天国が見えた | kyupinの日記 気が向けば更新

天国が見えた

今、時々行っている病院で、多剤併用の男性患者さんを外来治療している。この人、数年くらい前はセレネース40mgの単剤で治療されていた。セレネース40mgは相当なものだが、単剤ならコントミン換算で2000mgとまだまだ上には上がいる。

僕が初めて診た時の処方
リスパダール  14mg
セレネース   12mg
レボトミン   200mg
デパケン    600mg


くらいでコントミン換算値が2200mg。これ以外に抗不安薬や眠剤、抗パーキンソン薬も併用されていている。この処方でもなお幻聴や幻視が活発にあり、落ち着いていないのである。しかし、それなりに定常状態にあり家庭療養は可能であった。この処方の場合、先日の少年と異なり、デパケンが既に処方されているので対応が難しい。何か変なことをすると爆発しそうな雰囲気があった。彼は巨体なので普通の人よりはいくらか多めの薬が必要なのかもしれないと思った。過去の薬物治療を調べてみると、ジプレキサが最高量併用されていた時期もある。

最初、1ヶ月くらいは何も変更せず様子を見ていた。普段、家で何をしているか聞いてみると、音楽を聴いていたりと、終日ぼんやり過ごしているわけでもないようだった。話していると強迫がみられ、僕によく確認を求めたりする。体の倦怠感が酷いという。だが、たくさん飲んでいるわりに元気ではあった。良く喋るし呂律が廻らないこともないのである。

ある日、遂に決断。エビリファイ、リボトリールを追加し、セレネースとリスパダールを減量することにした。最初、従来薬を変えずにエビリファイを3mgだけ追加してみた。母親によると、ある日、友人のところに遊びに行って帰ってきたとき、最近あまりなかったような笑顔があったのだという。非常に入浴を嫌がるのであるが、数ヶ月ぶりに風呂に入ったらしい。ちょっとその言葉にびっくりしたので、詳しく聞いてみると、時々シャワーは浴びていたのだそうだ。嫌々。(笑)

エビリファイと言う薬、スーパーパワーだと思うのは、これほどの多剤併用の患者さんに少しだけ上乗せしても病状が変化すること。良くも悪くも。よくエビリファイをあまり知らないで講演する人々が、「エビリファイは単剤でないと意味がない」などと言うが、こういう人を診ると、かなりピントがずれていることがわかる。

「追加しただけで病状が変わるのは、エビリファイが従来薬を押しのけてバインドするため、従来薬の効果が減じ、薬を減らしたことを同じような結果になる」


などと言っていたので耳を疑った。こういう変化はそういうものでもない。なぜなら、この1例ですら、陰性症状に積極的に関与しているように見えるから。リスパダールやセレネースを減らして風呂に入れるならそれが一番いい。最も安上がりだし。もし、エビリファイが他の薬物の効果を減らすような形で作用が発現するなら、最初からエビリファイは必要ない。単に薬を減らせば良いから。

多剤併用になるのは、普通にやっているとなかなか症状が落ち着かないことが大きな要因なのである。減らしてうまくいくなら、もう世界中の大半の患者さんが少ない量でうまくいっているって。単にそういう理由なら精神科医が気付きやすいと思っている。(あ、これは合わないと思い中止したりして、一時的に減量している局面はたいていの患者さんで生じている)

その患者さん、徐々にエビリファイを増やしこのような処方になった。

エビリファイ  6mg
セレネース   6mg
リスパダール  9mg
レボトミン   200mg
デパケン    600mg
リボトリール   2mg


コントミン換算で1550mg。以前より更に多剤併用になったが、コントミン換算値は4分の3くらいに減少した。ただ、精神面はトータルではそう改善していない。特に幻聴、幻視の面で。ただ、悪くなってもいないみたいだけど。なお、リボトリールは良くないのではないかと思い始め、最近中止している。

エビリファイは一発ちょっとだけ賦活したけど、そう劇的には病状を変えていないので、道のりはかなり険しいと感じた。エビリファイはもう少し増やす予定ではある。彼の治療のポイントは、やはり定型薬なんだと思う。エビリファイと定型薬の組み合わせの方が彼には良いように思える。ジプレキサ20mgやリスパダール14mgで良くならないなんて、話にならない。

エビリファイの単剤も、ほぼ間違いなく大失敗になるような気がするので、それはしない。だいたい、彼はエビリファイを30mg処方しても幻聴や幻視が落ち着かないと思うよ。エビリファイ30mg単剤なんてすると、おそらくすべてがバラバラになって墜落、入院は必至のような気がしている。彼にはエビリファイ単剤は無理そうに思うから、バカみたいに増やさないのだ。僕には彼がエビリファイを増やせばそれに比例して良くなるような気が全然しないというのがある。

彼は面白いことを言っていた。散歩をしていたら、雲の上に天国が見えたのだという。僕は聴いてみた。「天国はどんな風に見えましたか?」

彼によれば、「雲の上にきれいな都市国家みたいなものが見えた」それが天国なのだという。彼はクリスチャンなのである。

交代前の主治医は良く知っているドクターなのだが、彼が廊下でたまたまその患者さんに会った時、少し話をしたらしい。僕には「ずいぶん表情が明るくなりましたね」と言ってくれた。

でも中味はそれほど変わっていないんだ

彼の母親も、やはりクリスチャンなのであるが、ちょっと見ただけでその雰囲気がすごくある。彼女の話し方ももちろんである。僕はそういう感受性はすごく強い方なんだ。無宗教者だけど。彼女は僕に会うと、いつもキリスト教関係の小さな冊子をくれる。なぜかわからないけどね。

参考
エビリファイ
デパケンR
リスパダール
多剤併用についての話