマン演出のプロダクションが上演されました。

今回のブロードウェイ版を観て感じたのは、同じ作品でも受ける印象がかなり違うこと。日本版は、夢だけを信じて突き進む若者たちのキラキラ感が前面に出ていました。だからこそ、彼らが失っていくものの大きさがより切なく響きます。

一方、ブロードウェイ版は冒頭から「人生に疲れた大人たち」の哀愁が色濃い。成功と引き換えに何を失ったのか、その重みが役者の年輪も相まってひしひしと伝わってきました。

同じ演出、同じプロダクションなのに、キャストが変わるだけでここまで作品の温度が変わるのかと驚かされます。

ダニエル・ラドクリフに衝撃

そして一番驚いたのはダニエル・ラドクリフ。西洋人は老け込むのが早い傾向がありますが、登場した瞬間、「えっ!?」と思うほど、人生に疲れ切った小汚いおじさん(笑)。あまりにも『ハリー・ポッター』の印象が強いので、アップになるたびに「本当にラドクリフ?」と二度見してしまいました。(チラシはたぶん修正入ってます)。

もっとも、劇場収録映像らしい少し甘めの画質だったのは、ある意味で救い(笑)。あれだけ小汚く作り込まれていると、もし4Kの超高画質だったら画面越しに体臭まで漂ってきそうで、とてもアップには耐えられなかったかもしれません。

とはいえ、歌も芝居も、ハリーの面影を忘れるほどの熱演でした。

 

『ラスト・ファイブ・イヤーズ』ほど時間軸の仕掛けが複雑ではありませんが、「結末を知っているからこそ過程が切ない」という点では通じるものがありました。

『ラスト・ファイブ・イヤーズ』は男性が過去から未来へ、女性が未来から過去へ進み、出会いの瞬間だけが交差するという非常に凝った構成。一方、『メリリー・ウィー・ロール・アロング』は物語全体を現在から過去へ巻き戻していくので、構造自体は比較的わかりやすいです。

ただ、この作品は「ネタバレなしで驚きを味わいたい派」と「ネタバレ込みで構成の妙を楽しみたい派」で評価が分かれそう。

私は後者なので、結末を知ったうえで「ああ、ここがあの場面につながるのか」と伏線を回収していく楽しさがありました。

ミュージカルファンは同じ作品を何度も、時には何十回も観る人が少なくありません。だからこそ、ストーリーの驚きよりも演出や役者の違い、構成の巧みさを味わう文化があり、ネタバレにも比較的寛容なのかもしれません。

 

 

2025年製作/145分/G/アメリカ
原題または英題:Merrily We Roll Along
配給:カルチャヴィル
劇場公開日:2026年6月26日

オフィシャルサイト

 

【スタッフ】
作詞・作曲:スティーヴン・ソンドハイム
脚本:ジョージ・ファース
原作(同名舞台劇):ジョージ・S・カウフマン、モス・ハート
ブロードウェイ初演演出:ハロルド・プリンス
演出:マリア・フリードマン
振付:ティム・ジャクソン
編曲(オーケストレーション):ジョナサン・チュニック
音楽監督・追加ヴォーカルアレンジ:ジョエル・フラム
音楽スーパーバイザー:キャサリン・ジェイズ
アソシエイト・音楽スーパーバイザー:アルヴィン・ハフ・ジュニア
音楽コーディネーター:クリスティ・ノーター
美術・衣裳デザイン:スートラ・ギルモア
照明デザイン:アミス・チャンドラシェーカー
音響デザイン:カイ・ハラダ
ヘア・ウィッグデザイン:クッキー・ジョーダン
日本語字幕:チオキ真理
字幕監修:常田景子

【キャスト】
チャーリー・クリンガス:ダニエル・ラドクリフ
フランクリン・シェパード:ジョナサン・グロフ
メアリー・フリン:リンゼイ・メンデス
ガッシー・カーネギー:クリスタル・ジョイ・ブラウン
ベス・シェパード:ケイティ・ローズ・クラーク
ジョー・ジョセフソン:レグ・ロジャース

 


韓国映画『プリティ・クレイジー 悪魔が引っ越してきた』、タイトルからして軽いラブコメかと思っていたら、恋愛あり、コメディあり、ファンタジーあり、アクションありの韓国映画らしいサービス精神旺盛な一本でした。

あらすじ

休職中の青年ギルグは、階下に引っ越してきたパン職人のソンジに一目ぼれする。ところが彼女には秘密があった。昼間は優しく穏やかな女性なのに、午前2時になると悪魔が目覚めて別人のようになってしまうのだ。事情を知ったギルグは、ソンジの父から頼まれ、毎晩彼女を見守ることに。こうして昼と夜でまるで別人のようなソンジに振り回される日々が始まる。

オデットとオディール級の振れ幅

昼は清楚で優しいパン職人、夜は悪魔に取り憑かれてやりたい放題。そんな振れ幅の大きいソンジを演じるユナは実に楽しそう。どちらも演じ甲斐のある役柄だし、感情表現の振り切り方が魅力の韓国映画とも相性抜群です。その落差たるや『白鳥の湖』のオデットとオディール級。同じ人物なのにまるで別人を見ているようでした。アイドル出身女優というと綺麗に見せることを優先しがちですが、ユナは変顔も体当たりも全力。ここまで振り切ってくれると見ていて気持ちがいいです。

聞き上手という最強スキル

一方のギルグは、競争社会から少しドロップアウト気味の青年。韓国作品の男性は自己主張が強いタイプが多い印象ですが、彼はむしろ逆。自分を押し出すのではなく、人の話を聞くことができる人物です。だからこそ、誰にも本音を見せられなかったソンジが少しずつ心を開いていく過程に説得力がある。派手さはないけれど、こういうタイプの主人公は意外と貴重かもしれません。

韓国映画らしい全部盛り

韓国映画はジャンルを飛び越えていく作品が多いですが、本作もまさにそんな一本。ラブコメを見ていたと思ったらアクションになり、ファンタジーになり、家族ドラマにもなる。かなり盛りだくさんなのですが、それゆえに退屈しません。「せっかく映画館に来たんだから楽しんで帰ってね」という韓国映画らしいサービス精神を感じました。

今回もまんまとキュンキュン

正直、最初は気軽なラブコメだと思っていました。もちろん笑いどころはたくさんあるのですが、観終わって心に残ったのは「誰かを愛すること」と「誰かに愛されること」の尊さ。かなりベタなテーマではあるのだけれど、だからこそ真っすぐ胸に届くものがあります。頻繁にこういう作品でキュンキュンしている気がしますが、それでもやっぱり良いものは良い。悪魔憑きだろうが何だろうが、誰かが自分を理解しようとしてくれること、そしてそんな相手を大切に思うこと。その当たり前の幸せに、今回もしっかり心を掴まれてしまったのでした。

 

 

2025年製作/113分/G/韓国
原題または英題:Pretty Crazy
配給:ギャガ
劇場公開日:2026年6月19日

 

【スタッフ】

監督:イ・サングン
製作:ペク・ヒョニク
脚本:イ・サングン
撮影:キム・イルヨン
美術:チェ・ギョンスン
衣装:キム・ダジョン
編集:イ・ガンヒ
音楽:イ・ジス

 

【キャスト】
チョン・ソンジ:イム・ユナ
チョン・ソンジ(少女時代):イ・ヒョビ
ギルグ:アン・ボヒョン
チョン・ジャンス:ソン・ドンイル
チョン・アラ:チュ・ヒョニョン
ヒボム:コ・ゴンハン
ヨンシク:シン・ヒョンス
 

公式サイト