時間が逆に流れるミュージカル
『メリリー・ウィー・ロール・アロング』は、ショービジネスの世界で成功を夢見た3人の若者が、友情と理想を失っていく姿を描いたソンドハイムの名作ミュージカル。最大の特徴は、物語が現在から過去へと逆再生していくことです。冒頭では、富も名声も手に入れたフランクが登場。しかし、かつて親友だったチャーリーやメアリーとは決別し、人間関係はボロボロ。「なぜこうなってしまったのか」を、時間を遡りながら少しずつ解き明かしていきます。ラストでたどり着くのは、何も持たないけれど夢だけは誰よりも輝いていた若き日の3人。結末を先に見せる構成だからこそ、「こんなに純粋だったのに……」という切なさが何倍にも膨らみます。
ここでふと思い出した『ラスト・ファイブ・イヤーズ』
この作品を観ていて、ふと思い出したのが『ラスト・ファイブ・イヤーズ』。もちろん、あちらほど時間軸の仕掛けは複雑ではありません。『ラスト・ファイブ・イヤーズ』は、男性が過去から未来へ、女性が未来から過去へ進み、出会いの瞬間だけが交差するという、ミュージカル史に残るような凝った構成。一方、『メリリー・ウィー・ロール・アロング』は、物語全体を現在から過去へ巻き戻していくので、構造はずっとシンプルです。それでも「結末を知っているからこそ、その過程が切なく見える」という点は共通しています。
だから、この作品はネタバレなしで初見の驚きを味わいたい人と、あらかじめ流れを知ったうえで構成の巧みさを楽しみたい人で、好みが分かれそう。私は完全に後者(笑)。「ああ、ここがあの場面につながるのか」と伏線を回収していく面白さも、この作品の大きな魅力だと思いました。ミュージカルファンは同じ作品を何度も、時には何十回も観ます。だからストーリーの驚きよりも、演出やキャストの違い、構成の妙を味わう文化があり、映画ファンに比べるとネタバレにも寛容なのかもしれません。
女性同士のケンカみたい(笑)
ただ、この作品は決して分かりやすくありません。「あの時だってアンタは!」「その前はこうだったじゃない!」と、昔の出来事を次々に持ち出して責め合う女性同士のケンカを見ているような感覚(笑)。仕事だったら「時系列に整理して話してください」と怒られそうですが、それが逆再生という構成ならではの面白さでもあります。
日本版とブロードウェイ版の違い
このプロダクション、日本版初演は2013年に宮本亞門演出で天王洲・銀河劇場にて上演。その後、2021年には新国立劇場 中劇場で今回と同じく、マリア・フリードマン演出のプロダクションが上演されました。
今回のブロードウェイ版を観て感じたのは、同じ作品でも受ける印象がかなり違うこと。日本版は、夢だけを信じて突き進む若者たちのキラキラ感が前面に出ていました。だからこそ、彼らが失っていくものの大きさがより切なく響きます。
一方、ブロードウェイ版は冒頭から「人生に疲れた大人たち」の哀愁が色濃い。成功と引き換えに何を失ったのか、その重みが役者の年輪も相まってひしひしと伝わってきました。
同じ演出、同じプロダクションなのに、キャストが変わるだけでここまで作品の温度が変わるのかと驚かされます。
ダニエル・ラドクリフに衝撃
そして一番驚いたのはダニエル・ラドクリフ。西洋人は老け込むのが早い傾向がありますが、登場した瞬間、「えっ!?」と思うほど、人生に疲れ切った小汚いおじさん(笑)。あまりにも『ハリー・ポッター』の印象が強いので、アップになるたびに「本当にラドクリフ?」と二度見してしまいました。(チラシはたぶん修正入ってます)。
もっとも、劇場収録映像らしい少し甘めの画質だったのは、ある意味で救い(笑)。あれだけ小汚く作り込まれていると、もし4Kの超高画質だったら画面越しに体臭まで漂ってきそうで、とてもアップには耐えられなかったかもしれません。
とはいえ、歌も芝居も、ハリーの面影を忘れるほどの熱演でした。
『ラスト・ファイブ・イヤーズ』ほど時間軸の仕掛けが複雑ではありませんが、「結末を知っているからこそ過程が切ない」という点では通じるものがありました。
『ラスト・ファイブ・イヤーズ』は男性が過去から未来へ、女性が未来から過去へ進み、出会いの瞬間だけが交差するという非常に凝った構成。一方、『メリリー・ウィー・ロール・アロング』は物語全体を現在から過去へ巻き戻していくので、構造自体は比較的わかりやすいです。
ただ、この作品は「ネタバレなしで驚きを味わいたい派」と「ネタバレ込みで構成の妙を楽しみたい派」で評価が分かれそう。
私は後者なので、結末を知ったうえで「ああ、ここがあの場面につながるのか」と伏線を回収していく楽しさがありました。
ミュージカルファンは同じ作品を何度も、時には何十回も観る人が少なくありません。だからこそ、ストーリーの驚きよりも演出や役者の違い、構成の巧みさを味わう文化があり、ネタバレにも比較的寛容なのかもしれません。
2025年製作/145分/G/アメリカ
原題または英題:Merrily We Roll Along
配給:カルチャヴィル
劇場公開日:2026年6月26日
【スタッフ】
作詞・作曲:スティーヴン・ソンドハイム
脚本:ジョージ・ファース
原作(同名舞台劇):ジョージ・S・カウフマン、モス・ハート
ブロードウェイ初演演出:ハロルド・プリンス
演出:マリア・フリードマン
振付:ティム・ジャクソン
編曲(オーケストレーション):ジョナサン・チュニック
音楽監督・追加ヴォーカルアレンジ:ジョエル・フラム
音楽スーパーバイザー:キャサリン・ジェイズ
アソシエイト・音楽スーパーバイザー:アルヴィン・ハフ・ジュニア
音楽コーディネーター:クリスティ・ノーター
美術・衣裳デザイン:スートラ・ギルモア
照明デザイン:アミス・チャンドラシェーカー
音響デザイン:カイ・ハラダ
ヘア・ウィッグデザイン:クッキー・ジョーダン
日本語字幕:チオキ真理
字幕監修:常田景子
【キャスト】
チャーリー・クリンガス:ダニエル・ラドクリフ
フランクリン・シェパード:ジョナサン・グロフ
メアリー・フリン:リンゼイ・メンデス
ガッシー・カーネギー:クリスタル・ジョイ・ブラウン
ベス・シェパード:ケイティ・ローズ・クラーク
ジョー・ジョセフソン:レグ・ロジャース








