ウェールズの人の発症、寛解のパターン(後半) | kyupinの日記 気が向けば更新

ウェールズの人の発症、寛解のパターン(後半)

この患者さんは退院後の経過も参考になると思われるので少しだけ追加したい。

退院8日目
ボチボチやっています。元気になりました。今日はバスで病院に来ました。ドラールをやめてハルシオンにしても大丈夫みたいです。(退院直前、ハルシオンに変更している)夫はあまり何も言わないですね。レスキューレメディーは効いているようです。経過が良いので2週間ごとに通院するように伝える。

退院22日目
調子は良いです。字を書くときに右手が震える。夫からは以前よりずっと良くなったと言われる。顔つきは締まっておりスキッとしている。普通の主婦の仕事はできている。ドキドキする時はレスキューレメディーを飲んでいますという。

リーマスによる振戦の副作用が出始めている。これは全般の精神症状が改善したからと思われる。まずデパケンRを減量する。

デパケンR   400㎎↓
リーマス    600㎎
セロクエル   25㎎
ネルボン    10㎎
レンドルミン   0.25㎎
ハルシオン   0.25㎎


退院36日目
手の震えはあるけど、家事はできると言う。手の震えのため、受付での名前もやっと書いたと言う。外出は普通にしている。リーマスを減量し、リボトリールを追加する。再発すると大変なので慎重に減量。この日の血中濃度は、

リチウム  0.71mEq/L(0.6~1.2)
バルプロ酸 48.0(μg/ml)(50~100)


であった。服用量に比べ血中濃度は意外に高い。

デパケンR   400㎎
リーマス    400㎎↓
リボトリール  0.5㎎↑
セロクエル   25㎎
ネルボン    10㎎
レンドルミン  0.25㎎
ハルシオン   0.25㎎


退院50日目
調子は良いです。震えは少しは減っている感じ。少し字が書きやすい程度でまだまだだと言う。入院の時は手の震えは全然なかったのに・・

精神面は落ち着いている。最近は薬を飲んだあと眠いらしい。リーマスを思い切って止めてみる。最近、兄に会った時、元気になっているのを見てびっくりしていたという。確かに顔色は良い。レスキューレメディーはまだ使っているらしい。

デパケンR   400㎎
リボトリール  0.5㎎
セロクエル   25㎎
ネルボン    10㎎
レンドルミン   0.25㎎
ハルシオン   0.25㎎
(リーマス中止)


退院64日目
今は何でもやっています。ずいぶんはっきりした顔つきになった。震えは治ってしまった。今は字も書けます。(他県の)親戚の家にもよく出かけているらしい。昼に眠い時は昼寝をするという。

退院78日目
リーマス中止して震えは良くなったものの、しばらくして少しテンションが下がったと言う。これはリーマスがなにがしか「うつ」に効いていたことを示している(参考1参考2)。以前ほど出かける元気さがない。家事はやっています。最近、深夜に一度目が覚めるようになったらしい。表情だけだと、特に暗くなっている様子はない。

バルプロ酸 56.6(μg/ml)

デパケンR600㎎とし、トレドミンを追加する。この人のうつには直感的にはトレドミンが良さそうに思える。

デパケンR   600㎎↑
リボトリール  0.5㎎
トレドミン   50㎎↑
セロクエル   25㎎
ネルボン    10㎎
レンドルミン  0.25㎎
ハルシオン   0.25㎎


退院85日目
ぐっすり眠れて元気になってきていると言う。子供たちが帰省したとき、元気になったことに驚いていたらしい。全く手の震えはない。トレドミンを飲み始めて怒りっぽいとかキレやすいとかはないらしい。

退院99日目
お休みの日にお客さんが大勢来て、いろいろと忙しかった。少し気疲れしましたという。それから少しうつになり数日悪かったが、今は元気になっていると言う。本人によると一時的に元気になりすぎるようなことはないらしい。月に2回ほどは県外に遊びに行く。気楽に旅行に行くところが双極性障害の人っぽい(参考1参考2)。トレドミンを100㎎まで使う。

デパケンR   600㎎
リボトリール  0.5㎎
トレドミン   100㎎↑
セロクエル   25㎎
ネルボン    10㎎
レンドルミン   0.25㎎
ハルシオン   0.25㎎


退院113日目
調子が良くなってきた。手の震えは全くない。外出はしている。元気が出すぎることはない。朝からはとても元気が良い。ただ、夕方は少し疲れが出ますね。内科にかかっていた時よりずっと体調が良い。一気に10歳くらい若返ったように見える。

バルプロ酸 69.2(μg/ml)

退院127日目
調子が良いです。朝6時から起きて朝食を作っている。掃除、洗濯は問題ない。自分としては元気が出すぎているような感じはないという。月に2回は県外まで出かけます。あまり疲れもないですね。子供を生んだ後ずっと不眠でうつだった。いつも元気がなかった。元々、明るかったし友人も多かったですけど・・入院した頃は全然思い出せないですね。

トレドミンは躁転を起こさず良い具合に効いている。このような経過で、彼女は出産以後、30年来の不調から脱出したのである。

補足
特に彼女が入院時のことをよく憶えていないことのくだりについて。

彼女は入院時、ECTが必要な状態ではなかった。しかしECTを実施したとしても同じような経過で改善していたと思われる。普通、特別な状況でない限り、ECTより薬物療法が優先される。

ECTは治療時の記憶をなくさせるので良くないといった主張がある。最も悪い時期のことをよく憶えていないので、どのように自分が良くなっていったかわからず、快方へ向かう治療経過の内省ができないと言う。

このような主張はあまりにも精神療法的な視点に立ちすぎていると思う。(その治癒ストーリーを重視しすぎていることを言っている)。

今回の患者さんはECTを実施していなくても入院時のことは全然憶えていない。それが今の彼女にとって、なにがしか損失になっていると主張するとしたら、それは少し偏った見方だと思う。別に治療経過に連続性がなくても良くなる人は良くなるものなのである。

過去ログで急性期にECTを実施し、現在、普通に仕事をし海外出張もしている人のことをアップしているが、彼は初診時ECTを実施し、その日前後のことを覚えていないが、それは決してマイナスになってはいない。(参考1参考2

自分がよく知らない治療法について、こじつけて批判する態度は、実際に苦労している治療者からみると、圧倒的に醜い。

やはり人生が有限である以上、今とこれからの人生が大切だと思う。やはり現実が重要なのである。これも過去ログからだが、ピーター・ガブリエルも良いことを言っている。

それにかぶりついてみれば、
全てが生命に満ちているのがわかるだろう
それは生き抜こうという強い意志を持つ精神の中にある
それを見せかけだけのものと思うなら
君はまんまとだまされたんだ
決断を下す前に鏡を見てごらん
それはここにある それは今
それは現実 それはレエル
それは「なんでも体当たりでやってみて
どんなものかを知る」ことに過ぎないけれど
僕はそれが気に入っているのさ
魅惑のブロードウェイから)


(おわり)

参考
躁うつ病は減っているのか?の後半