多剤併用についての話 | kyupinの日記 気が向けば更新

多剤併用についての話

日本の精神病院はアメリカに比べ多剤併用の処方が多い。これは様々な要因があって、ひとつは、アメリカの医療保険は民間により運営されていて、処方について日本より監視が厳しいことがある。よくコンセンサスガイドラインなどで、ある精神疾患治療で望ましい薬物をランキングで挙げてあるのも、そういうことを反映している。つまり医療保険から医療費を支給されている場合、治療に合理性がないとまずいのである。

これは、非常に困る。なぜなら精神科疾患は個人差や病期のバリエーションが大きいので、そんな風に数学的にはいかないから。精神科は、なまみの人間を扱っているのである。薬物もいろいろ組み合わせた方が良い場合があり、そのような治療の枠は、柔軟性を欠く事になりかねない。多剤併用にしたため、結果的にコントミン換算で数分の1の薬物量で済むこともあるから。

良くしたもので、非定型でもジプレキサは単剤で済むことが非常に多い。よく考えたら、僕の外来に関しては、ジプレキサは全員が単剤治療になっていた。単剤治療は理想なのである。多剤併用の定義がちょっとあいまいだと思うのだが、僕の場合、ジプレキサ5mg、あと降圧剤や高脂血症の薬物を併用している場合は、もちろん単剤治療とみなす。これは精神科の薬物はジプレキサしかないので、これには異論はないだろう。

例えばこんなケースはどうだろう?
ジプレキサ5mg、レンドルミン1T。

これも単剤治療と言えるよね。抗精神病薬はジプレキサしかないから。うちの外来でデイケアの人たちは究極の単剤治療、つまりジプレキサザイディス5mgだけとか、ルーラン2mgだけとか言う人がわりといる。若くはないので、まあ健康ということなんだろうね。

しかしこれはどうだろう?
リスパダール4mg、デパケンR(200)2T

これは定義的には単剤治療と言えるのかもしれないけど、僕の脳内ではそうみなしていない。デパケンは精神症状への影響が大きいから。それと、デパケンRは錠剤が大きすぎる(冗談・・)

これも似たような感じ。
リスパダール4mg、デプロメール(50) 2T

微妙なのはこんなケース。
リスパダール8mg、アキネトン2mg。

これって僕は単剤に思うんですけど・・アキネトンがリスパダールの欠点をカバーしているだけだから。アキネトンは脳にも作用しているとはいえ。まぁこの項ではアキネトンの功罪については置いておきたい。

こういうのはどうだろう?
リスパダール3mg、レボトミン(5)1T デパス1mg(すべて寝る前)

これは明らかに単剤ではないし、僕も単剤ではないと思うけど、脳内では判定で単剤なのである。こういうレボトミンの少量って、もはや抗精神病薬とはいえないくらいでしょ。ベゲタミンBなどの併用も同様(ベゲタミンにはコントミンが少量含まれる)

入院患者で多剤併用になっているのは、簡単に言えば、何をやっても精神症状のコントロールがうまくいかないことが大きい。このような人の処方はある程度仕方がない面があると思う。

リスパダール10mg、ロドピン300mg、レボトミン300mg、アキネトン6mg・・

こんな感じの処方の人を紹介された場合、この人は大変なんだと思う。大変なのは患者さん本人、主治医双方である。こんな人の薬を一本化するのは容易ではないし、無理にそうした場合、不穏状態や暴力が生じて病棟スタッフや他患者が非常に困ることもある。

こういう多剤併用って、ある意味、「消極的多剤併用」なのかもしれない。だれも好きでやっているわけでもないし。こういう処方でも、頑張ればなんとかシンプルにできないわけではない。これは根気を要するし、本人の病状を一時的に悪化させる場合も十分にある。

ポイントはポピュラーな薬物なら、ジプレキサ、エビリファイ、デパケンRなんだと思う。リボトリールなどの薬物もこれに準じる。

多剤併用薬物すべてを、例えばジプレキサ20mgに置き換えられるなら、その方がずっと良い。これはあたりまえだけど。しかし、ジプレキサは患者を選ぶし、このような患者はジプレキサ20mgでも治まらないことの方が多い。

それに比べエビリファイはかなり趣が異なる。エビリファイを少しだけ入れるだけで、処方がかなり整理できるケースが多い。まぁエビリファイが合うということが前提なんだけどね。

去年、
ジプレキサ20mg、レボトミン400mg、トロペロン18mg・・

のようなアホみたいな処方が、現在、
エビリファイ6mg、トロペロン15mg

まで減量できた人がいる。この患者さん、ジプレキサも有効だったんだけど、処方してみたらエビリファイの方が更にずっと良かった。なんとかトロペロンを9mgまで減らしたいんだけど。

また、別の患者さんだけど、2002年の処方は、
トロペロン(3)   7T
ヒベルナ      3T
タスモリン     3T
リーマス(200)    3T
ルーラン(8)   6T
レボトミン(50)  5T
プラス眠剤

これをなんとか減量するため、最初にリーマスをデパケンRに変更した。なぜデパケンRなのかというと、躁うつなんて全然ないんだけど、精神病症状の悪化のパターンが急速交代型のように短いスパンで、しかもサインカーブを描くようにきれいに消長していたから。

デパケンRを入れた後、病状の悪化の程度が浅くなり上記の処方が半分くらいで済むようになった。しかし、それでも薬は十分に多い。その後リスパダールの最高量を処方したりもしたが、どうも完全にはうまくいかない。そうこうするうちに、エビリファイが発売になり、現在は、

デパケンR 600mg、リスパダール6mg、エビリファイ9mg

と眠剤で十分になったのである。本人は数十年来で最も良いという。まぁこれでも多剤併用なんだけど、この人の場合、どちらか1剤でやろうとすると悪化してしまう。だからこの処方も仕方がないと思う。こういう多剤併用を僕は「積極的多剤併用」と呼びたい。

もともと、多剤併用は漢方の処方(生薬を積み重ねていく)にも通じ東洋医学的なのである。こういう処方は、中井久夫先生がしていると言うのを聞いたことがある。(中井久夫先生は精神科医では知らない人がいない程の人)

だから多剤併用が一概に悪いというわけではなく、コントミン換算値がいかほどかが重要で、極端なこと言えば、3~4剤併用でもコントミン換算値が低ければそう悪い処方でもないと思うのである。

一方、どうにもならない人の多剤大量処方は、病院内で適応するためには仕方がない。減量して隔離室に入りっぱなしになるくらいなら、多少薬が多くても、閉鎖病棟の普通の2人部屋や4人部屋で生活できる方がむしろ良いと思う。つまり患者さんのQOLの視点で考えているのである。

絶対に多剤併用が悪とか叫んでいる人は、どうしようもないくらい重度の人を診たことがないか、あるいは、患者さん本人の苦しさを軽視しているとしか思えない。こんな視点は、精神科的では決してなく、内科医的発想だと僕は思う。

今日、上のデパケンR、リスパダール、エビリファイの彼に昔と今の状態の差を聞いてみた。昔は非常に体がきつくて、それでも作業やレクレーションも周りに言われるから出ていたという。

「昔はすべてが妄想だったんですよ。食事をするのも、作業をするのも、野球をするのも」「でも今は、自分がしているという感覚がありますね」「すごくたくさん眠剤を貰っていたのに、不眠で追加の薬を貰いに行っていました」「今は眠剤はずっと少ないけどよく眠れます」