音楽も振付も心地よいコンテンポラリー

似たようなテイストのコンテンポラリー二本立てですが、音楽は耳当たりが良く、振付も基本的にはクラシック・バレエの語彙がベース。そのため身構えることなく、とても心地よく観ることができました。

難解なコンテンポラリーというより、どこかミュージカルを観ているような感覚。ストーリーを追うというより、音楽と踊りに身を委ねて楽しめる作品でした。いずれもプリンシパルが主役として作品を引っ張るという構成ではなく、要所要所で若手ダンサーが存分に起用されています。このバランスがとても良かったです。

『String SAGA』は若手が躍動

前半の『String SAGA』は、あえて非プリンシパルのみで構成。若々しく活きの良い踊りが本当に爽快で、シャープでスタイリッシュ。それでいて遊び心もあり、とても楽しい作品でした。

配役表を見ると、5つの場面を順番に踊る作品なのかと思っていましたが、実際にはダンサーが入れ替わり立ち替わり登場し、ほぼ出ずっぱり。「あれ、また出てきた!」と思うほどの運動量で、皆さん最後までエネルギッシュ。世界初演らしい勢いとフレッシュさにあふれていました。

糸を撚り合わせる工程をモチーフにした作品ですが、人と人が交わり、絡まり、ほどけ、また結び付く様子がスタイリッシュに描かれ、久石譲の音楽とも見事にマッチ。観終わった後は爽やかな気分になりました。

『暗やみから解き放たれて』はプリンシパルの存在感

後半の『暗やみから解き放たれて』は、群舞の中にプリンシパル4人に加え主演経験者まで投入されるという、とても贅沢なキャスティング。もちろん若手も素晴らしいのですが、同じ舞台に立つと魅せ方の違いがよく分かります。テクニックだけではなく、その先にある表現力や存在感。「ああ、だからプリンシパルなんだ」と改めて納得させられました。

特に印象に残ったのが、ホリゾント近くで上半身を隠し、下半身だけを見せる振付。足さばきしか見えていないのに「おぬし、ただものじゃないな……」と思ったら、やっぱりプリンシパル。ふぉぉ。顔も見えず、全身も見えない。それでも踊りだけで格の違いを感じさせるとは恐るべし。積み重ねてきた経験と技術の凄みを、改めて実感しました。

作品自体は2011年の東日本大震災への鎮魂と復興への祈りを込めたもの。混沌の中から希望へ向かう過程を、ダンサーの身体と衣裳が一体となって美しく表現していました。

プリンシパルにも若手にも、それぞれ見せ場はたっぷり。でも「私が私が」と前へ出るのではなく、お互いを引き立てながら作品全体を作り上げていく。その調和の美しさこそ、新国立劇場バレエ団ならではの魅力なのだと改めて感じました。あっという間の90分でした。もっと観たい、また観たい。

 

『String SAGA』
【スタッフ】
振付:宝満直也
音楽:久石 譲
美術:長峰麻貴
衣裳:matohu
照明:吉本有輝子


【キャスト】
Twist(撚る):
  奥田花純、五月女遥、(変更前)赤井綾乃→(変更後)根岸祐衣、石山 蓮、長谷川諒太、森本晃介
Tension(張る):
  花形悠月、山本涼杏、上中佑樹
Intertwine(絡まる):
  大木満里奈、橋本真央、仲村 啓、小川尚宏
Flick&Spin(弾く、紡ぐ):
  石山 蓮、山田悠貴
Tangle(縺れる):
  直塚美穂、中家正博


『暗やみから解き放たれて』
【スタッフ】
振付:ジェシカ・ラング
音楽:オーラヴル・アルナルズ、ニルス・フラーム、ジョッシュ・クレイマー、ジョン・メトカーフ
美術:ジェシカ・ラング(モロ制作会社ステファニー・フォーサイス、トッド・マックアレンのデザインによる裝置使用)
衣裳:山田いずみ
照明:ニコール・ピアース

【キャスト】

I: 小野絢子、米沢唯、井澤駿、速水渉悟、

  飯野萌子、吉田朱里、李明賢、原健太、森本亮介、

  川口藍、金城帆香、原田舞子、広瀬碧、宇賀大将、

  内田美聡、川本果侑、花田美月、太田寛仁
II: 小野絢子、米沢唯、井澤駿、速水渉悟
III: 速水渉悟、森本亮介、宇賀大将
IV: 飯野萌子、吉田朱里、川口藍、金城帆香、原田舞子、

  広瀬碧、内田美聡、川本果侑、花田美月
V: 全員

 

上演時間:約1時間25分(String SAGA 30分・休憩30分・暗やみから解き放たれて 25分)
 

共感できない。でも劇場で観る価値はあった『エレクトラ』

 

正直、ストーリーも音楽も私の好みではなさそうだったので、「当日、気が向いたら観よう」くらいのつもりでした。

ところが、ゲネプロをご覧になった皆さんの絶賛レビューを見て、「そこまで言うなら…」と、ちゃっかりZ席を購入。ライトファンにとって本当にありがたい席です(見切れるけどね)。

 

結果的に、作品そのものにハマったわけではありませんでした。正直、100分間字幕を読んでいたはずなのに、終演した時には「結局どういう話だった?」状態(笑)。オペラ初心者にはなかなか手強い作品でした。シュトラウスの音楽も、最後まで「このメロディ好き!」というフレーズは見つからず(笑)。ピアノは長年弾いてきましたし、ソルフェージュも勉強してきました。それでも、ここまでメロディラインが頭に入ってこない作品はそうそうありません。よくこんな複雑な曲を暗譜できるものだと、歌手の皆さんへの尊敬ばかりが増していきました。

主人公に共感できない…

あらすじ
父を母クリテムネストラとその愛人エギストに殺されたエレクトラは、復讐だけを胸に生きています。死んだと思われていた弟オレストが帰還し、二人は父の仇討ちを果たしますが、歓喜したエレクトラはそのまま命尽きてしまいます。

 

途中から「これ、ハムレットっぽいな」と思いながら観ていました(笑)。復讐に取り憑かれた主人公というだけでなく、家族関係のこじれ方までそっくり。


正直に言うと、最後までエレクトラに魅力を感じることはありませんでした。妹クリソテミスは「普通に結婚して幸せに暮らしたい」と願っているのに、エレクトラはそれを嘲笑し、復讐だけに人生を捧げます。復讐以外の選択肢は見えず、自分の考えだけを貫き、周囲の思いにも耳を貸さない。終盤の狂喜乱舞も、私には悲劇というより狂気に映りました。むしろ、「毒母と狂気の姉がいなくなり、ようやくクリソテミスに平穏な日々が訪れるのでは」と思ってしまったほどです。

古典だからこそ考えさせられる

 

古代ギリシャでは、父への復讐や家の名誉が重視され、現代とは価値観が大きく異なります。だからこそ、現代の私がクリソテミスに共感し、「復讐より普通の人生の方がいい」と感じるのも、ごく自然なことなのでしょう。古典は昔の価値観を押しつけられる作品ではなく、「今ならどう感じるか」を考えながら楽しむものなのかもしれません。

 

同じシュトラウスなのに、『ばらの騎士』や『アラベラ』とは別人が書いたのかと思うほど女性像が違う(笑)。恋や人生を描いた作品もあれば、こちらは復讐だけで100分突っ走る世界。シュトラウスさん、振り幅が大きすぎます。


音楽と歌唱は圧巻

ストーリーは最後まで理解も共感もできませんでした。でも、音楽は別。シュトラウスの輝かしいフィナーレと、最後までキレッキレだった女声陣の歌唱には痺れました。

巨大なオーケストラにまったく埋もれないタイトルロール、アイレ・アッソーニ。歌っていない瞬間まで音楽とぴたりと呼吸を合わせ、見得を切る姿が格好良すぎます。

エレクトラと並んで印象的だったのは、クリソテミス役のヘドヴィグ・ハウゲルド。エレクトラに負けない圧倒的な声量で真っ向から渡り合い、この二人が舞台をぐいぐい引っ張っていきます。

復讐に取り憑かれた姉と、普通の幸せを願う妹。対照的な二人のドラマを歌声だけでも鮮やかに描き分け、聴いていて本当に耳福でした。ストーリーへの共感とは別に、この二人の歌唱を聴けただけでも劇場へ足を運んだ価値があったと思います。

現代に生まれて良かった

 

もちろん、世界を見渡せば今なお戦争や報復の連鎖が続く地域もあります。だから、この感想は日本で暮らす私だからこそ言えるのかもしれません。それでも、復讐が復讐を呼び、家族が憎しみの連鎖から抜け出せない世界を見届けたからこそ、平穏な日常のありがたさを改めて実感しました。やっぱり、平和が一番。

作品自体は私の好みではありませんでしたが、それでも、この圧倒的な音楽と歌唱を劇場で体感できたことには大満足。オペラは「作品」と「上演」は別物なのだと、改めて実感した一夜でした。

 

【スタッフ】
指揮:大野和士
演出:ヨハネス・エラート
美術:ハイケ・シェーレ
衣裳:ノエル・ブランパン
照明:オラフ・フレーゼ
映像:ビビ・アベル

【キャスト】
クリテムネストラ:藤村実穂子
エレクトラ:アイレ・アッソーニ
クリソテミス:ヘドヴィグ・ハウゲルド
エギスト:工藤和真
オレスト:エギルス・シリンス
オレストの養育者:斉木健詞
クリテムネストラの腹心の侍女:中村真紀
クリテムネストラの裳裾持ちの女:杉山由紀
若い下僕:糸賀修平
年老いた下僕:河野鉄平
監視の女:森谷真理
第1の下女:金子美香
第2の下女:谷口睦美
第3の下女:清水華澄
第4の下女:(変更前)竹多倫子→(変更後)髙橋絵理
第5の下女:田崎尚美

合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 

 

 

 

 

 

 

カヴァー歌手たちによる公演は久しぶり。せっかく「いつでも交代できます」に準備してるんですもの、何かしらの形で演奏の機会は欲しいですよね。観客にも出演者にも優しい素敵な企画。

 

出演

○城谷正博(解説)新国立劇場オペラ音楽ヘッドコーチ

○『エレクトラ』カヴァー歌手

清水華澄(クリテムネストラ役)

田崎尚美(エレクトラ役)

森谷真理(クリソテミス役)

河野鉄平(オレスト役)

 

ピアノ:木下志寿子

 

年末にはストレートプレイ版が上演される予定です。

 

四季の会先行予約で完売、一般売りナシの『コーラスライン』

劇団四季も時代とともに変わる

かつての『コーラスライン』は、劇団四季が総力を挙げて取り組む特別な作品でした。ところが現在は全国に四季劇場を展開し、一日に10公演近くを同時上演する体制。ひとつの作品に劇団員総出演という時代ではなくなり、『コーラスライン』も数あるレパートリーの一作品という位置づけです。劇団の売り方そのものが変わったのです。……昔も今も変わらないのは「カラオケ公演」と呼ばれるスタイルくらいでしょうか(笑)。そんなこともあって、今回は出演者を一人も知らない状態で劇場へ向かいました。でも、それがこの作品には案外しっくりきます。

スターではなく「コーラス」を選ぶ物語

『コーラスライン』はスターを選ぶオーディションではなく、コーラスを選ぶオーディション。主役になれなかった人たちが、自分の人生をさらけ出し、一つの枠を争う物語です。だから、有名俳優が並んでいないこと自体がリアリティにつながる作品でもあります。

劇団四季出身という肩書だけでは以前ほど注目されにくくなった昨今。劇中で語られる俳優たちの葛藤や将来への不安が、現実の俳優人生とうまく重なって見えました。そしてラスト。全員がキラキラの衣装をまとい、満面の笑顔で踊るフィナーレにはやっぱり胸が熱くなります。ここまでそれぞれの人生を聞いてきたからこそ、あの笑顔には少しうるっときてしまいました。

時代とともに変わる拍手や笑い

一方で、客席の反応は、以前なら笑いが起きていた場面も静かなまま。ジャズコンビネーションで、それまで舞台奥へ向かって踊っていた出演者たちが一斉に客席へ向き直る、あの名場面でも拍手はなし。

時事ネタの理解度も時代とともにうつろいますし、観客の笑いのツボや盛り上がり方そのものが変わってきたのかもしれません。


演技面でも、間で笑わせるというよりセリフを張り上げる印象が強く、少し勢い任せに感じる場面もありました。このあたり、スター役者とアンサンブル役者の違いですね。

キャラクターも時代を映す

人種の違いを強調する演出も以前よりかなり控えめ。現代らしいアップデートなのでしょう。

そしてシーラ。昔なら「ナイスバディ」が大きな武器でしたが、今は出演者全員がスタイル抜群なので、その個性が少し出しにくい時代になりました。逆にキャシーを演じた相原菜帆は、思わず見とれるほどのプロポーション。「この人のシーラも観てみたい」と思わせる存在感でした。

自由劇場では少し窮屈

今回は自由劇場という小劇場での上演。『コーラスライン』の舞台としては、実はブロードウェイの劇場規模に近く、本来はこちらの方がオリジナルに近いはずです。それでも私には、とにかく狭く感じました。日生劇場や青山劇場での上演を何度も観てきたので、あの広い舞台がすっかり基準になってしまっているのでしょう。「初演のサンシャイン劇団員公演情報をご覧になった方はこんな印象だったのかな」と想像しながら観ていました。

舞台が狭いのて群舞になるとフォーメーションがかなり窮屈で、横への広がりを活かした振付が少しもったいなく感じました。もう少し大きな劇場なら、ダンスの迫力はさらに増したはずです。

あの頃の『コーラスライン』

私が劇団四季で育った世代は、『コーラスライン』といえば、とある日のキャストがこんな顔ぶれでした。年齢がバレちゃいますが、80年代初頭の公演です。

ポール:市村正親、ボビー:山口祐一郎、シーラ:前田美波里、ヴァル:保坂知寿、ディアナ:野村玲子、マイク:飯野おさみ、コニー:青山弥生。

今振り返ると、本当にとんでもないメンバーです。スターとコーラスの違いが誰の目にも分かるほど、一人ひとりの個性と存在感が際立っていました。だから今回のカンパニーを見て、「みんな上手だけど、少し薄く感じるな」と思ってしまったのも事実です。もちろん、全体のレベルは高いし、均質なアンサンブルとしては完成度も高い。でも、あの時代を知っていると、圧倒的な個性を持つ俳優たちが何人も並んでいた贅沢さを改めて感じます。

先日観た来日公演は新演出版でしたが、今回は劇団四季が長年上演してきたオリジナルのマイケル・ベネット版。マーヴィン・ハムリッシュの音楽と振付が寸分の狂いもなく噛み合う完成度は、やはりこちらが圧巻でした。

演出や劇団の体制は時代とともに変わっていく。でも、この作品が描く「名もなきコーラスたち」の人生と、音楽とコリオが一体となったマイケル・ベネットの完成度は、今観ても色褪せない魅力がありました。

【キャスト】
ザック:岩崎晋也
ラリー:吉田ケイン
ダン:提箸一平
マギー:山下未桜
マイク:神田瞬
コニー:東沙綾
グレッグ:松永涼吾
キャシー:相原茜
シーラ:小野実咲季
ボビー:星ひかる
ビビ:古木瞳
ジュディ:濵絢音
リチー:渡部斗希也
アル:齊藤太一
クリスティン:湯川紗奈
ヴァル:松田未莉亜
マーク:森田莉史
ポール:成田颯太
ディアナ:四宮吏桜
フランク:山口丈心
ロイ:田中洸輔
トム:佐久間勇颯
ブッチ:田中翔
ビッキー:山田紗良
ロイス:高橋希空
トリシア:坂井田祥子

【オリジナルスタッフ】
原案・振付・演出:マイケル・ベネット
台本:ジェームズ・カークウッド/ニコラス・ダンテ
音楽:マーヴィン・ハムリッシュ
作詞:エドワード・クレバン
共同振付:ボブ・エイヴィアン
装置:ロビン・ワグナー
編曲:ビリー・バイヤーズ/ハーシー・ケイ/ジョナサン・チューニック

【日本版スタッフ】
企画・製作:四季株式会社
日本語台本:浅利慶太
翻訳:新庄哲夫
初演日本版演出:浅利慶太
美術:金森馨
照明:沢田祐二
レジデント・ディレクター:羽鳥三実広/西尾健治