【エッセイ】電波塔 | ワンダフルワールド

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宇宙系エッセイスト/スターシード/エンパス/チャネラー/50代/KIN167音11青い手赤い地球/3歳年下で舞台監督の夫と息子3人/家族とのワンダフルな日常を綴ります。

息子は17歳、高校3年生の夏のこと。

校舎の薄暗い廊下に、椅子が置かれていた。

私と息子は並んで座り、面談の順番を待つ。

工科高校の建築系に通う息子は、今日就職先が決まるかもしれない。

試験はあるが学校から認められれば、ほぼ内定がもらえるらしい。

蒸し暑い空気が、肌にへばりつく。

私は立ち上がって廊下の窓を開けた。

外から、耳をつんざくようなトランペットの音が聞こえてきた。
 

数日前、息子は志望する会社を提出した。

それを基に、成績の優秀な子から面談が始まるそうだ。

今日は最終日で、私たちは一番最後だった。

 

息子は1年の時から成績が悪かった。

後期の授業が始まってすぐ、私と息子は学校に呼び出された。

西日の差しこむ教室で、先生は私に成績表を見せながら、

「息子さんはおそらく進級できません」

と告げた。

息子は、机から両足を放り出してふんぞり返っている。

窓の向こうに、ぼんやりと電波塔が見えた。

「あんたが誠意見せるしかない」

私は、窓を見ながら声を荒げた。
「授業中、先生と目が合ったら頷け。実習は、手を抜くな。わからんところは先生に聞け!」

矢継ぎ早に話す私に、先生が口を挟む。
「お前が変わらな、俺も助けられへん」
私は先生に聞いた。
「先生、厳しい運動部はありますか」
「バレー部の練習が厳しいと聞いてます」
今度は息子に顔を向けた。
「バレーやり!」
とまどう息子に畳みかける。
「あんた、背高いからバレーやり!」
私はもう一度先生を見た。
「先生、この子運動神経はいいんです。きっとやれます」
先生は、驚いたようだが息子を見た。
「やってみるか」
「えっ」

「そこは、『はいっ!』や」
私が割り込んだ。

翌日から、息子はバレー部の練習に加わった。

何に救われたのか、2年に進級できた。

成績は相変わらず上がらなかったけれど、バレー部ではアタッカーとして活躍し3年生になれた。

 

夕方の校庭から、運動部員の野太い声が聞こえてきた。

隣に座る息子は肩をすぼめるようにして座っている。

息子の背中に手を置くと、手のひらが汗でぬれた。
ひと月ほど前、私は息子から相談された。
「どの会社にしよ」
息子が求人先のリストを差し出した。

私はそれをちゃぶ台に広げた。
「やっぱりゼネコンがええな。明石海峡大橋とかドーム球場みたいな、凄いもの造ってほしいわ」
息子が横からのぞき込み、呟いた。
「俺な、みんなが住む家を建てたいねん。凄いもんやなくて」

(そんなこと思ってたんだ)

息子からの意外な言葉に、ドキッとした。
そう言えば、無理やり入れられたバレー部だけど、あざだらけになりながら続けていた。

遅刻せず、毎日学校に通っている。

頼りないと思っていたけれど、この子なりに頑張ってたんだ。
私は、ある会社に目を留めた。

日本を代表する企業の子会社だ。

採用予定1名、と書かれていた。

きっと息子よりできる子が就職するのだろう。

だけど私は、「ここがいい」と思い社名に丸をつけた。

息子の顔を見ると、行きたそうな表情をしている。
「ここって俺の建てたい家、建てられるかな」
「うん!」

 

教室の戸が開き、男子生徒と母親らしき女性が出てきた。

私は女性に頭を下げた。が、彼女は私を見ずに去っていった。

息子は両手で顔を覆い、天を仰いだ。

先生に呼ばれ、机を挟んで向かい合う。

窓の向こうで、電波塔が陽炎みたいに揺れていた。
先生が息子を見た。
「強気に出たな」
息子はうつむいた。

少しの沈黙の後、先生は微笑んだ。
「結論から言います」
私は身をのりだし、先生は続けた。
「この会社を受けてもらいます」
息子は机に両手をつき、腰を上げた。


校舎を出て2人並んで歩く。
私は息子に、「良かったな」と声をかけた。
息子は頷き、自動販売機の前で立ち止まった。
「何がええ?」
息子はズボンのポケットをまさぐっている。

私は息子の背中に、「緑茶」と答えた。

息子の手にはブラックコーヒーが握られていた。

(コーラしか飲んだことないのに)


夕暮れの道の向こうに電波塔が見えた。

 


 

※写真はこの方のブログから